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「日本は電力すら賄えなくなる」未曾有の物価上昇に備えて岸田政権が今すぐやるべきこと

プレジデントオンライン / 2022年3月15日 9時15分

記者団の取材に応じる岸田文雄首相=2022年3月9日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■輸入頼みの日本が直面する厳しい現実

依然として、ウクライナで激しい戦闘が続いている。それによって、世界経済の構造が大きく変わりそうだ。1990年代初頭以降、世界経済は国境の垣根が下がる=グローバル化の流れを歩んできた。それが、ウクライナ危機によって、ロシア対西欧諸国の間で分断=ブロック化が進むことになりそうだ。米英やドイツなどのEU加盟国はロシアへの金融制裁に加え、原油などの輸入を停止あるいは削減する。

3月7日には、需給が逼迫(ひっぱく)するとの懸念から原油の先物価格が急騰した。ブロック化へ世界経済のパラダイムが変化することで、自由にモノを貿易することが難しくなる兆候が表れている。

グローバル化によって、世界に張り巡らされた供給網=サプライチェーンが遮断されはじめた。その結果、経済運営の効率性は低下し、世界的に経済成長率は低下するだろう。ロシアからの資源供給の減少によって、世界全体で構造的に物価も上昇しやすくなる。各国が緩和的な金融政策に頼った経済運営を続けることは難しくなる。

資源を輸入に頼るわが国は、かなり厳しい状況に直面する恐れがある。わが国は国全体でどのような対応策をとるべきかを真剣に考えなければならない。喫緊の課題は、経済安全保障の観点からエネルギー政策を強化することだ。やや長めの目線で考えると、経済の実力を高めなければならない。そのために、教育の強化や労働市場の改革を進めてより多くの人が新しい取り組みを進めることができる環境を目指さなければならない。そうした取り組みがどう進むかによって、わが国の将来が大きく変わるだろう。

■世界経済はグルーバル化から「ブロック化」へ

ウクライナ危機の発生によって、世界経済のパラダイムが変化する可能性が高まった。それは、グローバル化からブロック化へのシフトだ。1990年代初頭以降の世界経済では、ポーランドやハンガリーなどの東欧諸国が市場経済に仲間入りした。中国は改革開放路線をあゆみ、外資企業から製造技術を習得し、豊富かつ安価な労働力を武器に“世界の工場”としての地位を確立した。ロシアは天然ガスや原油、希少金属、小麦などの穀物の主要輸出国としての役割を発揮した。それによって、世界経済のグローバル化が加速した。

その状況下、米国など主要先進国は積極的な金融政策によって経済成長率の向上に取り組んだ。2000年9月の米ITショック(インテルの業績下方修正が米IT関連銘柄の株価を急落させた)や2008年9月のリーマンショックの発生によって一時的に成長率は低下したが、世界経済は基本的には低インフレと、緩やかな成長率の高まりを実現した。その背景には自由貿易の促進や海外直接投資の増加があった。

■「物価が上がりづらい経済構造」で起きたウクライナ危機

米国の企業は、高付加価値のソフトウエアなどの設計と開発に取り組んだ。製品の生産を新興国の企業が受託した。国際分業は加速し、先進国企業はコストが最も低い場所で高付加価値のモノを生産し、需要が豊富な市場で販売する体制を構築した。世界全体で経済運営の効率性は上昇し、物価が上がりづらい経済構造が整備された。

その状況下、内需が停滞するわが国では、長い期間にわたって日本銀行が超低金利政策など緩和的な金融政策を継続した。リーマンショック後は世界的に金融緩和策に依存する国が増えた。

しかし、ウクライナ危機によって欧米各国はプーチン政権下のロシアとの関係を断つ覚悟を強めている。ドイツの防衛予算増額は象徴的だ。西側諸国とロシアの分断は鮮明化するだろう。欧州やわが国は別の国からエネルギー資源などを、より高い価格で輸入しなければならなくなる。グローバルに張り巡らされた供給網が組み直され、そのコスト負担が企業の事業運営の効率性を低下させる。その結果、世界全体でGDP成長率は低下する可能性が高まっている。

■物価上昇は「ロシア原産」以外にも波及する

世界は、低インフレ環境から構造的な物価上昇へというパラダイムの変化にも直面しつつある。わが国は対応策を急がなければならない。3月7日のアジア時間の金融市場では“ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)”原油先物価格が1バレル当たり130ドル台に急騰した。その背景には、世界経済に対するロシアからの原油供給が減少し、需要を満たすことが難しくなるとの懸念急増があった。

今後、ロシアからの原油や天然ガス、木材、穀物、希少金属などの供給は減るだろう。供給が需要を下回り、価格は上昇する。高級食材と異なり、原油は日々の生活に欠かせない。高いからといって購入を我慢するわけにはいかない。また、新しい供給網の確立にはコストと時間がかかる。当面、世界全体で供給制約は深刻化するだろう。企業は増加するコストを販売価格に転嫁せざるをえなくなる。多くのモノの価格が上昇するだろう。

■岸田首相はエネルギー政策転換を急ぐべきだ

このようにブロック化によって世界経済ではコストプッシュ型のインフレが進みやすくなる。その場合、中央銀行にできることは限られる。通貨の価値を防衛するために利上げなどが行われたとしても、物価上昇率を2%程度に落ち着かせることは難しい。

場合によっては、経済成長率が低下してマイナス成長が続くと同時に、物価が上昇する展開もあるだろう。グローバル化に支えられた“低インフレと緩やかな成長”から、ブロック化による“構造的物価上昇と成長率低下”に、世界経済のパラダイムがシフトしはじめた可能性がある。

そうした展開に対応するために、目先、わが国は経済安全保障の観点からエネルギー政策の転換を急がなければならない。エネルギー政策の転換は一朝一夕には進まない。それだけに岸田政権は迅速に対応方針をまとめなければならない。具体的に政府は、洋上風力など再生可能エネルギーの利用増加に集中しなければならない。

オランダ・エイセル湖の風力タービン
写真=iStock.com/ahavelaar
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ahavelaar

エネルギーの安定供給は、国民が安心して、持続的に経済活動を送るために不可欠だ。また、安全保障体制の強化のために政府は米国との関係を基礎にしつつ、クアッド(日米豪印戦略対話)など多国間の連携も強化しなければならない。

■教育と先端分野の研究開発力の“底上げ”

やや長めの目線で考えると、岸田政権はわが国産業界の実力を高めなければならない。具体的には、教育制度の見直しと強化によって、ITや脱炭素など先端分野での研究開発力を引き上げなければならない。それに加えて、労働市場の改革も急務だ。

突き詰めていえば、個々人が世界経済の環境変化に合わせて自らの能力に磨きをかけ、その発揮をよりダイナミックに目指すことのできる環境を整備することが必要だ。そうした取り組みが進めば、わが国の企業が新しいモノを生み出して需要を創出することはできる。

需要が創出できれば、経済の実力である潜在成長率は向上する。それが構造的な物価上昇に対する経済全体での抵抗力向上を支える。また、わが国はアジアや中東、アフリカなどの資源国との関係強化も急がなければならない。UAEは原油増産の加速を呼びかけはじめた。

今後の展開によっては、主要産油国が構成する“OPECプラス”の利害が分裂する展開もありうる。不測の事態に備えて、わが国は真剣に親日国を増やさなければならない。そのためにも、政府は産業界の新しい取り組みを支援して、米中をはじめ世界から必要とされる先端分野での製造技術の実現を目指さなければならない。

■日本の「買い負け」の状況はより深刻に

それとは逆に、改革が遅れれば、わが国が世界のパラダイムシフトに対応することは追加的に難しくなる。すでに、水産品の市場ではわが国の企業が中国勢に買い負けるケースが増えていると聞く。今後、ロシアからのエネルギー資源などの供給が減少し、さらには物流混乱に拍車が掛かれば、世界全体で供給制約はさらに深刻化するだろう。その場合、わが国が経済活動の維持に欠かせない原油や天然ガスを思うように調達できず、電力供給が不安定化する恐れもある。

そうなると、わが国経済の実力は低下し、物価が上昇する中で国内の給与水準も落ち込むというかなり厳しい状況を迎えるだろう。ウクライナ危機は、コロナ禍が炙り出したわが国の問題を、一段と深刻化させている。岸田政権が構造改革を加速させ、産業界の実力向上を実現することができるか否かが中長期的なわが国の展開に無視できない影響を与える。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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