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「なぜ先生たちはいじめを認めないのか」学校がいじめ問題を解決できない根本原因

プレジデントオンライン / 2022年2月26日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

いじめが起きたとき、学校や教育委員会の対応が悪いのはなぜなのか。NPO法人プロテクトチルドレンの森田志歩さんは「対応に問題があるなら、その原因を解明すべき。学校と教育委員会にアンケート調査を行ったところ、対応に苦慮している先生たちの声がたくさん集まった。先生たちにしっかり対応してほしいというなら、それができるように体制を整えるのが先ではないか」という――。

■世論の批判を浴びても改善しないのはなぜか

平成25年、「いじめ防止対策推進法」が施行されました。これで、子どもたちの命や尊厳が守られると期待しましたが、残念ながら十分な効果をあげているとは言えません。

文部科学省が発表している「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」によると、令和2年度のいじめ認知件数は約52万件、1000人当たりの発生件数は約40件でした。

内容としては、悪口や仲間はずれが8割近くを占めており、けがを負わせるといった暴力や金品を奪うようないじめは、比率としてはそれほど多くありません。また、パソコンや携帯電話を使ったいじめが増えているのも最近の傾向です。

令和元年以降、コロナ禍で子ども同士が接触する機会が減ったために、いじめの認知件数は減少傾向にあるのですが、その一方で、いじめを原因とする長期欠席や不登校、そして自殺の増加には歯止めがかかっていません。令和2年の小中高生の自殺件数は、実に415件。調査開始以来、最悪の結果となってしまったのです。

なんとしても、子どもの命だけは救ってあげたい。こうした調査結果を目にすれば、誰もがそう思うことでしょう。

いじめに遭っていた子どもが自殺する事件が発生すると指摘されるのが、学校・教育委員会のいじめ問題に対する消極的な姿勢です。たしかに、マスコミ報道を見る限り、いじめの存在自体を認めたがらず、仮に認めたとしても法律にのっとった的確な対応をしない学校・教育委員会が多いように感じます。全員とは言わないのですが、多くの教育評論家やいじめの専門家は、「学校・教育委員会がダメだからいじめはなくならないんだ」と批判し、世論も巻き込んだ大バッシングになります。

しかし、こうした報道が繰り返されても、事態は一向に改善されません。法律も整備されて、いじめ相談の窓口もたくさんあるのに、改善しないのはなぜなのか。原因を探るべく、学校・教育委員会にアンケートを取ってみようと考えました。

■アンケート依頼をした学校・教育委員会の7割が回答

昨年の10月~11月にかけて、学校・教育委員会を対象とした大規模なアンケートを、独自に実施しました。それを知った教育評論家やNPOの方からは、「学校・教育委員会は閉鎖的だから、アンケートを依頼したって答えてくれるはずがない」と言われました。しかし、結果は違っていました。

依頼した教育委員会は100件、学校は150件(対象はいずれも全国)ですが、教育委員会71%、学校73%と、高い割合で回答してくれました。学校・教育委員会は、決して閉鎖的ではありませんでした。そして、アンケート結果からは苦悩する教員の姿が浮かび上がってきました。

主な回答を紹介したいと思います。

■子どもに寄り添い対応したいと思っている教員

まず、「児童または保護者から相談を受けた場合、どのような対応を心がけていますか?」と質問しました。もっとも多かったのは「児童に寄り添った対応を検討する」61%。先生たちとしては、当然のことですが、子どもに寄り添い、いじめを解決したいと思っているのです。

Q相談を受けた時、どのような対応を心がけているか(複数回答)

しかし、世間からはそのように見られていません。

「いじめ問題への対応が遅れるケースが多いが、原因はなんだと思うか?」という質問について、もっとも多かったのは「保護者との話し合いが難航し、関係がこじれてしまう」43%、次いで「日常の業務が多忙で時間が取れない」30%。自由記述では、「保護者の訴えと学校報告、状況が異なるので、確認などに時間がかかる」「参考となる通知やガイドラインの種類や量が多すぎる」などの回答がありました。

Q対応が遅れるのは、なぜなのか(複数回答)

■捜査権限がない中で対応する難しさ

「『学校・教育委員会は、いじめや重大事態だと認めてくれない』という声があるが、理由は何か?」という質問については、「該当児童から話しを聞いたが主張が異なるため」が最多の60%。自由記述では「学校・教育委員会に捜査の権限があるわけではないので、状況の把握には限界がある」「いじめられた子どもの言い分だけを信じて、『やっていない』という子に『やっただろう』と詰め寄ることはできない」などの回答があり、教員による状況の確認の厳しさを訴える声が多くありました。

Qいじめ・重大事態と認めない理由は何か(複数回答)

■なぜ、現場の声に耳を傾けなかったのか

深刻ないじめ問題が解決しない現状から、いじめ防止対策推進法の改正や法律通り対応しなかった教員への罰則規定強化を求める声も出ています。しかし、アンケート調査の結果を見る限り、そうした要請はナンセンスだと思います。

もし、罰則規定を強化したら、教員を辞める人が続出するでしょう。教員になりたいという人も減って、学校の人手不足がますます深刻になるのではないでしょうか。

必要なことは厳罰化ではなく、まずはいじめ問題解決の「土台」である学校・教育現場を、いじめ問題の解決が可能な状態に「整える」ことではないでしょうか。それをしないで、いくら学校・教育委員会を叩いても、子どもの命と尊厳を守ることはできません。

そもそも、なぜ、こうした現場の声に耳を傾けて、対策を講じてこなかったのか。そのことは、ずっと不思議でならないのです。

■教員は授業と日常業務で手いっぱい

さて、私が整えるべきだと思う点は、大きく二つあります。

第一は、学校の働き方改革です。

学校が「ブラック職場」であることは、すでにさまざま形で報道されていますが、いまの学校の先生たちはとても忙しい。授業のコマ数が増えただけでなく、国や都道府県教委からの通知や通達が、読み切れないほどきます。配慮が必要な子どもも多く、保護者からの相談件数も非常に増えています。つまり、先生たちは授業と日常業務で手いっぱいなのです。だから、いじめ問題に取り組む時間が確保できていない。

■残業は過労死ラインを大幅に超える1カ月96時間

日本教職員組合が昨年12月に発表した教員の1カ月の残業時間は1カ月あたり96時間44分。過労死ラインと言われる80時間を大幅に上回っています。しかも、1960年に設立した給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)によって、残業代も出さなくていいことになっている(※)。このことが、管理職の勤務管理の甘さを生んでいると思います。

こうした多忙な状況でいじめ問題が発生すると、どうなるのでしょうか。状況の確認、報告、保護者への対応など膨大な業務が負荷されることになります。先生たちに気持ちがあってもやりきれず、対応が遅れたり、場合によってはいじめを認めたがらないといったことにつながっていくのです。

日常業務の軽減を図ると同時に、いじめ問題に対応する専門スキルを持った人材を配置するなどの具体的な対策も必要だと思います。今回のアンケートで、「中立の立場で介入し解決改善に向けて協力した第三者機関は必要だと思いますか」と質問したところ、87%が「必要」と答えました。

※給特法 第三条 教育職員の教職調整額の支給等
教育職員(校長、副校長及び教頭を除く。以下この条において同じ。)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
第三条の二 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。

■調査費用は誰が出すのか

第二は、財源の問題です。

いじめ防止対策推進法は、重大事態の発生が疑われると学校・教育委員会が判断した場合には、「(学校・教育委員会は)事実関係を明確にするための調査を実施する」と規定しています。

調査委員会の設置した場合、各委員への報酬が発生します。そして、その費用捻出に苦慮する自治体も多くあります。実際、アンケート調査の回答でも、「調査委員会の設置は費用面で困難が多い」という答えが多数ありました。

学校・教育委員会が調査委員会を設置する際は、職能団体に推薦依頼をすることになりますが、推薦依頼の対象となるのは医師会や弁護士会、心理士会といった、いわゆる各分野の専門家です。地方に行けば、専門家への依頼の費用が安くなるかといえばそんなことはなく、ほぼ全国一律です。大都市圏はいざ知らず、地方の小さな自治体が高額な費用を払って専門家の方に調査委員を依頼することは、「財政的に」困難なのです。

だからといって、予算内で引き受けてくれる学校・教育委員会と付き合いのある専門家だと、すぐさま「事実を隠蔽(いんぺい)するために、利害関係者に依頼した」などと批判されてしまいます。学校・教育委員会がいじめ問題の解決に消極的になってしまう原因のひとつには、財政の問題もあったわけです。

いじめ問題の解決を図るには、その土台である学校・教育委員会の体制を整えることが不可欠です。そのために何が必要かといえば、人員と時間と財源。教育委員会や学校の現場が抱える問題を改善し、体制を整えなければ、子どもたちは守られないと私は考えているのです。

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森田 志歩(もりた・しほ)
特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表
息子がいじめで不登校になり、学校や教育委員会と戦った経験から、同じような悩みを持ついじめ被害者や保護者の相談を受けるようになる。相談が殺到し、2020年に市民団体を、2021年にはNPO法人を立ち上げる。いじめ、体罰、不適切指導、不登校など、さまざまな問題の相談を受けているが、中立の立場で介入し、即問題解決に導く手法が評判を呼んでいる。相談はHPから。

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(特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表 森田 志歩 構成=山田清機)

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