「日本も狙われている」ロシアの侵略を受けたウクライナ人が日本人ライターに語ったこと
プレジデントオンライン / 2022年3月4日 8時15分
■ウクライナ人や東欧出身者がNYに集結
ロシアのウクライナ侵攻に対し、日本も含め世界各地で抗議行動が巻き起こっている。ニューヨークでも連日タイムズスクエアなどを中心に抗議集会が開催され、シュプレヒコールをあげている。
筆者は26日土曜日、タイムズスクエアでの集会を取材した。
ニューヨークには全米最大の15万人のウクライナ人コミュニティがある。ウクライナが大国ロシアを相手に必死の抗戦を続ける中、彼らは何を思うのか、20~30代の若者たちから話を聞いた。
青と黄色のウクライナ国旗が翻る中、数百人が集まった集会にはウクライナ人だけでなく、ベラルーシ人、ジョージア人、ポーランド人、トルコ人まで、東ヨーロッパを中心にさまざまな人々がサポートに駆けつけた。
時折シュプレヒコールが巻き起こり、ウクライナ国家を歌ったり演奏したりしているが、暴動などは見られず、平和的な雰囲気だ。しかし彼らの言葉からは厳しい状況がひしひしと伝わってくる。
■「家族の居場所は危険だから言えない」
ウクライナから留学中の女性ダリアは言う。「家族がキエフにいる。一緒に戦いたいからとあえて街を離れない決断をしたのだが、とても心配。今は安全な場所に避難しているけれど、詳しい場所は危険なので教えられない」
ここに集まった多くは、こうした家族を国に残して移住したり留学したりしているウクライナ人だ。家族や友人を助けるために何かしなければという思いに駆り立てられている。
ウクライナからの移民男性パウロは「家族が心配だ。皆が現状を知って助けてほしい」と訴える。10代でアメリカに引っ越してきたというウクライナ人男性サーシャは「敵と直接戦うことはできないけれど、こうして集まることで戦争を食い止めなければ」と真剣な表情で語る。
彼らの目的ははっきりしている。声を上げることで国際社会に注目されること。そのターゲットは他でもないプーチン大統領だ。
■「反戦」以上に目立つプーチンへの怒り
多くのプラカードに書かれたスローガン。「戦争反対」「キエフに自由を」「ウクライナに栄光を!」しかしそれ以上に目立つのはプーチンに対するメッセージだった。
「プーチンを止めろ」「ウクライナから出ていけ」「プーチンはファシストだ」プーチンにヒトラーのひげをつけた写真を持つ男性。ここには書けないような汚い言葉も叫ばれていた。
これを見れば、これがロシアに対してというより、プーチン大統領自身に対する強い抗議ということがすぐに分かる。
前出のパウロはこう憤る。
「プーチン大統領はウクライナが元々ロシアの一部だったと言っているが、それは嘘だ。ウクライナはずっと独自の言語と伝統を持った独立した国だったのに、プーチンはそれを制圧して政権を変えようとしている。このままでは国のアイデンティティーが失われるだけでなく、自由の国から独裁の国になってしまう」
彼らの抗議行動の最大の目的はこうしたメッセージを世界に伝えることだ。
母国ウクライナでは、ゼレンスキー大統領はじめウクライナ軍そして一般人までが、とても太刀打ちできそうにないロシアの大軍に勇敢に立ち向かうことでリスペクトを集め、彼らを支えようとする国際社会の結束が劇的に強まっている。
ニューヨークのウクライナ人も自分たちがその一端を担いたいと必死なのだ。
■世論調査では「68%のロシア国民が支持」だが…
「ウクライナを攻撃してごめんなさい」というプラカードを持ったロシア人も見かけた。
ロシア人女性カティアは「ロシア人はウクライナ人と共に戦います」というプラカードを持っていた。「ロシア人として申し訳ない。多くのロシア人もウクライナ人をサポートしていることを知らせたい」と語った。
ロシアの政府系機関「全ロシア世論調査センター」は2月28日、「68%の国民がウクライナへの『特別軍事作戦』を支持している」とする世論調査結果を発表した。しかし、彼女はロシア人のほとんどがウクライナ侵攻に反対していると見ている。
彼女はこう説明する。
「プーチン大統領は、ウクライナをファシストから救うために戦うのだと言っている。多くの人はコントロールされたメディアの影響でそれを信じている」
しかし、背後にはそれ以上のサイレントマジョリティがいるというのだ。
「ロシアは言論の自由がなく、政府を批判することは犯罪行為。だからプーチン大統領やこの戦争に反対していてもそう発言することは危険すぎてできない。数年前には、政府が『フェイクニュース』とみなした報道を禁じる法律が成立した。ロシア政府に関するどんなコメントも許されなくなった」
■パスポートを破り捨てたベラルーシ人
ロシアにいるどれくらいの人がこの戦争に反対しているのか、知るすべはないということになる。しかし自由の国で生活している私たちには想像もできない状況を裏付ける話をしてくれたのは、ウクライナの隣国ベラルーシから19歳でアメリカに移住したというアレクサンダーだ。
アメリカメディアは27日、ウクライナの首都キエフのすぐ北に位置するベラルーシ軍が侵攻を開始するだろうと報道した。
「家族は皆ベラルーシにいて危険にさらされている。男性は戦争に行かなければならないだろう」アレクサンダーの表情は硬い。
「ルカシェンコ大統領は最悪だ。プーチンと共に2人の独裁者が世界を脅かしている」
ルカシェンコ大統領は1994年から28年間トップの座に君臨している。2000年には、ベラルーシがロシアの連盟国となったのに伴いその初代最高国家会議議長に就任した。アレクサンダーは、この時点からもうベラルーシは独立国でさえなくなったと語る。
「ベラルーシではインターネットが規制されているから、国民が得る情報は政府がコントロールしているプロパガンダのチャンネルだけだ」
ルカシェンコ大統領がいるから渡米する決心をしたという彼は、破り捨てたベラルーシのパスポートの写真を見せてくれた。パスポートを破り捨てるというのは母国に二度と戻れなくなるということだから、その思いは想像を絶する。
■「経済制裁で苦しむのは一般のロシア人だ」
「この2人の強力な独裁者が手を組むことで、独裁政治が21世紀のヨーロッパに広がることを強く危惧している。ウクライナだけでなく多くの国がベラルーシのようになってしまうかもしれない。それだけでなく核兵器までちらつかせて世界中を脅かしている」
一体何が起きているのか、自分たちが伝えなければならないと彼は言う。「そうすれば多くの人を目覚めさせることができるはずだ」
前出のロシア人カティアの夫ユーギニーはニューヨーク育ちのウクライナ人だ。2つの国が戦うことに心を痛めている。
「経済制裁も独裁者にはそれほど影響せず、苦しんでいるのは一般のロシア人だ。彼らが気の毒でたまらない」
ユーギニーは言う。
「でも希望はある。ロシアという国には無限大の可能性がある。多くの資源もあるのにその恩恵を受けているのは一握りの人だけだ。ロシア人に自由というものを見せたい。そして自由に至る道はあるということを知らせたい。それを妨げているのは政権だということに目覚めてほしい」
さらにこう続ける。
「ウクライナという小さな国がロシアという大国ととても勇敢に戦っていることを世界が知るべきだ」
■泥沼化すればロシア国内の反感も高まる
実際、これほどの抵抗を見せるウクライナの背後に国際社会が結束したのは、プーチン大統領にとって大きな誤算だったというアメリカでの報道も増えている。
戦いが長引けば長引くほど経済制裁が効いてきて、ロシア国内の混乱もエスカレートする。そうすればロシア国民のプーチン大統領への反感が高まりその立場も危うくなるだろう。
しかしそのためには想像を超える大きな犠牲を払うことも彼らは分かっている。ユーギニーは言う。
「戦争が長引くほど市民が殺されていく。でもウクライナは絶対に屈服しない。このままでは泥沼になるだろう。経済制裁も含め国際社会の協力がもっと必要だ」
「こんなふうになるなんて思ってもいなかった」とため息をつくのは前出の留学生ダリアだ。
「私たちウクライナ人は誰も侵略したことがないのに、2014年のクリミア半島侵攻からずっと戦っている。今は心から平和が欲しい」
■「ロシアと戦っている日本を支援している」
最後に興味深かったのは、ウクライナ人のサーシャが日本の北方領土の話を始めたことだ。
「プーチンが狙う北の島々をめぐってロシアと戦っている日本を支援(=応援?)している。第2次世界大戦で失った島々を取り戻せるよう願っているよ」
一般のアメリカ人は日本の北方領土問題に関心もなければ知識もほとんどないので一瞬意外に感じたが、同じようにロシアとの歴史的問題を抱えた国としての親近感を持たれているという面では当然かもしれない。
今回は日本人からのウクライナへの支援の輪も広がっていると聞いている。
21世紀のグローバル世界はネットでつながり、特に若い世代の情報共有は量もスピードも20年前とは桁違いで、その分支援の方法も選択肢もずっと増えている。一方で情報がシャットアウトされ当局によってコントロールされた地域とでは、意識の分断が深刻だ。しかし集会に参加している若者たちからは、抗議の声を上げることでその分断が縮まっていくことに希望を見いだしているように感じられた。
最後にウクライナ人パウロの言葉で締めくくりたい。「日本も多くのサポートをしてくれていて本当にありがたい。これからも真実を伝え続けてほしい」
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ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。
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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)
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