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プロ野球年俸ランキング分析「頑張っても不遇な選手vs.働かずにもらい過ぎの選手」不満渦巻く格差の現実

プレジデントオンライン / 2022年2月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/spxChrome

年俸が成績次第で数百万~数億円単位で大きく上下する実力社会のプロ野球界。2022年シーズンの年俸2億円以上の選手35人を調べたスポーツライターの高津雅樹さんは「同じくらいのキャリア・成績でも年俸が2分の1以下になってしまう選手や、逆に成績に見合わない高給取りの選手がいるのではないか」という――。

■プロ野球の年俸2022「もっともらっていい選手・もらい過ぎ選手」

来たる2022年シーズンで「年俸1億円」以上の選手は80人存在する。

いずれ劣らぬ錚々たる顔ぶれだが、ひと昔前は「年俸1億円」が超一流のステータスとも言われただけに、正直「この選手がそんなにもらっているの?」と驚くこともある。

現在の「超一流」は、実績や顔ぶれから勘案すると「年俸2億円」以上の35人といっていいかもしれない。その内訳は先発投手8人、中継ぎ投手1人、抑え投手6人、捕手2人、一塁手2人、二塁手3人、三塁手4人、遊撃手2人、左翼手2人、中堅手3人、右翼手1人、DH(指名打者)1人である。

今回は、22年の「高給取り」選手たちに関して、7つの視点で考察していこう。

下記の年俸(すべて推定)の出典:一般紙・スポーツ紙の報道を参照のうえ筆者推定
選手成績の出典:各球団やNPBのHPのデータ(出場試合数、安打数、打率、本塁打数、打点など)を基に筆者作成、年は昨年までの現役年数

【1】日本球界1位のマー君、2位ギータ
田中将大(楽天)15年9億円 372試合181勝90敗3セーブ(日米)
柳田悠岐(ソフ)11年6億2000万円 1138試1259安、率.319、214本、691点

日本球界トップの高給取りは楽天の田中将大の9億円だ。とはいえヤンキース時代は22億円が7年続いた。メジャーで先発ローテーション3人までに入ると、ダルビッシュ有もそうだが、年俸20億円前後になる。野手はイチローや松井クラスも最盛期で15億円前後だった。

22年NPB年俸2位はソフトバンク柳田悠岐の6億2000万円。02年の松井を破る史上最高額だ。それでも松井以来20年も経過している。いまさらながら、他の追随を許さなかった松井のすごさを再認識させられる。

【参考データ】
松井秀喜(巨人)10年6億1000万円 1268試1390安、率.304、332本、889点(日本)
【2】捕手の年俸は、実績と比例する妥当な結果
甲斐拓哉(ソフ)11年2億1000万円(優勝2)ゴールデングラブ5
森 友哉(西武)8年2億1000万円(優勝2)MVP1、首位打者1
会沢 翼(広島)15年1億8000万円(優勝3)ベストナイン3
中村悠平(ヤク)13年1億7000万円(優勝2)ゴールデングラブ2

この4捕手は現役通算の年数こそ違うが、扇の要としてチームを引っ張り、優勝経験回数や個人的な実績も遜色ない。リーグを代表する捕手に対して各球団とも同じような評価を出し、似たような報酬を得ていると考えてよいのではないか。

ただ、ソフトバンク甲斐拓哉や西武森が全選手中の年俸ランキングに登場するのは27位。26位までに、ほかのすべてのポジションの選手が顔を出している。投手をリードし、打者と駆け引きして「グラウンド上の監督」を務めるなど重責を担っているにもかかわらず、捕手の年俸相場はいささか低いと言えるかもしれない。

捕手は一線に出て活躍を遂げるまで時間を要する。ケガが多いポジションで継続して活躍するのは難しい。守備重視で打撃に注力するのも大変だ。そんな要因があると推察できる。その意味で打撃成績がひときわ光る森は若くても高年俸なのだろう。

■同じ活躍度の投手でも片や2億円、片や4億6000万円の格差

【3】日本プロ野球界=「成果主義」+「年功序列」

日本はアメリカのメジャーのような完全な成果主義ではなく、年功序列的な部分もある。成績が芳しくなくてもすぐに契約を解かれるわけではなく、1~2年の猶予が与えられる温情がある。日本のプロ野球選手の平均選手寿命は9.5年30歳(NPB調べ)だが、長くやっていれば、それなりに結果を残し年俸も上がっていく。

ただし12球団全体の年俸相場に加え、全盛期を過ぎたベテラン選手と実力ある若手選手の間で、いつか「逆転現象」が生じる。例えば、西武の3選手だ。

森 友哉(西武)8年2億1000万円 27位
中村剛也(西武)20年2億円 29位
栗山 巧(西武)20年1億7900万円 39位

中村剛也と栗山巧は同じくキャリア20年。中村は史上15位の442本塁打を放ち、栗山は通算2000本安打を達成している。この2人をキャリア8年で首位打者1度の森友哉の年俸が上回っている。栗山はこれまで年俸2億円前後の年が多かったが、中村は最高4億を超えていた。年俸推移の下降曲線と上昇曲線が逆転した。これも時代の流れだろう。

【4】抑え投手の年俸には、優勝が大きく反映する 
森 唯斗(ソフ)4億6000万円 8年435試合21勝102H 121S。最多セーブ1
増田達至(西武)3億円 9年455試合25勝95H 144S。最多セーブ1、最優秀中継1
益田直也(ロッテ)2億円 10年593試合29勝145H 157S。最多セーブ2

この投手3人は、現役通算の年数、登板試合数が似通っている。中継ぎ投手から抑え投手に昇格し、ホールド数とセーブ数、タイトル獲得の点も似ている。しかし、リーグ優勝がソフトバンク4度、西武2度、ロッテ0度の結果に伴い、22年の年俸に大きく差が出た。ソフトバンク森唯斗は、ロッテ益田直也の実に2倍超の4億6000万円である。プロ野球の世界でも「同一労働、同一賃金」は難しいようである。

2009年11月14日の東京ドーム
写真=iStock.com/percds
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/percds
【5】「もっともらうべき選手」筆頭は巨人・岡本

この成績で、たったこの年俸か……「もっともらってもいいのでは」と感じる選手もいる。その筆頭は巨人の岡本和真だ。オリックスの吉田正尚と比較してみよう。

吉田正尚(オリ)6年4億円10位 643試合746安打、打率.326、112本塁打、379打点
岡本和真(巨人)7年3億円13位 582試合586安打、打率.276、135本塁打、410打点

吉田は2021年シーズンに首位打者を獲得(2年連続)し、チームを25年ぶりのパ・リーグ優勝に導いた。その結果、1億2000万円アップの4億円に到達。一方の岡本も4年連続「30本90打点」で、19~20年のセ・リーグ2連覇の原動力となった。

アベレージヒッターの吉田と、長距離打者の岡本では、一概に比較できない部分はある。また、打率は吉田より岡本のほうが5分も低い。だが、岡本には試合の展開を一瞬にして引き寄せる一発の魅力がある。

岡本の2年連続「本塁打王&打点王」は、チームでは1977年王貞治以来実に44年ぶり。右打者では長嶋茂雄もなしえなかった史上初の快挙。つまり松井秀喜、小笠原道大、阿部慎之助、坂本勇人らのMVP選手でもできなかったと言えば、その偉業ぶりが理解できるだろう。何かと注目される球界の盟主巨人において、連続してタイトルを獲るのは至難の業だ。昨オフの契約更改では9000万円アップの3億円だったが、巨人ファンならずとも、もっともらってもいいと感じる人は多いはずだ。

■ソフトバンクに「成績と年俸が不釣り合いな選手」が多いワケ

【6】「もらい過ぎ?」それとも、恵まれている?

逆に、「もらい過ぎではないか」と感じる選手も少なくない。

松田宣浩(ソフ)16年1億5000万円44位1867試1811安、率.266、301本、984点
中村 晃(ソフ)14年2億4000万円25位1164試1151安、率.282、54本、415点
今宮健太(ソフ)12年2億9000万円18位1224試1008安、率.246、76本、402点
嘉弥真新也(ソフ)10年1億6000万円41位 384試合13勝101H1S
武田翔太(ソフ)10年1億5000万円44位 178試合63勝45敗9H2S

21年まで6年連続で4億円超の年俸だったソフトバンクの松田宣浩。昨オフに67%(3億円)ダウンの提示をのんで、1億5000万円で契約した。三笠杉彦GMは「1年のパフォーマンスだけで下がったわけではない」と説明。確かにここ2年は100安打を割るなど精彩を欠いた。

だが、松田は名球会入りの基準となる通算2000安打まで残り189安打。到達するか否かで球史への名の残りかたは雲泥の差がある。22年シーズンに巻き返せるか注目だ

ちなみに過去史上最多ダウン額は杉内俊哉(巨人)と金子千尋(オリックス→日本ハム)の4億5000万円だ。

同じソフトバンクの嘉弥真新也投手は、通算384試合登板で273イニングに投げているものの、通算13勝101ホールド。昨年チーム最多58試合登板とはいえ、1億6000万円はどうだろう。同じ中継ぎ投手の岩崎優(阪神)は通算8年326試合516イニング27勝109ホールド、昨年62試合に投げて1億5000万円。前述した2億円の益田直也(ロッテ)は、同じ10年間で593試合登板575イニングと、イニング数は2倍でさらに150セーブが加わる。その意味では益田は「もっともらっていい選手」に含めてもいい。

もらい過ぎではないかと感じる投手はほかにもいる。ソフトバンクの武田翔太は15~16年に2年連続2ケタ勝利のあとは、6、4、5、2勝、21年4勝と低調だったものの、昨オフで新たに9000万アップの1億5000万円(4年契約)を結んだ。成績と額が不釣り合いに思えるが、「22年国内FA権取得の見込みがその理由」(三笠GM)らしい。

一方、打者ではソフトバンクの中村晃だ。19~20年に2年連続100安打を割ったが、4年契約なので現状維持の2億4000万円。同僚の今宮健太は、18年から4年連続で100安打を割ったが、4年契約なのでやはり現状維持の2億9000万円。

ここに登場したのは全員がソフトバンクの選手だ。潤沢な資金にモノを言わせて、秋山幸二/工藤公康政権13年間でリーグ優勝6度、2位からの日本一2度。年俸が高いから勝利へのモチベーションが上がると見るか、これだけ年俸をもらっていれば勝つのは当然と見るか。企業のブランディングの意味合いも含まれるのだろうが、いずれにせよ他球団の選手からしたらうらやましい限りだろう。

日当たりの良い、満員の球場
写真=iStock.com/LeArchitecto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LeArchitecto
【7】アップ&ダウンがジェットコースター的な「どすこい」

本塁打のあとの「どすこい」ポーズがファンに人気の西武の山川穂高は、2年連続本塁打王を獲得して年俸が急上昇したが、ここ2年は連続して急降下の軌跡を描いた。その年俸推移を追ってみよう。

山川穂高(西武)8年1億3000万円55位640試547安、率.254、177本、480点

18~19年に40本塁打をマークし、年俸は2年間で実に7倍にはね上がった。しかし、ここ2年間は本塁打数が20本台に半減。2年連続して4000万円の大幅ダウンだった。このあたりは信賞必罰が色濃く表れている(下線はリーグ最多)。

14年 3安打 .100 2本 3打点 1200万円
15年 1安打 1.000 0本 1打点 1200万円
16年 36安打 .259 14本 32打点 1000万円
17年 72安打 .298 23本 61打点 1600万円
18年 152安打 .281 47本 124打点 3240万円
19年 134安打 .256 43本 120打点 1億1000万円
20年 66安打 .205 24本 73打点 2億1000万円
21年 83安打 .232 24本 66打点 1億7000万円
22年 1億3000万円

好不調の波をできるだけ抑え、安定的に活躍することが年俸アップの秘訣だろうが、それが簡単にはかなわないのがプロ野球というシビアな世界なのだ。

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高津 雅樹(たかつ・まさき)
スポーツライター
プロ野球の現場取材歴30年。野球の「人」「技術」「記録」「ルール」「歴史」などのジャンルで計25冊の著書がある。

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(スポーツライター 高津 雅樹)

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