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「求められた抱っこには100%答えてほしい」東京大学名誉教授が子育て世代に教える"4つのコツ"

プレジデントオンライン / 2022年3月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

小さな子を育てるときは、なにに気をつければいいのか。東京大学名誉教授で日本保育学会前会長の汐見稔幸さんは「赤ちゃんを賢く育てるのは、実はとても簡単。4つの方針だけ守ればいい」という――。

※本稿は、『プレジデントベイビー 0歳からの知育大百科2021完全保存版』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■幼児期に育みたい「10の姿」

2018年4月から、幼児教育に関する指針が変わり、その中で「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」が示されました。

これは、変わりゆく社会に対応して「生きる力」を育むための教育改革の一環です。大学入試を始め、高校、中学、小学校に至るまで総合的にカリキュラムが見直されました。この教育改革に幼児期も無関係ではなく、新しいカリキュラムに変わった小学校にスムーズにつなげられるように、保育園・幼稚園・認定こども園が、共通の目標のもとに幼児教育に取り組んでいくことになりました。

~幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿~
●健康な心と体
●自立心
●協調性
●道徳性・規範意識の芽生え
●社会生活との関わり
●思考力の芽生え
●自然との関わり・生命尊重
●数量や図形、標識や文字などへの関心
●言葉による伝え合い 
●豊かな感性と表現

もともと保育園は児童福祉法における児童福祉施設、幼稚園は学校教育法における教育施設という位置づけで、同じようなことをしていても異なる理念のもとに運営されていました(認定こども園は両者を統合する施設で、認定こども園法のもとに運営)。しかし、今回は保育の目標である5領域の内容を共通化した上、さらに小学校ともつなげやすいように整理して10の目標が共通に定められた。これは大きな意味をもっています。

お子さんたちが生きるのは、変化が激しく先を読むのが困難な時代。新型コロナウイルス感染拡大のように、何が正解なのかはっきりわからない中で、世界の人たちと連携し問題解決に取り組まなければならない場面も増えてくるでしょう。このような時代だからこそ、保育者や教育者が一丸となって、共通の目標のもとに子どもを育てていこうとしているのです。

今後、幼児教育と小学校教育を一体のものとして実践する姿勢はどんどん強まるでしょう。

■4つの方針を守れば将来必要な力は全部つく

ぜひ、ご家庭でも「10の姿」を大切に子育てしてほしいのですが、親御さんからしてみたら、あれもこれもやらなくてはいけないように感じて焦ってしまうかもしれません。しかし、これは達成目標ではなく、成長の方向性を示したもの。少しずつでも書かれている姿が見えるようになっていればよい。あくまで成長の方向性を確認するものととらえてください。

大事なことは、この「10の姿」を意識して育てるのは、難しいことではないということです。僕がこれから提案する4つの方針さえ守っていれば、結果として全部育ちます。子育ては実はとてもシンプルで簡単なもの。理由とともに詳しく解説していきましょう。

■方針1 赤ちゃんの邪魔をしない

お父さん、お母さんに、まず、知っておいてほしいこと。それは、赤ちゃんは自分で自分を育てていくということです。もちろん、ミルクを与えたり、オムツを替えたりというお世話をしてもらえないと、生きていけません。でも、「能力を伸ばすために」と親がわざわざ何かをしてやる必要はない。むしろ、赤ちゃんが自分でやっていることの邪魔になることが多いのです。だから、第1方針は「赤ちゃんの邪魔をしない」になります。

2001年に小児神経学が専門の医師・小西行郎先生たちがつくった「日本赤ちゃん学会」という学会があります。ここでは、医師や看護師、心理学者などの「赤ちゃんの専門家」ばかりでなく、物理学者や数学者、ロボット研究者などが参加し、先入観にとらわれない研究が行われています。

■赤ちゃんは自分で脳を育てていく

ここでわかったことは、赤ちゃんは自ら動くことで自分の脳を育てていること。赤ちゃんはおなかの中で5、6週目から動き始めます。この時期の赤ちゃんは、まだ大脳がきちんとできていません。それなのに、動くのです。なぜ、動くのか。それは、動くことで脳がつくられるからだとわかってきました。動いて自分の体に触れることで自分の体を知り、動いてお母さんの子宮に触れることで、自分以外の存在を学んでいきます。このように赤ちゃんは胎児の時から、忙しく“学習”しています。

この仕組みは、生まれてからも継続されます。赤ちゃんは寝がえりして、お座りして、つかまり立ちができるようになると、やがて歩きだします。こうしたことができるようになるために、親が何か教えてあげたでしょうか? 何も教えていませんよね。赤ちゃんが自分で周りのものを見て、ときに模倣し、自分で体の動かし方を発見して、自分で練習し、自分でできるようになっていくのです。身の回りの環境についてもどんどん学んでいます。

幼児男の子、トイレでトイレット ペーパーを裂く
写真=iStock.com/tatyana_tomsickova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tatyana_tomsickova

ところが、こうした学習をときに邪魔してしまうのが親です。繰り返し、繰り返し、ティッシュを指でつまんで引っ張る練習をしているのに、「いたずらはやめてね」と取り上げられてしまう。障子に指をさしたら、穴が開くことを発見して、繰り返し確かめていたのに、「やめて?」と止められてしまう。それはいたずらなどではなく、赤ちゃんにとっては真剣な探索的な学習で、この時に10の姿にある「健康な心と体」や「自立心」「思考力の芽生え」などが育っています。「この子は賢い子になるわ」と笑顔で見守ってあげるのが正解なのです。

もっとも悪いのは、赤ちゃんが望んでもいない刺激を与え続けること。1960年代にソニーの創業者・井深大さんが「幼児開発協会」というものをつくり、刺激が赤ちゃんの脳を育てるとして、短いCMのような動画を繰り返し見せるなどといった実験的な教育を行ったことがありました。

その結果、頭が良くなるどころか、うまくコミュニケーションが取れないような赤ちゃんがたくさん育ってしまったのです。井深さんは幼児開発協会20周年に「本当に必要なのはまず『人間づくり』『心の教育』だと気づいた」と誤りを認めました。過去にこうした出来事があったことを、ぜひ、知っておいてほしいと思います。

■方針2 素敵な環境を用意する

赤ちゃんは、自分で自分を育てることをご紹介しました。でも、その時、身の回りに自分から働きかける物が何もないと、“学習”ができなくなってしまいます。

散らかるのがイヤだからと、ほとんど物を置かずに暮らしたりする人がいますが、赤ちゃんの発達という観点からいうとこれは良くありません。危険な物を置いておくのはいけませんが、赤ちゃんが「あれ何かな?」と触ってみたくなるような物がある魅力的な環境づくりは大切です。

赤ちゃんが、「あれ何かな?」と見つめたり、手で触ってみたりする行動は「探索行動」といいます。危険がない限り、この探索行動をできるだけ自由にできるようにすることが、「自立心」「思考力の芽生え」を伸ばすためのすてきな環境づくりになります。

子どもが興味を持ちそうな物を置いておいてやるのです。たとえば、赤ちゃんの目の前で紙をクチャクチャクチャって丸めます。赤ちゃんはその様子を一生懸命見つめて、音も聞くでしょう。それで丸い球ができたら、ポイって赤ちゃんのそばに投げておく。そうすると赤ちゃんは一生懸命、それを手でつかもうとします。こういうのを10個くらい置いておくと1時間は遊んでいますよ。おもちゃになるわけですね。

■「おもちゃ」「読み聞かせ」「外遊び」が知力体力を伸ばす

おもちゃは大事です。市販のものでも、手作りのものでもいいので、いろいろ用意してやりましょう。たとえば、食事の時にスプーンでコンコンとテーブルを叩いて音を楽しんでいるなら、太鼓や木琴を買ってやればいい。お母さんのパーカーのひもを一生懸命引っ張っていたら、ペットボトルに100円ショップで売っているプラスチック製のチェーンを入れて、引っ張り出すおもちゃを作ってやったらいい。この子は何をしたいのかな? 何を楽しんでいるのかな? って観察して、おもちゃを買ったり、作ったりしてみると、お父さん、お母さんも楽しいかもしれません。絵本もいろいろ買っておいて、興味を持ったら読んでやりましょう。「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」が育まれます。

そして、外に連れ出してやること。家の中にどんなにおもちゃや絵本を用意しても、街や自然の中で出合うバリエーションの豊かさにはかないません。人々の話し声、車の走行音、木の葉や花の色、鳥の鳴き声、等々。赤ちゃんが飽きることはありません。「自然との関わり・生命尊重」を学んでいくのです。

かわいいアジアの女の赤ちゃん
写真=iStock.com/BbenPhotographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BbenPhotographer

走り回れるようになったら、思う存分外遊びをさせましょう。ここでも子どもが自分でやりたいと思うことを、本当に危ないとき以外は邪魔せず、共感的に見守る。すると、子どもは走り回ったり、遊具に登ったり、飛び降りたり、自分なりに挑戦して、「健康な心と体」を自分で育てていきます。

小学生くらいになったら、山登りやキャンプに連れていきましょう。大雨に降られて大変な思いをしたり、満天の星を眺めたりして、「スゲー」と圧倒されたりする。その時、子どもの中で、理屈を超えた「豊かな感性と表現」が育っているのです。

■方針3 常に子どもの気持ちを確認する

次にお話しする方針は、できていないお父さん、お母さんが多いように思います。

子どもに「○○しなさい」というように、一方的に親の言うことを聞かせる対応はしてはいけないということです。何かするときには、必ず子どもの気持ちを確認してください。

オムツを替えるときに、赤ちゃんに「オムツを替えていい?」って聞いていますか? え、赤ちゃんはまだ話せないから、聞いていない? では、認知症になったおばあちゃんのオムツを替えるときに、言葉がわからないからと勝手に脱がせますか? やりませんよね。人間としての尊厳の問題です。生まれたばかりの赤ちゃんだって、一人の人間として意思を尊重されなくてはいけません。

まだ答えられないかもしれないけど、「オムツを替えていい?」と聞いてから替える。鼻水が出ていたら、「拭いていい?」と言って拭く。ご飯を食べさせるときも「食べる?」と聞く。そうやって気持ちを聞くということは、子どもを人として大切にするということ。そのように育てられた子は、周りの人にも同じようにできるようになります。思いやりや相手を大切にする心が育ち、「協同性」「社会生活との関わり」「言葉による伝え合い」が上手に築ける子になるでしょう。

母親と赤ちゃんのおむつ
写真=iStock.com/iryouchin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/iryouchin

気持ちを聞いても、子どもの思う通りにはさせてやれないこともあります。

そんなときは、気持ちをくみ取ってあげましょう。食事中にコップの水に手を突っ込んで、水遊びを始めてしまったら、「水遊び、楽しいよね。でも、テーブルをビシャビシャにしてしまうと、服がぬれてしまうし、周りの人にも迷惑がかかってしまうから、ご飯を食べ終わってから、お風呂でやろうか?」と代案を提案する。壁にクレヨンで落書きをしていたら、「お絵描き楽しいね。でも、壁紙に直接描いてしまうと、消すのが大変だから、壁に紙を貼ってあげるね。ここに描いてもらうのでもいい?」と聞く。制限はあるんだということを教えるのです。気持ちを理解していることが伝われば、子どもはそのことに満足して話を聞いてくれます。

■赤ちゃんの時から自立の練習をさせると後がラク

それでも聞いてくれないときは、親があきらめましょう。子どもは必ず成長します。いつかは理解して、自分からやめる日がきます。何度言ってもテーブルの上にのぼってしまう子も、中学生になったら、「のぼってみて」と頼んでもやらないはずです。

日本の子どもたちは、家では「片付けなさい」「勉強しなさい」「早く寝なさい」と言われ、学校でも「先生の話を静かに聞きなさい」と言われています。このように育てられているのに、社会に出て、急に「自分の考えを言いなさい」と言われてもどだい無理な話なのです。

赤ちゃんの時から、「自立心」を持って行動する練習をさせてやりましょう。小学生になったら、興味を持ったことを自分のやり方で学ばせる。何かに疑問を持ったら、「どうやって調べるといいと思う?」と聞いて、本人が決めたやり方で調べさせてみる。そうやって自分で決めた勉強は一生懸命やるし、責任を持ってやります。無理やりやらせるよりも効果的だし、親もラクなんですよ。

■方針4 求められた抱っこには100%答える

転んで痛い思いをしたり、犬にほえられて驚いたり、お友達におもちゃを取られて悔しい思いをしたり。赤ちゃんがつらい気持ちになったときには、決まってある行動をします。

それはお母さんを探して、飛びつくこと。しがみついて、抱っこを求めます。こういうときには、何があっても100パーセント応えてほしいのです。これが最後の大事な方針になります。

子どもがしがみついてきたら、抱き上げてやって「どうしたの?」「そうか、痛かったんだね」「痛いの痛いの飛んでいけ」と気持ちを受け止めてください。そうしてやると、子どもの脳の中にはオキシトシンといった幸せを感じるホルモンがいっぱい分泌されることがわかっています。やがてつらかった気持ちが消えていき、落ち着いて、子どもは「もういい」と離れて、また遊びに行けるようになるのです。

母と子のリラックス
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

発達心理学の言葉で、親子の間にできる信頼関係をアタッチメント「attachment(愛着)」と呼びます。この言葉は、「くっつく」という意味の「attach」を語源としています。

つまり、しがみつく行動を保証することが、アタッチメントという意味なのです。直接触れなくても、温かく見守る、つまり目で触れてやることでも同じような効果があることが分かっています。それだけで子どもは意欲的になり探索行動が増えるのです。

■生きる力の土台となる「古い脳」がしっかり育つ

こうしたことを繰り返すうちに、赤ちゃんはいちいちお母さんにしがみつかなくても、自分で自分を癒やすことができるようになります。何かあったら、お母さんが抱きしめてくれるから大丈夫。そう思って、自分の心の中にいる温かいお母さんに慰めてもらうことができるのです。このようになることを、発達心理学では「心の安全基地ができた」と表現します。

『プレジデントベイビー 0歳からの知育大百科2021完全保存版』(プレジデント社)
『プレジデントベイビー 0歳からの知育大百科2021完全保存版』(プレジデント社)

心の安全基地ができた子は、自分の感情を上手にコントロールすることができます。お母さんを通じて人への信頼感が育っているから、友達とケンカしてもすぐに仲直りして、楽しく遊ぶことができます。「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」につながります。

こうして育つ社会性や人への信頼、楽観性といった特性は、脳の奥にある大脳辺縁系や脳幹部がつかさどっているといわれています。これらの部位は進化の初期段階で獲得した“古い脳”で、生命維持のために安全や危険、好き嫌いを判別し、行動に影響を与えます。思考力や記憶力、計画性などをつかさどるのは、大脳新皮質という“新しい脳”ですが、これを働かせるエンジンを古い脳が担っているのです。

つまり、しがみつく行動を保証し、心の安全基地をしっかりつくることは、古い脳を健やかに育てることにつながり、やがて新しい脳である大脳新皮質を上手に使うことができる頭のいい子を育てることにつながります。世の中には、早く自立させようと、厳しく当たる親もいます。しかし、それは残念ながら逆効果です。生きる力の土台となる古い脳が脆弱だと、新しい脳もすくすく成長していくことはできません。しっかりした土台をつくるために、四つの方針を大事にしてみてください。

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汐見 稔幸(しおみ・としゆき)
白梅学園大学名誉学長、東京大学名誉教授
1947年、大阪府生まれ。東京大学教育学部卒、同大学院博士課程修了。専門は教育学、教育人間学、育児学。育児や保育を総合的な人間学と位置づけ、その総合化=学問化を自らの使命と考えている。主な著書に『小学生 学力を伸ばす 生きる力を育てる』『本当は怖い小学一年生』など多数。近著に『「天才」は学校で育たない』(ポプラ新書)、『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)がある。

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(白梅学園大学名誉学長、東京大学名誉教授 汐見 稔幸 構成=プレジデントFamily編集部)

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