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「ウクライナ問題は日本人にも降りかかる」エネルギー、小麦、魚介類…想定される最悪パターン

プレジデントオンライン / 2022年3月3日 10時15分

下落した日経平均株価を示す電光ボード=2022年3月2日、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

■日本経済に深刻な影響がやってくる

現在、ウクライナ軍とロシア軍の激しい戦闘が続く中、わが国の経済にも深刻な負の影響が及ぶ恐れが高まっている。欧米諸国やわが国は結束して、ロシア経済を孤立させるべく厳しい制裁を科している。一連の制裁の中でも、ロシアの主要銀行を国際金融のネットワークであるSWIFTから除外することや、米欧などがロシア中央銀行の資産を凍結するインパクトは非常に大きい。

これらの制裁によって、ロシアは事実上、通貨ルーブルの価値を防衛することが難しくなった。ロシアの複数の銀行は国際的な資金決済システムから排除される。ロシアの大手銀行が資金繰り逼迫に陥り破綻懸念が高まっていることは世界の金融市場にマイナスだ。

それは、自由主義諸国とロシアの分断を意味する。グローバルに張り巡らされたサプライチェーンの寸断は深刻化し、今後、世界経済のブロック化が進むだろう。エネルギー資源価格の上昇などで、世界全体で物価の上昇圧力はこれまで以上に高まることが予想される。世界経済全体で成長率が低下する可能性も高まっている。

自動車産業の健闘などで、景気の緩やかな持ち直しを実現してきたわが国を取り巻く世界情勢の厳しさは高まっている。最悪の場合、わが国では景気の減速と物価の上昇の同時進行という事態が現実となるかもしれない。ロシアによるウクライナ侵攻によって、世界の政治・経済・安全保障の状況が大きく変化することだろう。わが国経済も厳しい状況に追い込まれる可能性は否定できない。

■エネルギー、穀物、鉱物資源などが上昇する

ロシアによるウクライナ侵攻によって、世界全体でインフレ懸念がこれまで以上に上昇している。米国の債券市場では主要投資家のインフレ予想を示す指標の一つである5年のブレークイーブン・インフレ率が3%を超えた。今後の企業業績への懸念の高まりから、米国の債券市場ではジャンク級社債の国債利回りに対する上乗せ金利幅(信用スプレッド)が拡大している(社債価格は下落)。

ウクライナとロシアはグローバル経済にとって重要なエネルギー、鉱物資源や穀物の供給者としての役割を果たした。天然ガスに関して、ロシアは世界最大の輸出国だ。EUは天然ガスの4割をロシアからのパイプラインを通して輸入している。税関のデータによると2020年のわが国の液化天然ガス輸入において、ロシアはオーストラリア、マレーシア、カタールに次ぐ第4位であり、シェアは7.8%だった。2020年の小麦輸出に関してロシアは世界トップ、ウクライナは第5位だった。

■世界中の供給網が寸断され始めている

そのほか、ロシアは自動車の排ガス浄化触媒に使われるパラジウム、スマートフォンの筐体などに使われるアルミニウム、ステンレス鋼材の原料や電気自動車(EV)バッテリーなどの正極材として使われるニッケルの主要な産地でもある。経済のグローバル化によってウクライナとロシアは世界のサプライチェーンに組み込まれた。

それが寸断され始めている。戦争の勃発によって、ウクライナでは社会インフラや生産設備が破壊された。黒海沿岸地域の港湾施設や鉄道の運行など物流も停滞する。主要産品の供給は大幅に減少する。ウクライナ問題は、新型コロナウイルスの感染再拡大によるサプライチェーンの寸断を深刻化させている。

各国が自国の安定のためにエネルギー資源や食料の確保を急がなければならない。価格メカニズムを通した効率的な資源の再配分は停滞する。世界全体で供給のボトルネックが深刻化し、これまで以上に世界全体でインフレ懸念が高まりやすい。

■中銀の外貨資産凍結、SWIFTからの排除…

言い換えれば、ウクライナ侵攻によって世界経済はブロック化に向かいはじめた。今後、世界経済全体で成長率は低下するだろう。特に、米欧が、ロシアの中央銀行が連邦準備制度理事会(FRB)などに持つドルなどの外貨資産を凍結することは大きい。中銀への制裁によって西欧諸国はルーブルを急落させ、プーチン政権の社会・経済運営および安全保障体制を弱体化させようとしている。

2月28日の外国為替市場ではロシア中銀がルーブルを買い支えできなくなるとの懸念が急増してルーブルが急落した。仕方なくロシア中銀は政策金利を20%に引き上げざるを得なくなった。インフレ懸念が高まり、金利も急上昇することによってロシアの社会心理は悪化する。それに加えて、米欧はロシア大手銀行を国際的な決済システムであるSWIFTから排除する。

一連の金融制裁によって主要先進国の銀行はロシア関連の資金決済を停止したり、可能な限り減らしたりしなければならなくなった。SWIFTのデータによると、2022年1月の通貨別決済ランキングは、米ドルが39.92%、ユーロが36.56%、英ポンドが6.30%、人民元が3.20%、円が2.79%だ。ロシア経済全体で資金繰りは逼迫し、ロシア国債がデフォルト(債務不履行)に陥るリスクは高まっている。

■限られた資源の“囲い込み”が始まる

ロシアは効率的なサプライチェーン運営と国境をまたいだヒト・モノ・カネの再配分によって強化されてきたグローバル経済から切り離される。言い換えれば、自由資本主義圏とロシアは分断され、世界経済がブロック化する。その状況は、1930年代の世界情勢に似ている部分がある。

経済のブロック化は限られた資源を特定の国のグループで囲い込もうとする閉鎖的な経済運営の発想だった。それは、1990年代以降、新興国の成長やかつて社会主義体制をとった国の自由資本主義体制への転換などによって加速したグローバル化と対照的だ。グローバル化によって世界経済が享受していた要素価格の均等化というプラスの効果は弱まる。EVシフトなど世界経済の先端分野での成長力は低下するだろう。それによって各国の経済、企業の事業運営の効率性は低下し、GDP成長率は鈍化するだろう。

出荷コンテナ船
写真=iStock.com/shaunl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shaunl

■「景気減速と物価上昇」のWパンチがやってくる

ウクライナ侵攻によって、わが国経済はかなり厳しい状況に直面するだろう。まず、景気は減速する。内需と外需の両方でわが国への逆風は強まる。わが国では少子化、高齢化、人口減少などによって内需が縮小均衡している。自動車産業に代わる成長期待の高い新しい産業の育成も遅れている。世界経済がブロック化に向かうことによって、主要先進国はエネルギー資源などのモノを融通しなければならなくなるだろう。

それによってわが国が輸入するモノの価格は上昇し、内需への下押し圧力は強まるだろう。外需に関して、地政学リスクの高まりやロシア制裁の影響から、世界経済の先行き不透明感は高まる。それによって、各国の設備投資は減少し、雇用・所得環境は不安定化するだろう。わが国が自動車などの外需を取り込んで景気の回復を目指すことは、これまで以上に難しくなる。

■給料が増えないまま電気代、食料品が上がっていく

次に、国内の物価はかなりのペースで上昇する恐れがある。世界的な供給制約や異常気象の影響から国内ではパンやパスタなどの小麦製品、マグロなどの魚介類、電力料金、木材などの価格が上昇している。3月以降はティッシュペーパーなどの紙製品の価格も引き上げられる。ウクライナ問題によるエネルギー資源や穀物の価格上昇によって、わが国の物価上昇ペースは一段と高まるだろう。

わが国で景気減速と物価上昇が同時に進行する恐れは高まっている。その結果として、国内の企業業績は悪化し、給料が上がらない展開も想定される。わたしたちの生活にとって、給料が上がらない一方で物価が上昇するというのは、最悪のパターンだ。

食料品やエネルギー、電力料金が上昇する中で、これまでの収入と支出のバランスを見直し生活の防衛を余儀なくされる家計は増えるだろう。世界的にみてわが国経済のコロナ禍からの回復は遅れている。それに上乗せするようにしてウクライナ問題が深刻化したことによって、わが国経済はかなり厳しい状況に直面する恐れが高まっている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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