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特別な人間だからではない…「若いと驚かれる人」が無意識にやっている"脳にいい習慣"

プレジデントオンライン / 2022年3月3日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockstudioX

脳の老化を防ぐにはどうすればいいのか。脳科学者の中野信子さんは「自分が楽しむのと同時に誰かを楽しませて、脳が感じる快楽を何十倍にもすることが効果的だ」という――。

※本稿は、中野信子『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■74歳男性が「キレキレな脳」でいられるワケ

知る人ぞ知る財界人のYさんは、御年74歳。政界の実力者といわれるような人たちが頭を下げて、「その生き様を学ばせてください!」と集まってくるようなお方です。

背はそんなに高くなく、男性にしては小柄なのですが、実に迫力のある雰囲気を持っています。各方面に事業を広げて成功を収められていることもあり、ときには視線の鋭い黒服の男性が側に控えているため、ドキドキしてしまいます。

でも実際にお話をしてみると、とても気さくで、話題も豊富。いつも笑顔を絶やさず、頭の回転も速くて、会話が楽しいという素敵なお爺様なのです。

とにかくこの方は、迫力のあるオーラを発散していながらも、年齢相応の「くたびれ感」を一切出していません。いつも攻めの姿勢で、常に新しいことにチャレンジしています。さらにそこで、一定の成果を収めるのです。

Yさんの行動で、特にすごいなあと感じた出来事を紹介します。

東日本大震災直後の話になるのですが、Yさんは真っ先に東北に飛んでいきました。とはいっても、ボランティアをするのでもないのです。

一体Yさんは、東北へ何をしに行ったのでしょうか?

実はYさん、「大震災があったことで、仮設住宅の受注合戦や、復興のための建設ラッシュが必ず起こる」と見越したのでした。豊かな人脈を持っているYさんは、不動産や建設の業界にも顔が利きます。並み居る若者に先駆けて、仕事の受注が入るように先手を打ったのです。

■誰かの役に立つと脳は快感を覚える

「震災うつ」などでバタバタと倒れてしまう人も多い中、70歳を超えたYさんの行動力とバイタリティには本当に目を見張るものがありました。Yさんは競争に勝ち、現在はことあるごとに仙台に向かって、精力的に仕事をこなされています。

どんなに大変な状況にあっても、どんなことでもチャンスに変えてしまう。彼こそ、そういう人物なのです。

ではなぜ、Yさんは、こんなバイタリティあふれる行動ができたのでしょうか?

Yさんが、特別な人だからでしょうか?

よくよく考えてみると、Yさんの行動はいつも「自分が得をしようと思ってやったことが、誰かの役に立つことにもなっている」というパターンでした。「自分の利益の追求」と「誰かが本当に必要としていることをやってあげること」が、Yさんの中ではまったく同じなのです。

実は脳には、「社会的報酬」が得られると、ドーパミンが大量に分泌されて快感を覚え、やる気が増大するという性質があります。

人間の脳は、金銭的な報酬と同じように、社会的報酬がある場合も快感を覚えます。社会的報酬というのは、誰かから「あなたは素晴らしい!」「君のおかげで助けられた!」などと、褒められたり感謝されたりすることを指します。

グループで手を合わせる様子
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

一説によれば、性的な快楽よりも、社会的報酬による快感のほうがずっと上だともいわれています。人間が、名誉ややりがいを重要視し、時に金銭的報酬を省みずに行動してしまう傾向があるのは、脳がこのような性質を持つからです。

「いつまで経っても意欲的で、若々しい」というのは、ここに秘密があったのです。

つまり、やり方次第で、「いつまで経っても意欲的で、若々しい『脳』」でいられるのです。

■「脳の若々しさ」を保つ行動原則

「ずっと若々しくいたいから、誰かのためになる大きな仕事をやろう」といっても、Yさんのような大事業ができる立場にある人は少ないと思います。

でも、「自分がやりたいことが、人のためになっている」、あるいは逆に、「人のためになることをやると、自分の利益となって跳ね返ってくる」と考えるのは大事です。

そういうことを見つけて、行動してみることは、それほど難しいことではないのではないでしょうか? どんなに小さなことだっていいのですから。

Yさんは、美味しいお店の情報にも敏感で、ガールフレンドを作って食べ歩いたり、飲み歩いたりするのも大好き。また、ファッションにも気を遣っていて、マフラーや帽子など気の利いた小物を取り入れるのが趣味のご様子。センスの良さもあり、いつも新鮮で、見ているほうも楽しいのです(ちょっと間違うと、イタリアンマフィアにも見えてしまいますが……)。

大きな仕事だけではなく、こんなささいなところにも、「自分がやりたいことをやって楽しむことが、誰かを楽しませることに通じる」という、Yさんの行動原理が貫かれています。

これまであまり、「自分のために何かをすることが、誰かのためにもなる」という発想のなかった方は、積極的にこういう視点を取り入れてみてはいかがでしょうか?

いつまでも意欲的で若々しい脳を保つためには、自分が楽しむのと同時に誰かを楽しませて、脳が感じる快楽を何十倍にもすることが、非常に効果的なのです。

■話し上手より「聞き上手」になったほうがいい

前項で、「自分のやることが必ず、誰かのためにもなっている」という、Yさんの行動の基本をご紹介しました。でも、次のように思ってしまう人も、多いと思います。

「『誰かのためになる』とか『誰かに褒められる』を意識しすぎると、ただの『都合のいい人』になってしまうんじゃないか」あるいは、「自分がもともとやりたかったことが、他人の意見に左右されて、ブレてしまうんじゃないか……」

ではYさんは、自分のやりたいことと、誰かが必要としていることがうまく噛み合わないとき、どうしているのでしょうか。

まずは、自分がそういう立場になったと想定して、検証していきましょう。あなたなら、そういうことが起きた場合、どういう行動をとりますか?

言いたいことはガマンして、自分を殺し、相手の意図に合わせるでしょうか?

それとも、「この人とは話が合わない……」と距離を置きますか?

中には、強い態度で自分の意図を主張する人もいるかもしれませんが、ケンカ別れになってしまうことが多いでしょう。

■まずは相手にとことんしゃべらせよう

Yさんの態度は、どれとも違います。彼は一見、受け身のように見えるほど、柔らかな態度をとります。それでいてなぜか、彼の手にかかると、彼がやりたいように物事が進んでしまいます。ちょっと不思議ですよね。

Yさんは非常に迫力のある人なので、相手が自然とYさんに合わせるというような側面も、なくはありません。でもYさんはそれ以前に、あることを工夫しているようなのです。

自分では企業秘密(?)と思っているのか、はっきりとは口にしませんが、私は次のように思いました。

それは、最初はとにかく相手にしゃべらせること。

話し上手よりも聞き上手に徹するのです。人は誰でも、自分の話をちゃんと聞いてくれると嬉しくなるものです。

セミナーに出席するビジネスマン
写真=iStock.com/Dean Mitchell
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dean Mitchell

すると相手は気分が良くなってきて、聞いてくれる人を信頼しやすくなります。

このようにして信頼を得る方法を、「ラポールの形成」といいます。クライアントとの信頼関係を築くために、カウンセラーが使うテクニックです。

■「聞き上手」になるための近道

とはいっても、ただずっと聞いているだけではいけません。ラポールの形成では、相手に好意と尊敬の念を持つことも大事です。

Yさんはいつも、相手に対して尊敬の気持ちを持つように心がけていたのです。すると相手にもそれが伝わり、自然とYさんに対して敬意を持つようになるのです。

これがラポール形成の近道であり、王道ともいえるでしょう。

ラポールの形成では、共通点を探すのも重要なこと。あまりよく知らない人とでも、共通点があるとわかったとたんに、打ち解けた話ができるようになるという経験は、誰しも持っているものだと思います。これは、簡単ですぐに使える方法です。

例えば、ジャズが好きな男性がいたとします。自分もジャズが好きであれば、彼が好きなミュージシャンや曲名などをあらかじめ調べておきます。

対話の上ではまず、音楽の話に持っていきます。「何の曲が好きですか?」という質問は、どちらからともなく出るでしょう。

そのときに、「ちょっと待って。ここでゲームをしましょう」などと振り、お互い、白紙に自分の好きな曲の名前を書いて、伏せておくのです。そして、同時にその紙を表に返す。もし、ここで同じ曲名が書いてあったら、一気に心理的な距離が縮まります。

子供だましみたいな手ですが、その有用性は学術的にも明らかにされています。

相手の趣味を事前に調べたことは、もちろん黙っておきましょう。

■「自分の得」を犠牲にしない

またリアクションも、ラポールの形成では欠かせません。

中野信子『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)
中野信子『世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)

一緒に笑ってあげたり、怒ってあげたりと、同じ仕草を、気づかれないようにやってみたりするのです。すると相手は、親近感を強くしていきます。

ちなみに、相手の行動を真似るというこの行動は、心理学では「ミラーリング」と呼ばれています。

ラポールの形成のために、Yさんはこのような工夫をしています。

まずは、相手をすっかりいい気分にさせて、自分の言うことを聞いてくれやすいようにしておきます。その裏で、自分が誘導したい目的地に話を持っていく交通整理を、ちゃっかり進めているわけです。

実に老獪(ろうかい)なお爺様ですね!

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。

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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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