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「PDCAがそもそも間違っている」日本車メーカーが世界で通用しなくなった根本原因

プレジデントオンライン / 2022年3月21日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

日本の自動車メーカーはなぜ競争力を失ったのか。経済ジャーナリスト・井上久男さんと対談した元東大特任教授の村沢義久さんは「過去の成功体験を引きずる組織風土が、世界との差をどんどん生んでいる」という――。(第3回/全3回)

■市場は「トヨタグループとそれ以外」になる?

【井上久男氏(以下、井上)】このままだと日本車メーカーの中には、世界との競争に負ける会社が出てくるかもしれません。むしろ、日本電産やソニーあたりが面白い存在になる可能性もあります。

【村沢義久氏(以下、村沢)】EVシフトで、既存の中小メーカーの生き残りは厳しくなってくるかもしれませんね。

【井上】長期的に見て、電動化比率の低いメーカーは厳しいかもしれません。そういうメーカーは、トヨタグループの一員として生き残りを図るでしょう。あるいは、ホンダがソニーグループとEV新会社の設立を発表したように、他の業界を含めた企業アライアンスをめざすかもしれません。

その結果、マツダ、スバル、スズキなどを含めた、広い意味でのトヨタグループと、非トヨタグループとの競い合いのような市場構造になっていく可能性はあります。

ただ、中小メーカーは、むしろテスラと組むほうがいい気がします。テスラは21年に約100万台を売り上げました。これまでは一部のマニアが買う車だったのが、一気にマス市場を攻略しつつあります。

しかし、テスラはまだサービス体制に弱点を抱えています。サービス対応の店舗網を持つ日本メーカーと協業する余地はありそうに思います。

■「生産受託」を卑下する必要はない

【村沢】テスラに限らず、海外の先進ベンチャーからの受託生産ビジネスを模索するべきという気がします。

【井上】それはあると思います。中国の小鵬汽車は自社生産していませんし。

【村沢】中国のNIOも生産は安徽江淮汽車集団(JAC)への委託です。アメリカのフィスカーはマグナ、フォックスコンに委託しています。両社とも、さらなる委託先を求めているはずです。日本側からも積極的にアプローチすべきだと思います。

【井上】EVの時代には「車がスマホ化する」と言われています。それには2つの意味があって、一つはソフトウェアが重要になるという意味。もう一つは、生産がファブレス(製造工場を持たない業態)へ移行するという意味です。そうなってくると、生産受託は大きなビジネスになると思います。

【村沢】生産受託を「下請け」と卑下する必要はないと思います。対等な関係で、水平分業体制を構築していくことは、最新のビジネスモデルですからね。

【井上】日本電産の永守重信会長が、ほとんどのパソコンにインテル製CPUが入っていることになぞらえて、「Intel insideならぬNidec insideを目指す」とおっしゃっていますが、そういう勝ち方もあると思います。パソコンメーカーよりインテルのほうが儲(もう)けていたくらいですから。

■日本企業をダメにする「PDCA」という思考回路

【井上】EVはやってみないと分からないことばかりです。ただ、日本企業には「よく分からないことはやらない」という文化がありますよね。

日本企業はPDCAが大好きですが、「PLAN」を立てることだけずっとやっていて、永遠に「DO」をしない。その間に「PLAN」が陳腐化しちゃうんですよ。

【井上】私はコロナの前によくシリコンバレーや中国の深センに取材に行っていたんですが、両方で「日本人はPDCAばかりやるからだからダメなんだ」と言われたものです。「俺たちはDから始める。DCAPだ」と。PDCAは、決められた仕事を「カイゼン」する際には効果的なのですが、EVのように新しい分野の開拓には向いていません。

日本メーカーがEVシフトに対応できないのは、そうした組織風土の問題が大きいんじゃないかとも思います。成功体験に安住しがちだし、新しいことをやって失敗するとマイナス評価になりますから。

江戸時代には長崎に「出島」がありました。鎖国によって禁止されていた貿易は、「出島」ではOKだったのです。日本企業は、今こそ「出島」を作って、そこでなら新しいことは何でもOKにすればいいと思います。

具体的には、EVは別会社でやったほうがいいでしょう。こういうことをやっていかないと、本当に「日本車敗北」となってしまうと思います。

■いつまでも成功体験を引きずっている

【村沢】私は70年代後半から90年代まで10数年間アメリカに住んでいました。そのころ目にした、かつての日本企業には、世界から謙虚に学ぶ姿勢があったと思います。

元東大特任教授の村沢義久さん
元東大特任教授の村沢義久さん

ただ、ジャパンアズナンバーワンと言われるようになって、そういう姿勢を失ってしまった気がします。井上さんがおっしゃっていた「過剰品質」の問題も含めて、成功体験を引きずっているように見えます。

それは自動車以外の分野でも見られる現象です。20年ほど前には、日本のソーラーパネルは競争力を持っていました。その頃、メーカーに「生産数をいまの3倍にしたほうがいい」とアドバイスしたのですが、メーカーは「われわれは品質で勝負します」と言って受け入れなかった。その結果どうなったか。もはや、日本に競争力のあるソーラーパネルメーカーは1社もありません。

■名経営者には「大ぼら」吹きが多い

【井上】関西には「やってみなはれ」文化があるんですけどね。

【村沢】日本電産にはまだそういう文化がある気がしますね。

経済ジャーナリストの井上久男さん
経済ジャーナリストの井上久男さん

【井上】永守会長の強烈なリーダーシップのたまものだと思います。

【村沢】イーロン・マスク氏にも、強烈なリーダーシップがあると思います。テスラは2030年にEVを2000万台販売する、としています。これは現時点では「大ぼら」のような非現実的な数字ですが、彼なら実現してしまうかもしれません。

【井上】「大ぼら」は悪いことじゃないんですよ。野望とか夢の類ですからね。ちなみに永守会長も「大ぼら」吹きです。2020年にインタビューした時に「車の価格は5分の1になる」と言っていました。それで、一部のモータージャーナリストから叩かれたわけですけど、彼の意見はかなりロジカルなものでした。

■「秀吉タイプ」はいても「家康タイプ」がいない

【村沢】ソフトバンクの孫正義氏も「大ぼら」を吹きつつ、実行してしまう人ですね。一般人からすると、「不可能」に見えることでも、イーロン・マスク氏や孫正義氏には、実現への道筋が見えているんですよ。

ただ、家電にしても、自動車にしても、日本の製造業にはこういうタイプの経営者がいなくなってしまった。もし松下幸之助が生きていれば、パナソニックが電池事業で中韓勢に後れを取ることはなかったのではないかと思います。日本企業に足りないのは、そういう「先が見えているリーダー」でしょう。

【井上】信念をもって既成概念を打ち壊すことも大事なんですよね。こういうことを言うと精神論に聞こえるかもしれませんが。求められる経営者を戦国武将に例えると、変革の今の時代は織田信長のようなタイプが求められると思うんですよ。

「楽市楽座」という規制緩和と、「鉄砲」という新技術の導入、そして「比叡山焼き討ち」という「既得権益との戦い」を進めたのが信長です。

信長がやったことをベースに、巧みな交渉術によって天下を取ったのが豊臣秀吉です。このタイプはM&Aが得意なタイプの経営者と言えるでしょう。

あと、先行する2人の業績を引き継いで、200年続く統治体制を完成させたのが徳川家康。自分がいなくなっても永続する組織を作れる経営者ですね。

いまの日本にも、「秀吉タイプ」の経営者は結構いると思うんですよ。孫正義氏などは、信長と秀吉を足した感じがします。いま日本で面白い経営者はこのタイプが多いですね。でも、「家康タイプ」は後世に評価が定まりますが、孫氏も永守氏も後継者問題にぶち当たっていますから、「家康」になれるか否かは分かりません。

■「ど素人にはできない」という冷笑的な態度

【村沢】あと、日本の経営者たちは、世界を見なくなっている気がしますね。昨年の大河ドラマの主人公、渋沢栄一の時代は、とにかく海外のものを取り入れていた。高度成長期の日本も、欧米の技術を盗みまくっていた。

82年に「IBM産業スパイ事件」がありました。スパイ行為はもちろん良くありませんが、それくらい貪欲に世界の動向を取り入れようとしていたのです。

いまそれをやっているのが中国・韓国です。「中国はパクリばかりだ」と言う人がいますが、それだけ貪欲に知識を吸収している証拠とも言えるわけです。いまの日本の経営者は、永守会長のような例外を除いて、こうした姿勢を失っているように思います。

【井上】内向きになっていますよね。

電気自動車が路上で充電中
写真=iStock.com/MarioGuti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarioGuti

【村沢】テスラの電池製造についても、「ど素人にはできない」といった冷笑的な態度が目立ちますね。それも、実際にテスラが何をやっているかを知らないがゆえじゃないかと思うんです。

英語のニュースに接しているだけでも、大分違うと思うんですけどね。日本の経営者は日本語のニュースしか見ていないのではないでしょうか。

【井上】経営者だけではなく、大手メディアの人も、海外に行っていないですからね。中国で何が起きているのか、シリコンバレーで何が生まれているのか、直接には見ていないんですよ。

■お家芸の生産技術でも負け始めている

【井上】ロボット一つとっても、中国ではまったく発想がちがうんです。日本では、ロボットはあくまで熟練工の代替物。熟練工のノウハウをソフトウェア化して、同じことをロボットにやらせるという考え方です。一方、中国は熟練工以上の力を発揮するロボットを開発しようとしています。

【村沢】いずれ日本メーカーは生産受託すらできなくなるかもしれませんね。

【井上】私もそれを懸念しています。海外の製造業の現場では、生産技術の革新が進んでいるのに、日本メーカーはついていけていません。「モノづくりの日本」の強みが、いま急速に失われつつあると感じます。

【村沢】生産技術は日本の「最後の牙城」なんですがね。

【井上】おそらくテスラは素材の研究もやっているような気がします。材料工学は日本のお家芸だったのですが、近年その地位が揺らいでいます。

■「若造に何ができる」という反応は老化のはじまり

【村沢】そういうピンチから脱するためには、とにかく成功体験を捨てて、世界から謙虚に学ぶべきだと思います。

【井上】あとは経営者の世代交代が必要だと思います。本社の経営トップは従来通りの人事でやるにしても、EVとか車のスマホ化を扱う戦略子会社のトップは30代を抜擢するとか、そうした人事が必要になるかと。

「若造に何ができるのか」という反応自体が、すでに老化のはじまりです。将来性のある若い世代に「DO」のチャンスを与えなければならないと思います。

事実、日本の自動車メーカーから若い人材が流出しています。彼らにとって、目先の給料よりも「権限を与えられて、成長できる環境」のほうが大事なんですよ。

村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)
村沢義久『日本車敗北 「EV戦争」の衝撃』(プレジデント社)

【村沢】若い世代にはよりいっそう海外に出て行ってほしいですね。留学する学生が減っていますから。

【井上】永守会長は大学を作ったりもされていますが、もっと日本全体として、若い世代を応援するような動きが必要かもしれません。

ほか、頭脳労働者の雇用はもっと流動化したほうがいいと思います。新卒一括採用の生え抜きだけが社長になるという社会ではダメだと思います。もっといろんな組織へ転職して、また戻ってくるようなキャリアパスが普通になれば、変化が起こりやすくなると思います。

いまは産業革命期なんですが、「なくなる仕事を守ろう」とするばかりでなく、新しく生まれる仕事に目を向けなければならないと思います。

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村沢 義久(むらさわ・よしひさ)
元東京大学特任教授、環境経営コンサルタント
1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了(情報工学専攻)。スタンフォード大学経営大学院にてMBAを取得。その後、米コンサルタント大手、ベイン・アンド・カンパニーに入社。ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン日本代表を経て、ゴールドマン・サックス証券バイスプレジデント(M&A担当)、モニター・カンパニー日本代表などを歴任。2005年から2010年まで東京大学特任教授。2010年から2013年まで東京大学総長室アドバイザー。2013年から2016年3月まで立命館大学大学院客員教授を務める。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)、『日本経済の勝ち方 太陽エネルギー革命』(文春新書)、『電気自動車』(ちくまプリマー新書)、『手に取るように地球温暖化がわかる本』(かんき出版)など多数。

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(元東京大学特任教授、環境経営コンサルタント 村沢 義久、ジャーナリスト 井上 久男)

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