「忘れると4万8000円の損」年末調整で最近提出が増えている"第3の添付書類"【2021下半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2022年3月2日 10時15分
■そもそもなぜ年末調整が必要なのか
毎年、11月頃になってくると会社の総務や庶務の係から「年末調整をするために必要な書類なので、記入して○日までに提出して下さい」と言われ、用紙が配られます。みなさんの多くも恐らくその経験があるでしょう。
実際に年末調整の場合は、還付すなわち税金が戻ってくる場合が多いので、ちょうど年末のボーナスが支給された後、何だかプラスアルファのおまけみたいな感じで税金の戻りがあることに何とも言えない幸せ感をもつ人も多いでしょう。
そもそも年末調整というのは一体どういうものなのでしょう。勤め人の場合、会社は毎月の給料から所得税を天引きします。これが「源泉徴収」ですね。給与明細を見ると所得税や住民税が差し引かれているのでご存じだと思います。ところが毎月の給与から引かれる所得税はあくまでも概算でしかありません。その理由は向こう1年間の間に給与や賞与の金額が変わることもありますし、結婚や出産、あるいは保険への加入や住宅購入といったことによって当初は予定していなかった「所得控除」が発生するからです。
■アメリカにはないシステム
したがって、まれに追加徴収ということもありますが多くの場合は税金の額が調整され、戻ってくるのです。これは一見とても便利なシステムのように思えます。自分は何もしなくても必要書類だけ提出すれば会社が全部やってくれるわけですから、確かに便利でしょう。
ただ私個人の意見としては、これはあまり良い仕組みだとは思っていません。例えばアメリカでは、年末調整というシステムはありませんので、給与から源泉徴収された後に自分で申告をして税金の還付手続きを受けなければなりません。面倒なように思えますが、実際にはこれによって税や社会保険の仕組みを理解することができます。これは言わばお金に関するリテラシーを高めることになります。それに政治家の役割というのは究極のところは国民の税と社会保険の負担と給付を考えることですから、それらに高い関心を持てば必然的に政治にも関心を持つようになるのです。
■最近提出が増えている第3の添付書類
とは言え、現実には「年末調整」というシステムがあるわけですから、その仕組みをきちんと理解しておくことは大切です。一般的に年末調整によって税金の額が変化する代表的なものは①扶養家族の情報、②生命保険料等の控除、そして③住宅ローン控除といったものです。
このうち、②は保険会社から送られてくる「控除証明書」、③は銀行から送られてくる「住宅取得資金の借入金年末残高証明書」を添付して会社に提出します(生命保険のうち、保険料が給与天引きの場合は提出が不要です。また住宅ローン控除は初年度が確定申告で、年末調整は2年目からとなります)。
このあたりはほとんどの人が毎年実際に提出していると思いますので、あらためてお話する必要は無いと思います。最近はこれら2つに加えて「小規模企業共済等掛金控除の証明書」を提出するケースが増えてきています。あまり聞き慣れない名前ですが、これは一体何かというと、最近利用者が急増しているiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金に対して所得控除を受けるために必要な書類です。iDeCoの加入者は2021年の8月末時点では210万人を超えています。サラリーマンや公務員での加入者も180万人以上いますので、これを読んでいる読者のみなさんの中にも恐らくiDeCoの加入者がおられることでしょう。
■iDeCoの税メリットはいくらになるか
iDeCoは加入する時に色んな税のメリットがあるという話を聞かされますが、最大の税メリットは掛金の全額が所得控除されるということです。この金額はかなり大きいものです。例えば給与所得者の場合だと、公務員は掛金の上限額は年間で14万4000円、民間企業の場合だと、勤め先の年金制度によって変わりますが、14万4000円~27万6000円までとなります。iDeCoの場合はこの全額が所得控除となるのです。生命保険料控除や個人年金保険料の控除は、住民税と所得税を合わせてそれぞれ最大6万8000円ですから、最も少ない公務員でも各保険料控除の倍以上あります。
では具体的にどれぐらい税金がお得になるのかと言うと、仮に掛金の上限額が毎月2万円の場合で計算すると年収500万円の場合、年間約4万8000円の税金が戻ってきます。(iDeCoナビ参照。上記金額はあくまでも概算で、実際の金額は異なります)。
■圧着ハガキを開けないまま捨てる人も
具体的にはiDeCoに加入していれば毎年10月末頃に国民年金基金連合会から自宅に「小規模企業共済等掛金控除証明書」が圧着ハガキで届きます(画像参照)。そこに記載されている金額を年末調整の書類に記入し、送られて来た証明書を添えて提出をすれば良いのです。
ところがこのハガキ、中を見ないままに捨ててしまっているという人も実際にいます。iDeCoに加入していることは認識していてもそれを年末調整の際に出すのを忘れてしまうと、これだけの税金の戻りを受け取ることができなくなってしまいます。
仮に30歳でiDeCoに加入し、上記の条件で60歳まで積立を続けた場合、積立額の累計は720万円となりますが、税金が戻ってくる分は何と144万円にもなります。iDeCoの税メリットの中で最も大きな所得控除を気付かずに、あるいは忘れてしまっているというのは実にもったいないことです。
■忘れた人は翌年の確定申告でも間に合う
ただし、仮にこれを提出しなかったために年末調整で還付されなくても、そのことに気が付けば翌年の確定申告で申告することで還付は受けられます。また、これを提出しなくても年末調整で自動的に会社が処理してくれる場合もあります。それはiDeCoの掛金を会社が給与から天引きしてくれている場合です。しかしながらiDeCoというのは個人が自分の老後資産形成のためにおこなうものですから、基本、会社はあまり関係ありません。最近では個人の出す掛金に会社が掛金を上乗せするiDeCoプラスという制度も広がりつつあります。この場合であれば給与天引きしてくれますが、まだそういうケースは少ないのが現状です。したがって、やはり自分のところに送られて来た「小規模企業共済等掛金控除証明書」はきちんと取っておき、年末調整で用紙が配られた時には一緒に提出することを忘れないようにすることが重要です。
最近では年末調整で提出する書類のひとつである「保険料控除申告書」にも「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」という項目が作られています。ただし、iDeCoに加入し、最初の引き落としが10月となった場合は、書類が送られてくるのがその少し後になりますので、年末調整で提出するには間に合いません。その場合、翌年に確定申告をすればいいでしょう。
税や社会保険についてはよくわからないからと放っておくと受け取れるはずのお金がもらえなくなることもありますので、年末調整といえども会社に任せきりにするのではなく、ちゃんと理解をしておいた方がいいですね。
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経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)
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