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「言葉で説明する」よりも効果的…"不思議と部下が育つ上司"がやっている新人指導法

プレジデントオンライン / 2022年3月22日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

新人を能動的な部下に育てるには、どうすればいいのか。『自分の頭で考えて動く部下の育て方』(文響社)の著者である篠原信さんは「『グイグイ引っ張るリーダーになろう』などと思うかもしれないが、まずは新人をよく観察することが大切だ」という――。

■「部下の姿」が見えているか

1.部下をよく観察し、仮説を立てる

新人の指導を担当することになったとき、多くの人が陥りがちなのは、「部下をグイグイ引っ張っていくリーダーになろう」とか、「部下から『ついていきたい!』と思われるリーダーになろう」とか、欲が出ること。そのために、毅然(きぜん)と振る舞おうとか、仕事がデキるところをみせつけようとか、気の利いた言葉を話してやろうとか、分からないことがあったら何でも親切に教えてやろう、とか、思うかもしれない。

これらの思いは、部下によかれと考えてのことだというのは分かるのだけれど、一つ大きな問題がある。「自分がどう振る舞うか、新人から自分がどう見えるかばかり考えて、部下が見えていない」こと。

あなたも覚えがあるはず。やる気にあふれた人なんだけれど、どうも空回りしている先輩や上司。そうした人は、部下から自分がどう見えているかが気になって、部下がいまどんな状態なのか、どんな気持ちでいるのかを落ち着いて見ることができていない。そのため、やることなすこと、かける言葉も上滑りしてしまう。

■自分の見え方は忘れて、新人をよく観察する

自分が新人や部下からどう見えるかなんて、忘れてしまうこと。新人をどう指導すべきか、事前に勉強することは無駄にならないからやっておいていいけれど、それはあくまで部下を観察するための「目のつけどころ」を教えてもらえるだけと考え、新人を前にしたら、事前に勉強したこともいったん全部忘れ、虚心坦懐(きょしんたんかい)に新人を観察すること。そして新人が今、どんな状況に置かれ、どんな気持ちでいるか、「仮説」を立てること。

そのうえで、次に教えるべきことと、新人の現在の状態の間に、どんな架け橋となる言葉をかけたらよいのか、「仮説」を立てて試してみること。仮説通りうまくいったかどうかは、新人の様子を観察して見極めること。自分がどう見えるかなんかは忘れて、新人をよく観察する。これがまずは、新人教育する人の基本の心構えではないかと思う。

■言葉で動かそうとすると、新人はパンクする

2.言葉で動かさず、スモールステップで

人間ってヘタに言葉が通じるものだから、言葉で人を動かそうとしてしまう。新人指導でも、言葉で教えよう、動かそうとしてしまう。しかし自分でも覚えがあるはず。初めて飛び込む世界で、初めて聞く言葉だらけだと、ついていくのが大変。すぐについていけなくなり、思考停止に陥ってしまう。

新人がついていけなくなり、思考停止になったのに気づかず、どんどん言葉をかけてしまうと、新人はついていくことを諦め、完全に思考停止してしまう。すると、指導に慣れていない人は「今年の新人は理解力や学力がない」、「やる気に乏しい」と苛立ち、空回りに陥りがち。

新人は新しい職場で頑張ろう、と気負っている。うまくやりたいと強く願っているから、本来、やる気がある。けれど、ついていけないものはついていけない。言葉で人を動かそうとすると、言葉が多すぎて新人はパンクする。

ビジネス会議
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

■見本を見せて、実際に手を動かしてもらうのがよい

新人を指導するには、その場で見本を見せればすぐマネできる、小さな工程(スモールステップ)に分割すること。見本を見せて、新人にやってみてもらい、無事できたら、次の工程の見本を見せる。これを繰り返した後、目の前で一連の作業を通しでやってもらう。一度はうまくやったのだから、落ち着いてやればできる。「途中で詰まっても焦らなくていいから、さっきやったのを思い出しながらやってごらん」と声をかけ、安心させる。迷っている様子でも変に言葉をかけず、自分で思い出しながらやってもらう。

ところどころ詰まりながらもなんとかやりおおせたら、「オーケー、じゃあ、今の一連の作業を繰り返してやっておいて」と言って、その場を立ち去る。こうすることで、上司であるあなたの目を気にせず、目の前の作業に集中して繰り返すことができる。作業に集中できるから、なぜこの作業が必要なのかも理解できるし、だんだんと上達する。10回もこなしたら、そのルーチンワークは身についてしまう。

新人を指導する際は、あまりたくさんの言葉で説明しようとせず、誰でも目の前で見本さえ見せてもらえばその場でマネできるくらいの工程に作業を分割して、一つ一つ、実際に手を動かしてやってみてもらうとよい。

■「新人はやる気がない」は本当なのか

3.誰もが働くこと、学ぶことが好き

大量の言葉(説明)を新人にぶつけて、新人を思考停止に陥らせたり、逆に教えなさ過ぎて立ちすくませたりすると、新人は当然、前に進めなくなる。そうした状態にしておいて「今年の新人はやる気がない」、「向上心が足りない」、「こちらの言うことを理解するだけの学力、理解力が足りない」と愚痴るシーンは、いろんな会社で起きていることらしい。いくら言葉を費やしても部下が動こうとしないことに業を煮やし、「人間は(俺とは違って)働きたくない生き物、学ぶことがキライな生き物なのだ」と考えてしまう人も、少なくないように感じる。

しかし私は違う見方をしている。人間は誰しも、学ぶことが大好き、働くことが大好き。赤ちゃんを見ていれば、立つという危険な行為を何度も繰り返し、達成しようとする。言葉も理解できないうちから言葉を話そうとする。「できない」を「できる」に変えようという意欲を持ち、「できる」に変えることができた時、強い達成感を味わう。それは、大人になっても同じ。

桜と若いサラリーマン
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

■「できる」が増えれば、新人は能動的になる

人を言葉で動かそうとするのではなく、自らの意欲で能動的に動くように、環境や言葉かけを設計すること。上述したように、すぐにマネができるようにスモールステップで見本を見せてもらえば、初めてのことでもやってみせることができる。そのとき、新人は新しいことが一つできるようになった達成感を覚えるはず。「できる」がどんどん増えていくと、楽しくなってきて、どんどん能動的になる。

能動的に学ぶ姿勢ができあがっていくよう、容易に達成できるスモールステップに、上司のあなたが作業を分解すること。そして一連の作業を無事やりおおせるようになった時、上司のあなたが「よし」と言うだけで、新人は強い達成感を覚えるはず。そうした達成感を与えられるかどうかは、指導内容をスモールステップに分解できるかどうかにかかっている。

■新人指導で大切なのは「能動感」

4.受動感ではなく能動感

「これはお前の仕事なんだから、徹夜してでもやり通せよ」と言われてやる仕事は、とてつもなくイヤな気持ちになる。なるべくゆっくり進めて残業代でもせしめてやろうか、と考えても不思議ではない。

他方、自分で企画した仕事で徹夜する場合は、「オレ、ここ3日くらいほぼ寝てない」と自慢したくなる。徹夜が苦にならず、楽しい。この差はいったい何なのだろう?

人間はどうやら、他人から先回りされてあれをやれ、これをやれと言われると、私の言葉で言う「受動感」が強まり、嫌気がさすらしい。しかし自ら能動的に動き、物事が変わっていくのを見るのはとても楽しい。自ら動くことで何らかの変化を起こせたと実感できる「能動感」を味わうと、それが勉強であろうが仕事であろうが、楽しくなる。

ならば、新人指導においても、いかに「能動感」を味わってもらうかが重要になる。すべてあなたが教えてしまうと、新人は能動的に動く部分がなくなり、「受動感」ばかりが募り、つまらなくなる。でももしあなたが「この作業、どうしてこうすると思う?」とか、「このボタンは押しちゃいけないのだけれど、なぜだと思う?」と問いかけると、新人は能動的に考え、答えざるを得なくなる。

大きな岩を受けとめるサラリーマン
写真=iStock.com/Nastco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nastco

■部下に「訊く」ことを意識する

新人は間違ったことを言っちゃいけないと思っていることが多く、すぐに「わかりません」と答えるかもしれない。その時、「そりゃ分からなくて当然、新人なんだから。なんでもいいから、もしかしてこれかも? と思いつくもの、言ってみて」と伝え、何を言っても軽く驚き、面白がってみる。すると、部下は何を言ってもバカにされず、自分が能動的に考え、答えようとすると上司が楽しんでくれることが分かる。すると、能動性が増す。その結果、能動感を味わいながら学ぶことができる。

部下が能動的に行動したり言葉を発したりしたとき、上司のあなたが、たとえ的外れでも「ほう! 面白い発想するね。他に思いつくことある?」と、否定せずに前向きに捉えるなら、新人の能動感が強まり、ますます能動的、自発的になる。

新人指導の間、どれだけ「能動感」を感じてもらえるかが、その後の成長を大きく左右する。能動的に動き、発言するなら、上司は少なくとも面白がってくれる、ということが分かれば安心し、能動性、自発性を身につけていく。これこそが、新人指導でいちばん大切なことかもしれない。

そのためには、教えることにあまり重心を置かず、部下に「訊く」(質問し、部下の話を聞き、面白がる)ことを意識したほうがよい。あなたが新人に「与える」ばかりにならないように。むしろ、新人があなたに、能動的に何かの言葉を発したり、働きかけたりするチャンスをたくさん与えること。あなたは新人に満たしてもらう「空虚」になること。

■自分は空っぽになり、部下の能動性を引き出す

昔から、優れた人物のことを大器と呼んだりする。それは、部下の能動性を引き出すために、自分は空っぽの器になっているリーダーのことを指している。

グイグイ引っ張るリーダー、部下からついていきたいと思われるリーダーは、器というより、槍。そうしたリーダーもアリはアリだが、どうしたわけか部下が育たないようだ。部下はリーダーについていくだけの受動的な存在になってしまうからだろう。

新人を育てたいなら、むしろ与えることを意識するより、部下から与えられる機会を増やすこと。新人に空虚を満たしてもらうこと。そのためには、新人の工夫、努力、苦労に驚き、面白がること。たとえ新人の言うことが見当違いのものであっても、能動的に工夫しようとしたものであれば、その能動性に驚き、面白がること。見当違いの部分は、スモールステップで少しずつ修正をしていけばよいだけのこと。

こうして基本的な技能を身につけつつ、能動性が育まれた新人指導ができたなら、会社にとって重要な人材に育ってくれるように思う。

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篠原 信(しのはら・まこと)
農業研究者
学生時代に塾を主宰。不登校や学習困難児などを指導。部下指導や子育てについてツイッターでつぶやく。著書に『自分の頭で考えて動く部下の育て方』(文響社)『子どもの地頭とやる気が育つおもしろい方法』(朝日新聞出版)『ひらめかない人のためのイノベーションの技法』(実務教育出版)『思考の枠を超える』(日本実業出版社)。

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(農業研究者 篠原 信)

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