1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「生活の足であり続ける」新型アルトのベース価格を"100万円以下"に設定したスズキの矜持

プレジデントオンライン / 2022年3月22日 9時15分

今回試乗した「新型アルト(ハイブリッドX)」 - 筆者撮影

2021年12月、スズキは新型アルトを発売した。ベースモデルの価格は税込みで94万3800円だ。乗り心地はどうなのか。試乗した交通コメンテーターの西村直人さんは「かつて2代目のアルトに乗ったことがある。それと比較すれば立派な“乗用車”だ」という――。

■「エネチャージ」モデルに加えて、「マイルドハイブリッド」モデルが登場

2021年12月、スズキから新型の軽セダン「アルト」(9代目)が発売された。今回はその新型アルトに公道で試乗した。

エンジンは直列3気筒DOHC660ccでターボチャージャーなど過給器は付かない、いわゆるNAエンジンだ。新型では、そのNAエンジンに「エネチャージ」モデルを従来型から踏襲し、アルトとして初採用となる「マイルドハイブリッド」モデルを新規導入した。

改めてエネチャージとは、減速時のエネルギーを発電機で回生しアイドリングストップ専用12V鉛バッテリー(以下、鉛バッテリー)と小型リチウムイオンバッテリーの双方に充電、その電力を電装品に使うことでエンジンでの発電負荷を減らして燃料消費を抑えるシステムだ(エンジンへの直接アシストなし)。

新型アルト(ハイブリッドX)後ろ
筆者撮影
ボディカラーは「アーバンブラウンパールメタリックホワイト2トーンルーフ」 - 筆者撮影

■駆動方式は「前輪駆動」と「4輪駆動」の2種類

一方、アルトに新規導入されたマイルドハイブリッドシステムは、エネチャージでの発電機に代わりISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)と呼ばれるモーター機能付き発電機が減速時のエネルギーを回生し、鉛バッテリーと小型リチウムイオンバッテリーの双方に充電、その電力を加速時にエンジンにベルトでつながっているISGのモーター機能で加速をアシストする(エンジンへの直接アシストあり)。

この2つの方式とは別に、スズキには「S-エネチャージ」があった。機構的にはマイルドハイブリッドシステムと同じだが、ISGモーターの型式変更などをきっかけにS-エネチャージの呼び名を改め、マイルドハイブリッドシステムへと名称を統一している。

駆動方式はFF(前輪駆動)と4WD(4輪駆動)で、トランスミッションはCVTのみ。従来型に用意のあった5速MTや、その5速MTをベースにクラッチ操作とシフト操作を自動で行う5AGS(オートギヤシフト)は整理されている。

■高い剛性を誇る車体、カーブも滑らかに走り抜ける

今回試乗したのは、ハイブリッドモデルでFFの上級グレード「ハイブリッドX」。受注初期では一番人気だという。千葉県にある大型商用施設をベースに、駅周辺、住宅街、幹線道路、高速道路とバラエティに富んだコースを選んだ。

かつて筆者は別業界で営業職を経験していたのだが、その相棒が2代目アルトだった。非力ながらも軽量な車体と低速寄りのギヤ比によって割と活発に走ったが、速度を少し上げると安定感に欠け、カーブではやや不安定になりブレーキも心許なかった。

当然ながら、2代目からすれば新型は立派な“乗用車”だ。最新の衝突安全ボディで構成され、高い剛性を誇る車体は高速道路の継ぎ目もサラリといなし、カーブでもじんわりゆっくり車体を傾け滑らかに走り抜ける。

これはサスペンションの改良に加え、タイヤサイズが14インチへ1インチ大径化され、同時に偏平化されたことが大きな要因だ。ブレーキサイズも大きくなり、より安定した制動力が得られる。

さらに新型アルトで良かった点はマイルドハイブリッドシステムを得たことだ。これにより発進時から40km/hあたりまでの街中で多用する加速シーンではグンと力強くなり、走行性能に大きなゆとりが生まれた。とくに青信号からの発進時には、普通の運転操作で交通の流れをスッとリードできるから心理的な不安もない。

ここでの立役者はISGだ。モーター出力は2.6PSと僅かだが、加速力に直結するトルク値は4.1kgf・mにも及ぶ。エンジン単体のトルク値が5.9kgf・mだから、その70%近い値がモーターから得られ、しかも通電直後の100回転で最大トルクが加わるため力強い加速を体感しやすい。

■サイドウインドの形が変わり、左右の目視がしやすくなった

肝心の燃費性能も優秀だった。90分間の試乗における燃費数値は31.1km/l。信号が少なく渋滞もないなど走行条件が良かった5km程度の区間燃費では37.4km/lを記録した。

新型アルト 燃費モニター
筆者撮影
5km程度の区間燃費では、37.4km/lを記録した - 筆者撮影

室内も広い。ボディのルーフ部分をグッと張り出させたことで室内高(従来比+45mm)や室内幅(同25mm)にゆとりが生まれた。また、空間が拡がったことで万が一の衝突時、乗員が車内に強く接触する確率も減少し安全性も高まった。

個人的に好印象を抱いた点は、前席のサイドウインドがスクエア形状になったことだ。弧を描いていた従来型と比べて実質的な窓面積が増え、左右の目視による安全確認が格段にしやすくなった。

死角も減ったから狭い場所での取り回しも良好だ。また、14インチ化されたが最小回転半径は4.4mと+0.2mの拡大に留めた。車両重量は610kg→680kg(最軽量グレードでの比較)と、新型は装備を充実させ70kg重くなったが、アルトの主戦場であるWLTC-L(市街地モード)値での燃費数値はエネチャージ効果も手伝い新型が1.5km/l(約7%)も上回っている。

■新型ベースモデルは「初代の47万円に匹敵する」

ところで、試乗したアルトの価格は「2トーンルーフカラー」と「フロアマット」のオプション品を含んだ税込みで131万9615円だが、この車両価格が新型アルト登場時に話題となった。

鈴木俊宏社長自ら「新型のベースモデルである94万3800円(税込み)は、物価上昇率や装備内容を踏まえれば初代の47万円に匹敵する」と発言したからだ。

たしかに考えてみれば、初代の1979年当時には現在のような優れた衝撃吸収ボディやABS/エアバッグなどはなく、2021年11月に装着が義務化となった衝突被害軽減ブレーキも当然ない。税抜きの車両本体価格同士で比較すれば新型が38万8000円高いわけだが、なるほど経済状況やクルマ造りから考えれば、鈴木社長の言葉通りだ。

2021年に販売された新車の軽自動車(軽四輪車)の販売台数は165万2522台。これは登録車を含めた444万8288台の約37%に及ぶ。このうちスズキは、50万9169台を同期間に販売している(台数は全国軽自動車協会連合会と日本自動車販売協会連合会調べ)。

初代アルトは1979年に発売され、2021年11月末には累計販売台数526万台を達成した。アルトは名実ともにスズキを代表する車種である。

新型アルト 運転席周り
筆者撮影
運転席周りの操作性はとても良好。インパネセンターのシフトノブも1段ごとクリック感がしっかりしていて誤操作しにくい - 筆者撮影

■「ワゴンR」の台頭で、販売台数の伸びが鈍化していた

歴代アルトは人気車種であり、累計販売台数300万台は4代目の発売(1994年11月)直後である1995年に達成していたが、その後、販売台数の伸びが鈍化する。要因のひとつは、同じくスズキが生み出した軽自動車「ワゴンR」(1993年9月)の台頭だ。

背高ボディが与えられ、広いキャビンとともに、少し高められた着座位置によって得られる広い視界にユーザーは魅了され、ワゴンRはたちまち人気を博した。

同時に、ワゴンR人気に対抗すべく背高ボディの競合車(例/ダイハツ「ムーヴ」1995年8月)が市場に送り込まれた。こうした競争にさらされながら、アルトは5代目~8代目まで一定の支持は受けながらも販売台数自体は各世代とも50万台程度に落ち着いていた。

9代目となった新型アルトの発売に際し、スズキの鈴木社長は「アルトが属する軽セダンの市場は縮小傾向にあります。しかし、生活の足となる、使いやすい手頃な軽セダンをお求め頂く声を未だに数多く頂いており、今後も大切に守り続けたい」と、アルトの存在意義を熱く語った。

■軽自動車は「小さく、軽く、省資源」だ

軽自動車の規格は昭和24年(1949年)から始まった。全長2.8m、全幅1m、全高2mの小さなボディに、4サイクルで150cc、2サイクルで100ccと二輪車並の小排気量エンジンが組み合わされた。

その後、軽自動車規格は幾度となく変更を受ける。大きなところでは昭和30年(1955年)に4/2サイクルとも排気量が360ccに統一され、昭和51年(1976年)には550ccへ拡大された。そして平成2年(1990年)には現在と同じ660ccに。ボディサイズにも4度見直しが入り、現在は平成10年(1998年)に施行された全長3.4m、全幅1.48m、全高2mが適用されている。

クルマ社会における電動化の波は日ごとに勢いを増す。そうしたなか、この先のクルマ社会に対して軽自動車が果たす役割はどこにあるのだろうか。

たしかに、燃費数値に優れるHV(ハイブリッドカー)が普及したことで温室効果ガスのひとつであるCO2(二酸化炭素)の排出量は激減した。燃費数値が2倍になれば走行時のCO2排出量は半分になるからだ。

この先は電動化のうちBEV(電気自動車)やFCEV(燃料電池車)の販売台数を増やし、「温室効果ガスを一層削減していこう」、そんな声が各国から聞こえてくる。ただ残念ながら、小さく、軽く、省資源の軽自動車を強く推す声はない。

新型アルト ラゲッジルーム
筆者撮影
4名乗車時のラゲッジルーム。後席を前倒しすると1225mmまでの長尺物も収納可能だ - 筆者撮影

■トヨタとの資本提携には環境対策の目的も含まれている

温室効果ガス削減への取り組みは、2022年初頭からカーボンニュートラル化へと言い換えられた。しかし、走行時のCO2削減だけではカーボンニュートラル化は難しい。

トヨタ自動車では、21世紀初頭から「LCA(ライフサイクルアセスメント)」の概念を採り入れ、CO2の削減に取り組んでいる。車両を造るための資源採取から製造、走行、そして役割を終えた後の廃棄に至るまでに排出されるCO2を総合的に減らすという大きな枠組みだ。

さらにトヨタは、2050年の世界市場における新車平均走行時CO2排出量の90%削減(2010年比)を目指す「トヨタ環境チャレンジ2050」を2015年に発表、最終的には車両の電動化と再生可能エネルギーによってCO2ゼロを目指すという。

そのトヨタとスズキは2019年8月に資本提携に関する合意書を締結している。提携の目的は、トヨタが持つ強みである電動化技術とスズキが持つ強みである小型車技術を持ち寄り商品補完を進め、商品の共同開発や生産領域での協業等に取り組むことにある。当然ながら、ここにはLCA換算での環境対策も含まれる。

■軽自動車はCO2削減に大きな役割を果たす

その意味で、軽自動車はCO2削減に大きな役割を果たす。マイルドハイブリッドシステムは電動車だが搭載バッテリー容量はごく僅かで使用するレアメタルも少ない。車両重量も軽く、拡大されたとはいえボディは小さな軽自動車規格だ。

使っている資源が少ないから自ずとLCAにおけるCO2排出量も少ない。今回の試乗でも立証できたように、WLTC値(カタログ数値)を超える優れた実用燃費は誰でも達成可能だから、人ひとりあたりの移動時に発生するCO2削減効果も大きい。

さらに、現代の軽自動車には大人4人がしっかり移動できる空間があり、その空間は衝撃吸収ボディや衝突被害軽減ブレーキをはじめとした先進安全技術で守られている。環境だけでなく人にも優しい。軽自動車は究極のパーソナルモビリティだ。

2016年に続き、再び軽自動車税の税率引き上げが囁かれている。単に販売台数が多いから、登録車との価格差が大きいから、といった事柄を理由に増税の矛先を向けるのは早計であろう。

目指す温室効果ガス削減とその先にあるカーボンニュートラル化に対して、軽自動車が担える役割は大きい。そして軽自動車は、この先も小さな巨人であり続ける。

新型アルトの後部座席
筆者撮影
身長170㎝の筆者が運転席で正しい運転姿勢をとった際の後部座席。大人が十分座れる広さがある - 筆者撮影

----------

西村 直人(にしむら・なおと)
交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

----------

(交通コメンテーター 西村 直人)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください