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なぜ医療関係者ですら"人気ユーチューバーの健康情報"にコロッと騙されてしまうのか

プレジデントオンライン / 2022年3月18日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

テレビのコメンテーターやユーチューバーの発信力は強い。それはなぜなのか。神戸大学大学院医学研究科教授の岩田健太郎さんは「医療関係者にも、『人気がある』という理由だけで特定のユーチューバーの健康情報を頭から信じ込んでいる人がいる」という。神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんとの対談をお届けしよう――。

※本稿は、内田樹・岩田健太郎『リスクを生きる』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■「フォロワー数がすごい」だけで信じ込んでしまう

【岩田】僕の周りの医療関係者にも、特定のユーチューバー(YouTuber)の言うことを頭から信じ込んでいる人がいます。「ナントカという食べ物が健康を促進する」「この飲み物が美容に効く」など、映像を伴って発信してくる情報を素直に信じてしまうんです。僕に言わせれば医学的に根拠がないし、そもそも何の医療教育も受けていない人の話なんて信じられるわけがないんですが、「人気がある」「フォロワー数がすごい」というだけで一から十まで追随してしまう。医学的教育を受けた人でもコロッと騙されるのを見ると、言葉を失ってしまいます。

【内田】これはかなり根深い問題ですね。その人のポピュラリティと発言の信頼性の間には相関がないんですけれど。科学教育の問題ですか。

【岩田】確かにそうですね。日本の学校教育では、教師が教壇から伝える「正解」をそのまま吸収できる生徒が優秀だと見なされます。「ほんとですか?」「なぜですか?」と疑ったり質問したりする子は、出来の悪い生徒なんです。

■事実を検証する姿勢が、医療のレベルを上げる

【岩田】本来なら、逆であるべきです。あらゆる常識に対して懐疑的な姿勢を持ち、世の中で当たり前とされていることでさえも本質的には正しいのかと掘り下げる行為が学問の初手ですから。「サイエンティフィック・マインド」と言いますが、事実を「検証」することが学びには不可欠なんですね。ところが日本の教育現場は、教師が教え込む正解主義があいかわらず大手を振っている。優秀と言われる学生ほど、呑みこみが速くて素直なんですね。大学生でさえも、「正解を教えてください」「結局、何が正しいんですか」という受け身のスタンスで教えを待っている。

感染症領域で言えば、日本はまだまだこれからなので、間違った古い常識が「正解」とされ継承されていく懸念があります。若い世代にはもっと疑ってかかってほしいし、まったく異なる視点から事実を見極め前例を覆してほしい。忠実に責務をこなすばかりでなく、「岩田教授はそう言ってるけど、科学的にここが疑問です」と異論や批判を挟む人がいてこそ、医療のレベルは進歩するのです。

■「正解」を求める人ほど簡単に騙される

【内田】同感です。僕も時事問題で講演することがありますが、最後に聴衆の方からの質疑応答になると、「内田さんはそう言われるけれど、じゃあ、私たちはこれからどうしたらいいんですか」とよく訊かれます。ほんとうに「正解」を求めて訊いている人もいますけれど、たいていは批判的なスタンスからのものです。「だから、あんたの言いたいことを一言で言ってくれよ」という要求に批評性があると思っている。そう問いかけられたほうが「一言」で答えられないと「勝った」という気分になるらしい。

あげている手
写真=iStock.com/artisteer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/artisteer

この人たちはたぶんどんな問いにも一言で言い切れる「正解」があるべきだと信じているんでしょう。だから、「正解」を一言で言えない人間の話は聴くに値しないと思っている。逆に言えば、「ずばりこれが正解です」と言い切ってしまう人の話には無批判に耳を傾ける。だから、こういうことを言ってくる人って、懐疑的な人のように見えますけれど、そうじゃない。「問いには即答すべきだ」「一言で正解を言い切れることが知的であるということだ」と信じているだけなんです。こういう人が簡単に騙される。

■科学の世界に「断言できる正解」はほぼない

【岩田】一言で断言できちゃうタイプが、テレビの人気コメンテーターだしユーチューバーなんでしょう。悲観論でも楽観論でもどちらでもいいから断言してほしい。大多数のそんなニーズがあるんだと思います。例えば僕が「第5波はなぜ急に収まったんですか?」とか、「オミクロン株はこれからどうなるんですか?」と訊ねられたら、解明できない側面がいくつもあることを前提にした答え方になります。ツイッターなどでよく「岩田の言っていることは結局よくわからない」と批判されますが、わからないことについては断言すべきではないというのが僕のスタンスです。

【内田】この対談シリーズの初回でも、「急激な収束の理由はわからない」と岩田先生は言われましたね。

【岩田】急速に減る理由は「仮説」としていくつかは出せるんです。そして、「これは違う」と除外できる「間違った仮説」も容易に指摘できます。が、「これこそが原因」と断定できるものはなかなかない。一般に科学の世界において「これが正しい」と断言できるものは、ほとんどないんです。仮にそれが「かなり、正しい、可能性が、高い」と思っていても、信じていても、数十年後にそれが間違いとわかることも珍しくはありません。

■「欲望」に仮説を寄り添わせてはいけない

【岩田】ただ、断定はできないものの、「自分の欲望に仮説を寄り添わせてはならない」というのは大事な態度です。多くの人が自分のあからさまな、あるいは隠れた欲望を持っていて、その欲望を満足させるような意見を「科学的な正しさ」という意匠をまとわせようというややこしい議論を展開し、それを「理路」と勘違いしています。自分のあからさまな、あるいは隠れた欲望に自覚的でいるのはとても大事で、その欲望にむしろ抗ってデータを解析しなければならない。

内田樹・岩田健太郎『リスクを生きる』(朝日新書)
内田樹・岩田健太郎『リスクを生きる』(朝日新書)

専門家でも「早くコロナが収まってほしい」という欲望を持っている人もいるし、もしかしたら「コロナで大騒ぎしてる間に、俺様のプロとしてのプレゼンスを高めたい、出世の道具にしたい、有名になりたい」という欲望、野望を持っている人もいるかもしれません(自分ではそうと認めないでしょうが)。

前者が出しがちな、「コロナは風邪みたいなもの」という正常性バイアスや事なかれ主義な態度もよくないし、「コロナで人類が滅びる」「第X波で何人死ぬ!」みたいな扇動的な態度もよくないです。かといって、そうした論調にクールに斜め上な批評を加え、茶々を入れ、冷笑的な態度でかっこよく振る舞いたい、という欲望も、同様に欲望ベースの態度なのでよくありません。

 

■残念ながら「コロナは風邪みたいなもの」ではない

【岩田】「コロナなんて風邪みたいなものだから、何にもしなくていい」という考え方が多くの支持を得るのもわかります。本当にそうなら、そのほうがいいに決まってる。僕自身は、自分の生活が落ち着いていてほしいし、私生活のあれやこれやも楽しみたいです。端的に申し上げれば、サッカー・スタジアムで大声を上げ、ちゃんと歌って応援したい、と強く思います。コロナなんてどうでもよい、日常生活を普通に送ればいいよ、と言えるものなら言いたい。

ついでに言えば、感染症をネタに出世の道具に使うとか、有名になる道具に使うとか、そんな欲望は僕のなかではけっこう、希薄なのです。そういう欲望が強ければクルーズ船でも官僚や政治家に忖度(そんたく)して、彼らをヨイショしていたでしょうし、自分が観ないバラエティなどのテレビ出演の依頼も全部お受けしていたでしょう。

いずれにしても、残念ながらコロナは風邪みたいなものではありません。クルーズ船の感染対策は間違っていました。それはデータを見れば明らかなので、それがたとえ僕の欲望に反していても、仕方のないことなのです。専門家もそうでない人も、まずは自分のコロナに対する態度、隠れた欲望に自覚的になることが大事だと思いますね。

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内田 樹(うちだ・たつる)
神戸女学院大学名誉教授
1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。著書に『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)『日本辺境論』(新潮新書)、街場シリーズなど多数。

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岩田 健太郎(いわた・けんたろう)
神戸大学大学院医学研究科教授
1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年より神戸大学。著書に『新型コロナウイルスの真実』(ベスト新書)など多数。

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(神戸女学院大学名誉教授 内田 樹、神戸大学大学院医学研究科教授 岩田 健太郎)

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