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「カジュアルセックスもあれば、カジュアル拒絶もある」恋愛を変えたマッチングアプリの功罪

プレジデントオンライン / 2022年2月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/B4LLS

マッチングアプリの普及は、男女の「出会い」を大きく変えた。ブランドリサーチャーの廣田周作氏は「出会いが爆発的に増えたことで、カジュアルセックスもあれば、カジュアル拒絶も受ける時代になった」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、廣田周作『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■親しくない人とのつながりを断ってはいけない

コロナ禍以降、若者たちは「友情」をどのように保てばいいのか、あるいは新しく友達を見つけるにはどうすればいいのか、真剣に悩んでいるということがわかっています。

スウィンバーン工科大学の調査によれば、コロナの期間中にオーストラリア人の54%、イギリス人の61%、アメリカ人の66%の消費者の孤独感が高まったそうです。

コロナの影響においては、「弱いつながり」の友人との接点がなくなったことが指摘されています。

とても仲のよい親友レベルの友人や家族であれば、デジタル上でも関係をなんとか維持できるのですが、物理的に学校や職場に通うからこそ、その場でなんとなくおしゃべりしたり、お茶をしたりする「弱いつながり」の友人との関係が、コロナによって一気に切れてしまったんですね。

友人から友人を紹介してもらう形で、新しく人と知り合う機会もめっきり減りました。

「弱いつながりというけれど、もともと、そんなに親しくない人なら、失ってもいいんじゃないか」と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。

社会学者のマーク・グラノベッター氏の研究で、「転職」など、人生において有益な情報は、親しい友人や家族ではなくて、意外にも「弱いつながり」の人から得ている場合が多い、と述べた有名な論文があります。

廣田周作『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)
廣田周作『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)

とても親しいというわけではないけれども、たまに会ってお茶するくらいの友人こそが、案外有益な情報をもたらしてくれているというわけですね。セレンディピティこそが、実は人と社会との重要な接点になっていたわけです。

親しい友人や家族とだけ交わっていても、「世界」は広がっていきません。むしろ、同じような価値観にだけ触れ続けることで、煮詰まってしまったり、関係も「重く」なってしまいます。

新しいことを始めたいと思っても「いつものメンバー」に相談したところで、意外なアドバイスは期待できません。弱いつながりが失われることで、「新しい出会いのきっかけ」がなくなり、孤独感や閉塞感は高まってしまうのです。

■親友だと思っていた人も、「優先順位」は変わる

そのことと関係してか、コロナ以降、欧米では「友人とは何か」や、「友人のつくり方」に関する書籍やポッドキャストが急激に人気になってきています。

書籍の中でも特に有名なのが、オックスフォード大学で進化心理学を研究しているロビン・ダンバー氏が書いた、その名も『Friends』という本です。

この本の中で、ダンバー氏は、友人にもいろいろなカテゴリと優先順位があることを、思い切って素直に認めていいのだ、それによって罪悪感を感じなくてもいいのだ、ということを提唱しています。どういうことでしょうか。

ダンバー氏によれば、コロナの最中に、SNSやスマホでつながっている膨大な「友人」の整理をするというと、多くの人が、どこか罪悪感を感じてしまうかもしれないけれど、そもそも、人間は、最も親しい友人なんて、同時に5人くらいしか持てないし、ライフステージによってその5人は変わりゆくものなのだから、この際、思い切って整理してもいいのだと言います。親しい友人なんて「変わっちゃうもの」として、受け入れようというのです。

いくら親友だと思っていた人も、ライフステージが変われば、「優先順位」なんて変わってしまうのが自然だし、これまでも人は人間関係を整理しているのだから、そんなに「整理」を恐れなくていい。コロナの期間に、親しさの優先順位が変わるのは普通だと、このようにダンバー氏は主張しているのです。

コロナによって、弱いつながりが失われ、「親しい人」の優先順位も変わってしまう場合もあるでしょう。それはとてもつらいことですが、受け入れるしかないのかもしれません。

■友人関係を整理するためのアプリ

友達といえば、私がカルチャーショックを受けたのは、友人関係を「メンテナンス」するためのアプリまで登場したことです。「Call Your Friends」というアプリは、友人とどのような距離でどのような頻度でやりとりすればいいか、連絡を取るべきタイミングを「プッシュ通知」などで教えてくれる機能を持っています。

アプリをダウンロードすると、まずは現状のチャットのログから、あなたが、どの人と一番親しいのか、優先順位を解析してくれます。その中で、例えばあなたがAさんと友人関係を続けたい場合、このアプリはAさんに連絡を取るべきタイミングや、メッセージの内容について、アドバイスをしてくれるのです。

友人関係において、下手に連絡しすぎると「重い」とか、逆に連絡を怠ると「ちょっと疎遠だな」と思われたりするわけですが、そうならないように適切な距離感やタイミングを掴むのをサポートしてくれるわけです。

それをウェブの解析のごとく、PDCAを回しながら「友情メンテナンス」をするのです。いやはや。

■出会いやすい時代だからこそ、恋愛は難しい

また、孤独や人間関係の課題と言えば、恋愛に関しても、若い人たちは、とても苦労をしているようです。「自由恋愛」が当たり前になり、マッチングアプリが普及した現在、逆説的ですが、長期的なパートナーをなかなか持つことができないことに悩む若者が増えているといわれています。

つまり、マッチングアプリを使えば、簡単に出会えてしまうために、逆に誰か1人に決められないというパラドックスが起こっているのです。

昔であれば、学校や職場、地元などの限られたコミュニティ内での出会いが普通でした。誰かを選ぶ際にも、「まぁ、この人にしておくか。悪い人じゃなさそうだし」と、選択肢が少ない中で、妥協もありつつ、パートナーを決めていたと思うのです(周りの目もありますし)。

しかし、現在は選択肢が過剰に多く、せっかく出会えたとしても、相手の嫌なところが少しでも見つかると「もっと他にもいい人がいるし」と思い、すぐ次にいってしまうようになりました。自由であればあるほど、不自由になってしまうという矛盾があるんですね。

例えば、アメリカのコメディアンであるアジズ・アンサリのヒット作に「マスター・オブ・ゼロ」というネットフリックスのオリジナルドラマがあります。

2021年の現在、シーズン3まで公開されているのですが、シーズン1は、アジズ・アンサリらしい皮肉と悲哀を込めた「出会いの難しさ」をテーマにしたコメディ・ドラマになっています。主人公はマッチングアプリを延々とやり続けるけれども、ちょっと変わった子にばかり出会ってしまって、主人公が翻弄されていくというストーリーが展開します。

アジズ・アンサリはこの作品を通して、「出会いの機会が増え、自由になればなるほど、不自由になる」というパラドックスを描いているのです。

これは今、人と人との関係性や孤独を考える上で、とても重要な問いかけだと思います。アジズ・アンサリは、このドラマに関連して、なんと社会学者と協業して、現代の恋愛の難しさについて、書籍まで出版しています。

「なんで男ってこんなクズなメッセージを送ってくるんだろう」と一度でも思ったことのある人にはおすすめです。ひどい事例がたくさん紹介されていて、笑えるけど、笑えません。

ちなみに、アジズ・アンサリは、本作を通して「有害な男性性(トクシック・マスキュリニティ)」にとても敏感な態度をとったことで、評価をあげたのですが、当の本人がセクハラを行った疑惑が浮上し、一時期大きく批判をされてしまいました。本当にこういう事例が多いですね。

■「本気にシリアスになって、誠実でいることが怖い」

話を戻しましょう。

マッチングアプリは、出会いのハードルを下げ、恋愛を自由にしてくれたはずだったのに、結果ユーザーは誰を選んでいいのかわからなくなって、逆に不自由になってしまう。

そもそも、マッチングアプリ自体のビジネスモデルを考えると、ユーザーが長期間使ってくれた方が「儲かる」というロジックが働くので、次から次へと「飽きさせないように」新しいパートナー候補と出会わせようとしているわけです。

たった1人の人と出会いたいと思う人が、結局迷走してしまうというパラドックス。ユーザーが迷走すればするほど、アプリ業者は儲かるという仕組み。

The 1975というイギリスのバンドの曲で、一時期、リアリティショーの「テラスハウス」のエンディングにも使われていた「Sincerity Is Scary」(誠実であることは、恐ろしい)という曲があります。

この曲は、一度恋愛関係になれたとしても、別れてしまったら、もう二度と会えなくなってしまうから、「本気にシリアスになって、誠実でいることが怖い」というつらさを歌っています。なぜ、別れた人とは友人に戻れないのか、と。

従来は、恋愛においては「“相手が”本気になってくれないことが恐ろしいこと」だったはずなのに、現代は「“自分が”本気になって、拒絶されることが怖い」に変わってしまったんですね。

SNSのアイコンが並ぶ中、LINEに通知バッジ
写真=iStock.com/samxmeg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/samxmeg

昔の歌の歌詞が「重い」と感じるのも、長文のLINEが「キモい」と言われるのも、裏を返せば拒絶が怖いという心理と一緒なのかもしれません。

三島由紀夫の『レター教室』とか、夏目漱石の『こころ』なんて、現代の感覚からしたら重すぎですよね(笑)。

結局、現代は、人間関係や恋愛関係を、いとも簡単につくれるがゆえに、簡単に「切ったり」できるようになってしまいました。

カジュアルセックスもあれば、カジュアル拒絶もあるということです。人と人との関係において、いとも簡単に拒絶されたり、無視されたり、ドタキャンされたりする経験が増えているのです。まさに、ガイ・ウィンチ氏の「拒絶されると人はリアルな痛みを感じる」機会が増えてしまったのです。

これだけモノが溢れ、通信技術も発達して、間もなく5Gの時代がやってくるというのに、一向に人間が幸せになれないのは、結局人間関係の問題は残るし、「拒絶」があるからなんでしょう。

コロナ時代には、リアルに会う機会が減ったため、マッチングアプリを通して出会う人も増えています。だからこそ、簡単に「拒絶」される痛みへのケアも忘れてはいけません。

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廣田 周作(ひろた・しゅうさく)
ブランドリサーチャー
1980年生まれ。放送局でのディレクター、広告会社でのマーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、2018年8月に、企業のブランド開発を専門に行うHenge Inc.を設立。英国ロンドンに拠点をもつイノベーション・リサーチ企業Stylus Media Groupのチーフ・コンサルタントと、Vogue Business(コンデナスト・インターナショナル)の日本市場におけるディレクターも兼任。

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(ブランドリサーチャー 廣田 周作)

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