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通勤電車は表情を失った人たちであふれ…個性を殺して働き続けた50代を待ち受ける絶望の正体

プレジデントオンライン / 2022年3月4日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/aluxum

幸せな人生を送るためには、なにが重要なのか。テレビ朝日・元アメリカ総局長の岡田豊さんは「アメリカから戻ったとき、日本の通勤風景に強い違和感を抱いた。日本人は会社や社会の価値観に縛られすぎている」という――。

※本稿は、岡田豊『自考』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■無言で人をかき分けて降車する「痛勤」に抱いた違和感

2017年夏。アメリカ勤務を終えて日本に帰国しました。思えば、アメリカ赴任が決まった時の戸惑いも杞憂に終わり、4年間を無事に過ごすことができました。そして、慣れ親しんだ日本で、また、平穏な暮らしが始まるんだと胸を弾ませていました。しかし、帰国直後から、言い知れぬ違和感に襲われたのです。

帰国した翌日、銀行や役所に行って諸手続きをし、その翌日から、東京の本社で仕事がスタートしました。最初の異変に気付いたのは朝。久々の通勤電車でした。満員の車両やホームでは誰も笑っていません。会話もありません。

駅で降りたいのに満員の車両の中ほどで身動きが取れず、降りられない人がいます。譲ろうとする人も少ない。降りる人も一言、「降りまーす」と言えばいいのに、無言で無理に人をかき分けて降りようと必死の形相です。

滑稽な風景でした。

満員電車という空間の中で、「個人」が埋もれそうになっている。なんだか、そんな光景に見えました。駅に着くと、我先にと降りる人、人、人。他人を押しのけていく人もいます。私がまだ慣れていないせいもあったのでしょうが、ホームを歩いていると、後ろから来た人に、かかとを踏まれました。後ろから走ってくる別の人には背中を押されました。

■アメリカ人は笑うために生きている

アメリカ赴任前、この“痛勤”風景には慣れていたはずでしたが、強い違和感を覚えました。他人に譲り合おうとするアメリカ社会になじんでしまった反動だったかもしれません。笑っている人が明らかに少ないと感じました。アメリカ人は本当によく笑っていましたから。

銃の所持が認められているアメリカでは、笑うことで敵に警戒心を与えないよう自己防衛している要素があるとも言われます。しかし、それだけではないような気がします。アメリカ人は本当に人々とよく語らい、本当によく笑います。「笑うために生きている」。そんな印象でした。アメリカではそんな明るい人たちに囲まれて生活していました。

■個性を排除し出る杭を打つ日本

日本には、誇るべき素晴らしい伝統や慣習、ルールなどがたくさんあります。先人たちは、各時代で一生懸命に頑張ってきました。

しかし、時代は変わりゆくものです。先人が決めた“常識”や過去の成功体験、慣習、伝統、仕組みの中に、私たちが自分らしくあろうとすることを阻み、自立を阻み、可能性を奪うものがたくさんあります。

同質性を求め、出る杭を打つ。組織の論理を優先し、個性を軽視する。伝統を重視し、新たな創造を歓迎しない。こんな空気が強いから、未来の展望がいまだに見えてこないのではないでしょうか。自分とは違う人を受け入れること。それが苦手だから、日本人は「国際化」を理解しにくいのではないでしょうか。

異なる鉛筆
写真=iStock.com/Blue Planet Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Blue Planet Studio

人と違うやり方で挑戦をする人に拍手を送ること。無意味な忖度をやめ、組織の支配から抜け出すこと。自分と異なる人をそのまま受け入れること。過去のやり方は参考にしつつも、流されないこと。既存のルールに埋もれず、縛られないこと。私たちが自らの頭で本気で考え抜けば、未来を切り拓く本物の知恵を生み出すことができます。

何よりも、そんな社会なら、笑顔が増え、みんなが楽しく暮らすことができるはずです。

■他人の評価を捨て、自分を肯定する価値観を持つ

日本人が自分本来の人生を取り戻し、未来を勝ち取り、日本が世界で埋没しないために、今、「自考(じこう)」が必要なのです。

自考は難しいことではありません。

まずは、あなたを苦しめている他人の評価や基準をすべて、遠慮なく断ち切ってゼロベースにしてください。無責任な学校や未熟な教員が押し付けてくる価値観などは、躊躇なくスルーして構いません。自分の居場所がその学校にないのなら、他に探せばいい。会社や上司が決めた評価だけで、一喜一憂するのはバカげています。自分の評価や価値は自分で決めるものです。

あなたを苦しめるモノを断ち切ったら、次に、自分を守るためにどうすればいいか、自分の頭で考えます。自考です。法律やルールに違反する行為や、他人に迷惑をかけることでなければ、何でもOKです。

この際、斬新な価値観、基準を創って、とにかく自分を守ります。自己中心的な発想でも構いません。恥ずかしいことではありません。自分は何をやっている時が楽しいかを思い出し、自分で自分を肯定して、自分の居場所を新たに創ります。自分を守ることができれば、他の人も守ることができます。

確固たる意見を持っていると自負している人も、実はそれは自分の考えではなく、他人の受け売りだったり、いつの間にか誰かに影響を受け、すり込まれているものかもしれません。他人がつくったルールや価値観、しがらみなどに、どれほど染まっているのか、自分ではなかなか気付かないものです。他者が流す情報をしっかりフォローしているつもりでも、実は毎日浴びせられる情報を鵜呑みにして思考せず、自分が埋もれているのかもしれません。

■“個の尊重”を理念に掲げるリクルート

例えば、創業60年のリクルートは、独特の企業文化を掲げ、成長を続けてきました。1970年代から「個の自立(自律)」を組織文化に掲げ、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という社訓を浸透させてきました。

社員は経営トップに依存せず、自ら考えて社内で数多くの新規事業を立ち上げてきました。会社は、社員が退社して起業するケースを歓迎し、同時に、その起業をビジネス拡大につなげ、社員と会社がウィンウィンになる文化を大事にしてきました。

リクルートホールディングスの峰岸真澄社長(当時)は次のように言いました。「企業理念のひとつに“個の尊重”というものがあります。個を挙げる企業は珍しいと思いますが、これは個人への期待であり、個人の志や欲望をつぶさずに伸ばしたり広げたりした方が成長するからです。例えば、当社の企業文化を表す風景として、新入社員が『先輩、これどうしたらいいでしょう』と尋ねると、『どうしたらいいと思う?』と聞き返される。(中略)まず、自分で考えざるをえないのです」。社員が自考しています。

企業の多くが社の方針の軸を会社側に置いています。しかし、リクルートは社員が自分の成功のために自考し、結果的にそれを会社の成功につなげるという手法を取り入れてきたといいます。社員全員が自考できる文化を持ったユニークな会社だと思います。

■出世競争や定年に直面する50代は愚痴が多い

「批判や愚痴が一番多いのは50代の男性だ」。某会社で苦情などを受け付ける担当の知人はこう言います。50代といえば、会社社会だと、昇進、出世、出向、役職定年、準定年、リストラに直面する年齢です。会社人生の形式上の“成否”が見えてくる年齢です。ストレス、悩みは想像に難くありません。

愚痴もこぼしたくなるでしょうし、知識も肥えていて何かと批判したくなる気分も理解できます。正論を貫いて、まっとうに仕事をしてきたのに、理不尽な組織の論理で思うような会社人生を送れなかったとしたら、落ち込む人もいるでしょう。

でも、思い詰めることなどありません。「社長は、自分より有能な人材を後継者に選ばない」。よく言われる言葉です。自分より優秀な人材を後継に選べば、自分の存在が排除され、自分の影響力が行使できなくなるから、イエスマンを選ぶという理屈です。組織人事の一面を表しています。組織とはそんな程度だと割り切ってもいいのかもしれません。「自分の人生が否定された」「自分の能力が足りなかった」などと思い詰めるのはナンセンスかもしれません。会社の価値観に一方的に支配されるのは実にバカバカしい。

■これまでの仕事人生は「準備期間」

50代は60歳という大きな節目を前に、心は揺れやすいだろうと思います。50代の自殺者が多いのは、50代の人生の悲哀と無関係ではないと思います。

だからこそ、50代での切り替えは大事だと思います。本当にやりたかった仕事は何か。子どものころになりたかった職業を思い浮かべる。学生時代にあきらめていた夢を思い出す。健康であれば、50代から始められることは結構あるはずです。成功と失敗。経験も豊富です。

それまでの仕事人生は、ある意味、「準備期間」「修業期間」だと思い直したらどうでしょうか。それまでの経験をベースに、より充実した仕事にトライするという発想転換です。NGO、NPOの活動もいいと思います。過去の発想、過去の環境をいったん洗い流し、自考してみる。50代のモチベーション喪失は、あまりにももったいない。50代が元気にならないと社会の大きな損失になってしまいます。

■「大事なのは成功よりも成長」

私の友人は銀行で“出世”できませんでした。退職したら、貯蓄を投じて「子ども食堂」を立ち上げる計画を立てています。彼は数年前、がんの手術をしてから、こう言うようになりました。「自分が生きた証しとして、人の役に立つ仕事をしたいという思いが強くなった」。その夢が「子ども食堂」です。

岡田豊『自考』(プレジデント社)
岡田豊『自考』(プレジデント社)

ニューヨークで知り合った不動産業の70代の日系人男性は言います。「この年になっても、やりたい夢や新しい目標が次から次へと湧いてきます。50代なんてスタートするのにまったく遅くない。これからですよ」。

人生はこれからです。年金がもらえる年齢は遅くなることはあっても早まることはありません。健康なうちは働いた方が何かと得でもあります。50代は何かと身体にガタが来始めますが、健康でさえあれば、あと20年くらいは、しっかり働けます。20年もあれば、立派な会社を育て上げることだってできるかもしれません。「自分は成功した」と思った瞬間に、その人の成長は止まってしまいます。いろいろな経験をして、いつまでも人として成長し続けられれば、それは人生の充実につながるはずです。大事なのは「成功よりも成長」だと思います。

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岡田 豊(おかだ・ゆたか)
ジャーナリスト
1964年、群馬県生まれ。日本経済新聞、共同通信記者を経て2000年からテレビ朝日記者。元テレビ朝日アメリカ総局長。トランプ氏が勝利した2016年の米大統領選挙や激変するアメリカを取材。共著に『自立のスタイルブック「豊かさ創成記45人の物語」』(共同通信社)などがある。

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(ジャーナリスト 岡田 豊)

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