医師・和田秀樹「コロナを2類→5類にしない愚」意固地な人々が日本を停滞させている
プレジデントオンライン / 2022年3月3日 13時15分
■コロナの重症化率は0.56%→0.04%、致死率は0.08%→0.01未満%
オミクロン株の感染はこれまでの変異株と比べ物にならない広がりを見せ、各地にまん延防止等重点措置が出されている。死者数も史上最高を記録する日も多い。
ただ、第5波での60歳未満の重症化率は0.56%だったが、今回の第6波では0.04%。また、致死率は0.08%から0%(完全に0ではないが0.01%未満)に下がっている。死者の大部分が重症者からの死でなくなり、地域によっては重症者が0人なのに複数の死者が出ることもある。
こうした数字を見るにつけ、私はこのオミクロン株が風邪に近づいているのではないかとの考えを持っている。
風邪のウイルスで肺炎になることはめったにないが、風邪をひくことで体力や免疫力が落ちて、細菌性の肺炎にななって亡くなることは寝たきりの高齢者などでは珍しくない。死因は肺炎と書かれるが、風邪をこじらせて亡くなったと言える状態だ。そうした事例を含め、風邪を契機に亡くなる方は少なくとも年平均2万人くらいいると私は推測している。
そのほか、脳卒中などで瀕死の状態の方が風邪をひいて、それをきっかけに容態が急激に悪化して亡くなることも少なくない。
日本は人口の29%以上が高齢者であり、要介護5(ほぼ完全な寝たきり状態)の高齢者が約60万人、90歳以上の高齢者も200万人以上いる。
年齢や病による体力の衰えもあり、ちょっとした風邪をこじらせて死にいたるリスクの人が極めて多いのだ。とすると、コロナウイルスがいくら風邪程度に弱毒化しても、感染力が強ければ、残念ながらかなりの数の死者が出てしまうことになる。
オミクロン株は無症状の人が多いため、自分では感染していると思わず検査を受けない人が非常に多いと私は推定している。さらに、PCR検査を受けて陽性になると自宅待機などで仕事を休むことが余儀なくされるので、感染が疑わしくても検査を受けない人も相当数いる。風邪に感染して無症状の人の数から類推するとおそらくは発表されている数の10倍近い感染者がいるだろう。
毎日、コロナ感染者数とともにコロナ死者数も発表されている。その際、例えば交通事故で亡くなった方でもPCR検査の結果、陽性と確認されれば「コロナ死」とカウントされている。強い感染力のオミクロン株の場合、風邪並みの毒性になっていても普通の病気や事故で亡くなる方(日本では1日4000人近くいる)の1割が感染していれば死者が1日数百人出てもおかしくないだろう。例えば、2月28日のコロナ死者数は238人だった。もちろん少ない数ではないが、そうした背景を考えれば日々の死者数に恐れおののくこともないのではないか。
少なくとも死者数でコロナを怖い病気と騒ぐのに疑問を呈する必要があるし、今のような規制が必要なのかも検討の余地はあるだろう。
■「高齢者は要介護の予防のために外にでて歩いて」と安全宣言すべき
こうした見解を述べると、「高齢者の命とコロナの危険性を軽じている」といった抗議や反論を受けるに違いない。
しかし、いっぽうでコロナでなくても、風邪やインフルエンザでも、あるいは風呂場で溺死するなど事故で亡くなる高齢者も、コロナで現在亡くなっている人数ぐらいはおり、高齢者の中で、死と隣り合わせの高齢者が何十万人もいるという事実は忘れてはならない。
さらに、「コロナは怖い」という空気を作り続けて、結果的に自粛を長期間強いてしまうことで、歩けなくなる高齢者や認知機能が大幅に落ちる高齢者がやはり百万人単位でいることも事実だ。
高齢者を大切にするという場合、どちらを取るかは真剣に考えないといけないだろう。
前々回の本欄では、コロナウイルスを感染症法の分類2類から5類への引き下げてもいいと書いた。だが、今くらいの感染力と毒性であるなら、風邪やインフルエンザと変わらず、むしろ「高齢者は要介護の予防のために外にでて歩いてください」というような、実質的な安全宣言を出すことさえ必要だと私は考えている。
でも、そうはならない。どうして日本の政治家や学者は、一度「怖い」と決めたら、イギリスのように臨機応変な対応をできないのか?
かつて近藤誠医師が、乳がん治療で乳房温存療法と旧来型の乳房を全摘する手術で5年生存率が変わらないという海外のデータを発表しても、それが標準治療(早期乳がんの場合)になるまでに15年も要している。その15年に無駄に乳房を全部摘出されたり、大胸筋まで取られて腕が上がらなくなったりした人は気の毒としか言いようがない。
また、イギリスやアメリカの大規模調査で、血糖値を正常より高めでコントロールしたほうが死亡率は低いというデータが出ても、血糖値のコントロール目標を日本で改めるのに6年もかかった。この間に血糖値を下げすぎた治療で亡くなった人が相当数いるはずだ。
というのは、アコード試験と言われる1万人規模の大規模調査では、血糖値を正常値にまで下げようとコントロールした群の死亡者のほうが、ゆるやかにコントロールする群と比べて、ずっと多かったので試験を3年半で中止しているのである。
以上のように、いくら犠牲が出ても、前と治療方針を変えようとしない医学界の体質が、そのままコロナの対処方針を変えようとしないことにつながっていると私には思えてならない。
旧来、信じられていた説に固執し、新しいデータが出ても変えようとしないことは、本連載のテーマである、頭のいい人の頭を悪くする態度というのは間違いないだろう。
■なぜ「2類を5類に変える」のに、そんなに躊躇するのか
そう思っていたら、ある週刊誌で、医師の匿名座談会というのが載っていた。
その中で「2類を5類に変えろという意見があるが、そんなことをしたら、また大きな変異が起こって強毒化した時に対処できなくなる」という発言があった。
確かにそのように考える人もいるだろう。
実際のところ、ウイルスというのはオミクロンになるまでに数回の変異しかしてこなかったわけでなく、毎日のように変異を繰り返しているが、その中で主流になるほど流行したのが、これまで5つあったというだけの話だ。
そして、主流になるほど流行する条件として、より感染力が強いこともさることながら宿主を殺さないように弱毒化する必要があるというのが原則だ。
だから、ものすごく強毒になるような変異はあり得なくはないが、それが大流行することは考えにくいというのが、私と意見交換をした複数のウイルス学者の一致した意見だった。
もちろん、これは仮説であり、強毒化に備えるに越したことはないだろう。
ただ、この雑誌でコメントしている医師の発言に日本人にありがちな頭の固さを感じたのも事実だ。日本の場合、一回、変更したらもとに戻れないという感覚が強すぎる気がする。
医療とはジャンルは異なるが、JRの民営化にしても、郵政民営化にしても、それによって不都合が生じたら、いつでも国営に戻せるように最初の10年は国が全株式をもつということが法律で決められている。
いったん国営にしたが逆戻りができないというのは、単なる思い込みである。イギリスにしてもフランスにしても国営と民営をいったりきたりしている会社はいくつもある。
ダメだったら戻れるからいろいろな政策が試せるはずなのに、そう思えないから改革が進まないというところもあるのではないか?
実験というのは、うまくいかなかったら組み直すのが当たり前の態度である。
トヨタのカイゼンにしても、机の高さを10センチ高くしたほうが、生産性が上がると思って試してみたらうまくいかなかったら、再び元に戻してから、新たなカイゼンを行うという。この柔軟性があるから夥しい数のカイゼンが行えたのだろう。
感染症法の分類などと言うものは、いくらでも変えられるものだ。
より強毒なインフルエンザがくればインフルエンザでも2類や3類にできる。だから、いったん5類にして、運悪くかなり強毒な変異がおこれば速やかに(この『速やか』ができないのが日本の弱点だが)2類に戻せばいいのだ。
それをいつまでもやらないから、経済は停滞し、弱毒化した割には一人の患者さんにものすごく手がかかるから医療もひっ迫する。
少なくとも、いったん決めたことはずっと守り続けないといけないという意固地な姿勢と、逆にいったん変えたら後戻りができないと思い込む柔軟性を欠いた発想は、頭のいい人の頭を悪くするものだと知ってほしい。
読者の皆様には日常生活においても、いろいろな決まりは変えられるし、変えてうまくいかなければもとに戻せばいいという柔軟な姿勢をもつことで、昨日より今日、今日より明日に賢くなっていただけると幸いである。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)
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