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「殺人犯でも社長になれる」アメリカ人が繰り返す"リスペクト"の意味を日本人は誤解している

プレジデントオンライン / 2022年3月5日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dronandy

昨今のアメリカからはビジネス、芸術などあらゆる分野で「世界有数の人物」が輩出されている。テレビ朝日・元アメリカ総局長の岡田豊さんは「アメリカでは幼少期からリスペクトの重要性を教育される。格差も生むが、日本と違って出る杭を育てる土壌がある」という――。

※本稿は、岡田豊『自考』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「人の数だけ価値観がある」を大切にするアメリカ

アメリカが日本より優れていると言うつもりはありません。アメリカやアメリカ人のダメな部分、負の部分もたくさんあります。

日米のどっちが秀でていて、どっちが劣っていると単純に比べることは合理的ではありません。他国には、私たち日本が参考にしたい材料があります。なかなか気付かないことです。

アメリカ人はよく笑います。街中でも、道ですれ違う人も、電車の中でも、会話を楽しんでいます。どこか、余裕があるように見えました。「アメリカ人は10人いれば、10通りのスタンダード(基準)がある」。アメリカに住む知人はこう言います。個人主義が徹底しているというアメリカでは、すべての個人に存在を認めようという空気が強いのだと言います。

だから、空気が軽いのでしょうか。多くの人が楽しんでいるように見えるのでしょうか。アメリカ人は自分をとても大切にしているように見えました。

自分を大切にしたいから、他人の個も大切にしようとするのでしょう。だから、あいさつをし、会話をし、笑顔でいられるのでしょう。それらは、自分を主張し、相手を受け入れるための技術、テクニックなのかもしれません。

人を評価する尺度やモノサシ、価値観などは、本来、人の数だけあっていいと思います。100人いるのに、3つの尺度しかなかったら、この3つの中に100人を無理やり押し込めなければいけない社会は息苦しいです。

■平均に押し込む日本からは「天才」は生まれにくい

日本からニューヨークに移り、アーティストとして10年以上活動する知人のKさんは「日本社会は人を平均値に押し込めようとするから天才が生まれにくい」と言います。アメリカ社会は激しい競争社会なので、「最高」と「最低」が生み出されやすく、結果的に「平均層」が日本ほど多くないとKさんは指摘します

世界有数のITやSNSなどの会社。世界有数の音楽、芸術、映画。アメリカ社会は「世界有数」を数多く輩出しています。一方で、強烈な格差を生み、ホームレスや薬物依存者の増加といった問題も深刻化しています。個人主義のアメリカの方が必ずしも良い社会だとは思いません。アメリカの方が日本より居心地が良いと必ずしも思いません。ただ、日本は、アメリカと比べると、個人の存在が軽視されています。

■アメリカの小学校で毎朝行われる「自慢話」の披露

アメリカの東海岸に浮かぶナンタケット島。八代江津子さんは、この島の伝統工芸品ナンタケットバスケットの職人です。

八代さんは30年近く前、アメリカのボストンに移住してきた時のことをよく覚えています。息子さんが通うことを決めたプライマリー・スクール(日本の小学校に相当)の教師から、入学に際し、「子どもにはリスペクトすることを教えておいてください」と言われました。

敬意
写真=iStock.com/Devonyu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Devonyu

「人を敬う」という意味のリスペクト。「年上を敬いなさい」という意味かと思いつつ、どういうことか聞き返しました。すると、教師は「髪の色が違う。背が低い、高い。太っている。小さい。みな、それぞれ違います。それをリスペクトしてほしい」と言われたそうです。

息子の教室では、びっくりすることがありました。毎朝、「SHOW&TELL」という時間があって、子ども数人がそれぞれ自分の「自慢話」をクラスメートの前で話すのです。「きのうお父さんが10ドルくれたよ」「ゲーム機を買ってもらったんだ」。そのゲーム機を教室に持ってきて見せる子もいます。

「そんなことって、日本ではなかなかできません。抑え付けられちゃう。でもアメリカの学校はそうやって、うわー、いいなあ、うらやましいなーと、称賛し合うんです。そこが基本的に違うなと」。自分が自慢したいことを知ってもらい、分かってもらい、受け止めてもらい、褒めてもらえる。

■自慢から共有、共有から尊敬が生まれる

聞く側の子どもたちは、「まあ素敵」「なるほど、そんなこともあるんだ」と感じながら、相手の個性を受け入れ、尊重するようになるのではないかと八代さんは言います。その自慢をなぜ伝えたいのか。子どもたちは自慢の背景は何かを考えるのではないか。

他人の自慢をいちいち妬んでいては身が持たないので、受け入れるしかないというふうに変わっていくのかもしれません。「日本人から見たら、ただの自慢ですが、よく見てみると、それを共有に結び付けている。共有から尊重が生まれると感じました」。八代さんはこう言います。

一方で八代さんは、アメリカで一時推奨された「褒め育て」の弊害を指摘します。「あなたが最高よ」と子どもを褒めて育てるアメリカの教育の副作用です。「自分が最高」と信じている本人は幸福を感じるのですが、「自信過剰になり、他者を受け入れる必要がないという極端なところまで行ってしまう人も多い」と言います。この意識が人種差別の背景の一因になっているのではないかと八代さんは感じています。

■出る杭は打たずに育てる

八代さんは、日系起業家らでつくるボストン日本商業会(JBBB)の代表として活躍しています。まだ英語がうまく話せなかったころ、貴重な経験をしました。

スキーが得意な八代さんがスキーのインストラクターのテストに合格し、スキースクールの初日を迎えた時のことです。3カ月間受け持つことになった子どもの親から「同じお金を払っているのに英語が苦手なインストラクターからレッスンを受けるのはアンフェアだ」とクレームをつけられました。

その時、八代さんの上司にあたるスクールの校長はこう言いました。「英語は問題じゃない。スキーの技術、教える技術に問題があるなら来週また来てくれ。文句があるなら担当を代えます」。校長は八代さんが後ろにいるのを知らずに、クレームをつけた親にこう話したそうです。つまり、八代さんを気遣って言ったわけではなく、クレームに臆せず、問題は英語ではなくて、スキーインストラクターとしての技術だと、自分の考えを主張したのです。

八代さんはクレームをつけた親の子どもを3カ月間、受け持ちました。スクール最終日、親に子どものスキルを見せ、修了証を渡しました。八代さんは親から「後で話がある」と言われます。嫌な予感がしたのですが、逆でした。「うちの会社に来て一緒に仕事をしないか」。会社で新設する日本輸出部門のマネージャーにならないかという誘いでした。当初、クレームをつけた親は「言葉の壁を破って仕事をやり抜いた心意気が気に入った」と言ってくれました。

八代さんは誘いを受け、その会社で7年間、仕事をしました。

どこでどんな縁があるのか、分かりません。「アメリカには頑張った人を引き上げる優しさがあります。出る杭は打て、ではなくて、出る杭は立派に育てよう、という気持ちがあると感じます」。八代さんはこう言います。

■「五十肩」「老眼鏡」と言わない価値観

ニューヨークで診療所に行った時のことです。肩がバリバリに張って腕が上がらなくなりました。「五十肩かもしれません。診てください」。すると医師は「あー、フローズン・ショルダー(Frozen shoulder)ですね」と。

「フローズン・ショルダーって何ですか」と聞く私に、「四十肩、五十肩のことですよ。アメリカでは、forty shoulderとか、fifty shoulderとは言いません。年齢差別につながるからですかね」と医師。フローズン・ショルダー。肩が凍ってしまったように痛いという、その症状だけを表現した言葉です。日本の四十肩、五十肩は、その年齢で症状が出るという、年齢に重点を置いた言葉です。フローズン・ショルダー。何となく、センスが良いなと思いました。似たような言葉が他にもあります。

ニューヨークで英会話のレッスンを受けていた時でした。「老眼鏡が必要になってきた」と英語で言いたかったのですが、老眼鏡の単語が出てきませんでした。すかさず講師が「Reading glasses」と教えてくれました。リーディング・グラスィズ。「読むための眼鏡」。日本語の「老眼鏡」と比べると、やはり、機能を重視した言葉です。「老」という人間の年齢の特徴を表現することを避けた言葉なのでしょうか。

ビジネスマンおよび本
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

日本語で「老いる」という言葉には、素晴らしい意味合いが込められていますが、ネガティブなイメージを感じる人もいます。リーディング・グラスィズという表現は、余計な印象を排除するがごとく、実にシンプルで、オシャレな言い方だなと感じました。

■カリフォルニアの刑務所では殺人犯でも社長を目指せる

2014年3月、米・カリフォルニア州。サンフランシスコから北に約30キロのところにあるサン・クエンティン州立刑務所を取材で訪れました。受刑者は約3900人。死刑囚も収容されている州最古の刑務所です。

「ハロー!」「エンジョイ(楽しんで行けよ)!」。刑務所に着いたのは昼休みの時間。バスケットボールやテニスなどをしていた受刑者が寄ってきて、私とカメラマンに声をかけます。カメラを回し始めても顔を隠さず、明るい表情で堂々と近寄ってくる受刑者もいます。

刑務所だというのに、その明るい雰囲気にびっくりしました。刑務所なのに明るい。その光景は、私がアメリカで過ごした4年間で最も強いインパクトでした。取材の目的は、刑務所内に設けられた「経営者を育成する講習プログラム」です。

所内の試験をクリアした少数の受刑者に、IT経営者による講演や講習を定期的に実施する試みです。受刑者が刑期を終え、刑務所を出た後、経営者を目指してもらおうという異例の構想です。ある投資家がこの刑務所に講演に来た時、一部の受刑者が熱心に学ぼうとする姿を目の当たりにしたのがきっかけでした。

「大きな間違いを犯し、人の命を奪ってしまった。それを償いたい。そして、いつか会社の社長になりたい」。こう語る受講生の白人受刑者は殺人罪で服役中。アプリ開発の会社を創る夢を抱いていました。講師の話を真剣に聞いている彼の姿が印象的でした。

■強盗犯でもやり直しを受け入れる社会

この受刑者は顔を撮影してそのまま放送することや、実名を報じることは構わないと言います。なぜ、犯罪歴を隠そうとしないのか。アメリカでは、過去の犯罪歴をネット上で有料で比較的簡単に調べられる仕組みがあるといいます。過去を知られてしまうなら、開き直って前に進むしかないと考えているのかもしれません。

強盗などの罪で服役したレオルさんはこの講習プログラムを修了してから出所し、ネット関連企業に就職しました。レオルさんは「いつか大きな会社のCEOになりたい」と言います。

彼を採用したネット関連企業の社長は、レオルさんについてこう言います。「過去の過ちを繰り返さないという気持ちと、絶対に成功したいという思いが強い。とても謙虚で、すごい速さで物事を吸収する。素晴らしい人材です」。2日間にわたって密着取材したレオルさんは、礼儀正しく、一生懸命な姿を見せてくれました。

一度罪を犯した人間でも、罪を償った後は、大きな目標や夢を持ってもいい。そんな発想がアメリカにはあるのだと思います。やり直そうと頑張る人を認め、受け入れる社会。こうしたやり方は、再犯の防止につながるだけでなく、広い意味で、社会が人材を育成し、社会が人材を有効活用しようとする強い意志の表れです。アメリカという国のたくましさを象徴しています。

■必死で小舟をこぐアメリカ人、大船に相乗りする日本人

「アメリカ人はみんな自分の小さな船に乗り、ひとりで必死にこいでいます。沈むリスクはありますが、個々の船の存在は尊重されています。厳しいが、楽しくもある」。生活の拠点を日本からニューヨークに移して10年以上たつ知人の翻訳家は、こう語ります。「日本人はひとつの大きな船に押し込められています。その大きな船に乗ってさえいれば目的地に連れていってくれますが、突出した個性は許されません」。

この指摘はアメリカと日本の違いの本質を突いているかもしれません。アメリカ社会は個人を尊重するから、自分の居場所を見いだせるチャンスは多い。しかし、「競争が激しい社会なので、自分のアイデンティティーをしっかり見いだして、個を確立しないと、うまく生きていけないのではないか」と知人は言います。

アメリカでは、個性や存在が認められても、それだけでは決して幸せなわけではなく、懸命に自分の頭で考え、行動して成果を出さないと埋没してしまうという指摘です。「日本人は、自分で考えなくても何とかなるようにできている」。知人はこう言います。代わりに、尺度や価値観の数は少ない。そうしないと、ひとつしかない船は収拾がつかなくなるのではないかと。一人ひとりが自分で考え、価値観や尺度が増えたりすると、都合が悪くなるのではないかと指摘します。

■暗黙のルールに縛られる日本

個性を奪われてもリスクが小さい大きな船に乗るのか。リスクは大きくても自分の頭で考えられる自分の船をこぐのか。私たちは、どちらを選べばいいのでしょうか。

岡田豊『自考』(プレジデント社)
岡田豊『自考』(プレジデント社)

また、日米安全保障条約などによって、アメリカに国防を依存するという構造を受け入れた結果、平和がいかに尊いことか、平和を維持することがいかに困難を伴うことか、考える感度が鈍ってしまったのかもしれません。「忖度」を直訳できる英語はなかなかありません。

「日本は暗黙のルールが多いから息苦しい」と知人の中国人は言います。暗黙のルールの典型は「空気を読まないといけないこと」だそうです。そう言えば、空気を読まない人を「KY(ケーワイ)」と呼んで揶揄することがあります。「空気を読む」を直訳できる中国語はないそうです。日本では「横並び意識」が重視されがちです。同質性が高い社会と言われます。

いつから日本人は自分で考えなくなったのか。「戦争に負けた後、多少裕福になったころではないでしょうか」。翻訳家の知人はこう指摘します。敗戦後、日本人は、がむしゃらに働いて、高度経済成長を成し遂げ、「奇跡」ともてはやされました。その成功体験が邪魔をして、日本人は自分の頭で考えなくなったのかもしれません。

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岡田 豊(おかだ・ゆたか)
ジャーナリスト
1964年、群馬県生まれ。日本経済新聞、共同通信記者を経て2000年からテレビ朝日記者。元テレビ朝日アメリカ総局長。トランプ氏が勝利した2016年の米大統領選挙や激変するアメリカを取材。共著に『自立のスタイルブック「豊かさ創成記45人の物語」』(共同通信社)などがある。

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(ジャーナリスト 岡田 豊)

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