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「最上位クラス」以外は詰め込み型に陥る…中学受験が"暗記だらけ"になってしまった残念な理由

プレジデントオンライン / 2022年3月19日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

中学受験は子供に「丸暗記をさせすぎ」なのか。プロ家庭教師集団名門指導会の西村則康さんは「今の中学受験塾は覚えるべきことが多すぎる。だからといって、知識を身につけなければ、思考力も伸びない」という――。

■「知識だけ」を答える問題はほとんどない

近年、小学生の子供を持つ親からよくこんな質問を受ける。

「小学生の子供に丸暗記・大量学習させる中学受験は本当にいいのでしょうか?」

こうした質問を受けるたびに、「ああ、この親御さんは、そういう受験勉強のやり方をやってきたのだろうな」と思う。それはおそらく自身の大学受験と重ね合わせているのだろう。必死に丸暗記をし、大量の演習をくり返し、なんとか合格をつかみ取ることができた。そういうつらい思いをまだ幼い小学生の子供にさせてしまうことに、疑問や罪悪感を抱いているのだろう。

だが、それはそもそも勉強のやり方が間違っているし、中学受験でどんな力が求められているかが分かっていない。難関校の入試を見てみれば一目瞭然だが、近年の中学入試は知識だけを答えさせる問題はほとんどなく、思考力を見る問題が増えている。考える上で、必要となるのが知識だ。思考力とは、自分の頭の中にある知識と知識を組み合わせて、問題解決の糸口を見つけ、自分なりの答えを出すこと。知識がないのに考えようとしても、それは感じたことにすぎない。ところが今、この「知識」を軽視する風潮がある。

■“探究型の塾”は指導者の力量に左右される

探究学習という言葉が流行り出したのはいつ頃だろうか。近年、探究学習をウリにする探究型の塾が人気を集めている。文部科学省が定める学習指導要領に探究学習の重要性が述べられていることも影響しているのだろう。探究塾では子供たちの興味を喚起し、思考力を伸ばすことに重きを置いている。思考力、つまり今の時代に必要な力を伸ばしてくれると、期待する親は多い。そういう親にとって、詰め込み型の中学受験は悪で、思考力を重視する探究塾は善というイメージが固定化されているように感じる。冒頭の質問が出るのも、そういうステレオタイプな捉え方をしている表れだ。

しかし、探究塾の効果は、指導者の力量によって大きく左右されることを知っておかなければならない。良い指導者は、子供が興味・関心を持つように、テーマを熟考し、下準備も念入りに行う。そして、子供たちの思考が広がるような問いを渡し、どのような声が返ってきてもいいように、いくつもの選択肢を持ち合わせている。話が思わぬ方向にいっても、それを楽しむ心の余裕があり、さらに思考を深める問いを渡す。そうやって、なんらかの形で子供たちの記憶に残す工夫をしている。

しかし、それはたくさんの知識と技量を持ち合わせた、限られた指導者にしかできない技だ。むやみに「探究塾が良さそう」と思い込むのは危険だと感じる。また、近年、探究学習に力を入れている私立中高一貫校も少なくないが、本当に中身のある授業をしているのか、力量のある先生はどのくらいいるのか、しっかり見極める必要がある。

■今の中学受験塾は教えることが多すぎる

ならば、中学受験塾が良いのかといえば、残念ながらそうとは言えない。冒頭の質問で親が不安視するように、中学受験の勉強が詰め込み学習に陥りやすいのは事実だ。一般的に中学受験をするのなら、大手進学塾に通う。大手進学塾では、受験に必要なカリキュラムが充実しているからだ。毎年入試が終われば、即座に入試問題を研究し、翌年のカリキュラムに組み込んでいく。そうやって、徹底的な受験対策をして結果を出してきた。

しかし、塾が入試問題を熱心に研究すればするほど、覚えなければならない知識、教えなければならない解法が増えていく。長年、中学受験の指導をしてきた私から見ると、今の中学受験塾は教えることが多すぎる。あまりにもたくさん覚えなければならない知識があるので、子供たちはそれをこなすだけの勉強になっている。それが、今の中学受験の一番の問題点だ。

だるま
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

■「最上位クラス」以外は詰め込み型の勉強になってしまう

だが、最上位クラスに限っては、非常に良い授業が行われている。優秀層が集まるクラスは、すでにある程度の知識が備わっている。そのため、6年生の夏以降は、塾のテキストはほとんど使わず、難関校の過去問や類似問題を解かせ、試行錯誤する力を身につけることに力を入れる。いろいろな問題を使って、思考力を鍛えているのだ。しかし、それができるのは、塾全体からすればごく一部の最上位クラスだけ。上中位クラスでは、知識を詰め込ませてなんとか合格させる授業になってしまう。

それが、冒頭の質問にもあった「小学生の子供に丸暗記・大量学習させる中学受験」を指す。下位クラスにおいては、一応塾のカリキュラムに添って指導はするけれど、理解できているかどうかまでは確認せず、ほぼ放ったらかし状態だ。また、大手進学塾でも塾によっては、最上位クラスでも思考型の問題をパターンで叩き込ませるところもある。そういうやり方で勉強をしてきた子は、中学受験では志望校に合格できるかもしれないが、思考力は伸びていかない。

■「思考力」は知識の上に成り立つものだ

思考力を身につけることが重要であることは、みんな分かっている。だが、思考力とはそもそも何を指すのか、どうやって伸ばしていくものなのか分かっていない人は少なくない。私は、思考力とは知識の上に成り立つものだと考える。知識があってこそ、考えることができるということだ。

今の中学受験では、多くの子供が膨大な知識を覚えるだけの勉強に陥っている。たくさん覚えることがあるから、とにかく覚える。塾の先生が「この問題のときはこの公式を使うんだぞ」と言ったから覚えるといったように、ただ覚えようとする。しかし、先にも述べた通り、近年の中学入試では知識そのものを聞かれることはなく、今ある知識を使って考えさせる問題に変わってきている。そうなったときに、丸暗記や大量演習は通用しない。そこで知識の習得の仕方を変えていく必要がある。

ジグソーパズルの最後のピース
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

■「なぜそうなのか?」がわからないと知識を使えない

昔から理科や社会は暗記科目と言われているが、ただ固有名詞を覚えるような学習は意味がない。確かにそういう知識も必要だが、理科であれば「こういう現象があるからこうなった」といった因果関係、「こういう特徴があるからこのグループに属する」といった違いに気づく視点、社会なら「こういうことが起きたからこうなった」といったつながりや時代の流れをおさえながら覚えることが重要になる。そういう学習の仕方をしておけば、たとえ初見の問題が出たとしても、「これはあの考え方と同じなんじゃないだろうか」といったように、自分の持っている知識と照らし合わせながら考えることができる。

算数においても、「こういう問題は線分図を書いたら解けそうだ。いや、ダイヤグラムの方がいいかもしれない」と気づけるかどうかが重要になる。一つひとつの解法は知識で、何を手がかりにどの方法で解けば良いかを判断するのが思考スキルだ。公式を丸暗記する学習では、それができない。塾のテキストと同じ問題が出れば解けるが、少しでも変化球が来たら、たちまち解けなくなってしまうようでは意味がない。「なぜその公式を使って解くのか」理解できていない証拠だ。知識を覚えるときには「なぜそうなのか?」理由とともに納得して理解することが大切だ。それを疎かにして、ただ頭に詰め込んでも、応用は利かない。

■人生を自分で考えて切り開いていける子に育つ

近年、中学入試の問題は非常に良問が多い。問題文の中に書いてある知識と、自分が持っている知識を使って、小学生なりにどう考えるかを見る問題が増えている。このような思考力を鍛える勉強を小学生のうちからしてきた子は、その後の人生においても、自分の力で考えていけるに違いない。中学受験の醍醐味(だいごみ)はそこにあると考える。なんとなく考えているつもりになりがちな上積みだけの探究学習よりも、よほど効果が高いだろう。

誤解をしないでいただきたいのが、探究学習が悪いと言っているわけではない。知識をないがしろにしている世の風潮が危険だということだ。考えるのには知識が必要であること、知識を覚えるには正しい覚え方があるということをぜひ知っておいてほしい。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。

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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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