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「女子高生向けでも制服は使わない」若者に本当に支持されるサービスを作る絶対法則

プレジデントオンライン / 2022年3月3日 15時15分

画像提供=フリュー株式会社

「カワイイ」と支持される商品をつくるには、どこに気をつければいいのか。女子高生・女子大生の流行に詳しい稲垣涼子さんは「決めたコンセプトの中で、『対象ユーザーはなるべく広く』と考えることが重要になる」という――。

※本稿は、稲垣涼子『カワイイエコノミー』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■女性は「自分がターゲットじゃない」に敏感

前回の記事で女の子の好きなものが把握できたら、もうひとつ大前提で覚えておくといいことがあります。ヒットを生みたいなら、「みんなに嫌われない」を大切にしましょう。

「プリ機はギャルをターゲットにした商品ですよね」。大人には、そうしたイメージを持っている人は少なくありません。プリ機がギャルの代名詞だった時代も確かにありました。ただそうした時代でも、ギャルだけを意識して商品を開発するのは危険です。

当たり前ですが、ターゲットを絞るとパイが狭くなります。一部の人にだけ深く刺さる商品だともったいないです。狙ったターゲットに刺さりながらも幅広い層に受け入れられる商品を目指すべきです。ですのでペルソナなどと呼ばれる、「お客さんを深く想定する」こともあまりおすすめはしません。

女性は「この商品は私に向けてつくられていない」に敏感です。特定層に刺さりすぎない商品づくりが、女の子市場で生き残る勝因のひとつなのは間違いありません。

■ターゲットは「広く、広く」が第一

もちろん、「誰にでも好かれたい人は、結局誰にも好かれない」という状態に陥ってしまっては事業として成り立ちません。プリ機に限らず、商品やサービスにはしっかりしたコンセプトが必要です。コンセプトがはっきりすれば、ユーザーもはっきりします。メインとなるターゲットは明確にしながらも、対象となるユーザーは広く、広く、を心掛けることが大切です。

意外に多くの企業が陥りがちなのは、コンセプトが狭すぎて、お客さんの層も狭くなってしまい、ビジネスとして成り立たないという状態です。あまりにもターゲットを絞りすぎた機能を搭載した商品やサービスを提供するのは危険です。

■特化しすぎて失敗した3Dテレビ

2000年代に突如登場して今や誰も話題にしなくなった「3Dテレビ」は代表例のひとつでしょう。眼鏡をかけると映像が立体的に見えるテレビです。これは、液晶テレビで大きさの違いしか生み出せず、いかに高画質化するかというこれまでの路線の延長にすがりつくしかなかった電機業界の苦境が背景にありました。価格競争にさらされたくないため、少しでもこれまでと違った製品を出したいと各社こぞって投入しました。

3Dテレビはコンセプトは明確でした。「立体感」です。ただ、当時は3D技術が未熟だった上、3Dテレビは立体感を擬似的に見せるだけで人間が通常の状態で目に見える立体感とは異なります。何よりも眼鏡をかけるのが面倒くさい人が大半でした。

サッカーゴールが3Dに映るテレビ
写真=iStock.com/adventtr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/adventtr

居間で何人もの人が一緒に眼鏡をかけてテレビを見る姿は想像できません。コンセプトが明確でも、ターゲットは「新しい物好き」しかおらず少数でした。

コンセプトはあえて尖らせすぎないように細心の注意を払いましょう。たとえば、プリ機の開発では1年間に約9商品を新しくリリースしますが、その中にはギャルをターゲットにした商品もあれば韓国好きの女の子に訴求したい商品もあります。同時にターゲット以外の女の子たちに「これはギャルの子たちが撮るもの」「韓国、別に興味ないし」と思われないようにも腐心します。ひとつの商品を開発するのに約1年かけますが、初期にコンセプトを定めたあとは「自分がターゲットじゃない感」を抱かせないよう調整を繰り返す過程ともいえるかもしれません。

■女子高校生向けであっても制服は使わない

「ターゲットを広くとる」という考え方の例として、わかりやすいものがあります。たとえば「制服は使わない」です。

フリューでは、フリーマガジンをつくっていた時期がありました。このフリーマガジンは、女子高生や大学生だけでなく、20~30代の女性に読んでほしいと思っていました。

フリュー発行のフリーマガジン『TREND』
フリュー発行のフリーマガジン『TREND』。現在は休刊中(画像提供=フリュー株式会社)

このときに意識をしたのが、制服ネタを避けることです。制服ネタを扱わないことはもちろん、雑誌の中の写真にも制服の女の子が極力出てこないように意識しました。

このフリーマガジンは、女子高生も当然読むものでしたが、20、30代を視野に入れていたので、制服ネタをやったとたんに学生以外の層が「自分はターゲットではない」と判断してしまうからです。

若い女の子向きだから、制服のページが少しくらいあってもいいだろう、と思うかもしれません。しかし、「自分に関係のないもの」の存在に女の子たちはとても敏感です。このような少しずつの気づかいで、「嫌われない」商品になっていきます。

■20代半ばにうけるデザインで40代までリーチできる

お客さんを広くとるために、もうひとつお伝えしたいことがあります。デザインの話ですが、20代半ばにうけるデザインにすると30~40代くらいまで違和感なく取り込むことができます。

30~40代の人が20代の半ば向けデザイン、メイク、ファッションを「幼すぎる」と感じることはほとんどありません。ちなみに、10代後半の女の子も、20代半ばのデザインは憧れていることもあり、問題なく好きです。20代半ばを意識したデザインの汎用性はとても高いので、ここにデザインのアンテナを立てておくことはとてもいいです。

一方で20代の女の子は10代の女の子に向けたデザインやメイク、ファッションだと「幼すぎる」と感じますので、気をつけてください。

■モデルの起用理由も「好かれる」より「嫌われない」

プリ機を企画する際、私たちは極論をいえば、女子高生~22歳の女性のほぼ全員をターゲットユーザーとして想定しています。女性というマーケットを狙いたいなら、ざっくりと年齢を広めに決めて、「そのあたりの人を全部とる」と考えるのがいちばんいいでしょう。

女子高生~22歳の女性と考えると、年齢ごとの人口が約52~61万人で、全体では約400万人の市場になります(※)

その一大市場を常に意識して、プリ機にそこまで興味がない子にも撮ってみたいと思ってもらえるような提案を探し続けているのが私たちの事業活動ともいえます。プリ機は、ニッチな市場に見えて、想定している対象は決してニッチではありません。

たとえば、プリ機の外装のモデルさんやポーズ見本の画像のモデルさんに誰を起用するかも「めちゃくちゃ好かれる」よりは「嫌われない」を重視しています。

※人口推計(2019年10月1日・総務省)、2021年10月1日は推計

■人気モデルにはアンチも多い

しかし、私たちは超人気のモデルはあまり積極的には起用しません。「人気モデルはギャラが高い」という予算の問題ももちろんありますが、人気があり過ぎるモデルはときにアンチも多く、また本人のイメージも強いからです。

「そのモデルのことが嫌い」というアンチとまではいかなくても、「あのモデルさんは私とは違う」と思っている層も必ずいます。

フォトセッション
写真=iStock.com/ElenaNichizhenova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ElenaNichizhenova

そうすると、そのモデルを起用することで一定層を最初から捨てることになってしまいます。まだ知名度は高くないけれど、「これから人気が出そうな人」を軸に検討するのを基本姿勢にするのがいいと思います。本人のイメージもまだ強くないため、表現したい雰囲気に合わせやすいというメリットもあります。

また、人自体を使わないのも方法のひとつです。人物を使わないほうが、逆にユーザーにとってもいい場合もあります。

■奇抜な服装やファッションは万人受けしない

以上のことを念頭においてモデルを起用するのが、失敗しない秘訣です。ただ、人気モデルが持つファンの数や影響力を考え、あえて起用するのであれば、もちろん方針としてはありです。

モデルの選定はプリ機の企画において非常に重要な検討項目です。奇抜な服装や髪型が似合う尖ったモデルさんは一部には刺さりますが、万人にはウケません。

それならば、比較的広い層に人気のあるモデルならばいいかというと、それにも難点があります。さきほども言ったように、モデルにはイメージがあり、人気があればあるほど、アンチも必ずいるからです。

私たちの例ですと、藤田ニコルさんをモデルに起用した機種がいくつかあります。藤田ニコルさんはそれこそファンの多い人気者じゃないか、という声が聞こえそうですが、実際そのとおり、テレビなどへの露出も多くなったタイミングでの起用でした。ニコルさんの明るく楽しいキャラクターをそのまま押し出してしまうと、「これは若い子向けの機種なんだな」と思い込ませてしまう可能性もありました。

■人気者を起用する時は「その人らしく」しない

もちろん、こういう場合は、ニコルさんを使わないという選択肢を考えるのもいいでしょう。

しかし、私たちは、知名度の高いニコルさんをモデルにし、なるべく多くの人に撮ってみたいと思われる方法を考えました。

その結果、中学生など低年齢層をターゲットにした機種ではニコルさんのキャラクターの雰囲気をそのまま生かしました。一方、高校生や大学生向け機種にも登場してもらいましたが、こちらではニコルさんの雰囲気を私たちが伝えたい世界観に合わせてもらいました。世界観にはめこんだわけです。ニコルさんの通常のイメージからすると「らしくない」感じといえるかもしれません。

具体的には「SALON AIR2(サロンエアー2)」という、ふわっとした写りがコンセプトの機種に出てもらいました。いつもの雰囲気ではなく、かなり大人っぽい印象に仕上げました。

SALON AIR2
画像提供=フリュー株式会社
SALON AIR2 - 画像提供=フリュー株式会社

ファンは、どんな姿をしていても、必ず撮ってみよう! と思ってくれるのでそのプロモーション効果に期待しながらも、ファン以外の女の子から見ても魅力的な仕上がりに着地させました。モデルに疎い女の子たちには、いつもの雰囲気と異なっているため、パッと気づかれないこともあるぐらいでした。

■嫌われない感覚を身につければずっと使える

それと同じく、プリの撮影時に流れる音楽も同じスタンスでつくっています。流行の音楽をアレンジする場合も、オリジナルでつくるときもありますが、参考にするのは、できるだけ幅広い層に受けそうな曲です。

たとえば、2007年頃は、クラブミュージックやパーティーチューンのBGMがほとんどでした。これはそうした曲が多くの女の子に受け入れられる時代だったからです。今もこうした曲を好む女の子もいますが、多数ではありません。ですから、現在はこのような曲を使うことはほとんどありません。

稲垣涼子『カワイイエコノミー』(日経BP)
稲垣涼子『カワイイエコノミー』(日経BP)

最近は邦楽や、楽しくてテンションがあがる曲が人気なので、そうしたBGMが自然と多くなっています。たとえば、YOASOBIの楽曲をイメージしてもらえればわかりやすいかもしれません。そうした曲からヒントを得ています。反対に一部の女の子には熱狂的な人気があるけれども、層の広がりが少ない曲はあまり参考にしません。もちろん、モデルや音楽を使わない商品でも考え方は同じです。製品のデザインや広告をつくる場合でも、尖りすぎると顧客を選んでしまいます。

決めたコンセプトの中で、「対象ユーザーはなるべく広く」と考えることが商品開発では重要です。少しずつの気づかいが大切です。そういう意識があると、事業活動にも広がりが出てきます。

この「嫌われない」ポイントを身につければ、自分が何歳になっても、あるいは他の市場でも横展開できます。

以前100円ショップのDAISOを手がける大創産業と雑貨のコラボ開発を実施し、非常にご好評をいただきました。また、フリューのグループ会社から「Olu.」というライフスタイルECも2021年10月にリリースしたのですが、お客様の反応は上々です。一度コツをつかむとずっと使えるのが、この「嫌われない」感覚です。

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稲垣 涼子(いながき・りょうこ)
ガールズトレンド研究所 所長
2005年に新卒でフリュー株式会社に入社し、プランナーとしてプリントシール機のヒット商品を多数企画。色味をメインに世界観を統一した「姫と小悪魔」(2006)、“プリといえばデカ目”の先駆けとなる「美人-プレミアム-」(2007)、思い出とともに全身のオシャレを残す「Lumi」(2009)など、のちに定番となる機能を提案し、新しい文化をつくる。その後、企画部長となり、のべ約14年にわたり商品企画に携わる。自称「プリの生き字引」で、取材の中でユーザーから「神」と表現されたことも。2012年には「ガールズトレンド研究所」を立ち上げ、女子高生・女子大生について調査・研究しながら、他社コラボや新規ビジネスのトライアル、共同研究、フリーマガジン・ニュースレター・講演・セミナー等での発信など、さまざまな活動を行う。2019年より、新規事業開発部にてマネジメントに従事。

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(ガールズトレンド研究所 所長 稲垣 涼子)

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