1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

端緒はタレコミだけじゃない…税務署員が必ずチェックしている5つのポイント

プレジデントオンライン / 2022年3月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/visualspace

税務署はどうやって申告漏れや所得隠しを見つけ出すのか。元国税調査官の根本和彦さんは「タレコミが情報源になることが多いが、それだけではない。特に例年よりも多い経費を計上した場合は要注意だ」という――。

※本稿は、根本和彦『元国税調査官が捨て身の覚悟で教える「節税」の超・裏ワザ』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■税務調査がやって来る…税務署員の本気度を見分けるポイント

税務調査には、種類というかパターンがあります。大別すると、まず、「事前通知があるパターン」と「事前通知がないパターン」に分かれます。

「事前通知アリ」のほうは、税務署員が会社に電話をして、税務調査に行くことを知らせます。そして、納税者と日程を調整して訪問します。これは、通常のパターンといってよいでしょう。

「事前通知ナシ」の場合、税務署員がいきなり税務調査にやって来ます。このパターンは、ある程度の覚悟をしてください。

すでに、税務署がかなりの証拠をつかんで来ている場合がほとんどです。

もちろん、確実な証拠はなく、決算書や申告書をチェックして脱税の形跡が見られたから来た、というケースもあります。あるいは、銀行口座を見て脱税の可能性が高いと判断したから来た、ということも考えられるでしょう。

いずれにしても、「事前通知ナシ」で来たからには、税務署員側にそれなりの確信というか根拠があります。間違いなく、「事前通知アリ」と比べて深刻度は高いと思ったほうがよいでしょう。

■深刻度が違う…「事前通知アリ」の場合の3パターン

また、「事前通知アリ」の場合でも、次の3パターンがあります。

①事前通知をせずに調査するほどではないものの、所得を隠していることが濃厚で、
しっかりと追徴課税を狙っている場合
②会社の売上げが増加していて黒字が続いているので、念のための確認で来ている場合
③たんなる件数ノルマ達成のために来ている場合

深刻度の高い順でいえば、①・②・③となります。

この3つのパターンを頭に入れたうえで税務署員の対応を見ると、どのパターンに当てはまるかがある程度わかると思います。

あと、調査の時期からもわかったりします。

税務署には、7月に定例の人事異動があります。そして、7月から新しいチームが発足し、税務調査にあたるのです。翌年の人事異動は、前年の実績で決まるので、7月から12月までの調査は、税務署員たちの気合が入っていると思ってください。

7~12月の調査の成績が、次の年の人事異動に反映されることになるので、この時期に調査に入られたら、①が濃厚だと思って対処してください。

逆に、1月から6月までの税務調査は“消化試合”です。②か③のパターンがほとんどで、税務署員も面倒に巻き込まれたくないと考えています。したがって、1月から6月の調査ならば、納税者の言い分もかなり聞いてくれるでしょう。

■税務署に続々届く「タレコミ」の送り主は…

事前通知のアリ・ナシにかかわらず、税務調査が入るときには原因が存在します。銀行や税関、取引先など、普段より、税務署はいろいろなところから情報を集めているのです。

その中でも、情報源として意外に多いのが、「タレコミ」です。

じつは、税務署には、電話やメール、手紙、直接の訪問といった形で多くのタレコミによる情報が寄せられているのです。

いったい、誰がタレコミをしているのか? それがじつに多様で、儲けていることが面白くない同業者や、社長にパワハラなどを受けて会社を辞めた元従業員、社長と別れた元配偶者だったりします。

つまり、個人へのストレートな復讐という動機がタレコミの背景にあることが多いのです。身近な人を冷たくあしらうと、痛いしっぺ返しをくらうことになるということでしょう。

以前、こんなケースがありました。社長との折り合いが悪くなって会社を辞めた従業員が、その会社の裏帳簿を税務署に持ち込んだのです。

その裏帳簿は、2~3カ月分の帳簿で、それだけでも十分な証拠になるのですが、残りの期間の裏帳簿もあったほうが、重加算税をガッツリと取れます。

そこで、その元従業員に聞いてみたところ、残りの裏帳簿の隠し場所も教えてくれました。

ビジネスの悲劇
写真=iStock.com/solarseven
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/solarseven

■「おそらく、査察の案件になる」税務署員の“説得”は効果絶大

さっそく、事前通知ナシで調査に入ったのですが、タレコミで教えてくれた場所には、すでに裏帳簿は見つかりません。おそらく、別の場所に移動させたか、焼却処分をしたのだろうと考えられます。

社長に問い質してみたものの、「裏帳簿なんて、あるわけないじゃないですか」と、簡単には口を割りません。知らぬ存ぜぬ、の一点張りです。

この程度はこちらも想定内ですから、本格的な“説得”に入ります。

そして、察しのよい人ならお気づきでしょうが、こちらには切り札があります。

「今回は、地方の税務署で処理できる金額じゃないので、おそらく、査察の案件になると思いますよ。あんまり大事にはしたくないんですけどね……」と、査察をちらつかせます。

前述のように、事前に査察が来るなんて教えるワケはないのですが、効果は絶大です。

「毎日、国税局に呼び出される」「地元の新聞やニュースで報道される」などと畳みかければ、通常は、口を割ることになります。そのときも、最終的に社長が折れました。

じつは、残りの期間の裏帳簿は最後まで見つからなかったのですが、2~3カ月分を1年に換算して、重加算税を徴収することに成功したのです。

従業員や配偶者は、日頃からくれぐれも大事にするようにしてください。

■タレコミだけじゃない…税務署員がチェックする5つのポイント

タレコミなどの確実な情報がない場合、決算書や申告書をチェックするという正攻法で、調査対象を選びます。

決算書や申告書などのチェックにおいて、税務署員が特に注意するポイントは、おもに次の5点です。

①毎年黒字を計上し、売上げが増加していた
②例年と比べて、極端に売上げが増えた
③過去にないような経費の金額の増加があった
④決算期末の近辺で一気に経費が増えていた
⑤脱税を助けているような業者と取引があった

これらのポイントは、実務経験が豊富な税務署員であれば、決算書や申告書を見るだけでピンときます。そして、件数ノルマの消化のために訪問するケースを除いて、最悪、修正申告だけは持って帰ろうとするはずです。

したがって、売上げの増加や黒字などは仕方ありませんが、例年よりも多い経費を計上するときは気を付けてください。決算期末の時期にやれば、経費の水増しであることが簡単にバレてしまいます。

不動産業者に顧客
写真=iStock.com/Jirapong Manustrong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jirapong Manustrong

■税務署員は「個人事業主」の調査に甘いのか

個人で事業を行っている人は「個人事業主」に該当します。

税務署に「開業届」を提出している人を個人事業主であるという勘違いをしている人が少なくありませんが、開業届を出しているかどうかは関係ありません。雇用契約を結ばずに、業務委託契約や請負契約で仕事をしている人は、全員、個人事業主になります。フリーランスも個人事業主です。

なお、個人事業主は、事業主が1人で事業を行う場合だけでなく、家族や従業員を雇用し、複数のスタッフで仕事をしていても、法人でなければ個人事業主になります。代表的な例としては、法人化されていない家族経営の商店や飲食店、税理士事務所などです。

こうした個人事業主は、法人に比べると、めったに税務調査に入られません。ほぼスルーされます。

そのおもな理由は、売上げの規模が小さいことと、個人事業主の数が多く、全体に対して調査に入る件数の率が低くなることです。

税務署によっても多少の違いはあるので、あくまで目安として考えていただきたいのですが、年間売上高が1000万円以下の個人事業主は、まず税務調査の対象にならないでしょう。

売上高1000万円以下というのは、いわゆる消費税の免税事業者です。消費税は、私たちにとって最も身近な税金といえますが、「商品やサービスを購入した消費者が負担をし、販売をした事業者が納付する」という点で、税法上、他の税金とはかなり趣が異なります。

■個人事業主にも目を光らせている

そして、先ほど述べたように、消費者から受け取った消費税を納付しなくてもよい免税事業者という存在が認められています。

しかも、個人事業主および法人で、簡単にいうと、年間売上高が1000万円を超えていなければ免税事業者になるという、ゆるい条件しかありません。

免税事業者に税務調査に入っても、消費税を追徴することはできず、追徴税額は微々たるものに終わります。税務署員からすると、非常にコスパが悪いため、往々にしてスルーすることになります。

ただし、個人事業主にまったく入らないかというと、それも間違いです。

税務署には、個人課税部門があって、法人課税部門と同じくらいの人員がいます。毎年、必ず個人事業主には一定数以上の調査が行われます。それが目立たないのは、前述したように、個人事業主の数が多すぎることが影響しています。

件数の正確なデータは公表されていませんが、国税庁の直近の公表データから推測すると、個人事業主の申告件数の約1%に調査が入っているようです。個人事業主が税務調査に入られてしまうと、まず修正申告は免れません。前述のデータでは、調査に入られた個人事業主の約85%が何らかの修正申告をしています。

その原因は、個人事業主の場合、経費に占める「家事関連費」のウェートがどうしても高くなるからです。

■税務署員が叩けば盛大にホコリが出る

家事関連費とは、個人用と事業用の両方で使っていて、切り離すことが困難な経費のことです。具体的には、家賃や水道光熱費、ガソリン代、携帯電話などの通信費などが該当します。

根本和彦『元国税調査官が捨て身の覚悟で教える「節税」の超・裏ワザ』(SB新書)
根本和彦『元国税調査官が捨て身の覚悟で教える「節税」の超・裏ワザ』(SB新書)

また、飲食店の場合、食材費を家事関連費として計上することは、“常套手段”です。店舗でお客に提供するために購入した食材を個人で使う食材として流用することは、それほど抵抗がない人が多いでしょう(飲食店が赤字でも事業を継続でき、生活も成り立つ要因といえます)。

本来、こうした費用を経費にするときは、個人用と仕事用とに区別して計上します。

経理上、区別して計上することを、「按分」と呼びます。この按分は、大体どんぶり勘定で行われるので、税務署員が叩けば盛大にホコリが出ることになります。

その結果、修正申告が必要になるのです。

もし、税務調査を担当した税務署員が“イイ人”だった場合、「本来は修正申告をしてもらうところですが、今回は“指導”ということにしておきます」などといって修正申告もスルーしてくれる可能性があります。

----------

根本 和彦(ねもと・かずひこ)
元国税調査官YouTuber
1976年生まれ。東北大学大学院修了、政策研究大学院大学修了。在学中、研究者の道から路線を変え、大学院修了後はキャリア官僚として文部科学省入省。数千億円規模の予算獲得、大規模な法改正に担当者として従事。文部科学省退職後、民間の勤務を経て、国家公務員として国税局に再就職。国税調査官として会社の税務調査を行う。税務調査では、主に悪質・困難な納税者を担当し、様々な脱税手法、脱税心理、欲に溺れた人間模様を目の当たりにする。2016年に国税局を退職。YouTubeチャンネル「元・国税調査官【税金坊】」を開設し、中小企業の経営者や個人事業主向けに税とお金についての情報発信を続けている。

----------

(元国税調査官YouTuber 根本 和彦)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください