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「売上高は過去最高に」くら寿司が名物ガチャ"ビッくらポン!"に異常な情熱を傾ける本当の理由

プレジデントオンライン / 2022年3月14日 17時15分

店内の様子。「抗菌寿司カバー鮮度くん」つきの皿が流れる。大手回転寿司チェーンで寿司カバーがあるのはくら寿司だけ。 - 筆者撮影

回転すしチェーン「くら寿司」では、5皿ごとに1回、景品の当たるガチャを遊ぶことができる。この「ビッくらポン!」の景品にはかなり力を入れているという。その理由には「業界のイノベーター」としての歴史があった――。

■スマホを使えばサイドメニューも対象に

回転すし業界売上2位のくら寿司の業績が好調だ。2021年10月期の国内売上高は1315億円で過去最高を更新した。好調の背景には感染症対策へのいち早い対応など、さまざまな要因があるが、そのひとつに「ビッくらポン!」がある。

くら寿司のテーブルには、食べ終えた皿を入れる投入口がある。「ビッくらポン!」は5皿につき1回遊べるゲームで、当たりが出ると景品がもらえる。これが集客に貢献している。最近では、人気アニメ『鬼滅の刃』とのコラボ企画が話題を集めた。

ゲームを遊ぶには皿を投入する必要があるので、これまではサイドメニューやデザート、ドリンクは対象外だった。それが21年12月に全店導入が完了したスマホアプリ「スマホdeくら」を使えば、皿の枚数だけではなく、お皿以外の商品でも550円(税込)ごとに1回抽選を受けられるようになった。

くら寿司広報部の小山祐一郎さんは「回転寿司チェーンでサイドメニューの拡充を進めたのがくら寿司。サイドメニュー拡充に伴うお客様のニーズの高まりに対応できるように努めた」と話す。

今年2月、筆者は家族を連れて店舗を訪ねて、「スマホdeくら」を試してみた。筆者がスマホから注文したサイドメニューは「完熟マンゴー」(税込330円)と「なめらか豆乳アイス」(税込200円)と「胡麻香る担々麺」(税込450円)の3品。テーブルに商品が届くとスマホ画面の右下のゲージに980円が加算され、ビッくらポン! 1回分になった。この日、家族3人で食べた皿の枚数は合計25枚。投入口からは5回分だが、スマホアプリの1回分が加わり、あわせて6回抽選した。

広報部の小山さんは「当選確率を公開すると楽しみが減ってしまうので、非公開にしています。「一定金額以上の会計でプレゼント」という手法もありますが、当たりはずれがあるのも楽しんで頂ける理由の一つと思います」と話す。

■「水回収システム」開発のきっかけは“女性の乙女心”

「ビッくらポン!」の導入は2000年12月から。当時はタッチパネル導入前で、ルーレット式のアナログなゲームだったという。その4年前には、レーン下にある水路でテーブルから洗い場まで皿を運ぶ「水回収システム」を導入している。「ビッくらポン!」はそのユニークな仕組みに楽しさを付加するためのゲームだったという。

では、そもそも「水回収システム」はなぜ必要だったのか。それは創業者である田中邦彦社長が「ファミレスのような家族団らんで楽しめる店にしたい」と考えたからだった。

創業当初のくら寿司は、すし職人がレーンの中にいた。職人の目が気になるため、家族連れや女性客が気軽に入れる雰囲気ではなかったという。一方、当時はファミリーレストランの全盛期。田中社長はボックス席を主体にすしを運ぶレーンを直線型に配置し、厨房と客席を分けることで、雰囲気を一変させた。

「当時の女性の心理としては、テーブルの上にたくさんの皿を積み上げるのはちょっと恥ずかしいものでした。いかにして皿を隠すか考えた結果、ポケットに投入した皿の枚数をデジタルでカウントする方法を思いついたそうです」(小山さん)

水回収システムの投入口。すぐに水に浸されるので、シャリなどが皿にこびりつかなくなるという店側の利点も。
筆者撮影
水回収システムの投入口。すぐに水に浸されるので、シャリなどが皿にこびりつかなくなるという店側の利点も。 - 筆者撮影

■日本初のシステムを次々と開発

開発当初、業者が提案してきたのは、水流ではなく、ベルトコンベアだった。しかし、ベルトだと皿がひっくり返ったとき汚れる可能性があり、清掃の手間が増えてしまう。そこで、社内で知恵を絞って考えた結果、独自の「水回収システム」が生まれた。

「田中社長がよくいっているのは、まず自分たちで考え、実行することが大事だということ。固定観念にとらわれない自由な発想があるからこそ、他社にはまねできない独自の設備が生まれ、いまも進化が続いています」(小山さん)

ビッくらポン! も含め、くら寿司が独自に開発したシステムは業界の進化への影響も大きい。IoTなど科学的な運営の導入や、「抗菌寿司カバー鮮度くん」といった業界初や日本初の他社に先駆けた設備が多い。回転すし業界は、外食産業でもいち早く自動化や省力化が進んでいるが、それを引っ張ってきた業界のイノベーターがくら寿司なのだ。

■”鬼滅“効果で平日の売上が過去最高に

ビッくらポン! は、5皿投入すると画面にくら寿司のマスコットキャラクター「むてん丸」の動画が流れる。実はこの動画はほぼ自前で製作されている。絵が得意な現場の社員が「むてん丸」のキャラクターデザインを担当し、知り合いのアニメーターに頼んで動画をつくった。同社は最先端のテクノロジーを駆使したシステム開発に力を入れているが、制作の現場ではまずは自分たちで考えて実行してみることを大切にしているというわけだ。

人気コンテンツとのコラボにも力を入れている。2020年6月にはテレビアニメ『鬼滅の刃』とのコラボ販促キャンペーンで大成功した。初日の全店売上高は平日として過去最高を記録した。

■ビッくらポン! の景品が来店動機にも

このときのキャンペーンでは、アプリ会員やSNSフォロワーを対象に、税込2000円以上会計で限定オリジナルクリアファイルを配布。20年9月、10月に行った第2弾では、限定コラボメニューも登場した。「ビッくらポン!」で人気キャラクターのラバーアクセサリーや缶バッジ、ぬいぐるみセット、マフラータオルが当たるとあって販促効果が表れた。

広報部の小山さんは「コラボ企画は第1弾開始の1年前から進めていましたが、ちょうどコロナ禍のステイホームの影響もあって『鬼滅の刃』ファンが増え、大人も含めて人気が爆発しました」と話す。その後、『鬼滅の刃』のコラボキャンペーンは第4弾まで続いた。

今年1月7日からは、LINE FRIENDSの人気キャラクターブランド「BT21」とタイアップしたキャンペーンを開催。限定恵方巻が登場したほか、「ビッくらポン!」の景品として「BT21 BABY」のキャラクターをあしらった缶バッチやフィギュア、ラバーマスコットを用意した。『鬼滅の刃』と「BT21」の共通点は、子供から大人まで幅広い世代に支持されるコンテンツであること。ビッくらポン! の景品は来店動機にもつながるため、担当者はアンテナをより高く張ってコラボ先を探しているという。

■進化版の開発で集客力を強化

同社は、21年12月、グローバル旗艦店の3号店としてZ世代向けのコンセプト店舗「くら寿司原宿店」を開業した。クリエイティブディレクター佐藤可士和さんのプロデュースによる新店舗は、「世界一映える寿司店」を目指し、フォトスポットを満載したポップなデザインが特徴だ。

コロナ禍でテークアウトの売上は2倍に拡大した。次の課題は、店舗を訪れるお客をどう増やすか。原宿店はひとつの答えだろう。もちろんビッくらポン! も重要だ。

「景品の制作にはコストをかけています。基本である寿司の品質を保ったうえでの付加価値としてのサービスになりますが、そのコストは決して軽くありません。その理由には、ご来店いただけるお客さまにもっと楽しんでほしいという思いがあります」(小山さん)

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橋長 初代(はしなが・はつよ)
ライター
奈良県出身。ファッション業界誌の編集者を経てフリーライターに。アパレル、百貨店、専門店、ショッピングセンター業界の取材多数。ファッション・流通専門誌を中心にビジネス系新聞、雑誌、ニュースサイトに執筆。最近は関西のホテルなど観光情報とアジアの動向にも注目。

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(ライター 橋長 初代)

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