「損をしてでも他人の足を引っ張りたい」日本人の"底意地の悪さ"が世界で突出している根本原因
プレジデントオンライン / 2022年3月6日 11時15分
※本稿は、加谷珪一『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■自殺による日本の若者の死亡率は独仏の2倍
日本は民主国家ですから、基本的にルールを守っていれば行動は自由なはずですが、日本人自身は自由であると感じていません。その理由は、社会あるいは世間の目というものがあり、それが自身の精神や行動を束縛しているからです。
世間の目が厳しく、ルールに従ってもバッシングされる可能性があるということになれば、極限まで追い込まれる人が出てきても不思議ではありません。
日本における10万人あたりの自殺者は18.5人となっており、英国(7.5人)、イタリア(6.6人)と比較するとかなり高い数値になっています(図表1)。ただ、フランス(13.8人)や米国(13.8人)もそれなりに高いですから、日本だけが突出して自殺が多いというわけではありません。
しかし、若者に目を転じてみると状況が変わってきます。
諸外国では15歳から34歳の世代における死因のトップは事故なのですが、何と日本では自殺がトップとなっています(図表2)。
■自殺の原因の多くはメンタルヘルス
これは日本だけに見られる特殊な現象であり、若い世代が、少なくとも精神的な面において過酷な状況にあることが推察されます。精神的に劣悪な状況に置かれていることは、自殺の原因を見れば分かります。自殺の原因を見ると、全体としてもっとも多いのは健康問題なのですが、このうちの半分以上がうつなどの精神的なものとなっているのです。
より細かい原因が分かったケースでは、男性有職者の場合、10代では職場の人間関係、20代では仕事疲れ、30代ではうつ病が多くなっています。女性有職者の場合には10代、20代、30代ともうつ病がトップです。無職者の場合には、男女ともにうつ病がトップですが、これは仕事がうまくいかない結果としてうつになり、自殺に至った可能性が高いと思われます。
結局のところ、職場の人間関係など労働環境が極めて大きな影響を与えていることが分かります。
社会の自由度が低く、不寛容である場合、相対的に自由な行動を望む若者に大きなシワ寄せが行くことは容易に想像ができます。自殺の動向からも日本の特殊性が浮かび上がっているといってよいでしょう。
■日本人は他人の足を引っ張りたがる
日本社会が不寛容であることは、学術的な調査研究でも明らかとなっています。大阪大学社会経済研究所の西條辰義教授(現高知工科大学経済・マネジメント学群特任教授)らの研究によると、被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人は米国人や中国人と比較して他人の足を引っ張る傾向が強いとの結果が得られたそうです。
この研究は被験者にゲームをしてもらい、公共財に投資をすると自分はその利益を得られる一方、公共財であることから相手にも利益があるという状況を想定し、被験者がどのような行動を取るのか確かめるというものです。
仮に相手が投資を行わなくても、自分が投資すれば自分は利益を得られますが、相手はその投資にタダ乗りしますから、何もせずに儲かることになります。こうした状況に遭遇した場合、被験者の行動は人によって大きく変わります。
相手がタダで利益を得ているといっても自分も儲かるので投資は行うという人と、相手がタダ乗りするのは許せないという感覚から、自分の利益が減っても、相手の利益をさらに減らそうとする人に分かれるのです。
■他人の足を引っ張る行動が組織の秩序を保つ
自分の利益が減っても相手を陥れようとする行為を学術的にはスパイト(悪意、意地悪)行動と呼びますが、似たような実験を日本人、米国人、中国人に対して実施し、その結果を比較したところ、相手の利益をさらに減らそうとするスパイト行動は日本人に特に顕著だったことが明らかとなりました。
日本人は他人の足を引っ張る傾向が強いということですが、この実験ではさらに興味深い現象も導き出されています。日本人は他国よりもスパイト行動が顕著なわけですが、この実験を繰り返していくと、他人の足を引っ張る行動が制裁として機能するようになり、徐々に協力的になっていくという結果が得られたのです。
日本人はよく他人の足を引っ張りますが、一方で、他人からの制裁を恐れ、過剰なまでに組織や上司に忠誠を誓うというケースもよく見られます。日本の長時間残業やサービス残業はその典型かもしれませんが、他人の足を引っ張る行動が、恐怖を生み出し、これが逆に組織の秩序をもたらしているわけです。
■声高な批判がビジネスの芽を摘んでしまう
一連の実験結果は身近な感覚としてよく理解できるのではないでしょうか。
日本では何か新しい技術やビジネスが誕生するたびに声高な批判が寄せられ、スムーズに事業を展開できないことがほとんどです。その間に他国が一気にノウハウを蓄積してしまい、結局は他国にお金を払ってその技術やサービスを利用しているケースはザラにあります。無人機(ドローン)の業界はまさにその典型といってよいでしょう。
ドローンの市場は中国と米国の独壇場となっており、日本メーカーは手も足も出ません。日本政府が保有するドローンを精査したところ、ほとんどが中国製だったという安全保障上、笑えない話もあります。実際、中国製のドローンは低価格で、しかも日本製より圧倒的に高性能ですから、安全保障上のリスクがあっても、各省庁は中国製を採用していたというのが現実なのです。
しかしドローンが登場してきた当初は、この分野で圧倒的なシェアを握るのは日本企業だと考えられてきました。しかし日本企業は既存の技術にあぐらをかき、積極的なソフトウェア開発を行いませんでした。
ドローンのような製品は、実際に飛ばして改良を重ねることが大事ですが、日本国内では「危険だ」「あんなものはオモチャだ」といった感情的な反発が強く、実際に空を飛ばす実験は事実上、禁止された状態が長く続きました。この間に中国企業はあっという間に実力を蓄え、今では圧倒的なナンバーワンとなっています。
■日本人はテクノロジーを信じる割合も最低レベル
新しい技術に対して声高な批判が寄せられる意外な理由として考えられるのは、テクノロジーがもたらす利益です。一般的に新しいテクノロジーが普及すると、その技術を持っている人は多くの利益を得られます。つまり新しいテクノロジーが普及するたびに、それを得意とする誰かが大きな利益を得ているわけです。
日本人が他人の足を引っ張る傾向が顕著なのだとすると、新しいテクノロジーの普及で自身の生活が便利になったとしても、それ以上に儲かる人がいるのは許せないという感情が働く可能性が否定できません。結果として、新しいものは普及しない方がよいと考える人が一定数出てきても不思議ではないでしょう。
米国の調査会社エデルマンが行った信頼度調査によると、日本人の中でテクノロジーを信頼する人の割合は66%となっており、26カ国中最低レベルでした。
ランキングの上位には中国やインドネシアなど新興国が目立ちます。新興国は経済成長が著しくテクノロジーの恩恵を感じやすい状況にあります。一方、米国やフランス、ドイツ、英国といった先進国は下位グループに入っていますから、日本の順位が相対的に低いことは特に問題ではありません。
しかし日本は多くの人が自国のことを技術大国であると誇りに感じており、米国や英国に対して、もの作りを軽視し、消費にしか興味がない国だとして批判する風潮も根強く残っています。
こうした国であるにもかかわらず、テクノロジーに対する信頼度が最下位というのは不思議な感じがしますが、新しいテクノロジー=他人の利益と考えると、辻褄が合うのではないでしょうか。
■お金の欲求が強いからこそ、他人の成功を妬む
日本社会では、テクノロジー分野に限らず経済的な成功体験を披露することは、場合によっては大きな批判を浴びます。出る杭は打たれるということわざからも分かるように、日本では成功者は基本的に妬まれますから、自身の成功体験を積極的に他人に語りたがりません。このため成功のロールモデルが共有しにくく、これがビジネスチャンスを狭めています。しかしながら、成功者が妬まれ、足を引っ張られるということは、実はお金に対する欲求が強いことの裏返しでもあります。
投資信託などのファンドを運用するフィデリティ投信が、英国、ドイツ、カナダ、中国、日本などを対象に行った調査によると、「経済的に安定していないと幸せではない」と回答した日本人の割合は73%と、主要国では断トツでした。英国は45%、ドイツも45%、カナダは44%、中国は38%ですから、日本の数字は突出しています(図表3)。
所得水準と幸福感について尋ねた別の調査でも、日本は所得が高い人と低い人の幸福感のギャップが大きいという結果が得られています。日本はお金についてオープンに語ることを嫌う風潮がありますが、この調査結果によると本音ではお金がないと幸せになれないと感じていることになります。そして、お金がないと幸福ではないと考える傾向が強いからこそ、お金を持っている人を妬み、足を引っ張っている可能性が高いとの推測が成り立ちます。
ちなみにこの調査では、「自分の人生が『お金にコントロールされている』のか」について問う項目がありますが、日本人の中で「自分がお金をコントロールしている」と回答した人の比率は64%しかありませんでした。この質問に対しては、英国が69%、ドイツが79%、カナダが72%、中国が75%という数字でしたから、日本人はもっともお金に振り回されていると感じていることになります。
■日本人がお金に振り回されるのは人生の選択肢が少ないから
日本は決して貧しい国ではありませんが、なぜお金に振り回されると感じるのでしょうか。このアンケートではそこまでは解明できていませんが、本書を読んでいただいた方はすでにピンと来ているのではないでしょうか。この連載の第1回(「幸福度ランキング世界56位」日本の若者が幸せになれない明確な理由)で紹介した幸福度ランキングとの関連性です。
国連の幸福度ランキングでは、世界における日本の自由度と寛容さのランキングが著しく低いという結果でしたが、この調査でも同じことが言えると思います。日本人は人生における選択肢が少なく、それがお金に振り回される生活の原因にもなっています。そして、一連の社会環境が寛容さを失わせ、他人の足を引っ張るという行為を助長しているのかもしれません。近年、日本において急激に高まっている極端な自己責任論も似たような文脈で捉えることができそうです。
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経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。
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(経済評論家 加谷 珪一)
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