「第3次世界大戦、核戦争…不安と恐怖で手が震える」30代女性にお悩み相談サイトを主宰する僧侶の"納得の回答"
プレジデントオンライン / 2022年3月10日 13時15分
■宗教界から抗議声明もプーチン政権に近いロシア正教会は沈黙
ロシアによるウクライナ侵攻は宗教界にも大きな衝撃を与え、ロシアに向けて抗議声明を出す国内の教団が出てきている。ただ、通りいっぺんの言葉に終始している感は否めない。
果たして宗教は戦争にたいして無力なのか。日本国内では、不安に駆られ、僧侶に救いを求める人々が出てきている。そこに寄り添う僧侶が現れ始めたのも事実だ。
ロシアが軍事侵攻した2月24日以降、少しずつではあるが日本の宗教界で動きがみられた。翌25日には、日蓮宗とカトリック中央協議会が声明文を出している。
仏教界では日蓮宗がいち早く、反応した。宗派の行政機構のトップである宗務総長による抗議声明である。
「我々、日本仏教教団である日蓮宗は、此の度のロシア連邦によるウクライナ領域内への侵攻を強く非難致します。如何なる政治的理由があろうとも、武力的解決は容認されるものではありません。あらゆる戦争行為に反対する意思を示し、平和的対話によって此の度の侵攻が即時終結されることを強く要請すると共に、世界の恒久平和を祈るものであります」(一部)
日蓮宗は、宗祖日蓮が唱えた「立正安国(正しい教えを立てることで、国家の安寧がもたらされる)」の精神を大切にする。そのため、他の仏教宗派に比べ、常に社会の動向には敏感に反応してきた。声明文は無難な内容に留まっているが、多くの仏教教団の中で先駆けて声明を出したことは評価できる。
より強い言葉でロシアの武力侵攻を非難したのが、カトリックだった。カトリック中央協議会は次のように声明を出した。
「パンデミックや気候変動など、人類が一致して解決せねばならない深刻な問題に直面している21世紀のいま、軍事力の行使などもってのほかです。いますぐ戦争をやめよと声をあげましょう。また、特に世界中の政府関係機関の方々に呼びかけます。軍事同盟による戦争抑止の考えを捨て、対話による平和構築への最大限の努力をして下さい」
ローマではフランシスコ教皇が、「灰の水曜日」(復活祭から46日前の水曜日のこと)にあたる3月2日に、ウクライナの平和のために断食と祈りを捧げることを呼びかけ、日本でも多くの信者が参加した。
一方で、ロシア正教など東方におけるキリスト教教派・正教会のひとつ、日本正教会の反応はどうか。日本正教会の教会としては、東京・神田にあるニコライ堂(東京復活大聖堂)がよく知られている。
日本正教会は3月6日の執筆時点ではコメントを発表せず、沈黙を守っている。ロシア正教会はプーチン政権とも近い存在ともされている(参照記事:本コラム「『ワクチン接種を拒む人は罪人で社会の迷惑もの』そう訴える人の言い分」2021年9月14日配信)。ロシアもウクライナも正教会が主たる宗教だ。それだけに「プーチンの戦争」への非難ができない実情があると推測できる。
■「広島、長崎に続く被爆地を生むことは絶対にあってはなりません」
仏教界では連合組織である公益財団法人全日本仏教会(声明を2月28日に発表)をはじめ、曹洞宗(同3月1日)、臨済宗妙心寺派(同3月1日)、浄土宗(同3月2日)、天台宗(同3月3日)、浄土真宗本願寺派(3月4日)、真言宗智山派(3月5日)などが続々、声明を発表している。
ただ、いずれも「あらゆる暴力は容認できない」「非戦の立場を堅持する」「暴力の連鎖を食い止めよ」「武器を置いた対話による解決を強く望む」といった、一般的な抗議声明の範疇にとどまる。インパクトがあればよいというものではないが、形式的な声明では人々の心には響かない。
そうした中で、プーチン大統領直々に抗議文を送りつけた宗派が現れた。被爆地広島に大本山を置く臨済宗佛通寺派である。5日、ロシア大使館宛に抗議文を送付した。
宛先は「ロシア連邦大統領 ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン閣下」。広島の仏教教団らしく、強い言葉で断罪している。
「被爆者が懸命に訴えてきた『世界中の誰にも二度と同じ体験をさせてはならない』との切なる思いを踏みにじるもの」
「地球上に、広島、長崎に続く第三の戦争被爆地を生むことは絶対にあってはなりません」
一方、各地の仏教寺院には、不安に駆られて人々が寺に集い始めている。
愛知県愛西市の浄土宗寺院大法寺は「縁切寺」で知られ、縁切りの絵馬で有名だ。ウクライナ侵攻後、「早く戦争が終わってほしい」などの内容の絵馬が複数、奉納されているという。
住職の長谷雄蓮華さんは「ウクライナでの戦争のニュースやSNSに日々接し、中には“不安のトリガー”が引かれてしまった方もいらっしゃるように思います。コロナ禍もそうですが、『どうしていいかわからない不安』が押し寄せ、お寺に救いを求める人が増えてきていると感じます」と話す。
長谷雄さんは、だからこそ、お寺を地域に広く解放し、僧侶は人々の悩みに耳を傾けるべき、と強調する。
■「第3次世界大戦の不安と恐怖」30代女性の投稿への僧侶の回答
そうした不安の受け皿が、ネット上にもある。「僧侶が答えてくれるお悩み相談サイト hasunoha(ハスノハ)」では、「戦争が怖い、不安でどうしようもない」といった僧侶への相談が日々、増えてきている。そこには切実な訴えが綴られていた。
「少しでも情勢を理解しようと、いろいろ調べていたら、たくさんの怖い記事を見つけ読んでしまいました。第三次世界大戦、核戦争、恐怖はどんどん膨らみ、不安と恐怖で一日手が震えています。一度ネットから離れなければと思い全ての通知をオフにしてみましたが、それでも不安は膨らんでしまいます。
この道を散歩するのは、もう今日が最後なのかもしれない、といったように考え涙が止まりません。追い詰められ絶望を感じています。どうか、前向きになれるアドバイス、死を受け入れられるアドバイスを頂ければと思います」(一部、30代女性)
「先進国同士の大きな戦争に激しく動揺しています。私は子供の頃から戦争が本当に恐ろしく、家族や自らが無事であるようにずっとお祈りをして生きてきました。
現地の方が苦しんでいるニュースに接し、私はいても立ってもいられないほど苦しく、恐ろしいです。実力主義の残酷な世界の中で、私のような弱い者は強者大国に震えながら生きていくしかないのでしょうか。どうか、この恐怖へのアドバイスを頂けますととても助かります」(一部、30代女性)
こうした相談に僧侶らは、このように回答している。
「私たちの世界では、嫌なこと、憎むべきこととも出会っていかなければならないという苦しみである『怨憎会苦(おんぞうえく)』があります。このような苦しみと出会わなければならないのが、この輪廻という世界。この輪廻から離れる方法、恐怖も含めていろいろな苦しみをなくすための方法が説かれてあるのが仏教です。是非、恐怖を打ち破るためにも、仏教を学び修(しゅう)して頂くことをお勧め申し上げます」
「今の状況を冷静に見つめていき、改めて私達はどう考えてどう発言して行動していくことがよいかをしっかりと考え、検討して行動していく必要があります。『天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさず』(天の張る網は粗いようにもみえるが、悪いことを企む人間は必ず天罰を受ける)です。私達人間の所業を神仏も、あまたの先人の霊位もしっかりとご覧になっております」
コロナ禍に続いて、ウクライナ侵攻。先の見えない混沌とした状況が続く。こうした不安を癒やしてくれる場所が地域の寺社仏閣や教会。同時に宗教者は今こそ、その真価が問われているのだと思う。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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