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デスクまわりをモノトーンにしてはいけない…仕事の効率が上がる「色彩」の科学的な使い方

プレジデントオンライン / 2022年3月2日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VizArch

デスクまわりのインテリアはなにを意識したほうがいいのか。日本ユニバーサルカラー協会代表理事の南涼子さんは「真っ白な部屋では作業スピードが遅くなりミスが増える。集中力を高めるには赤色や黄色、想像力を高めるには青色を取り入れるといい」という――。

※本稿は、南涼子『一瞬で心が整う「色」の心理学』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■アイデアがほしい時、パソコンのモニターは青色

仕事の効率は勤務時間や待遇面だけでなく、働く場所の環境に大きく左右されます。仕事場の色は、普段は特に意識しなくても確実に仕事の成果に影響を与えています。では、仕事の意欲を湧かせて、業務のパフォーマンスを高める空間の色とはどんな色なのでしょうか。

実は一概にこの色が良いといえるものではなく、業務内容によって生産性を高める色と低下させる色がある、というのが正解です。

カナダのブリティッシュコロンビア大学では、色で作業効率にどのような違いが生じるのかを調べています。研究では600人を対象に6つの課題について、パソコンのモニターを赤にした場合と、青にした場合で明らかな作業効率があることを2009年に明らかにしています[1]。

赤は記憶力を必要とする作業や、細部への注意力が必要な作業の効率を高め、そのパフォーマンスは青に比べて31%も向上していたことが分かりました。

一方、ブレーンストーミングや新しいアイデアを生み出すような創造性が求められる場面では、青の環境下で約2倍の能力が高まることが判明しています。

■仕事が捗るのは「真っ白な職場」より「カラフルな職場」

赤が注意力を必要とする業務に向いている理由として、報告では赤は停止信号や救急車、危険を連想させ、人間に「間違いやリスクを回避したい」という気持ちを抱かせるためと説明しています。

精神を安定させる青は穏やかな空や海を連想させることから、安全や平和な気持ちを呼び起こし、人を肯定的な気分にさせ、新しいものを探求したいという気持ちが促進され、創造性が高まると推察されています。

つまり「赤」は、「校正作業など細部に目を向けてミスを防ぐ業務」に適しており、「青」は「新製品の開発」や「クリエイティブな作業」に取り入れると良いということです。

また、興味深いことに、この研究のなかで赤いパーツと青いパーツで子供のおもちゃをデザインさせた場合、赤いパーツで作られたおもちゃは実用的で、青いパーツで作られたおもちゃは独創的なものになることも報告されています。

いくつかの研究では色が豊かな職場は無彩色の職場よりも作業成績を向上させる傾向があると述べており、白の環境で作業をすると「仕事の速度」を遅らせ、多くの「エラー」を生じさせることを指摘しています。

■青と緑の組み合わせは憂うつな気分に

他にも情報を共有し、職場のチームワークを高めたいのであれば、黄色やオレンジ色がおすすめです。これらの色は心理的な距離感を近づけるので、コミュニケーションを活性化し、職場内の連帯感を高めてくれるはずです。ただし、フレンドリーになり過ぎて、規律がルーズになる可能性もあるので注意が必要です。

さらに、2007年のテキサス大学による調査報告によると、女性は淡い灰色やベージュのオフィスでは、気分が沈みがちになるため、能力が低下し、男性は紫とオレンジの空間で作業の効率が下がることが確認されています[2]。

青と緑は単体では良い効果を生み出しますが、この2色を組み合わせると抑うつ的な気分の度合いが上がり、活動レベルが下がることも報告されています。

特に落ち着いたトーンの青と緑の組み合わせは憂うつなイメージが強調されるので、注意が必要です。どちらも休息を促す色ではありますが、両方を取り入れると活気が奪われやすくなるのです。

新型コロナウイルスの影響でリモートワークになり、部屋で仕事をする時間が増えている人も多い昨今、出社するオフィスの環境だけでなく、自宅の作業スペースにも「色」の効果を取り入れて仕事に役立てて欲しいと思います。

■勉強部屋にあると学習能力が高まる意外な色

勉強に向く部屋といえば、一般的に「落ち着く色」、例えば淡い色や青などを思い浮かべる人が多いと思います。

装飾とコピー スペースとワークデスク
写真=iStock.com/Gladiathor
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Gladiathor

しかし、学習パフォーマンスを高めるのは意外な色であることが、西オーストラリア州のカーティン大学の研究調査で判明しています。

同大学が行った研究では、淡い黄色・青・赤、鮮やかな黄色・青・赤の計6色のパネルを用いて机の正面の壁に配置し、どの色が学生の学習能力を高めるのかを調べました。

学生に事前に行ったアンケートでは、鮮やかな黄色、赤は「気が散りそうだ」と敬遠され、淡い色が「快適で勉強への意欲が高まる」「落ち着いて勉強できそうだ」と評価されていましたが、実際に課題成績を見てみると読解力、理解力のスコアは明らかに淡い色よりも鮮やかな黄色、赤のほうが高かったのです[3]。

■小物ではなく大胆に取り入れると効果アリ

結果からすると鮮やかな暖色系の色のほうが脳の興奮レベルを高め、覚醒を促し、集中力をアップさせる効果がある、というのがその理由でした。一見、快適だと思われた淡い色は、くつろぎ感を生み出してしまうため、意欲を掻き立てられなかったのです。

他にも2014年に報告されたタイのマヒドール大学の研究によると、赤と黄色は覚醒、興奮、精神活動に関連する「ベータ波」を高め、脳活動を活性化させることが分かっています。これらの色は人間の脳や神経活動を刺激し、より活発にさせ、心拍数の増加をもたらします[4]。

研究では心拍数が学習能力に関与している可能性があると指摘しており、赤と黄色の部屋は、心と身体の機能を活気づけることも確認されています。

研究では暖色系は赤と黄色についてのみ調査が行われていますが、赤と黄色の混合色であるオレンジ色も学習能力を高めるはたらきがあるのは間違いないでしょう。さらに鮮やかで濃い色であれば、鎮静色の青であっても、赤や黄色に続く効果を得られることも分かりました。

さきほど、青は創造性を高めるとしたコロンビア大学の研究をご紹介しましたが、青の持つ静かで穏やかな心理的作用は、人間の行動を探索的にします。

実際に、色をどのように扱えばいいのかというと、筆記用具のような面積が小さいものはあまり効果がなく、デスク周りに赤や黄色、または青のパーテーションを置いたり、カーテンやブラインドにそれらの色を取り入れたりすることで効果が得られやすくなります。

■休憩時間は観葉植物を眺めたほうが良い

他にも「緑」が効率や成績を高める効果があることが分かっています。それは「休憩時間に緑を見ること」によってもたらされるはたらきです。

開いている作業スペース
写真=iStock.com/OKrasyuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/OKrasyuk

2015年に発表されたメルボルン大学の調査では、150人の学生を2つのグループに分け、パソコンの画面に出てくる特定の数字が点滅したときに特定のキーボードをタイプする、という少々退屈な作業を行ってもらい、作業の途中で40秒の休憩を入れ、一方のグループにはコンクリートの屋根の画像を、もう一方には緑あふれる屋根(屋上庭園)の画像を見てもらいました。

その後、同じ作業を開始してもらったところ、休憩時間にコンクリートの屋根の画像を見たグループは集中力が8%低下し、緑の屋根を見たグループは集中力が6%高まり、タイプミスが少なくなるという結果が出ました[5]。

この結果から、メルボルン大学のケイト・リー教授は、「緑の屋根は環境に良いだけではなく、働いている人の集中力回復にもポジティブな影響を与える」と結論づけています。緑は室内なら観葉植物でも同様の効果があるとされています。

■集中力を高める照明の色、阻害する色

さらに、光の色も学習のパフォーマンスに多大な影響を与えます。

照明は覚醒効果のある、昼間の太陽光に近い「青白い光」であることが重要です。夕暮れのようなオレンジ色の光はリラックス効果が高く、論理的思考が必要な場面や学習するシーンには不向きなのです。オレンジ色の白熱色の光は明らかに集中力を阻害し、学習意欲を低下させます。しかし、アイデアを考える場合、オレンジ色の光は非常に有効です。

集中力、読解力、覚醒には鮮やかな暖色系と青白い照明、創造力とアイデアが必要な場面には青とオレンジ色の照明、集中力の再生には緑、その時々に適した色を用いることが学習パフォーマンスや作業効率を高める上で有効なのです。

脳を活性化させ、仕事や勉強の効率を高めるのは青白い「昼光色」(左)。一方、オレンジ色の「電球色」(右)はリラックスを促し、創造性を高める(出所=南涼子『一瞬で心が整う「色」の心理学』)
脳を活性化させ、仕事や勉強の効率を高めるのは青白い「昼光色」(左)。一方、オレンジ色の「電球色」(右)はリラックスを促し、創造性を高める(出所=南涼子『一瞬で心が整う「色」の心理学』)

■早稲田塾は20年前から「青ペン勉強法」を提唱

大人になっても仕事で人の名前を覚える、資格試験に向けた勉強など、覚えなくてはならないことが日常のなかにはたくさんあります。色の力で効率よく記憶力を高められる方法はないのでしょうか。

色と脳は密接な関係があり、記憶力を司る海馬にも影響を及ぼします。記憶力と色は決して無関係ではありません。

そうした点に着目して、いち早く色を勉強に取り入れたのが早稲田塾です。

『頭がよくなる 青ペン書きなぐり勉強法』という本が話題になりましたが、早稲田塾はそれより20年ほど前からその方法を生徒に提唱していました。当時は「赤緑青<せきりょくせい>の力」として、「弱点の赤」「気付きの緑」「記憶の青」と、ペンの色ごとに定義付けをし、ノートを作る方法を推奨していました。

考案者の相川秀希さんは、効率よく「暗記モノ」を攻略できる「青ペン勉強法」は社会人の語学習得や資格勉強にも役立つ技が多いと述べています。

■「勉強モード」に切り替えるのにもってこいの色

学習に最も大切なのは集中力と持続力です。青はこの両方の力を高めてくれる効果があります。確かにこの色には気持ちを落ち着かせ、引き締めてくれるはたらきがあります。

南涼子『一瞬で心が整う「色」の心理学』(青春出版社)
南涼子『一瞬で心が整う「色」の心理学』(青春出版社)

青は気持ちを勉強モードに切り替えるのにもってこいの色なのです。

また、大切なポイントは「全て書くこと」。資格試験のために通っている講座があったら、その場で講師が発した冗談まで、試験には役に立ちそうもないことも、全て青ペンで書き取ることが重要だといいます。

そうすることで次にノートを開いたとき、眼前に講師の授業が迫りくるほどの「再現性」が生まれ、記憶として定着するのだそうです。もちろん全て書くのは難しいので、極力そうした気持ちでできる限り書けば良いということです。

勉強するときは書くだけではなく、テキストに蛍光ペンでマーキングを行うこともあります。その際にはどんな色が最も記憶を向上させるのでしょうか。

■ピンクの蛍光ペンで文字を覆うのが効果的

蛍光ペンの色にはピンク、オレンジ色、イエロー、グリーン、ブルーなどがありますが、蛍光ペンの色による記憶効果の違いについて調べた実験では、ピンクが最も優れていることが明らかとなっています。

さらに、マーキングには下線を引く方法、文字自体に線を引いて覆う方法がありますが、これも記憶力に関係しています。2002年に報告された研究調査によると、下線を引くよりは、文字を覆うほうが記憶しやすいこともわかりました。

つまり、ピンクの蛍光ペンで文字を覆うマーキング方法が、記憶を定着させるには最も効果的であるということです[6]

また、イエローは記憶力を高める効果は最も低いことが確認されています。

色は、私達の想像以上に学びの能率に影響を与えるのです。

[1]Colour Boosts Brain Performance and Receptivity to Advertising, Depending on Task: UBC Study THE UNIVERSITY OF BRITISH COLOMBIAFeb 5, 2009
[2]Work week productivity, visual complexity, and individual environmental sensitivity in three offices of different color interiors April 2007· Color Research & Application 32(2):130 – 143
[3]The influence of color on student emotion, heart rate, and performance in learning environments First published: 26 February 2015l
[4]The effects of perceiving color in living environment on QEEG, oxygen saturation, pulse rate, and emotion regulation in humans August 2014 University of Melbourne
[5]岩崎寛(2008年). 都市緑化植物が保有するストレス緩和効果――揮発成分からみた癒しの効果――
[6]蛍光色によるマーキングの効果 2002年38巻 Supplement号 p.500-501

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南 涼子(みなみ・りょうこ)
一般社団法人日本ユニバーサルカラー協会代表理事
1972年生まれ。広告制作会社勤務後、色彩心理、配色理論、色彩計画、パーソナルカラー分析、色彩指導を学ぶ。2001年に日本で初となる「ユニバーサルカラー」を提唱し、2003年に日本ユニバーサルカラー協会を設立。現在は高齢者施設・医療施設の色彩コンサルティングのほか、「色彩心理」「色彩のユニバーサルデザイン」などをテーマとする全国各地での講演、執筆を行う。健康検定協会理事。著書に『介護力を高めるカラーコーディネート術』(中央法規出版)など。

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(一般社団法人日本ユニバーサルカラー協会代表理事 南 涼子)

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