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「運送、バス業界から侵食されていく」日本で増殖を続ける"中国製EV"の本当の怖さ

プレジデントオンライン / 2022年3月19日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cylonphoto

なぜ日本製のEVは海外で売れないのか。経済ジャーナリスト・井上久男さんと対談した元東大特任教授の村沢義久さんは「日本車はもはや後発の中国、韓国勢にも負けている。『日本企業の負けパターン』を繰り返しているからだ」という――。(第2回/全3回)

■日本製EVはもはや世界の選択肢に入っていない

【村沢義久氏(以下、村沢)】とうとうヒョンデ(旧ヒュンダイ)のEVが5月に日本に上陸しますね。

EVの世界では、中国や韓国が日本より先行しているのですが、一部のモータージャーナリストや、閉鎖的な人達は、そういう動きが気に食わないように見えます。

【井上久男氏(以下、井上)】そういう民族感情みたいなものはあるかもしれませんね。

【村沢】ヒョンデや起亜のEVはかなり良さそうだと思っています。ただ、「韓国EVが優れている」と言われると、民族感情が刺激される人がいる。それで、「中国・韓国のEVはバッテリーが爆発する」とか、そういうことばかり書かれてしまう。

前回<「EVは自動車産業の破壊者である」そんな議論を続ける限り、日本車の敗北は避けられない>で、日本車は技術でテスラに負けているという話をしました。ただ、EVに関しては、テスラのみならず、欧州勢、中国・韓国勢にも負けているんじゃないかと危惧しています。

欧米では、EVの選択肢が「テスラか、ヨーロッパ車か、それとも韓国車か」となっています。近年、そこに中国勢が加わってきました。

その結果、日本車メーカーは選択肢から外されつつあります。日産「リーフ」が後退しているし、トヨタのEV本格参入はまだまだこれからです。

【井上】トヨタはまだ販売しているEVがほとんどないですからね。実際、日本車メーカーが負け始めている部分はあると思います。

■高級EV市場には日本車の居場所がない

【井上】EVは今後、高級車と格安エントリー車に二極化すると思います。なぜかというと、まだバッテリー価格が高いので、航続距離を長くするために電池の容量を大きくすると、価格がどうしても高くなるんですね。

ベンツとか、レクサスといった高級車を全車EVにしますよと言っているのは、そういう事情が背景にあります。一方で、中国の「宏光MINI EV」のように、10kWhくらいのバッテリーしか載せていないかわりに、50万円を切る格安EVも登場しています。航続距離は100キロ程度ですが、買い物の足になればいいという人にとっては十分です。

【村沢】ハイエンドEVでは、航続距離など性能がかなり向上しています。米国ルーシッドの「エア」は、1900万円と高額ですが、航続距離は800キロ以上。このカテゴリーにはベンツもいるし、テスラも「モデルSプレイド」を投入しています。ここに日本車メーカーが参入して、果たして勝機はあるのでしょうか。

【井上】難しいでしょうね。ハイエンド市場では、日本車メーカーの居場所がなくなってきていると思います。一方、エントリー市場はまだ可能性があるかもしれません。日産や三菱は軽EV参入を表明していますが、価格次第では売れると思います。

■配送車、バス…日本製が弱い分野が狙われている

【井上】商用車では中国の進出が始まっています。佐川急便やSBSホールディングスは、大規模なEV調達を発表しています。このEVは、日本のベンチャー企業が企画開発を担当し、生産は中国メーカーに委託することになっています。

大手物流企業は上場していますので、環境対策に敏感です。アマゾンなどの荷主企業が、脱炭素化を求めるという側面もあります。また排ガス対策としても、EVシフトのニーズは高いです。

【村沢】アマゾンは配送用の特注EVを、リビアンというベンチャーから、約10万台も調達すると発表していますね。

【井上】大手物流企業以外でも、EVのニーズはあると思います。いわゆる「赤帽」のような小規模な配送業者からもEV化の検討の声が聞かれます。ただ、そういうニーズを満たす日本製EVがないのが現状です。そのため、中国製EVを買わざるを得ないのです。

【村沢】中国製EVバスの導入も進んでいますね。この分野ではBYDが世界トップです。日本での導入台数は現時点ではまだ数十台ですが、BYDジャパンは2030年までに累計で4000台という販売計画を発表しています。

2019年の上海モーターショーにおいて、私はBYDの担当者に「唐」「宋」といった彼らのEVを、日本で売る気はないかと尋ねました。彼らの回答は、「日本で乗用車を売るのは難しい。そのため、商用車で参入することを考えている」というものでした。

2019年10月22日、深圳市を走るBYDの電動バス
写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

実際、BYDはその数年前から、日本のバス市場に進出していたのです。バスもまた、日本製EVが存在しない市場です。日野やいすゞといったメーカーは、これからようやくEV開発に取り組むという段階です。

そうした、日本車が弱い分野から、じわじわと中国車に侵食されている印象です。

■「規格」にこだわらなければもっと安く作れる

【井上】佐川急便が調達する軽ワゴンEVはおそらく百数十万円くらいだろうと言われています。

佐川急便向けEVを作るのは柳州五菱という会社ですが、もともと三菱の軽自動車のコピーで台頭した会社です。さらに、格安EV「宏光MINI EV」を作っている上海GM五菱は、柳州五菱の兄弟会社です。そのため、安いクルマを作るノウハウがある。

実際には、車として粗削りな部分があったり、日本のユーザー独特のニーズにこたえられていない面もあったりするので、改善が必要な部分もあると思います。

【村沢】「宏光MINI EV」から学べることは多いですね。日本の軽自動車よりやや小型に作られているとはいえ、一番安いバージョンは補助金適用前の価格で46万円ぐらいです。

一方、日本車メーカーが今後投入する軽EVは、補助金を使っても200万円程度と予想されています。「軽」という「規格」にこだわらず、価格を下げることに特化すれば、もっと安く作れると思うんですけどね。

■過剰品質にこだわる「日本企業の負けパターン」

【井上】日本メーカーの人は、中国製EVを「こんな安い部品を使うのはあり得ない」と評します。

日本の部品メーカーが中国製EVを分解したデータを見せてもらったんですけどね。中身は車というより家電に近い印象です。そのくらい割り切って、低価格を実現しているんです。

元東大特任教授の村沢義久さん
元東大特任教授の村沢義久さん

【村沢】拙著『日本車敗北』(プレジデント社)でも書きましたが、テスラは18650というノートパソコンでも使う量産品の電池を使って、「ロードスター」と「モデルS」を作りました。モーターにも、「ローテク」である交流インダクションモーターを採用しました。

その時、某日本車メーカーの方は「あんなひどい車、売れるわけがない」と言っていました。しかし、結果を見れば、テスラの圧勝です。

【井上】「EVイコール燃える」というイメージがあるので、家電のような格安EVに抵抗のある人もいると思います。ただ、売り込み方の問題でもあって、「モーターは日本電産製です」とか、安全性をきちんとアピールしていけば、日本で受け入れられる可能性はあると思います。

【井上】いま中国ではEVの輸出が爆発的に増えています。2020年には5万600台でしたが、21年には26万7000台になりました。たった1年で約5倍です。

【村沢】NIOや小鵬などの新興ベンチャーが相次いでヨーロッパでの販売を開始していますからね。日本車メーカーは国内外で二千数百万台を生産していますが、そのうち約80%が海外向けです。日本車の「戦場」はあくまで海外なのです。

その海外で、中国製EVが急増しています。日本車メーカーはこのままで本当に大丈夫なのでしょうか。日本市場というガラパゴスに特化し、世界が求めていない過剰品質にこだわり、新しいニーズへの適応を怠る。これは典型的な日本企業の負けパターンです。

■日の丸電池産業は「半導体の二の舞い」か

【村沢】世界では電池の調達合戦が始まっています。EV向け電池は、中国のCATL、韓国LGがリードしています。テスラはCATL、LGからの購入に加えて自前での開発を進めています。大手では、GMがLGから調達、フォードは韓国のSKIと手を組もうとしています。電池の調達合戦でも、日本車メーカーは劣勢に立たされているように見えます。

経済ジャーナリストの井上久男さん
経済ジャーナリストの井上久男さん

【井上】私は半導体と同じようなことが起きるんじゃないかと思ってます。電解質が液体のリチウムイオン電池はこれからコモディティ化が進んでいくと見ています。今後はいかに安く大量に作るかという競争になるので、中国・韓国勢との「消耗戦」に突入するでしょう。

ただ、経済安全保障の観点で、国内に国策電池メーカーを作る動きが出てくるかもしれません。ヨーロッパも域内での電池産業育成に動いていますし。それと日本には電池メーカーが多すぎますので、再編が必要です。そうしないと、半導体のように共倒れの結果になるかもしれません。

【村沢】日本の電池産業といえば、かつての鉛蓄電池の時代にはGSユアサが強かったのですが、リチウムイオン電池に移行して存在感が薄くなっています。パナソニックも、EV用蓄電池で2016年までは世界1位だったのですが、最近では、中国CATLと韓国LGに抜かれて3位に後退。しかも、年々シェアを下げています。日本の電池産業を守るには、国策として、日本勢の合従連衡が必要かもしれませんね。

■日本勢は全固体電池で巻き返しを図るが……

【村沢】もう一つ、日本車の生き残りがかかった問題といえば、全固体電池がありますね。電池の電解質を固体にすることで、大容量化が実現できる。そのため、全固体電池の実用化に成功すれば、EV市場の勝ち組になれると言われています。

その全固体電池の開発ではトヨタが進んでいると言われていますが、中国のNIOはもうじき「ある種の固体電池」を搭載したEVを発売すると発表しています。

NIOは今年3月に初のセダン「ET7」を発売予定です。その新型が早くも今年11月にも登場するのですが、その「新型」こそ、150kWhの「固体電池」を積むと言われているのです。

これは「全固体」ではなく、粘土質の「半固体」の可能性もあります。しかし、150kWhという容量は破格で、いずれにせよ、画期的な電池であるのは間違いないでしょう。

一方、アメリカのクアンタムスケープ(QS)社は24年にも、フォルクスワーゲン(VW)に全固体電池を供給するとしています。

村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)
村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)

【井上】公開情報だと日産も進んでいるようです。24年に試作ラインを設置し、28年に商品化すると発表しています。

ゴーン氏の解任以来、思い切った投資が増え、かつての技術の日産が戻ってきたかのように見えます。栃木工場をインテリジェントファクトリーに変えて、EVの生産体制を強化しているところです。

ただ、全固体電池は生産技術が非常に難しいそうですし、安全確保もハードルが高いと言われています。全固体電池をEVに搭載するのは無理だと言うメーカーも出始めているくらいです。トヨタは全固体電池をEVではなく、ハイブリッド車から使い始めるようです。

【村沢】「固体電池」の実用化が目前に迫る世界と比べて、日本企業の取り組みはむしろ遅れ気味ではないかと危惧しています。

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村沢 義久(むらさわ・よしひさ)
元東京大学特任教授、環境経営コンサルタント
1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了(情報工学専攻)。スタンフォード大学経営大学院にてMBAを取得。その後、米コンサルタント大手、ベイン・アンド・カンパニーに入社。ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン日本代表を経て、ゴールドマン・サックス証券バイスプレジデント(M&A担当)、モニター・カンパニー日本代表などを歴任。2005年から2010年まで東京大学特任教授。2010年から2013年まで東京大学総長室アドバイザー。2013年から2016年3月まで立命館大学大学院客員教授を務める。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)、『日本経済の勝ち方 太陽エネルギー革命』(文春新書)、『電気自動車』(ちくまプリマー新書)、『手に取るように地球温暖化がわかる本』(かんき出版)など多数。

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(元東京大学特任教授、環境経営コンサルタント 村沢 義久、ジャーナリスト 井上 久男)

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