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「腐り芸人」はここから始まった…ノブコブ徳井を更生させた深夜番組「ゴッドタン」のすごい作り方

プレジデントオンライン / 2022年3月31日 18時15分

写真=『ゴッドタン』Webサイト

お笑いコンビ・平成ノブシコブシの徳井健太さんは2018年まで腐っていた。しかし、『ゴッドタン』(テレビ東京/毎週土曜25時45分)の出演を機に、その毒は「腐り芸人」という笑いに変わり、再ブレイクのきっかけとなった。そのいきさつを、徳井さんの著書『敗北からの芸人論』(新潮社)より紹介する――。(第1回)

■千鳥のノブさんが語った『ゴッドタン』のすごさ

千鳥のノブさんと何年か前に飲んでいた時、こんな話をしてくれた。

「ちょっと前に『ゴッドタン』のスタッフさんと飲んだんやけど、その時にな、“申し訳ないんだけどうちの番組は、1週間のうち3日間はみっちり、企画について打ち合わせをしてるんだ”って言うんや。3日間もやで? “もちろん他の番組だって必死だろうし、芸人ならどの番組でも頑張らなきゃいけないのは分かるんだけど、『ゴッドタン』は絶対に面白い台本を自分たちスタッフがみんなで作ってるから。それを超えてもらうためにも、安心して死ぬ気で砕け散る覚悟でやってくれ”って」

それからしばらくして、ゴッドタンから「腐り芸人」という企画が僕の元にやってきた。僕は、死ぬ気でやった。砕け散る覚悟はしていった。つもりだ。

そんなこんなで、今回は人気深夜番組『ゴッドタン』について。

■ネタを書いているわけでもないのに、なぜか白羽の矢が立った

僕とインパルス・板倉さん、ハライチ・岩井とで結成された“腐り芸人”。

テレビのバラエティに馴染めず、心に闇を抱えてしまった芸人が本音をぶちまける企画だった。

僕はふたりとは違う。浮いている。なぜなら、元々が売れていないからだ。

板倉さんは芸歴2年ほどで『はねるのトびら』に出演していたし、岩井はハライチとして、速攻でテレビで売れた。しかもふたりとも賞レースで結果を残している。

対して僕ら平成ノブシコブシはネタで評価されたわけでもないし、そもそも僕は自分でネタを書いているわけでもない。それでもなぜか僕に白羽の矢が立った。

それだけでも死ぬ気でやろうと思ったが、以前ノブさんから冒頭に書いた『ゴッドタン』の話を聞いていた手前、スタッフさんの熱量や意気込みを勝手に感じ、その重さを勝手に背負っていた。

■共演者・スタッフの全員を噛み殺す心持ちで挑んだ

そもそも、呼ばれたのはたった3人。なんとなくで座っているひな壇とは違う。いろいろな選択肢がある中で、少ない席に僕を選んでくれた。けれど自信はなかった。面白くできる戦略もなかった。

でも、死ぬ気でやろうということだけは決めていた。周りにどう思われようが、適当にやったとか、手を抜いたとか思われないよう、共演者だけでなく、スタッフ全員噛み殺す心持ちで挑んだ。それは定期的に呼んでもらえるようになった今でも変わらない。

『ゴッドタン』は編集が素晴らしい。生々しく臨場感に溢れる編集だから、放送後、みんなが褒めてくれる。

テレビ放送スタジオ
写真=iStock.com/alempkht
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/alempkht

けれどいつも、現場での手応えはない。収録後は後悔の連続だ。ああ言えばよかった、なんであそこでこれを思いつかなかったんだろう。あんな顔では不快感しかないだろう。俺は無能だ、無能な自分を呪いたい……。

だが編集され、整えられた番組を観た人からは褒められる。街でも若い男の子に声を掛けられる機会が増えた。

■今でも後悔している“ある企画”

特に忘れられない企画に、「腐りカルタ」があった。

腐り芸人たちの吐き出す腐り名言でカルタを作るという、いわゆる大喜利だ。

板倉さんの大喜利能力は周知の事実、そもそも僕とはポテンシャルが大きく違う。岩井だってそうだ。ハライチのネタは大喜利をベースにして構成されていることも多い。

僕はその“大喜利ハンデ”を背負いながら、さらにこのふたりとは腐り方のレベルが根本的に違うと、鉄火場と化した本番中に痛感してしまった。自分の出す答えのパンチ力の弱さと、キレのなさ。孤独だった。

収録後、今でも忘れられないくらいにへこんだ。どうして逆にハンドルを切らなかったのだろう。僕は人と自分を比べないことにしている。

だから、板倉さんや岩井のように「なんであいつなんかが」とか「どうしてあいつがこんなつまらないことで褒められるんだ」とかは思わない。その時点でふたりには圧倒的に敵わない。しかも、そもそも大喜利へのハンディキャップも持っている。

今思えば……。それならば、腐りではなく褒める方、悟りの方に収録の途中でも構わずシフトチェンジすればよかった。

だが、そうできるだけの瞬発力も、それを実行できるだけの大喜利能力も僕には備わっていなかった。日頃の怠惰のせいだと思う。

■今の自分がいるのは全部『ゴッドタン』のおかげ

だからYouTubeを始めた。好きな芸人やモノを、ただ褒める。その一点に特化した、人のためになるYouTube。「徳井の考察」だ。だから腐り芸人とは言われつつも、いま僕は誰かを更生させたい一心で『ゴッドタン』に出演している。

徳井健太氏
徳井健太氏(©新潮社)

お前みたいなもんが、空気も読まずに褒めて……腐り芸人の主旨分かっているのかよ――。そんな批判があるのも知っている。けど、そんなの知ったこっちゃない。

とにかく『ゴッドタン』に出るとき、僕はいつも死ぬ気で、散る覚悟でやっている。

そして、少しずつ流れが変わってきた。「悟り芸人」なんて呼ばれることも増えた。なるほど、徳井はそういう人間なのか、と人を褒めたり諭したりする仕事も増えてきた。

全部『ゴッドタン』のおかげと言っても過言ではない。本当に感謝しています。

■間近で見た芸人・おぎやはぎのスゴさ

とはいえ、僕なんかよりもよっぽど悟っていて、板倉さんや岩井よりもよっぽど度胸のある腐り芸人がゴッドタンにはいる。おぎやはぎのお二人だ。

矢作さんは、一体、人生何周目を生きているのだろうか。常に清潔感があり、やさしく、字まで綺麗。しかも菩薩のようによく笑ってくれる。けれど愛想笑いはしない。

僕が「ギャラ飲みしかできないようなタレントは終わっている」というような話をした時も、「それをしなければ生きていけない人間もいる、って分かってあげなきゃダメだよ」と諭してくれた。

どうしたらそのような発想ができるのだろう。これぞ悟り芸人だ。

対して小木さんの言うことは、放送できるかどうか、いつも際どいことばかりだ。しかも、喋り終わった後に自己防衛のためのフォローも入れない。SNSでの炎上なんてまるで気にしていない。

お笑いに対してストイックな猛者集団である『ゴッドタン』のスタッフ陣も笑わないくらいに冷ややかな視点から、ウィットに富んだことまで、お構いなしに聞き手側へ放ってくる。

■声に出せないほど嬉しかった劇団ひとりの一言

ある日の収録後、劇団ひとりさんが佐久間宣行プロデューサーに言った。

「今日、2本分いったんじゃない?」この一言がどれだけ嬉しかったことか。

「腐り芸人」の企画は、いつも90分以上収録している。これはテレビ業界なら普通なことで、30分番組なら収録時間は60分から90分が相場だ。

どんなに有能なスタッフやタレントが集まっていたとしても、そのくらい収録すれば、当然無駄な部分や放送できない部分も生まれる。そこを編集で切り、30分の番組にしてもらっている。

だが、90分の収録を終えた後、「これは編集しても60分いけるんじゃない?」。そんなことを佐久間さんにさりげなく言うひとりさんの一言に、僕は声に出せないくらいの歓喜に沸いた。

■唯一無二のオモシロ芸人

狂人・劇団ひとり。芸人で、あの人のことをつまらないと言う人は一人もいない。唯一無二の絶対オモシロ人間だ。

一度「腐り芸人」に、僕よりも後輩のある芸人が来た。その後輩が話したのは、映画の撮影で、とある俳優にいじめられたというエピソードだった。後輩はリアルに喋ってくれ、僕たちも、面白く聞いたのだが、その内容は単純に許せない類のものだった。

スタジオはかなり盛り上がったが、その俳優というのが誰もが知るビッグネームというのもあり、そこの部分はまるまるお蔵入りとなることになった。

スタッフ含め、その場にいた全員がそれを薄々承知の上で収録していたので、そこまでのショックはなかった。ただ、一人を除いて。

収録後、ひとりさんが佐久間さんとコソコソ話していた。

「何とかして、今日のあの俳優の話を放送できないものだろうか?」

クレイジー過ぎる。絶対に無理に決まっている――そう思いながら、僕は真剣に顔を向かい合わせる二人の横を通り過ぎた。あの話が単純に面白いからなのか、それとも、後輩がいじめられた悔しさからなのか。

分かったのは、ひとりさんだけは本気だったということだ。

■他の番組での失敗とはワケが違う

シェイク・ヒロシという芸人だけをとりあげた収録回もあった。現場では90分くらいカメラが回っていた。面白かったように僕には見えた。けれどオンエアは5分ほどだった。これぞ、仁義なき戦いだろう。

「『ゴッドタン』に出られる、ラッキー!」なんて単純なことではない。

『ゴッドタン』への出演は決してチャンスなわけじゃない、むしろピンチなんだ。

あの番組に出て失敗するのは、他の番組や舞台でどんな失態を演じるより惨憺(さんたん)たる結果が待っていることを自分の収録の前に知った。

■番組プロデューサーの芸人愛が垣間見えた瞬間

2021年の2月に「佐久間宣行のオールナイトニッポン0」のなんとスペシャルウィークのゲストに呼んで頂いた。

スペシャルウィークというのはラジオの聴取率を測る大事な週のことで、この回の数字が良ければ番組は続くだろうし、悪ければ終わってしまうこともある。

そんなとても大事な回に、平成ノブシコブシが二人揃って呼ばれた。普段、テレビなどではコンビで揃うことが珍しいということなのか、ラジオリスナーの興味を引く布陣なのか、佐久間さんご自身が興味をもってくれたのか、理由はよく分からないが突如スケジュールに入った。

その放送では、「腐り芸人」の成り立ちや、「次世代腐り芸人」の話などを聞いた。

なぜ相方の吉村を『ゴッドタン』に呼ばないのかと佐久間さんに聞けば、「ちゃんと正面で頑張っている芸人に対して、『ゴッドタン』でよくやるように、その人のキャラをひっくり返すことは申し訳なくてしたくないから」と言っていた。

吉村に逆張りするのはもう少し後でいい。真っ直ぐ走っている人に変なちょっかいを出して、迷惑を掛けたくないという、芸人愛も聞けた。

■お笑いは音楽に勝てないと思っていたが…

同月に行われた「ゴッドタン腐り芸人オンラインセラピー~絶対にピー音が入らないオンラインライブ~」のチケットが2万枚弱売れたとも聞いた。

もちろん僕の力なんて微塵も及んでいないことは分かっている。板倉さんや岩井、おぎやはぎさんや劇団ひとりさんの力だ。

それに、いやそれ以上に、チケットが売れた理由は、視聴者が寄せる佐久間さんへの期待と信頼の大きさゆえだと僕は思っている。

あの佐久間さん仕切りのオンラインライブで、このメンツなら面白いに違いない。そう思った人間が2万人いた。

200人入れば成功と言えるお笑いライブにあって、会場で考えれば横浜アリーナが溢れるような巨大イベントになったのだ。

徳井健太『敗北からの芸人論』(新潮社)
徳井健太『敗北からの芸人論』(新潮社)

お笑いは音楽には勝てない。僕はずっとそう思っていた。ほとんどのミュージシャンはお笑いをしないが、音楽を使わない芸人はひとりもいない。

芸人のチケットは売れても千枚だが、ミュージシャンによっては10万枚だって即完売したりする。もちろんチケットの価格もお笑いの方がずっと安い。

しかも、同じネタを毎回披露するわけにもいかない。おまけに芸人がグッズで収益を出すなんて不可能に近い。

僕は勝手に諦めていた。だが、佐久間宣行は諦めていなかった。彼が担当する番組の企画で「俺のベビースターラーメン」という曲を発表した。お笑いは音楽に勝てない、そう思い込んでいた自分につくづく辟易する。共存の可能性を、僕はチラ見すらしなかった。

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徳井 健太(とくい・けんた)
お笑い芸人
1980年北海道出身。2000年、東京NSCの同期・吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」を結成。テレビ番組「ピカルの定理」などを中心に活躍し、最近では芸人やお笑い番組を愛情たっぷりに「考察」することでも注目を集めている。趣味は麻雀、競艇など。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。

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(お笑い芸人 徳井 健太)

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