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日本人とSNSは"最悪な組み合わせ"…この国から「不幸な孤独」がなくならないワケ

プレジデントオンライン / 2022年3月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

心と体の健康を保つにはどうすればいいのか。慶應義塾大学の前野隆司教授は「孤独感はアルコール依存症に匹敵する健康被害をもたらすため絶対に放置しないほうがいい。孤独を可視化させたSNSの影響は大きい」という――。

※本稿は、前野隆司『幸せな孤独 「幸福学博士」が教える「孤独」を幸せに変える方法』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■孤独を「見える化」した…SNSがもたらした大問題

私は、現代の日本人が孤独を感じやすくなった原因のひとつは、SNSだと考えています。いろいろな人とつながることができるようになったのと同時に、見えるようになったのは、ほかの人たちのつながりや行動です。

SNSが普及していなかった頃は、友だちや恋人が自分以外にどんな人間関係を持っているのか、自分と離れた場所で誰と何をしているのか、あまり見えませんでした。SNSの普及が、ほかの人と自分を比べるという、孤独感をつくる原因のひとつになっているのです。

SNSで孤独を感じるわかりやすい例が、フォロワーや友だちの登録数を、ほかの人と比べて落ち込むパターンです。SNSを利用するとフォロワー数や登録数、閲覧数などは見たくなくても見えてしまうものですから、意識するのは仕方がありません。

だからといって、比べるものでもないのです。

簡単につながりやすいということは、簡単に切れやすいことの裏返しでもあるし、必ずしも深い関係性が構築できているとはいえません。逆に、数が多いことで、少しでも減ってくると孤独を感じることもあると思います。

極端に減ると、絶望感さえ覚える人もいるのではないでしょうか。SNSは残酷なまでに孤独を見える化するツールでもあるのです。

SNSによる孤独を深めているのは、どの国にも共通する事象ですが、特に日本人はSNSが原因で孤独に陥りやすいのではないかと考えています。

■日本人の約8割が持っている「心配性の遺伝子」

その理由は遺伝子です。

幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」をご存知でしょうか。セロトニンが分泌されると心が穏やかになり、ものごとを前向きに捉えることができます。

2009年に発表されたセロトニンに関する研究結果によると、セロトニンを多くつくれるタイプの遺伝子がL型、多くつくれないタイプがS型。細かく分けると、LL型、SL型、SS型の3つに分類され、日本人の約8割は、S型(SL+SS)です。

SNSは他者との比較が容易なツールですから、フォロワーの多い人や、コメントするとすぐにリプがつく人と自分を比較して、寂しさを感じやすい状況にあるといえます。

S型の遺伝子を持った人が、SNSは使うことで、必要以上に不安になったり、疎外感を覚えたりする恐れがあります。

孤独が原因で起きる、疎外感、寂しさ、悲しさといったネガティブな感情をひとくくりにして「孤独感」と呼びます。日本人はSNSによる孤独感を感じやすい傾向にあります。

■孤独感が早期死亡リスクを2倍にする

「孤独感」がもたらす悪影響で、意外に知られていないのが健康被害です。

アメリカ・ブリガムヤング大学のジュリアン・ホルトランスタッド教授は、2010年に「社会的なつながりを持つ人は、持たない人と比べて早期死亡リスクが50%低下する」という研究結果を発表しました。つまり、孤独が死亡率を2倍にするというわけです。

そのリスクは、

①たばこを1日15本吸うことに匹敵する
②アルコール依存症に匹敵する
③運動をしないことよりも高い
④肥満の2倍高い

に匹敵すると結論づけました。

窓際に座っている孤独な女性の後ろ姿
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

また、ホルトランスタッド教授は2015年に、社会的孤立の場合は29%、孤独の場合は26%、独り暮らしの場合は32%も死亡する確率が高まるという結果も発表しました。

2005年のオーストラリアの研究でも同じような結果が出ています。加えて、子どもや親戚などとの関係性は長生きに関係ないが、友だちが多い人はほとんどいない人よりも長生きすると報告されています。

先述したように、日本人はただでさえ、孤独感を覚えやすい心理的傾向を持っているうえに、SNSの普及でより孤独感を深めてしまいかねません。今の状況は、気づかないうちに人の心身を蝕み、寿命を縮めることにつながります。

孤独感が健康に与える悪影響は多岐にわたるのも特徴です。

うつ病、統合失調症、薬物やアルコール中毒などの依存症といった心の病気、がん、脳卒中、免疫力低下による肺炎などの身体的な病気など、死亡リスクだけではなく、病気を発症するリスクも高めるのが孤独感なのです。

■孤独感は「心のクセ」に過ぎない

孤独感は主観的なものであり、個人差があります。同じ状況でも寂しいと感じる人もいれば、寂しさを感じないどころか、楽しいとさえ感じる人もいます。

そして、人間には、マイナスの感情を増幅させる愚かな特性があります。それを言い当てたのが、プリンストン大学名誉教授でノーベル経済学賞受賞者であるダニエル・カーネマンで、「フォーカシング・イリュージョン」です。

フォーカシング・イリュージョンとは、間違ったところに焦点を当ててしまうという意味です。

みなさんは、お金があれば幸せになれると思いますか?

半分正解で、半分不正解です。

カーネマンの研究によると、収入が上がるほど幸せになりますが、ある一定の額を超えると幸福度は変わらないといいます。その額は年収7万5000ドル。日本円にして約800万円です。

お金がなくても幸せになれるとは言えませんが、お金を稼げば稼ぐほど幸せになれるわけでもありません。これが、フォーカシング・イリュージョン。間違ったところに焦点を当てると間違った判断をすることになるのです。

「お金持ちになれば幸せになれる」といったフォーカシング・イリュージョンをつくるのは、多数派の価値観です。それが、孤独感を募らせる原因にもなります。

■SNSが孤独を可視化させた

「みんなと遊べば幸せになれる」。これも、フォーカシング・イリュージョンです。

「結婚すると幸せになれる」
「あの企業で働けると幸せになれる」
「あの学校に入学できると幸せになれる」
「みんなから注目されるようになると幸せになれる」
「友だちが多いと幸せになれる」……

世の中には「○○したら幸せになれる」という価値観のようなものがあります。

もちろん、そうすることで幸せになる人もいます。しかし、すべての人に当てはまるわけではありません。そうしなくても幸せになる方法はいくらでもあって、それを達成できないことに寂しさを感じる必要などまったくないのです。

SNSの発達で「孤独の可視化」が表面化しています。「いいね」の数の多さに、一喜一憂するといった現象は、友人が多いいわゆる「リア充」のほうが優れているかのような価値観に支配されている証拠でしょう。

まさに、フォーカシング・イリュージョンの代表例ではないかと思います。

もしかすると、みなさんの「寂しい」「悲しい」などの感情は、他人と比べることで生まれているものなのかもしれません。そうだとすると、自分の脳がつくり出した錯覚のようなもので、「悪い心のクセ」に過ぎないということです。

険しい表情でスマートフォンを見つめる女性
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■孤独感をなくす2つの方法

悪い心のクセは、あくまで感じ方の問題ですから、自分の心がけしだいでなくすことは可能です。

前向きな考え方を身に付ける、簡単な心のレッスンを日々、続けることで孤独感を生み出す考え方を修正していくことができるのです。拙著『幸せな孤独 「幸福学博士」が教える「孤独」を幸せに変える方法』より、その方法の一部を抜粋します。

【ポイント①】「今」から離れる

孤独を不幸だと感じている人の多くが、目の前のことに囚われています。

「今日もまた寂しかった、なぜ私のまわりには誰もいないのか」という想いもあれば、職場や学校などで人間関係がうまくいっていない場合には、「なぜ、あの人は私を仲間外れにするのか」という気持ちを持つこともあるでしょう。

そう思って心が乱れてしまうときは、紙と筆記用具を用意してください。やることはひとつ。今までの自分の歩みを書き出してみる、ということです。

これまでの人生で起きた出来事を少しずつでいいので紙に書いてみると、あんなことや、こんなことが思い出されます。苦しかったこともあるでしょうが、案外、楽しい思い出もいっぱいあるでしょう。ずっと寂しいばかりの人生だった訳ではないのです。

「人生」が長すぎるのであれば、今年1年の出来事でも構いません。1年の間に、さまざまなことがあったでしょうが、悪いことばかりではなく、いいことも意外に多いことに気づくはずです。

紙に書き出してみることで、「今」から離れて、自分を客観視できます。「今」に囚われてばかりいると、目の前の苦しみばかりが気になって、悪い方向に気持ちが向かってしまいがちなのです。

自分を外から見るような視点から冷静に自分を見つめ直すことを、心理学の用語で「メタ認知」と呼びます。

■「ありがとう」が持っている驚きの効果

【ポイント②】「自分」から離れる

孤独が不幸だと思っている人の特徴として「自分の内面」にばかり目が向いて、自分の外を意識できていないことが挙げられます。そういう人は「どうして自分ばかりが孤独で辛い思いをするのか」という理不尽さを感じながら生きているのではないでしょうか。

前野隆司『幸せな孤独 「幸福学博士」が教える「孤独」を幸せに変える方法』(アスコム)
前野隆司『幸せな孤独 「幸福学博士」が教える「孤独」を幸せに変える方法』(アスコム)

その気持ちは、よくわかります。しかし、「自分の幸せ」だけを望む人は、今の自分が「幸せではない」ことに囚われてしまった結果として、辛さや苦しみから逃れられなくなっているのです。

そこでおすすめなのが「自分以外の誰かを喜ばす」ことです。

自分の外に目を向けて、「目の前の人に喜んでもらうことに集中しよう」と思うと、驚くほど心がスッとらくになります。

目の前の人は、パートナーや家族、友人でなくても構いません。いつも行くお店の店員さん、いつも利用している駅の駅員さん、そのほか、多くの人があなたのそばにいます。

そうした人たちに、「ありがとう」と伝えてみることから始めてみませんか。

その際のポイントは、見返りは求めず相手に喜んでもらうことだけを考えること。最初はぎこちなくても、毎日少しずつ続けていくとスムーズに言葉が出るようになるでしょう。あるいは、横断歩道を渡ろうとしているおばあちゃんの手を引いてあげるのもいいでしょう。

本人から直接もらえる感謝の気持ちは、SNSで「いいね」をたくさんもらうよりも、ずっと素敵なことだと思いませんか。

人間は本能的に「誰かのためになる」ことに喜びを感じるということが研究によって明らかにされています。目の前の人を笑顔にするささやかな「利他」の心は、あなたの孤独感を癒してくれるでしょう。

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前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
1962年山口県生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等などを経て、2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、など。『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』(ともに、ちくま文庫)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)など著書多数。

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(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司)

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