少子化の8倍のスピードで急減…野球をする子供がどんどん少なくなっている根本原因
プレジデントオンライン / 2022年3月23日 17時15分
※本稿は、藤田憲右『多賀少年野球クラブに学びてぇ!』(インプレス)の一部を再編集したものです。
■子どもに野球をさせる環境が減ってきた
【藤田】全日本野球協会によると、小中学生の野球人口は2007年に66万4415人だったのが、2020年には40万9888人まで減ったそうなんです。子どもの数が減っているから野球をやる子が減るのは当たり前という人もいますけど、この減り方は少子化の7~8倍のスピードらしいんですよね。
だから学童野球人口が減っているのは少子化だけが原因じゃないと思うんです。野球の魅力が低下しているというよりも、子どもに野球をやらせる環境が昔よりも減ってしまったのかなと感じています。
【辻】それはあるでしょうね。
【藤田】そこには都市部と地方でだいぶ違いもあると思うんです。例えば多賀ではグラウンドが二面使える練習場があって、さらに隣にはテニスコートを改良した練習スペースが二面もある。グラウンドにはまず困らないですよね。
でもうちの子が所属している世田谷のチームだと、まず道路が混んでいることが多く車で40分かかってしまいます。だから自転車で移動していますがそれでも30分はかかります。グラウンドも2時間制だったりするので、例えば河川敷のグラウンドを2時間使ったら、今度は区の公園の中にあるグラウンドに移動したりするんです。その移動も車だと時間がかかるので当番の保護者が先導して子ども達を自転車で移動させるんです。
【辻】近くの小学校で練習はできないんですか?
【藤田】昔は使えていたと思うんですけど、今は校庭開放がなくなってしまいましたね。僕の住んでいる地域あたりだと、今は公園や広場でもボール遊びすらやらせてくれないところが多いです。都会では子どもが野球をする環境が大きく変わってしまいましたよね。野球に対する世間の注目と協力が昔よりも減ったということなんでしょうけど、野球をやる子ども、やらせたいと思う保護者が減ったことが原因だと思うんですよね。
■野球中継、野球アニメ…減少する子どもと野球の接点
【藤田】最近は子どもが野球を好きになるというか、野球チームに入るきっかけが大幅に減りましたよね。
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【辻】メディア的な面での接点は減りましたね。
【藤田】昔は地上波で当たり前のように巨人戦が放送されていて、プロ野球が全然分からない女子でもクロマティを知っていたりとか、巨人ファンじゃない子でも巨人の選手の応援歌を口ずさんだりとかしていましたよね。ヤクルトの池山隆寛の下敷きを持っている女子がいたりとか(笑)。
【辻】あと野球のアニメとかね。僕は毎週『ドカベン』を見るのが楽しみで楽しみで。他にも野球のアニメがたくさんありましたよね。本当に日常生活の中で野球との接点が減ってしまいましたよね。
【藤田】昔は公園などで子ども達が野球をやっていましたよね。ちゃんとしたチームではなくて、友達同士で野球をやるみたいなね。そういう野球との接点もなくなりましたね。うちの息子も僕が言わなかったら多分野球に興味を示さなかったと思うんです。
小さい子ども達が野球に触れる機会って、今はニュースで報道される大谷翔平のメジャーリーグでの活躍くらいじゃないですかね。息子の小学校では同じ学年で野球をやっている子が4人しかいないんです。今野球をやっている子って、保護者が野球をやっていたケースがほとんどだと思うんですよね。
【辻】確かにそうですね。
【藤田】自発的に「野球やりたい!」ってチームに入ってくる子は昔に比べて全然少ないと思うんです。いても全体の1割くらいじゃないですかね。その貴重な1割だって、保護者が近所の野球チームの体験会などに連れて行った時に、そのチームが古い体質だったら野球をやらせたくないと感じるケースも多いと思います。そうなると野球をやる子が減るのも当前だなと思ってしまいますよね。
【辻】なるほどねぇ。
【藤田】小学生の親世代である僕らは、まだ辛うじて野球熱があった時代を子どもの頃に過ごしているんですよね。今の子達が親になる20年後、30年後とかにはもっと減っている気がします。
【辻】野球をやっていた保護者全員が自分の子どもに野球をやらせていたら、今こんなに減っていないですよね。
【藤田】だから、今何かを抜本的に変えていかないといけないですよね。
■野球というスポーツがエリート化している
【藤田】サッカーってボール1つあったらできますし、ルールを知らない小さな子でもなんとなく見よう見まねでできてしまうじゃないですか? でも野球ってまず、打つ、投げる、捕るが見よう見まねですぐにできないんですよね。
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【辻】確かにそうですね。野球はなんとなくじゃなくて「野球をやる」と思わないとできないですよね。
【藤田】ある程度できるようになるまでの技術修練がすごく必要なスポーツですよね。時間も手間もかかる。ただでさえ野球との接点が少なくなっている今、そのあたりも野球を選ばない子が増えている原因の一つだと思うんですよね。
【辻】それはあるでしょうね。
【藤田】あとは学童野球から高校野球までエリートスポーツ化していると思うんです。学童野球も毎年勝ち上がる強いチームは決まっていませんか?
【辻】大阪だと勝ち上がってくる4チームくらいは大体決まっていますね。滋賀はその年によって2番手、3番手が変わってくるという感じですね。ただ、各地区の代表で出てくるチームは大体決まっていますね。
【藤田】それが中学、高校でも同じ状況になっているように思うんです。強豪高校に進めるのってほとんどが中学時代に名を馳せた野球エリートですよね。その野球エリートが多く集まっている高校が甲子園に出てくる割合が昔よりも高くなっている気がします。でもその一方で野球をやる子は減っていき、チーム数も減り、合同チームなども多くなっている。そもそもお金もかかる。
【辻】道具にお金がかかるのは確かに大きいですよね。
【藤田】そこも含めて野球がエリートスポーツ化していますよね。そこも考えていかないといけない問題ですよね。
■教育や躾はもはや野球のアピールポイントにはならない
【辻】僕は33年監督をやってきましたけど、ここ数年感じているのは家庭で子どもの教育がしっかりできているということです。
【藤田】家庭での教育、ですか?
【辻】何が言いたいかというと、昔ってちょっと元気が良すぎて手に余るような子をチームに預けたりしていたと思うんです。僕も昔は保護者によく言われましたよ、「なんかあったらシバいたってください」とかね。家庭ではできない子どもの教育を学童野球チームに求めていたと思うんです。
【藤田】なるほど。確かに。
【辻】でも今の子どもって、昔に比べて成長が3、4年早いと思うんです。昔よりも子どもが大人なんです。だから昔みたいに野球チームに教育や躾を求めたりしない保護者が増えましたよね。そこに学童野球の価値をあまり感じていないと思うんです。
それなのに、野球をやったら礼儀、挨拶、マナーが身に付きます、みたいなことを謳い文句にしているチームが多いじゃないですか。もちろんそれは悪いことではありません。でもそもそも今の時代の子はそれができている子ばかりなので、そこをアピールしても保護者の心には刺さらないと思うんですよね。
【藤田】礼儀、挨拶、マナー、とは違うアピールポイントがないと選ばれにくくなっているということですよね。
【辻】そう思いますね。
■いまだに残る昭和式軍隊野球チーム
【藤田】野球をやる子どもが減った原因の一つにSNSもあると思うんです。昔は殴られたり、怒鳴られたり、長時間練習したり、保護者の負担がキツかったりしても「野球ってそういうもの」「他のチームも同じ」と思っていた部分ってあったと思うんです。
でもネット社会になってSNSが普及して、そういうチームが批判されだして「やっぱりおかしかったんだ!」って気づいたんだと思うんです。それでも昭和時代のような指導を続けているチームがまだまだ多い。いくら子どもに野球をやらせたいと思っても、近隣にそんなチームしかなかったら野球をやらせられないですよね。
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【辻】そうなりますよね。
【藤田】そして困ったことにそんな指導をしているチームが強かったりするんですよね。「あそこは昭和の野球だから強い」みたいに言われていたりして(笑)。
【辻】おっしゃる通りで、昭和の軍隊みたいな指導をしている野球からまだ全然切り替わっていないですよね。「楽しくて強い」というチームは皆無に近いです。あと10年経ってやっと同じくらいになるんじゃないですかね、昭和の軍隊みたいな野球で強いチームと楽しくて強いチームの割合が。
【藤田】そこまでいくのに10年かかるのかぁ。
【辻】2021年の秋に4年生の近畿大会を自主開催したんですけど、特別規則に「罵声禁止」って入れたんです。
【藤田】なんかもう面白そうですね(笑)。
【辻】そうなんです。その大会にはある県の代表チームも参加していたんですけど、そこはちょっと口が悪かったり、罵声や怒声が飛んだりするようなチームだったんです。でもこの大会ではそのチームの指導者も保護者も頑張って罵声、怒声を我慢して試合をやってくれたんです。
【藤田】へぇ。そのチームの監督の感想が気になりますね。
■「罵声禁止」が軍隊野球からの脱却のカギ
【辻】試合後にその監督さんに話を聞いたら、「こんなに清々しい気持ちで野球ってできるんですね」みたいなことを言ってくれたんです。今までは子どもがミスしたり、負けたりしたら腹が立って仕方がなかったのに、勝っても負けても、相手のチームにも全く腹が立たない。それはお互いに罵声、怒声禁止で試合をやったからなんですよね。自分達の今までのやり方を我慢して野球をやってみたことが結果的に成功体験になったようです。
多賀が所属するリーグの中では、ベンチから怒鳴って子どもにストレスを与えるようなことはほぼなくなりました。滋賀県全体で見たらまだそういうチームもありますけど、強いチームはほとんどそういうことはしないですね。だから他の地域の大会でも要項に「罵声禁止」を入れていけばいいと思うんです。それくらいしないと「軍隊野球」からの切り替えはなかなか進んでいかないですよね。
【藤田】なるほどねぇ。それは面白いですね。
【辻】でも悲しいかな、滋賀県でそれをやっていても全国に全然広まっていかないんです。だからやっぱり東京から変えていかないとダメですね。子ども達がニコニコ楽しそうに野球をやっているんだけど果てしなく強い。
そんなチームがあれば「あそこのチームを真似しよう」ってなると思うんです。それを東京のような影響力のあるところでやらないと変わっていかないですよね。僕も近畿、滋賀でやってきましたけど、ちょっと限界を感じていますから。
【藤田】それはもう「多賀少年野球クラブ東京」を作っていただくしかないですね。
【辻】(笑)。
【藤田】僕も楽しくて強い学童野球チームって多賀しか知らないですから。楽しいけどあまり強くないチームはたくさん知っているんですけどね。だから本当に東京にもう1チーム作ってほしいと思っています。
■相手の好プレーを賞賛してはいけないという空気
【藤田】「スポーツマンシップ」はもちろん大事です。僕も指導者講習を受けて学びました。でも正直、いろんな項目があってすごく長いんですよね(笑)。スポーツマンシップの成り立ちとかいろいろあって。そのまま子ども達に落とし込んでも大部分が「?」だと思うんです。僕も「?」がたくさん浮かびましたから(笑)。
だから小学生のうちは「試合相手に敬意を払う」「努力をすることの大切さを知る」「審判に敬意を払う」くらいを学べればいいんじゃないかって思うんです。中学、高校と上がっていくにつれて少しずつ学んでいけばいいと思います。
【辻】2021年の秋、地区予選の決勝戦があってうちが優勝したんです。点差も開いていたんですけど相手のショートの子がめちゃくちゃいいプレーをしたんです。そしたらうちの子ども達は「ナイスプレー!」ってベンチから立ち上がってみんな拍手ですよ。
【藤田】いいですね、その文化! 相手への敬意ですね。
【辻】最終回も相手のバッターがうちのエースからパカーン! って、ライトにフェンスオーバーのホームランを打ったんです。そしたらうちの子ども達はみんな、相手の選手に「ナイスバッティング!」ってスタンディングオベーションですよ。打たれたエースの子だけはガックリうなだれていましたけど(笑)。
【藤田】相手チームも嬉しいでしょうね。
【辻】うちのチームってそんなにスポーツマンシップがどうのこうのと言わなくてもそういうことが自然にできるんです。素直に育てていたらいいプレーには相手も味方もなく自然に讃えることができる、そういうふうになると思うんです。
【藤田】なるほどね。
■対戦相手=敵という意識をなくす必要がある
【辻】大人がスポーツマンシップに反することを教えているから相手チームを讃えるようなことができないのであって、子どもを素直に育てていたら「スポーツマンシップ」という言葉さえもいらなくなるはずなんです。スポーツマンシップの教育を子ども達にしなければならないということは、それだけ学童野球の現場で大人が逆のことを教えてきているから。だから改めて教えて上書きしないとダメということになるなんでしょうね。
【藤田】僕も保護者として試合を見ていて相手チームのプレーに「ナイスプレー」とか言うと、隣の人から「なんで相手チームを応援しているんですか!?」みたいな顔をされるんですよね(笑)。
![藤田憲右『多賀少年野球クラブに学びてぇ!』(インプレス)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/7/200/img_17700aea95b1a600199f4c0a4c443f53513201.jpg)
【辻】相手は「敵」だと思っているのでしょうね。敵ではなく野球をやっている仲間なのにね。
【藤田】多賀は辻さんが「相手のいいプレーもちゃんと褒めるんだぞ」とか教えてきたわけではなく、辻さんが相手チームを褒めている姿を見て、子ども達も自然にそうなったんですか?
【辻】そうですね。そういうところを見ていたら自然に、という感じですね。相手を認める、相手を褒めることが気持ちいいと感じていると思います。やっぱり野球をやっている同じ仲間だという意識があるからでしょうね。
【藤田】その意識がないんですよね、ほとんどのチームは。対戦相手は「敵」という感覚が強すぎるんですよね。
【辻】その「敵」意識をいい加減なくさないといけないですよね。だからうちのチームをぜひ多くの方に見ていただきたいと思っているんです。うちが強いからとか、優勝しているからとかではなく、子どもが子どもらしくしている様というか、グラウンドに入ってきてもおしゃべりしている子もいれば、キャッチボールをしたりアップをしたりバント練習をしたりする子もいる。
何も強制せずに各々が好きなようにやっているんですけど、相手チームのいいプレーを自分のことのように喜び、讃えることができる。そういうところを見ていただきたいんですよね。それで「多賀みたいなチームがいいな」と広まってほしいんです。
そうやって「楽しくて強い」チームが増えていかないと野球人口は増えていかないと思っていますから。さっきも言いましたけど、子どもの野球人口が増えていくかどうかは影響力のある東京にかかっていると思います。だから東京にこういうチームがもっと増えていかないとダメですよね。
【藤田】そうですよね。だから多賀を東京のいろんなチームに見てもらいたいですし、「多賀東京」をやっぱり作ってほしいですよ、辻さんに。
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お笑い芸人
1975年生まれ。静岡県御殿場市出身。吉本興業東京本社所属。97年に大村朋宏とお笑いコンビ「トータルテンボス」を結成。野球への愛情、知識は全国の野球ファンの間でも有名。著書に『ハンパねぇ!高校野球』(小学館よしもと新書)がある。
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(お笑い芸人 藤田 憲右)
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