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「税務署員はわざとウソをつく」元国税調査官YouTuberが教える税務調査の脅しの手口

プレジデントオンライン / 2022年3月4日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ranckreporter

企業や個人事業主の確定申告に対して、税務署は申告内容を詳しく調べる「税務調査」を行うことがある。元国税調査官の根本和彦さんは「税務署員もノルマを抱えたサラリーマン。ノルマ達成のために、調査時にウソをつくことがある」という――。

※本稿は、根本和彦『元国税調査官が捨て身の覚悟で教える「節税」の超・裏ワザ』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■税務署員には「ノルマ」がある

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」

このあまりにも有名すぎる『孫子』の言葉どおり、まずは、税務署および税務署員の手の内を明らかにすることから始めましょう。

税務調査とは、毎年行われている企業や個人事業主の確定申告に対して、申告された内容が正しいかどうかを税務署がチェックすることです。

おもに株式会社などの法人が事業活動で得た所得にかかる税金が、法人税です。法人税は申告納税制度になっており、申告する人が、自分の会社の所得と税額を計算して納付します。

申告の内容が正確であれば問題ありません。しかし、単純なミスや、税制を理解していないことによる間違い、さらには、意図的な虚偽の申告などが存在します。そこで、税務署が調査をするわけです。

じつは、この税務調査には「ノルマ(=目標)」があることをみなさんはご存じでしょうか?

もちろん、税務署や国税庁に「ノルマがあるんですか?」と聞けば、はっきりと「ないです」と答えるでしょう。さすがに、誰にでもわかるような形で示されることはありません。

ところが、税務調査には実質的なノルマがたしかに存在しているのです。

■税務調査の件数、納税額を上積みさせたい…

税務署では、年度当初に事務計画というものを作成します。その中で、税務調査に割り当てる日数が発表されます。

その日数を合計して、「この期間があれば、税務調査はこれくらいできるな」という判断のもと、税務署の各部門に税務調査の件数を提示します。

この件数が、実質的なノルマになります。上から提示された件数ですから、当然、その件数をこなさなければ、直属の上司の人事評価は下がりますし、何より自分たちの評価も下がります。

したがって、最低限、その件数を達成しなければなりません。これが、ノルマたるゆえんです。

また、税務署員にとって、件数だけが重要なのではありません。税務調査によって、納税額が増えるかどうかもポイントになってきます。

件数だけをこなして、「今年は大きな問題はありませんでした」では済みません。「会社に修正申告をしてもらって納税額を増やしてもらう」「所得隠しを見つけて追徴課税をする」などといったこともやらなければなりません。

この金額の部分のノルマについては微妙です。件数ほどはハッキリしていません。ただし、基準らしきものはあります。

たとえば、その部署の前年度の実績がわかりやすい目安になるでしょう。できれば、前年度の金額は超えたいところです。下回ってしまうと部署の評価が下がりますし、逆に上回れば、評価は上がります。

また、他の税務署の金額より、大幅に下回ることも避けたいところです。これは、税務署全体の評価につながってしまいます。そうした事情を勘案すると、「これくらいは納税額を上積みしたい」という、大体のラインは見えてきます。

したがって、税務署員は件数をこなすとともに、納税額を上積みするというノルマが課せられることになります。まず、この大前提を覚えておいてください。

これが、税務署員の弱点にもなってくるのです。

■「税務署員もサラリーマン」税務署員の意外なホンネ

先ほど、わざわざ“ノルマ”という言葉を使ったことには理由があります。

「税務署員もサラリーマンである」ことを強調したかったのです。

窓の外を眺める若いビジネスマン
写真=iStock.com/iryouchin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/iryouchin

「経営者ではない」という意味で、サラリーマンは、つねに上司から評価され、その上司もその上の上司から評価されるという構造になっています。「自分の出世なんてどうでもいい」という人以外、自分の評価を気にして行動することになります。

税務署員もあくまでサラリーマンであることを踏まえて、税務署員が上司から評価されるポイントを整理してみましょう。

①税務調査の割り当て件数(=ノルマ)をしっかりこなすこと
②税務調査をしたときは、修正申告を取って、追徴税額を出すこと
③意図的な所得隠しを発見し、多くの追徴税額を出すこと
④納税者とはトラブルを避けスピーディーに調査を完了させること

つまり、税務署員はこの4つのポイントの逆のことを嫌がることになります。たとえば、税務署員にとって、わざわざ税務調査に入って何も見つけられずに帰るなんてことはあってはならないことです。

そのため、どんな小さな金額であっても、せめて修正申告だけは取ろうとします(国税庁が公表している直近のデータでは、税務調査に入った先の約8割が、何らかの修正申告をしています)。

■コスパ重視…短い時間で修正申告を出させる

また、税務調査したものの、追徴税額が少なく、しかも、納税者ともめて時間がかかってしまった――。これも、最悪の状況といえます。

税金リターン
写真=iStock.com/kudou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kudou

もし、納税者ともめて裁判になってしまうと、膨大な労力を裁判に割かねばなりません。こうなると、他の税務調査はストップしてしまいます。

したがって、税務署員は、1件当たりの調査にあまり時間をかけず、件数をこなしながら、効率よく修正申告をさせ、追徴税額を積み上げていく、という工夫が求められるのです。

簡単にいってしまえば、「コスパ重視」なわけです。そのため、いったん税務調査に入れば、修正申告をなるべく早く取るために、あの手この手を使って経営者を説得しようとします。この説得の過程で、しばしばトラブルが発生するのです。

きちんとした証拠を示して、説得をすれば何も問題ありません。しかし、ときには、納税者や税理士の税制に対する無知につけこんで、ウソの説明をすることがあります。

また、結果を急ぐあまりに、このまま調査が長引くと、その会社の取引先に悪影響が及ぶことをほのめかすこともあります。それは、「脅し」といってもかまわないものです。

■納税者を惑わす「ウソ」と「脅し」のテクニック

税務署員がウソをついたり、脅しをかけたりするなんて、にわかに信じられないという人も多いでしょう。ですが、これは真実なのです。

たとえば、次のようなやりとりも、それほど珍しいことではありません。

【調査員】社長、この領収書は、経費の二重計上になっているんですよ。この経費って、クレジットカードで支払われていますよね?

【経営者】はい。

【調査員】それで、クレジットカードの明細書で、また別の日に経費処理がされているんですよ。ほら、ココ。

【経営者】いやー、そうでした。すいません、うっかりしていました。

【調査員】それ、本当ですか? 別の領収書でも、二重計上をやっていますよね?

【経営者】本当に単純なミスで、お恥ずかしい……。

【調査員】これね、ミスで済ませられる金額じゃないですよね。これくらいの額になってくると、わざとやったとしか思えないんですよ、社長。

【経営者】いえ、わざとということはありません。

【調査員】みなさん、そういうんですよね。これね、金額が金額なだけに、私も見過ごすことはできないんです。これは、重加算税の対象になってしまいます。

【経営者】本当に、故意じゃないんですよ!

【調査員】重加算税ということで、承諾していただけませんか?

【経営者】……………………。

【調査員】もし、承諾していただけないということであれば、次は「査察」が来るかもしれませんよ。それでもいいですか? 新聞やニュースに出ちゃう可能性もありますけど。

【経営者】査察だけは勘弁してください。わかりました、重加算税を払います。

実際にこのようなやりとりをしたことがある人にとっては、おそらく悪夢のような思い出になっていることでしょう。

このやりとりには、「ウソ」と「脅し」が含まれています。

■「査察が来るぞ!」とは言わない

まず、査察は、事前に通告されることはありません。

査察とは、悪質な脱税を摘発することが目的の強制的な調査です。事前に通告してしまうと、脱税の証拠などは隠滅されてしまいます。そんなお人好しが査察に来るわけがないのです。

したがって、「査察が来るぞ!」というのはウソなのです。

そして、査察に入られた場合、地方都市であれば、ほぼ間違いなく地元の新聞やテレビのニュースとして取り上げられるので、その会社のイメージはガタ落ちとなってしまいます。これは、経営者にとって、放置することは絶対にできません。

根本和彦『元国税調査官が捨て身の覚悟で教える「節税」の超・裏ワザ』(SB新書)
根本和彦『元国税調査官が捨て身の覚悟で教える「節税」の超・裏ワザ』(SB新書)

そうなるくらいなら、重加算税を受け入れることになります。これは、脅しといって差し支えないでしょう。

また、そもそも二重計上が重加算税の対象になるかどうかは、決まっていません。重加算税の要件は、「隠ぺいまたは仮装」とされる行為です。簡単にいうと、知っているのにわざとやった場合に重加算税の対象となります。

経費の二重計上をしていても、単純なミスであれば、重加算税の対象にはならないのです。つまり、税務署員による金額に基づいた判断というのは誤りです。

当然、税務署員は百も承知。わざとウソをついているのです。こちらのほうは明確な故意ですが、何のおとがめもありません。

■手ぶらで帰れない…税務署員が「重加算税」を狙う理由

税務調査に入ったら、税務署員は手ぶらで帰れません。ですから、会社に何らかの修正申告をしてもらうことになります。このとき、税務署員は重加算税を狙うのです。

確定申告で届け出た納税額と、修正申告で算出された税額の差を「追徴税額」といいます。また、その差分を徴収することを「追徴課税」といいます。

追徴課税をする場合、おもに次の4つの税金があります。

①過少申告加算税
②無申告加算税
③重加算税
④不納付加算税

ここでは、1つひとつの税について詳しくは述べません。この4つの中では、重加算税がその名のとおり最も重い税金であるということを覚えておいてください。それが、税務署が重加算税を狙う理由だからです。

それほど追徴税額が大きくならなくても、重加算税にしたほうが税務署では高い評価になります。2000万円の単純な経理ミスを指摘して修正申告してもらうよりも、200万円の所得隠しを指摘して重加算税にするほうが評価される、といった具合です(ちなみに重加算税は通称「ジューカ」と呼ばれています)。

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根本 和彦(ねもと・かずひこ)
元国税調査官YouTuber
1976年生まれ。東北大学大学院修了、政策研究大学院大学修了。在学中、研究者の道から路線を変え、大学院修了後はキャリア官僚として文部科学省入省。数千億円規模の予算獲得、大規模な法改正に担当者として従事。文部科学省退職後、民間の勤務を経て、国家公務員として国税局に再就職。国税調査官として会社の税務調査を行う。税務調査では、主に悪質・困難な納税者を担当し、様々な脱税手法、脱税心理、欲に溺れた人間模様を目の当たりにする。2016年に国税局を退職。YouTubeチャンネル「元・国税調査官【税金坊】」を開設し、中小企業の経営者や個人事業主向けに税とお金についての情報発信を続けている。

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(元国税調査官YouTuber 根本 和彦)

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