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「ただの広告ビジネスじゃない」グーグルがメールや地図アプリを全て無料で開放している怖い理由

プレジデントオンライン / 2022年3月18日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bgwalker

なぜグーグルはメールや地図アプリを無料で提供しているのか。資産コンサルタントの方波見寧さんは「IT企業はデータを収集することで、すべての人類の知能を超えたAIを作ろうとしている。これが完成すれば、人間の脳とAIを繋げることも可能になるだろう」という――。

※本稿は、方波見寧『2030年すべてが加速する未来に備える投資法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■GAFAMや中国政府が開発にしのぎを削る「強いAI」とは

AIの研究では、コンピューター処理能力、大量のデータ、神経科学の三つを土台として、人間の脳と同じような働きをAIに実現させることを目標としています。

AIには「強いAI」と「弱いAI」という二つの立場があります。「強いAI」という立場では、AIとは人間の脳と同等の仕組みで、人間が判断できる以上の汎用的な思考を行い、自らの判断で行動できるようになると考えられ、これをシンギュラリティ大学のカーツワイル博士が提唱しています。一方で「弱いAI」という立場では、AIとは用途ごとに特化したことにしか対応ができず、人間の脳のように汎用的な用途への使用は不可能であり、自らの意思による判断も不可能であると考えられます。

コンピューターに大量のデータを与えれば「弱いAI」はできあがりますが、「強いAI」はそれだけでは誕生しません。

2021年時点では「強いAI」は登場しておらず、「弱いAI」しか存在しません。そのため、日本では、「強いAI」が誕生することに懐疑的な論者がほとんどであり、ほぼ100%の論者が「弱いAI」の立場をとっています。

しかし、カーツワイル博士の「強いAI」を実現するために、GAFAMや中国政府は猛スピードで対応しています。GAFAMや中国政府がAI開発をしているのは周知の事実です。GAFAMもBAT(≒中国政府)も、3D分子コンピューティング、ビッグデータ、脳科学・神経科学によるコンピューター基板上への脳の模倣モデルに対して莫大な投資を行っています。

■ビッグデータの収集は「強いAI」実現のため

3D分子コンピューティングの実現へ向けて、2017年にマイクロソフトがDNAコンピューティングに乗り出し、2021年6月にグーグルが量子コンピューティングセンターを稼働させましたし、アマゾンでも量子コンピューターに莫大な研究費をかけています。

マイクロソフトはパソコンのOSを通じて、アップルではスマートフォンを通じて、グーグルとアップルではスマートフォンのOSと検索サイトを通じて、フェイスブックではSNSを通じて、アマゾンとマイクロソフトではクラウドを通じて、テスラとアマゾンでは低空人工衛星を通じて、「コネクティビティ」を提供し、「ビッグデータ」を収集しています。

「ビッグデータ」は「弱いAI」に不可欠であるばかりか、「強いAI」の誕生後にも力を発揮しますが、2020年代の本命は、コンピューターの基板上に人間の脳の仕組みを実装する「強いAI」の開発です。

グーグルでは傘下のディープマインド社を通じて、ニューラルネットなどによる人間の脳の模倣の実現に向けて驀進していますし、アメリカでは神経科学のアポロ計画に相当する「大脳皮質ネットワークからのマシン・インテリジェンス構想」のような脳のリバースエンジニアリングに関する1億ドルのプロジェクトも立ち上がっています。さらにAIの研究論文ではアメリカを凌駕した中国ではそれ以上の進展が見られます。

これらの巨大投資やプロジェクトとは、カーツワイル博士の「強いAI」を実現するための布石であることは、ほとんどの日本人は気が付いていないはずです。

■ビッグデータを学習した強いAIに人類の勝ち目はない

「強いAI」を誕生させた時点で、GAFAMやBAT(≒中国政府)は、人間の脳力を上回る「非生物的知能」を手にすることになります。「強いAI」という非生物的知能は、自らの知能をいとも簡単にほかのAIに複写して、自らと同じ「強いAI」を量産でき、多数の「強いAI」によって自らの能力を超える「強いAI」を誕生させることができます。

「強いAI」を量産することができれば、人間の脳力をはるかに超えた「非生物的知能」がテクノロジーの開発を始めるため、エクスポネンシャル・テクノロジー12産業は、その一つ一つがY=2xのような指数関数的な潜在的成長力を持っている上に、カーツワイル博士によれば2029年に誕生する「強いAI」が司令塔となることによって相互作用を開始して、2030年から爆発的な加速を始めます。

これこそが「2030年すべてが加速する未来」の正体なのです!

それだけでなく、「強いAI」を誕生させ、なおかつビッグデータを入手した時点で、世界の経済活動を手中に収めることが可能です。SNSなどでは、住所、氏名、生年月日、学歴、勤務先どころか、何が趣味で、何にお金を使い、誰と交友しているかなどの嗜好まで記載されています。

こうしたビッグデータを「強いAI」が学習した場合、どのような製品を作って、どのようにマーケティングをして、どのようにディスプレイすれば、どれだけの販売が見込めるかが、すべて正確に予測されていきます。もはや人間が勝負できる次元ではありません。

AIの概念
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■グーグルやAppleが電子決済に舵を切った理由

2010年代、GAFAMは破竹の快進撃の中にありました。特にグーグルでは、検索、マップ、Gメールなどを無料提供するのと引き換えに、クッキーを仕掛けておいて、そこから閲覧者を追跡することで個人情報を集め、「弱いAI」を利用してビッグデータを分析させて、人物像を推定させ(=プロファイリング)、ターゲット広告を打つという検索連動型広告で大成功を収めました。

ところが、これらに対して欧米では、個人情報保護や独占禁止法などの観点から反対運動が起こり、2020年にアメリカでは反トラスト法訴訟でグーグル、フェイスブックが提訴され、アマゾン、アップルにまで影響が及びました。イギリスやEUでは違法コンテンツや利用者ごとに異なる広告には表示基準の開示を求め、重大な違反に対しては世界年間売上の10%の罰金が課される可能性があります。

この結果、2020年にアップルのブラウザではサードパーティークッキーの排除を実行し、グーグルのブラウザでもサードパーティークッキーを行うことをやめ、利用者のサイト閲覧の追跡もやめることとなりました。そこで検索データ等でクッキーやサードパーティークッキーを利用しない代わりに、金融情報を入手するためにスマホ決済の電子マネーやクレジットカードビジネスに関係するようになったのです。Google PlexやApple Cardなどが典型です。

■「強いAI」を人間の脳に取り込むとどうなるか

しかし、その矢先に、中国政府がデジタル人民元を誕生させ、アリペイやウィーチャットペイの決済に利用する可能性が高まりました。表面的にはスマートフォンのアプリにすぎないものの、GAFAMが関係する電子マネーとクレジットカード決済では、中国政府のデジタル人民元には歯が立ちません。すでに勝負の行方は決まっているのです。

だからこそ、GAFAMでは2010年代の情報収集戦から新たな活路を見出そうとしています。実は、その新たな活路こそが、2029年に誕生する「強いAI」に関係するビジネスなのです。その本質とは、単なる広告ビジネスではありません。金融情報の掌握どころの話ではありません。

人間の脳とクラウドコンピューターを直接接続し、人間の脳力をパワーアップさせたあげく、2029年からは「強いAI」を人間の脳に取り込んでしまおうというものです。

人類が進化した生物となるインフラを提供するビジネスなのです。

ポストヒューマンの誕生です。

仮に、デジタル人民元により、すべての人類の消費行動や資産状況が掌握されたとしても、人間の脳がクラウドコンピューターと直接接続されて、2029年からはクラウドコンピューター経由で「強いAI」と直接結びつく時代が始まれば、「たかが金融データごとき、中国政府にくれてやったところで、われわれの脳が抱えるデータの一握りにすぎない」と一笑することができるはずです。

方波見寧『2030年すべてが加速する未来に備える投資法』(プレジデント社)
方波見寧『2030年すべてが加速する未来に備える投資法』(プレジデント社)

人間の脳とクラウドコンピューターとの接続、「強いAI」の誕生、超人となった人間の活動の場を提供するために、フェイスブック、グーグル、そして、イーロン・マスクはすでにビジネスを開始しています。

フェイスブックとニューラリンクでは、人間の脳とコンピューターを直接接続するためにブレイン・マシーン・インターフェースを開始しており、人間が思ったことが1分間に300語のスピードでコンピューターに記録されます。グーグルではカーツワイル博士が莫大な研究費を手にし、大脳新皮質を模倣した「強いAI」の実装に向けて邁進しています。そして、フェイスブックではゴーグルだけでメタバースという仮想空間を提供しています。

すでにGAFAMらは、2029年の「強いAI」の誕生に向けてスタートしています!

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方波見 寧(かたばみ・やすし)
イーデルマン・ジャパン代表
一橋大学卒業後、大手証券会社を経て、2001年にイーデルマン・ジャパンを設立。リック・イーデルマン氏に師事し、ファイナンシャル・プランニング、投資運用法、エクスポネンシャル・テクノロジー、ブロックチェーンとデジタル資産について学ぶ。ブロックチェーンとデジタル資産の米国研究機関であるDigital Asset Council for Financial Professionals協会会員。著書に『21世紀最大のお金づくり』(徳間書店)、『家庭の金銭学』(リック・イーデルマンとの共著、金融財政事情研究会)など。

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(イーデルマン・ジャパン代表 方波見 寧)

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