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まもなく始まる大リストラ…危機的な地球温暖化で「急成長する産業」と「衰退する産業」

プレジデントオンライン / 2022年3月8日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ekaterina_Simonova

気候変動は、産業にどのような影響を与えるのか。東京都立大学の宮本弘曉教授は、「気候変動の影響を受ける仕事は3分の1もあり、今後、経済活動や雇用に大きな影響を与える。多くの人が環境に配慮した『グリーン・ジョブ』への転職を余儀なくされるだろう」という――。

※本稿は、宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■私たちの仕事は「安定的な環境」が大前提

気候変動や脱炭素化の動きは、労働に大きな影響を与えます。まずは、気候変動が労働に与える影響を見ることにしましょう。

世の中に存在する仕事は多かれ少なかれ、生態系が提供するサービスに依存しています。農林水産業や観光業などは生態系が直接的に影響するわかりやすい例でしょう。国際労働機関(ILO)によれば、G20における仕事の約3分の1は生態系サービスに直接的に関係しています。

気候変動は生態系サービスに影響することを通じ、経済活動と仕事に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、気温の上昇による農地面積の減少や異常気象の頻発による農作物の生産量減少などは、農業活動やその労働に影響します。

また、気候変動による環境災害も仕事に悪影響を与えます。普段は気づかないことかもしれませんが、私たちの仕事は、環境が安定的であるとの前提に成り立っています。言い換えれば、自然災害により人々の雇用は大きく傷つく恐れがあるということです。

実際、暴風雨や洪水などで、工場やインフラが損傷すれば、それは経済活動を低下させ、雇用にも悪影響を及ぼします。ILOの調査では、2000年から2015年の間に、人間の活動によって引き起こされたと考えられる環境災害により、全世界で毎年、仕事の0.8%が失われたと推定されています。

■労働生産性の低下も深刻

地球温暖化は労働生産性を低下させることも指摘されています。

農業や建築業など屋外で働く仕事では、気温が大幅に上昇すれば、クールダウンや休憩のために、多くの時間を割く必要がでてきます。ILOは熱ストレスにより、2030年までに世界の労働時間は2.2%失われ、8000万人のフルタイム雇用に相当する生産性が低下すると予想しています。

特に影響を受けるのが農業と建築業であり、2030年には熱ストレスにより農業の労働量の6割、建築業の2割弱が失わると試算されています。他に労働力が失われるリスクが高いものとして、環境サービス、救急・消防、輸送、観光などがあげられています。

ただし、この予想は、気温上昇が今世紀末までに産業化以前と比べ1.5℃に抑えられることに成功することを前提にしており、気温上昇がさらに進んだ場合には、それよりもはるかに高い労働生産性の低下が予想されます。なお、地球温暖化とならび、地球環境や健康に悪影響を及ぼす大気汚染も労働生産性に影響を与えることが知られています。

■先進国に比べて劣る日本の「炭素生産性」

もっとも、脱炭素化を進めることで、労働生産性が高まることも期待されます。「炭素生産性」という概念があります。これは、GDPをCO2で割ったもので、同量のCO2排出で、どれだけのGDPを産出することができるのかを測る指標です。

図表1はOECD諸国における炭素生産性の変化率と労働生産性の変化率の関係を示したものです。両者の間には正の関係があることがわかります。日本は他の先進国と比べて炭素生産性が低いため、今後、脱炭素化が進むことで、労働生産性が向上する可能性があります。

炭素生産性と労働生産性は比例する
出典=宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来 』

■労働者に大きな影響を及ぼす産業構造の変化

次にグリーン化が労働に与える影響を考えることにしましょう。みなさんは「グリーン・ジョブ」という言葉を聞いたことはありますか?

グリーン・ジョブはILOによって提唱されたもので、環境に対する影響を持続可能な水準まで減じる経済的に存立可能な雇用と定義されます。具体的には、①生態系と種の多様性の推進と回復、②消費するエネルギー・材料・資源の削減、③脱炭素経済の推進、④廃棄物と公害の発生回避または発生極小化を支援するような雇用が含まれます。

ここでは、単純に脱炭素社会を推進する雇用のことを、グリーン・ジョブ、そして、脱炭素社会を推進するセクターをグリーン・セクターと呼ぶことにします。なお、非グリーンなジョブやセクターは、ブラウン・ジョブ、ブラウン・セクターと呼ばれています。

脱炭素化は経済構造を大きく変え、雇用をブラウン・ジョブからグリーン・ジョブへと移行させると考えられます。雇用は生産の派生需要であり、労働市場を取り巻く経済・社会環境が変化すれば、それに伴い雇用のあり方は変化します。脱炭素化は需要と供給の両面から経済の構造を大きく変えるため、結果として労働にも大きな影響を及ぼすのです。

■環境に配慮した商品の需要が高まる

脱炭素化が経済の生産面に大きな影響を与えることは明らかです。

これは自動車産業を考えるとわかりやすいかと思います。世界が脱炭素社会実現に向けて動く中で、自動車産業もこれまでのガソリン車からCO2を排出しない電気自動車にその生産をシフトさせています。

2014年4月24日、横浜で電気自動車リーフが充電中
写真=iStock.com/joel-t
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/joel-t

電気自動車はガソリン車と比較して部品点数が少なく、また、使用される部品も異なります。ガソリン車から電気自動車へのシフトは、ガソリン車搭載の部品を製造している自動車部品メーカーに大きな打撃を与えると同時に、電気自動車の要となる電池やモーターなどの関連企業を新たに誕生させますが、こうした産業構造の大きな変化に伴い、既存の雇用が失われる一方で、新たな雇用が生み出されることになります。

脱炭素は需要サイドにも影響を与えます。

人々が環境に配慮するようになれば、それに対応した商品への需要が高まります。また、政府が脱炭素化を推進する政策をとれば、それにより地球環境に配慮している商品・サービスの価格は、そうでない商品・サービスの価格に比べて低下する可能性があります。

グリーンな商品・サービスの相対価格が下がれば、人々はそれらを購入するようになり、結果、ますますグリーンな商品・サービスへの需要が高まります。こうした消費者の需要パターンの変化は、ブラウン・セクターからグリーン・セクターへの生産のシフトを引き起こします。

■再生可能エネルギー関連の就業者数は7年で1.5倍

では、脱炭素化によりどの程度、雇用に変化があるのでしょうか?

今後、雇用を創出するグリーン・セクターとして期待されているもののひとつに、再生可能エネルギー分野があります。例えば、太陽光発電パネルや風力発電の設備を設置する仕事やそれらを管理・維持する仕事などで新規の雇用が生み出されると考えられています。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、再生可能エネルギー関連の2019年の就業者数は世界全体で約1150万人となっており、2012年と比べ5割以上増えています。再生可能エネルギー関連の雇用は今後も増加することが予想されており、IRENAによると、その数は2050年には4200万人に達します。

■成長産業に転職できるスキルアップを目指せ

このようにグリーン・セクターでは今後、新規の雇用が創出されることが期待されている一方で、ブラウン・セクターでは雇用の喪失が見込まれます。ただし、炭素を多く排出している産業における雇用者数は、その生産量と比べて、比較的少ないという特徴があります。

OECDによると、欧州25カ国では、最も炭素集約度の高い10の産業だけで、すべてのCO2排出量の約90%を占めていますが、その雇用量は全体の14%にすぎません。

これは、ブラウン・セクターの経済活動を減少することによる雇用の減少は、経済全体でみるとそれほど大きくはない可能性があるということを意味しています。

宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)
宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来 』(PHP新書)

もっとも、炭素集約型産業から脱炭素集約型産業への移行では、炭素集約型産業の雇用だけが影響を受けるわけではなく、そこにインプットを提供する様々なセクターの雇用も影響を受けるため、雇用消失の規模は大きくなる可能性は十分にあります。

脱炭素化が経済全体の雇用量にどのような影響を与えるかについては、まだ十分な研究蓄積がないというのが現状です。ただし、OECDなどの調査研究は、脱炭素化はネットで雇用にプラスの効果を与える可能性があるものの、決して大きくはないと指摘しています。

ですが、ここで重要なのは、脱炭素化が経済全体で雇用量を大きく増加させないといっても、その背後には多くの雇用創出と雇用消失があるということです。

その際に重要になるのが、雇用が失われるブラウン・セクターから雇用が創出されるグリーン・セクターに労働がスムーズに移動できるかどうかです。そこで、鍵となるのが、労働市場の流動性と労働者のスキルです。労働市場が流動的であれば、衰退産業か成長産業への労働の再分配が円滑に行われ、経済成長にもつながります。ただし、それだけでは十分ではありません。労働者も衰退産業から成長産業に移ることができるように、そのスキルを磨いておく必要があります。

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宮本 弘曉(みやもと・ひろあき)
東京都立大学 経済経営学部 教授
1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国ウィスコンシン大学マディソン校にて経済学博士号取得(Ph.D. in Economics)。国際大学学長特別補佐・教授、東京大学公共政策大学院特任准教授、国際通貨基金(IMF)エコノミストを経て現職。専門は労働経済学、マクロ経済学、日本経済論。日本経済、特に労働市場に関する意見はWall Street Journal、Bloomberg、日本経済新聞等の国内外のメディアでも紹介されている国際派エコノミスト。著書に『労働経済学』(新世社)、『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)がある。

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(東京都立大学 経済経営学部 教授 宮本 弘曉)

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