みんなスマホを持っているのに…10代女子がわざわざプリ機で集合写真を撮る納得の理由
プレジデントオンライン / 2022年3月2日 18時15分
※本稿は、稲垣涼子『カワイイエコノミー』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■女の子の「カワイイ」がブームをつくる
女の子の好き嫌いを知ることは、世の中を一変させるほどの力があります。
若い女性の需要が起爆剤になって「ブーム」になった商品やサービスは数限りなく存在します。たとえば、90年代でしたら卵型をした小型ゲーム機「たまごっち」。これは、渋谷で試作品を女の子に調査で見せて評判になったのがきっかけでした。最終的に国内だけで2000万台を販売しました。単純計算すると国民の約6人にひとりが持っていたことになります。
ここ数年では、タピオカブームです。タピオカミルクティーが「SNS映えする」と話題になり、一大ブームを巻き起こしました。2019年の台湾製タピオカは、1~8月の日本向け輸出額が前年同期の11倍に拡大し、日本は米国を超えて最大の輸出先になりました。「SNS映え」が貿易統計までをも変えてしまったわけです。
もしかすると、こう聞いても、ビジネスパーソンの多くはあまり自分事に感じないかもしれません。玩具や飲食にかかわらない仕事ならば、若い女性たちの好き嫌いは自分の仕事には関係ないと思っている人は少なくないからです。対岸の出来事に思ってもおかしくありません。十年に一度程度のブームは、マクロ的に見れば国内消費全体に及ぼす影響も小さいとの見方もあるでしょう。
しかし、ただ、私たちが手に触れたり、日常的に使っている製品も「かわいさ」を意識して、つくられはじめていることに気づいていますか?
■あらゆるビジネスで「かわいい」は重要
たとえば、古くからかわいさを追求しているのが自動車です。
女性をターゲットにした軽自動車はいまでは丸みを帯びた車体やインテリアなど女性の使用を想定した車種が大半です。スズキなど、メーカーによっては自社で市場調査やグループインタビューなどを手掛ける女性チームがあるのは当然になってきています。
無骨なイメージの事務用品の世界も変わってきています。お菓子のマカロンをモチーフにしたクリップや埴輪(はにわ)をイメージした指サックが大ヒットとなり、女性を中心に支持を集めています。
一昔前は「男性のもの」、「機能性や使い勝手がよければデザインは問わない」と思われていた商品ですら、「かわいさ」が顧客の心をつかむのには必要になってきていることがわかるでしょう。
そして、これからの事業戦略ではますます「かわいい」が重要になるはずです。日本国内の少子高齢化で、女の子と無縁だった企業も、今までの自社の市場だけでは先細りは必至だからです。女の子たちを理解できないと戦える市場は広げられません。
今、この記事を読んでいる人の中にも「新しい市場を開拓しろ」「若い女性市場向けに商品を考えろ」と社命をうけたものの、どこから手をつけていいかわからない人もいるかもしれません。これからビジネスをする上で、「女性」マーケットがわかっているということは、大変な強みになるはずです。
■女の子にはベースとなる「好き嫌いの法則」がある
私は2005年にフリュー株式会社に入社し、プリ機の商品企画開発を通して、女の子の願望やトレンドについて14年にわたり観察・研究してきました。そして、そこで得た知見を元に、現在は新規事業開発に挑戦しつつ、ガールズトレンド研究所の所長として、講演やセミナーでお話させていただいたり、ご依頼があれば企業様のご相談にのったりなどしています。一見、何の脈絡もなく「かわいい」を連発しているように見える女の子たちですが、そこにはブレない「好き」「嫌い」の法則がありました。
彼女たちは、自分らしさを追い求めてそれぞれが独自の判断基準を持っていそうに見えますが、ベースとなる好き嫌いの法則が存在します。その上で自分らしさを発揮しています。そして、その中から新しい法則が生まれ、広がっていきます。そう考えると同じように見えた女の子たちの姿もまた違った印象に見えてくるはずです。
■法則①「ひとりではないと感じられるものが好き」
まず、みなさんに知っておいてほしいのが、女の子の行動原理です。
女の子に限らず、人には行動する理由があります。私たちが長年女の子を観察して、調査して、会話を掘り下げる行為を続けた結果、女の子の行動理由は大きくふたつに集約されていることがわかりました。
「自分がひとりではないという安心感」
「他者から評価されることも含めた自己肯定感」
このふたつです。
このふたつは、まとめると「承認欲求」ですが、今の時代、何をするに際しても、女の子はこのふたつの欲求を根底に持ち合わせていると考えて間違いありません。女の子だけでなく、他の年代や性別の人もそうであるのを感じます。ひとつずつみていきましょう。
■プリ機が人気な理由は仲間との絆を深めるから
「自分がひとりではないという安心感」とはどういうことでしょうか。
たとえば、プリ機は基本的にふたり以上で撮影します。当社が実施した、プリを撮ろうと思った目的を調べたアンケート(複数回答可)でも「その日の思い出を残すため(記念)」が74%と圧倒的に多く、「友達と一緒に撮影・落書きなどを楽しむため(遊び)」が36%と続いています。「SNSなどに載せるため(盛れる)」の22%を上回っています。
つまり、機能よりも場としての価値を見いだしている子が多いことがわかります。
プリ機では、撮影空間に一緒に入ります。キャーキャーと盛り上がりながら撮影したり、落書きしたり、コミュニケーションをとりながらひとつのものを完成させます。
それを分け合って持ち帰る。この一連の流れに人とのつながりを非常に強く感じられるのです。
プリ機を一緒に撮ることは「仲間」の証明にもなります。
女の子はおそろいのモノを使ったり、コーディネートを合わせたりするのが好きです。自分がいる遊び仲間のグループにチーム名をつける人もいます。プリ機はそれを写真に撮り、落書きをし、シェアができるので、仲間の絆も深めながらまわりの人にも自分たちの仲を知ってもらうことができる最高のツールなのです。落書きでチーム名を書いたりする行為も、また仲間の絆を深めます。
■ヒット商品は「ひとりじゃない」と感じさせるもの
これはプリ機だけではなく、女の子にヒットしたサービスや商品に見られます。
たとえば、SNSも「ひとりじゃない」を確認するためのツールとしては最適です。女の子がなぜTikTokに動画を載せるかというと、反応を得たいからです。反応があれば「ひとりじゃない」と安心できますし、自己肯定感にもつながります。LINEもそうですね。もちろん、事務的な連絡に便利な面もあると思いますが、どうでもいいことすら気軽にやりとりできることで、仲間とつながっていられる安心感が生まれます。
■SNSが趣味やファッションの多様化を進めた
SNSは自分で発信するだけでなく、ただ見るだけでも「ひとりじゃない」を実感できます。たとえば、あなたがクラスではまったく人気がないアイドルが好きだとしましょう。「私の趣味っておかしいのかな」と思いながらも、SNSでそのアイドル名を検索すると、他にも好きな子をたくさん見つけることができます。「自分の趣味っておかしくなかったんだ」と孤独感から解き放たれるわけです。
これが一昔前でしたら、状況は違います。1990年代、安室奈美恵さんを代表とするギャルブームがありました。この頃、あなたがもしそのブームから外れたファッションで渋谷を歩いていたら「ちょっとダサい人」と囁かれたかもしれません。
ところが、今の時代はSNSの存在が趣味やファッションの多様化を後押ししています。まわりを見ても、多様化が進んだと思いませんか? アイドルが好き、アニメが好き、YouTuberが好き、キャラクターが好きなど、自分の好きなものを好きといい、服装も思うがままにしやすい世の中になりました。私は2005年から女の子を見続けていますが、その変化には驚くばかりです。
これは、女の子たちがひとりじゃない安心感を手に入れた結果ともいえますし、社会が多様性を肯定するようになったからともいえます。どちらが先かは鶏と卵の関係と同じですが、いずれにせよ「寂しさを感じさせない」特性がSNSの人気につながっているのは間違いありません。
■法則②「自己肯定感が高まるものが好き」
「他者から評価されることも含めた自己肯定感」とは、自分に自信があり、他者からも認められた状態です。
たとえば、見た目を例にわかりやすくいうと、自分がかわいいと思えていて、また他の人からもかわいいと言われることです。「自己肯定感」が上がることが大切なので、ほかの賞賛ももちろんいいのですが、かわいいの評価は重要です。
すでにお気づきの人もいるかもしれませんが、ここまで説明をした「自分がひとりではないという安心感」と「他者から評価されることも含めた自己肯定感」は密接な関係にあります。
たとえばプリ機では、仲のいい友達とプリを撮ったら、昔はシールを専用の手帳に貼って友達と見せ合いました。また、かわいく撮れた様子を振り返り、自己肯定感をそのたびに実感できたはずです。
今では撮った画像はSNSに載せます。かつては手帳にシールを一杯貼ってある子が友達の多い子として仲間内では賞賛されましたが、今、その賞賛はSNSの「いいね」に代わっています。記録として残り、かつそれをまわりの人にいいと言ってもらえるので、自己肯定感も得られるというわけです。
プリ機が20年以上にわたって女の子に支持され商品として生き残っているのも、女の子の二大行動原理である「自分がひとりではないという安心感」と「他者から評価されることも含めた自己肯定感」を兼ね揃えているからといっても言い過ぎではありません。
プリ機の例はひとつの参考になるはずです。
新商品や新サービスを考える際は、「遊びながら、ユーザーがつながっていることを意識できるか。みんながそれを見て、かわいいと言って賞賛をしてくれるものか。SNSにも上げやすかったりして、自己肯定感にもつながるか」というのをチェックしてみてください。女の子に受け入れられるかを判断するひとつの基準になるでしょう。
■自分のオリジナリティを出して発信する
「他者から評価されることも含めた自己肯定感」は、かわいいと自分が思え、また他人に言ってもらうことだと言いましたが、かわいい以外の賞賛も大事です。詳しくご説明します。
女の子が自己肯定感を求めるのは、いつの時代も変わりません。そのわかりやすい形が「デコる」です。「デコる」とは、あらゆるものをデコレーション(飾りつけ)して、かわいく変身させることを言います。
典型例が「デコ電」です。2000年頃にギャルの間で、ガラケーにラインストーンやさまざまなパーツで装飾し、大きなストラップをつけることが流行しました。爪をデコるのが流行り始めたのもこの頃です。シールを貼った手帳がデコブームの流れを受けて、シールだけでなく雑誌の切り抜きなどを使って、つくりこまれるようになりました。
そして今、多くの女の子がデコる対象としているのがSNSの投稿です。デコる対象が立体から平面、またオフラインからオンラインになりました。
たとえばInstagramが上手な人は、投稿ひとつにしても何かしらオリジナリティがあり、クリエイティブ性があります。最近のわかりやすい例では、彩度が低めで、少しはかなげな雰囲気の画像加工がトレンドです。
このように現在の「デコる」は、データ上の写真を「盛り」、「映え(ばえ)させる」に変わりました。このふたつは、自己肯定感を上げるのに欠かせない単語です。プリ機には、文字やイラストを描いたり、背景を変えたり、スタンプを押したりなど飾りつける落書き機能が搭載されています。
現在の流行では、プリ画像自体への落書きはシンプルにはなっています。代わりに、SNSに載せるときに自分のお気に入りの色味に調整したり、ハッシュタグをつけたりする子が増えています。しかし、「加工をしたい」というのは同じです。
時代ごとにテクノロジーの違いもあり手法は異なりますが、SNSや、その前にあったブログブームでも、女の子たちの根っこにある欲求は同じです。
つまり、自分らしいオリジナリティを出して発信し、それに対して反応を得ることで自己肯定感につなげているのです。
■法則③「日々を楽しんでいる人が好き」
もうひとつ、知っておいてほしいポイントがあります。女の子が自己肯定感を重視するのは自分に対してだけではありません。自己肯定している人に共感を持ちやすい特徴があります。
今の時代はタレントやモデルにもかつてほど人気が集中しません。
たとえば、完成されたきれいな状態だけを発信するモデルより、肌が弱いけれども、いろいろな努力や想いを発信するモデルに強く共感する女の子は多いです。努力をオープンにしながら自己肯定している人たちがファッションブランドを立ち上げたり、洗顔石けんを企業とコラボして売り出したりすると、そちらのほうが買いたくなるというのが人情ですよね。
見た目だけでなく、何を考えて、どう生きてきたか、背景も含めて女の子が他人を評価する時代になっています。SNSなどで芸能人が日常を発信できるようになったこともあり、「この人は日々を本当に楽しんでいるか」を女の子たちは見ています。
■いま女の子に好かれているのはこんな人
もっと具体的に説明します。「あさぎーにょ」さんは、今女の子たちに人気のYouTuberのひとりです。彼女は自分の表現の手段としてSNSを始め、そこで音楽を発信し始めます。YouTuberになりたいわけではなく、あくまでも表現の場としてYouTubeを選んだという背景を持っている、というのが重要です。そして、ファッションにも表現の場を広げていきます。
はじまりは、あさぎーにょさんが衣装としてつくったパジャマのタグに、音楽をダウンロードできるQRコードをつけて販売したことでした。これもビジネスを広げようとしているわけでも、企業から広告案件がきているから対応しているわけでもなく、自分の世界観を表現する手段を増やしていった結果としてです。こうした「常に新しいことに挑戦する姿」が女の子から人気を集めているわけです。
芸能人も以前とは違う形で支持されるケースもあります。
タレントの紗栄子さんは実業家の一面も持っています。アパレルや化粧品の商品開発などを手がけていますが、最近は牧場経営で注目を集めています。栃木県大田原市の牧場の所有者交代に合わせて、再建に協力したのがきっかけです。
もちろん牧場経営にはお金がかかります。芝の復旧や管理費などだけでなく、安全対策など想定外の費用も必要になります。
そこで、紗栄子さんはクラウドファンディング(CF)を企画して、2020年秋にCFサイトで、目標額を1500万円で受け付けたところ、瞬く間に目標額以上が集まりました。紗栄子さんの「馬の命や従業員の雇用を守りたい」という新たな挑戦に共感した人が想像以上に多かったのです。
彼女はYouTubeの公式チャンネルでも、牧場スタッフとの生活や馬たちの様子を紹介しています。馬にとまったアブを素手で退治する意外な特技も披露しています。
こういった発信で、「紗栄子さんが現在何を考えているのか」が伝わって、女の子たちの人気を呼んでいます。
■前向きに日々を楽しもう
これはインフルエンサーや芸能人だけの傾向ではありません。
女の子が「有名店で流行のスイーツを食べました」とInstagramにただあげるよりも、「流行のスイーツ、家でつくってみた」と載せるほうがオリジナリティがありますし、反響がもらえたりします。単純にかわいい写真をアップするだけでなく、「日常を楽しんでいるな」「新しいことにトライしててすごいな」と思えるような人に憧れが生まれます。特に、InstagramのストーリーやTikTokなど動画系のSNSが今以上に浸透していくと、背景を物語的に見せる機会も増えていきます。写真できれいに切り取った一瞬「だけ」よりも、どうしてここに至ったか、何を思ってこれをしているのかという文脈が重視される時代によりなっていくでしょう。
女の子をターゲットにするときには、「仲間感」「自己肯定感」「日々を本当に楽しんでいる人が好き」というこの3つを覚えておいてください。
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ガールズトレンド研究所 所長
2005年に新卒でフリュー株式会社に入社し、プランナーとしてプリントシール機のヒット商品を多数企画。色味をメインに世界観を統一した「姫と小悪魔」(2006)、“プリといえばデカ目”の先駆けとなる「美人-プレミアム-」(2007)、思い出とともに全身のオシャレを残す「Lumi」(2009)など、のちに定番となる機能を提案し、新しい文化をつくる。その後、企画部長となり、のべ約14年にわたり商品企画に携わる。自称「プリの生き字引」で、取材の中でユーザーから「神」と表現されたことも。2012年には「ガールズトレンド研究所」を立ち上げ、女子高生・女子大生について調査・研究しながら、他社コラボや新規ビジネスのトライアル、共同研究、フリーマガジン・ニュースレター・講演・セミナー等での発信など、さまざまな活動を行う。2019年より、新規事業開発部にてマネジメントに従事。
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(ガールズトレンド研究所 所長 稲垣 涼子)
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