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中国の家電ベンチャー「シャオミ」がカスタマーサポートの社員に"業界平均より3割高い給料"を払うワケ

プレジデントオンライン / 2022年3月22日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jittawit.21

カスタマーサービスはなぜ重要なのか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「相談窓口は、アフターマーケティングの一つといえる。顧客の不満を取り除き、中長期的な関係を良好に築くことが大切だ」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、永井竜之介『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)の一部を再編集したものです。

■様々なメリットを生み出せる「アフターマーケティング」

顧客との関係作りにおいて、欠かすことのできない重要な役割を担うのが「アフターマーケティング」である。これは商品・サービスを提供した後に行うマーケティング活動のことだ。具体的には、顧客からの相談・苦情への対応や、修理・メンテナンスのアフターサービスなどが該当する。従来の問い合わせ窓口やコールセンターに加え、企業と顧客が交流できるブランドのコミュニティ・サイト、アプリ、LINEアカウントなど、アフターマーケティングの場はデジタル化によって増え続けている。

効果的なアフターマーケティングの実施は、様々なメリットを生み出すことができる。いわば、顧客が自分からニーズを伝えてくれる場であり、そのニーズに応えることで、「また買ってみよう」と思わせてリピーターにしたり、良いクチコミを生み出したりすることができる。また、ごく一部の言いがかりのような苦情に振り回されることなく、顧客の真のニーズを拾い上げることができれば、プロダクトの改善や新しいアイデアを発見することもできる。

■アフターマーケティングにお金をかけるAirbnb

こうしたアフターマーケティングは、プロダクトの差別化の切り札にもなる。プロダクトの機能やデザインで差別化することが難しい分野ほど、優れたアフターマーケティングによって差別化できることが重要になる。

また、プロダクトそのものや、提供するプロセス、使用方法などにおいて失敗があったとしても、アフターマーケティングによって挽回することができる(サービス・リカバリー)。ビジネスの各プロセスにおいて、失敗を0にすることは容易ではないため、「いかに挽回できるアフターマーケティングを設計・実行できるか」は極めて重要な課題となる。

部屋を貸したい消費者と借りたい消費者をマッチングさせる新たな民泊サービスを世界中に広めたアメリカのベンチャー企業・Airbnbは、アフターマーケティングに多額の費用をかけているという。民泊サービスのプロセスで不快な思いやトラブルを経験した「泊める側」と「泊まる側」の両方に対して、航空運賃・宿泊費・修繕費・カウンセリング費用などを負担している。不満を持った利用者を放置してしまうと、悪いクチコミが増え、ブランドイメージが悪化し、利用者が減少する。こうした負の連鎖が生まれてしまうため、不満を早期に解消する重要性は高い。

■「顧客と友人になる」中国家電ベンチャーの相談窓口

アフターマーケティングの1つである相談窓口は、あまり重視されず、ただ対応の数をこなせば良いように考えられることがある。相談対応業務のKPI(評価指標)として、対応した件数、問い合わせ電話・メールへの応答率、30秒以内に電話を受けた割合などが採用されやすい。これでは、肝心の「顧客との関係作り」や満足度は測りにくいこともあり、なかなか重視されにくい。しかし、アフターマーケティングの価値は、顧客の不満を取り除き、中長期的な関係を良好に築いていくことにこそある。

中国の家電ベンチャー企業・シャオミは、直営のカスタマーサービスセンター「シャオミの家」の相談対応において、従来のKPIをあえて採用せず、「顧客と友人になる」という一点のみを重視している。「相談窓口は、レストランにおける接客と同じ役割である」と考え、友人相手のようにリラックスした雰囲気で相談に乗る方針を徹底している。

レストランで働く男性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

シャオミはもともと、「顧客と友人になる」を企業理念として掲げることで、成長を続けてきた。顧客と友人関係を結ぶことで、友人と共に優れたプロダクトを生み出し、その評判を友人たちにクチコミで広めてもらう、という好循環を実現させている。そのように開発・販売・プロモーションを展開することで、「手が届く」「自分だけのものになる」「共に成長していく」ブランドとして受け入れられてきた。

■カスタマーサービス担当者の給与は業界平均より2~3割高い

そのシャオミの特徴の1つが、すべての社員に対して、カスタマーサービス担当者として顧客と友人関係を結び、顧客と一緒に楽しむ価値観を持つように求めていることだ。「顧客の相手は、カスタマーサービスに任せておけば良い」などと考えがちな新入・転職してきた社員とは、時間をかけて話し合い、そうした誤った考えを解消させる。

また、広告よりもカスタマーサービスにコストをかけた方が有意義であると考え、「シャオミの家」では、担当者に業界平均よりも2~3割高い給与を支払うようにしている。当初は、人手が足らずに社員40%・外注60%でサービスを運営していたが、社員75%・外注25%へ社員比率を引き上げ、早期に社員100%を実現させる方針を取っている。

■鶏から骨を取り外すロボット「トリダス」

アフターマーケティングを通じて、顧客から「頼られる存在」になることで、新しいビジネスのチャンスを掴むこともできる。顧客からの信頼を得て、本音を言ってもらえる関係が築ければ、「現在のビジネスを改善するヒント」や「次のビジネスを新たに生み出すヒント」を見つけることができるからだ。

「本当はどう思っているのか」「どれくらい満足しているのか」「どこに不満を感じているのか」といった顧客の本音は、企業が喉から手が出るほど欲しい情報だ。それを、顧客側から自発的に教えてくれる関係を築くことには、大きな価値がある。

業務用冷凍・冷蔵装置の分野で国内トップシェアの前川製作所は、アフターマーケティングで拾い上げた顧客のニーズから、まったく新しいプロダクトを開発し、市場を開拓することに成功した。それが、全自動脱骨ロボット「トリダス」だ。

紙の上に載った生の鶏肉
写真=iStock.com/LauriPatterson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LauriPatterson

■顧客からの一言で、開発を再開した

トリダスが開発される以前、鶏の骨付きもも肉から骨を取り外す作業は、すべて手作業で行われていた。この作業は重労働で、長時間続けていると手首を痛めてしまうことが作業員の長年の悩みになっていたという。前川製作所の営業担当者は、自社にとっての最重要顧客である食品加工工場に足を運び、納入した製品の確認と共に、雑談の中から、この脱骨作業の悩みを拾い上げた。食品加工ロボットの開発・製造は同社にとって未知の領域だったが、「顧客の困りごとを解決するためにやってみたい」「自動化できれば、世界初のロボットになれる」という思いから、開発をスタートさせた。

担当者自身が鶏肉加工工場で解体作業を観察・経験し、4年がかりで1号機を開発したが、まだ機能に制限が多く、実用化のめどが立たないことから一度中断された。数年後、顧客からの「あの脱骨ロボットはどうなった?」という声に応じて、開発が再開されると、再び担当者が工場に通い、「肉と骨を切るのではなく、肉と骨を引きはがせば上手くいく」というノウハウを発見した。

このノウハウを基に改めて開発されたものが「トリダス」で、高い評価を獲得し、新たな市場を開拓することに成功した。トリダスは、開発された後も技術の改良を続け、プロダクトとしての価値を高め続けている。それによって世界の市場を開拓していき、新たな主力ビジネスとして成長を遂げている。

■顧客を仲間として考える「共創マーケティング」

顧客との関係作りを前提にしたマーケティングとして、「共創マーケティング」がある。共創マーケティングとは、顧客を仲間(パートナー)として考え、プロダクトやブランドを企業と顧客が共に創り上げていくものである。

永井竜之介『マーケティングの鬼100則』(明日香出版社)
永井竜之介『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)

従来、顧客は「ターゲット」として狙うもの、あるいは「神様」のように崇めるものとされてきた。それに対して、共創マーケティングでは、「企業の提案に、仲間である顧客が反応し、さらに企業が再提案する」「仲間のアイデアに、企業が反応して開発し、仲間が改めて評価する」といった循環するプロセスを通じて、新たな価値を生み出していく。共創マーケティングの本質は、「現在の仲間」と繋がり、現在進行形で寄り添っていくことにある。

現在の仲間が「あったら良いのに」と内心で思っているニーズを拾い上げて、そのニーズを満たすプロダクトを作って届ける。そのためにはまず、「仲間」である顧客(消費者や企業)が「何に困っているのか」「何を望んでいるのか」というニーズを発見しなければならない。そうした顧客ニーズを探して見つけ、プロダクトの開発や改良に役立てる役割は、アンケートやインタビューなどのリサーチ、もしくはユーザーの生の声が寄せられるアフターマーケティングが担ってきた。

■サイトやSNSを通じて顧客ニーズを拾い上げる

共創マーケティングでは、既存の方法に加えて、コミュニティ・サイトやSNSを使うことで顧客ニーズを拾い上げていく。サイトやSNSを通じて、お互いに理解を深めていくことで、企業と顧客は関係を築き、共に革新的な価値を生み出していくことができる。

2007年に業績不振を経験したスターバックスは、再生に向けた取り組みの1つとして「顧客との心の絆を取り戻す」ことを掲げた。その手段となったのがコミュニティ・サイトを使った共創マーケティングだった。コミュニティ・サイト「My Starbucks Idea」を開設し、消費者から「あったら良いと思う」商品やサービスの希望アイデアを募集した。コミュニティには、7年間で19万件ものアイデアが寄せられ、その中から新メニューや、商品を割引する新サービスなど、300を超える商品・サービスが実現された。スターバックスは顧客との心の絆を取り戻し、再成長を続けている。

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、同大学大学院商学研究科修士課程修了の後、博士後期課程へ進学。同大学商学学術院総合研究所助手、高千穂大学商学部助教を経て2018年より現職。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。日本と中国を生活拠点として、両国のビジネス、ライフスタイル、教育等に精通し、日中の比較分析を専門的に進めている。主な著書に、『リープ・マーケティング―中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)がある。

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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

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