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「一人だと短命になる男、一人だと長生きする女」年金すら受け取れない独身男性の虚しい人生

プレジデントオンライン / 2022年2月22日 17時15分

■結婚しているか、していないかで寿命が変わる

日本は間もなく「多死社会」に突入します。死亡者年間150万人以上が50年以上も継続する見込みです。150万人のうちの9割以上が75歳以上の高齢者の死亡です。これは、すでに超高齢国家となり日本の人口構成の大きな比率を占める75歳以上の後期高齢者群が、まとめて寿命を迎えるタイミングに入るからです(「戦争中と同じ人数が毎年死んでいく」これからの日本を襲う“少産多死社会”の現実参照)。

厚生労働省の「簡易生命表」によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81.64歳、女性が87.74歳ですが、当然ながらそれより短命の人もいます。そして、この寿命の長さは、男女の違いだけではなく、独身なのか結婚しているのかという配偶関係の別によっても大きく変わります。

最新の2020年人口動態調査の15歳以上の配偶関係別死亡者数のデータから、男女それぞれで配偶関係別の死亡中央値年齢を算出すると以下の通りです。

■「一人では生きていけない男、一人だと長生きする女」

男女ともに配偶者と死別した人の死亡中央値がもっとも高く、平均寿命を超えます。一方で、男性では未婚の死亡年齢がもっとも若く、67.2歳で未婚男性の半分は亡くなっていることになります。これはほぼ平均寿命平均と同一値の有配偶男性より14年以上も早い。離別男性も平均寿命を大きく下回り、72.9歳です。未婚でも離別でも独身という状態にある男性は短命であることが分かります(ちなみに、2018年時点で算出した時は未婚男性死亡中央値は約66歳でしたので、少しは伸びていることになります)。

反対に、女性では有配偶女性の死亡中央値が78.6歳と一番低く、女性の平均寿命を大きく下回ります。むしろ、女性の場合、未婚で81.6歳、離別でも80.9歳と、独身のほうが長生きです。ここからは「一人では生きていけない男・一人だと長生きする女」という構造も見えてきます。この傾向は決して2020年だけの特殊な事例ではなく、配偶関係別死亡統計のある1980年代から一緒です。

もっとも、これは15歳以上の全年齢を対象とした計算となります。30歳未満の若年層は未婚率も高く、未婚の死亡中央値が低くなるのは当然であるというご指摘もあるでしょう。

では、生涯未婚率の考え方をとりいれて、50歳を基準として、50歳まで生きた人たちの配偶関係別死亡構成比をみてみたいと思います。50歳まで未婚であれば生涯未婚と同様であり、今後配偶関係が変化する確率は低い。同様に、熟年離婚が増えているとはいえ、50歳以上での離婚は全体からすれば低い構成比でもあります。

結果を見ると、50歳以上でも配偶関係別の死亡中央値順位は変動しません。

■未婚男性の半分は年金も満足に受け取れない

多少の違いはあっても、50歳以上でさえ未婚男性がもっとも短命です。半数が68歳くらいで死亡しています。ということは、未婚男性の半分は65歳から年金を受け取ったとしても、ほぼ3年程度しか受け取れない計算です。

男女配偶関係別死亡中央値(50歳以上)

未婚のまま生涯を終える男性に対して、時に既婚者たちから「結婚して子どもを産み育てることもしないフリーライダー」呼ばわりされることがありますが、自分の働いた金で積み立てた年金すらほとんど受け取らずに天に召されるのだとしたら、フリーライダーどころか社会のために身を犠牲にして尽力しているとも言えないでしょうか。

独身が短命であるという理由は、生活習慣によるところが大きいと思われます。

2020年における死因を配偶関係別に比較してみましょう。データは45~64歳までのいわゆる現役世代の働き盛りの男性の死因を、配偶関係別の構成比と当該年齢全体の構成比と比べたものです。プラス表示になっているものは、全体の構成比より高いもの、すなわちその死因が多いことを意味します。

■未婚は腎不全、離別は肝疾患が飛びぬけている

一目瞭然で、有配偶男性が上回るのは悪性新生物(癌)のみで、他はほとんど未婚と離別の独身者が上回ります。未婚の死因では、腎不全比率がもっとも高く、続いて高血圧性疾患、糖尿病と続きます。一方、離別男性は肝疾患が飛びぬけています。いずれにしても、明らかに未婚・離別の独身男性と有配偶男性とでは死因も異なることが分かります。独身者に癌が少ないのは、決して癌に対する耐性があるわけではなく、癌が発症する以前の年齢で、上記生活習慣病によって死亡しているものと推測します。

配偶関係別死因比較(男性)

未婚中年男性がこうした生活習慣病に罹患しやすいのは、ほぼ食生活です。家計調査によれば、単身男性(勤労者)のエンゲル係数は高く、特に外食費は、コロナ前の2019年まででいえば、1家族の外食費の2倍近い出費を一人でしています。日本の外食産業は独身男性が支えていたといっても過言ではありません(「ノーリスクで高単価」ソロ外食を締め出す“時短罰則”が日本を滅ぼす参照)。ただし、そうなると当然、栄養の偏りが起きます。何十年に及ぶそうした偏食生活のツケが生活習慣病という形で返ってきます。

コロナ禍以降は、運動不足気味の独身者も多いのではないでしょうか。また、離別男性が、圧倒的に肝臓を患ってしまうのは、離婚によって生じたストレスや寂しさなどによる酒量の増加などが関係するでしょうか。

■女性は結婚すると寿命が縮んでしまう?

その点、有配偶男性は、日々の食事を管理してくれる妻がいる家庭ならそのリスクは軽減されます。いかに日々の食事が健康に重要な役割を果たしているかが分かります。

もちろん、未婚や離別男性であっても、食生活に気を付けて、健康的な人もいると思いますが、これだけ死亡中央値が異なるとすると、配偶関係の違いは大きな影響があると考えられます。性別だけではない寿命ファクターとしての配偶関係による違いについてはもっと注目されてよいと思います。

キッチンで調理中の女性の手元
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

一方、女性は男性と真逆の傾向です。有配偶女性がもっとも短命で、未婚や離別女性のほうの死亡中央値が上回ります。結婚生活中の女性は寿命が縮むのでしょうか? 長生きのためには、有配偶女性は離婚したほうがよいのでしょうか?

いいえ、そうではありません。

有配偶女性の死亡中央値が低くなるのは、有配偶である期間が男性より短いため、総数の母数が小さくなるために起きた計算上の問題です。大抵の妻は夫より長生きです。つまり、多くの有配偶女性はそのまま死別女性へと移行します。実際、実数では有配偶のまま死亡する女性の数は少ない。50~64歳での人口千対死亡率で見れば、有配偶の男性は3.1人、女性は1.9人です。つまり、結婚しているから女性が短命になるというわけではありません。

実際、有配偶と死別あわせた既婚者群で見ると、既婚女性の死亡中央値は男性を上回ります。

50歳以上配偶関係別死亡年齢分布

■女性の「孤独耐性」は男性の1.3倍

注目すべきは、条件が一緒であるはずの未婚男女の死亡中央値の圧倒的格差です。未婚女性のほうが未婚男性より15年以上も長生きします。これは食生活だけの問題だけではないような気もします。

「孤独に強い」のは男性というイメージがあるかもしれませんが、逆です。実際、一人や孤独を快適だと感じる割合は圧倒的に女性のほうが多いことが分かっています。私のラボで2020年に調査した結果によれば、「孤独を楽しめる」と回答した割合は、未既婚ともに女性のほうが男性より1.3倍も「孤独耐性」が高いのです(1都3県20~50代未既婚男女約1万5000人を対象)。1.3倍とは未婚男女の死亡中央値年齢の差とも一致します。

「孤独耐性」が高いというのは「いつも一人でいようとする」指向ではなく、ましてや「一人でいる状態を耐えしのぶ」力でもありません。むしろ、社会生活として必要な人とのつながりを保ちながら、「一人の時間も楽しめる」力です。多かれ少なかれ、仕事を辞めれば人は、物理的に一人になることが多くなるし、この一人の時間をどう生きるかが試されてくるのです(「誰も話せる相手がいない」日本の既婚男性が次々と発症する“見えない病”の正体参照)。

■「一人を楽しめない」者から早く死んでいく

一人であることが寂しい、つらい、苦しいとばかり思っている人は永遠に「一人を楽しめない」どころか、周りに人がいてもその苦しみから逃れることもできなくなるものです。そして、多分「一人を楽しめない」者から、人間は死んでいくのではないでしょうか。

とはいえ、単に長生きをすればいいというものではありません。ラーメンやスイーツなどおいしい食事を一切我慢して、それで何の楽しみがあるのかと思う人もいるかもしれません。食べたい物を我慢してストレスを溜めたら本末転倒です。何歳で死ぬにしろ、心と身体を害してしまうことは避けたいものです。いずれにしても、有配偶男性と比べて未婚男性は50~64歳あたりの高齢者助走期における死亡リスクが高いことは事実なので、ご自身の日々の生活習慣を見直すきっかけとしてはどうでしょうか。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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