「土日もGWも夏休みも要らない」藤田晋氏が若手時代、鬼のように働いた深い理由
プレジデントオンライン / 2022年3月5日 12時15分
※本稿は、藤田晋、堀江貴文『心を鍛える』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■起業のきっかけを作った一冊の本
サイバーエージェントのビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」というものですが、そんな大それた夢を持つようになったのは、ある本との出会いがきっかけでした。バイト先の広告代理店、オックスの社長の愛読書『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著/日経BP社)です。
この本では「時を超えて成長し続ける企業」の特徴が解説されています。たとえば、ソニーにしてもヒューレット・パッカードにしても、起業時から素晴らしいアイデアがあふれていたわけではないと思います。
しかし、社運を賭けた大胆な目標を掲げたおかげで、アイデアが見つかったばかりか、組織全体のやる気を引き出し、企業が成長し、企業そのものが究極の「作品」となったわけです。
まだ若かった私にも、ソニーやホンダのような「ビジョナリー・カンパニー」は人々の生活や社会に大きな影響を与える、偉大な会社だと思えてなりませんでした。
「そんな会社を自分の手で創り出そう」
そう思うと、ワクワクしてきたのです。以降、私は「将来すごい会社を創る」という目標を立て、それに向かって全力で疾走し始めます。サイバーエージェントのビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」ですが、この言葉は創業した数年後に、「すごい会社を創る」を言い換えたものなのです。
つまり、今の私があるのは、『ビジョナリー・カンパニー』のおかげです。
目標ができたからこそ、自分の中に軸ができてブレないようになり、大きな目標を実現するための目標を立て、それらを達成するために駆け回ることができました。
自分の軸さえ決めれば、人から言われなくても、自発的に動き出せるようになります。そうすると、人生が面白い方向へと加速し、どんどん好転していくと思うのです。
■アルバイト先に就職する気でいたら…
当時の私はバイト先の重役に身の上相談に乗ってもらうほど、就職先を決めあぐねていました。大志はあるものの、平凡な大学生の1人だったのです。
22歳、大学4年生となった私は、周りが就職活動を始めても、どこ吹く風。オックスでのアルバイトに励んでいました。「このまま入社してもいい」、そんな思いも少なからずありました。そんな時期、オックスの渡辺義孝専務(現ヒューマンクレスト代表取締役)に就職先について相談させてもらったことがあります。
渡辺専務は、バイトに必死に取り組んでいた私に、特に目をかけてくださいました。
そのため、「就職活動なんかせず、うちに入社しなさい」と言われる気がしていたのですが、予想は大外れ。「うちの会社に来てくれたらうれしいが、ほかの会社も見て決めるのがいい」とおっしゃったのです。
今考えると、渡辺専務はオックスの経営陣の不協和音を感じていて、私に入社をすすめなかったのだとも思えます(後にオックスで内紛が起こり、渡辺専務は解任されます)。一介のアルバイトである私の将来を真剣に考え、親身に助言してくださったことについて、今でも渡辺専務に感謝をしています。
■土日祝もGWも夏休みも「とにかく働きたい」
私は『日経ビジネス』の記事で興味を持った会社に電話をかけるなど、ベンチャー企業を中心に会社を探しました。そして、自宅に送られてきたDMで人材関連企業の「インテリジェンス」(現パーソルキャリア)を知り、新卒採用のセミナーに参加。
「当社は89年に創業し、急拡大してきました。人材派遣業に参入してまだ2年目ですが、将来はパソナを、そしてリクルートを抜き去ることになるでしょう」
宇野康秀社長(現USEN-NEXT HOLDINGS代表取締役社長CEO)のこのような話に胸を熱くして、入社を決めます。宇野社長の眼差しに純粋さや真剣さを感じたからです。「将来すごい会社を創る」という自分の目標を共有できる気がしました。
日本では、何かに情熱を注いだり、上昇志向を抱いたりすることを恥ずかしいと捉える風潮があります。でも、宇野社長の下でなら、思いっきり働ける気がしたのです。
そして1997年4月。インテリジェンスに入社後は、ハードワークに徹しました。同社は当時、「深夜まで働くのが当然」という社風でした。最初から猛烈に働きたかった私にとっては素晴らしい環境です。私も毎日終電ギリギリまで働き、土日も祝日もゴールデンウィークも夏休みも返上。文字通り「1日も休まず」働きました。
■自分の時間はなくても「じゅうぶん後で回収できる」
ところが、そんなに働きたくても、新人ですから仕事は言うほどありません。だから、暇さえあれば自分から仕事を探し回っていました。人から振ってもらった仕事を断ったことはありませんし、「ぜひ、私にやらせてください」が口癖でした。
仕事量に応じて、結果も追いついてきます。1年目にして私が稼いだ粗利益額は5000万円に上りました(これは入社した年の12月頃までに出した金額です)。「すごい新人が入ってきたぞ」と社内では噂になりましたが、私は自分のために仕事をしていたので苦労はありません。仕事に夢中になりすぎて、自分が食事をしたかどうかさえ忘れるほどでした。
いったいなぜ、私がそんなに仕事をしていたかというと「起業という目標に近づくため」です。
目先の仕事にひたすら集中することで、自分の夢が近づいてくるようで楽しかったのです。当時の自分にとってハードワークは、自分の将来に対する“先行投資”という位置づけでした。仕事漬けになることで、自分の時間はほとんどありませんでしたが、「自分の夢を実現できれば、投資はじゅうぶん後で回収できる」と思っていました。
私は、できるだけ若い時期に結果を出したかったのです。それが「将来すごい会社を創る」という夢に近づく最短距離だと考えていました。
■「自分が社長だったらこうする」を常に考える
もちろん、ライバルもいました。インテリジェンスの44人の同期たちです。そのほとんどは「大企業よりベンチャー」という気概のある、鼻息の荒い連中でした。頑張る私に張り合ってか、「藤田より先には帰らない!」と言い放つ同期もいました。でも、私は周りと競争をしているわけではなく、「将来すごい会社を創る」という目標に向かい「自分」と闘っていたのです。
無用な争いを避けたくて、深夜まで会社に残るのではなく、「始発から出社する」という超朝型にシフトしました。
「誰かと営業成績を競う」という意識もありませんでした。そのため、自分で立てた目標を毎月、達成することを自分に課していました。
また、私は急成長を続けていたインテリジェンスで働きながら、「宇野社長はこういうところがうまいんだな」などと感心する一方、「自分が社長だったら、こうするな」と常にシミュレーションをしていました。もちろん、それは妄想にすぎません。しかし、現場で働く新入社員が経営者目線を養うにはじゅうぶんに有効でした。
そして、インテリジェンスに就職してから1年未満で、起業のチャンスがやってきました。オックスを解任された渡辺専務を社長に据え、自分は取締役という立場で「新たな会社を創ろう」と考えたのです。
■起業を後押ししてくれた宇野社長の一言
1998年1月4日、新年最初の出社日に、インテリジェンスの上司に辞意を伝えました。その日の夜、宇野社長からありがたい申し出をいただきました。
「起業には反対しない。けれども、渡辺君と組むのはやめて、君が社長になりなさい。経験豊富な渡辺君が、若い君の可能性を摘む恐れもあるんだ。その会社には50%出資するから、イコールパートナーにしてほしい。もちろん後から、藤田が筆頭株主になるよう、資本比率は引き下げる」
願ってもない大きなチャンスをいただき、私は起業に踏み出しました。継ぐべき会社も、コネも、特別な能力も持たない私が、就職して1年未満で社長になれたのです。それはなぜかというと、常に「目標」を意識し、自分に負荷をかけ、「心の筋力」を鍛えていたからという気がします。
何か目標がある場合、多少キツくても、自分を可能な範囲で追い込むことです。それも「人に言われたから頑張る」のではなく、「自発的に負荷をかけること」が大事なのかもしれません。
そういえば創業時に、宇野社長にこう釘を刺されたことがあります。
「馬とフェラーリさえ買わなければ、あとは何をしてもいいよ」
それは「おごるな」という警告であると同時に、「お前の会社には一切口は出さない」という優しいメッセージであったのかもしれません。
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サイバーエージェント代表取締役社長
1973年、福井県生まれ。青山学院大学卒。98年にサイバーエージェントを設立、2000年に当時の史上最年少(26歳)で東証マザーズ上場、14年に東証一部へ市場変更した。同年に麻雀最強戦に初出場し、優勝を果たす。18年にMリーグ機構を設立、初代チェアマンに就任した。
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(サイバーエージェント代表取締役社長 藤田 晋)
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