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「欧米は絶対に信用できない」かつては謙虚だった中国が"ごろつき国家"に変わってしまった理由

プレジデントオンライン / 2022年3月22日 11時15分

北京2022冬季パラリンピックの閉会式でモニターに映し出された中国の習近平国家出席=2022年3月13日、中国・北京 - 写真=時事通信フォト

3月2日、国連総会の緊急特別会合が開かれ、ロシアにウクライナから即時撤退を求める決議が141カ国の賛成多数で採択された。これに対し中国は「棄権」を選んだ。なぜ中国は国際社会と距離をとるようになったのか。『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)を書いた高口康太さんに聞いた――。(前編/全2回)

■中国は国際社会に“絶対的な不信感”をもっている

——3月13日まで北京パラリンピックを開催していた中国ですが、近年、ウイグルの人権問題や香港の弾圧など国際社会から批判を浴びています。EUのピーター・バンダーレン欧州議会議員は中国を「ごろつき国家」などと批判しているほどです。なぜ、中国は、国際世論を意に介さずに独自路線を進めるのでしょう。

その背景には、歴史的に中国が抱える国際社会に対する絶対的な不信感があります。政府から人民にいたるまで国際世論を信頼できないという感覚を抱いているんです。

中国は、アヘン戦争以来、アロー戦争、清仏戦争、日清戦争……と国際社会に散々痛い目に遭わされてきました。中国の知識人や政府の高官たちは、諸外国から圧力を受けるなか、国際社会に期待していました。世界には国際法という道義を正すルールあるらしい。中国では万国公法と訳された国際法が、自分たちを守ってくれるはずだ、と。

しかし、彼らの期待は粉々に打ち砕かれ、各国にいいようにやられてしまった。その結果、国際社会、国際世論には期待できないという強固な意識が培われていきました。日本でも、正義と法にのっとって動く国際社会に期待する人もいるでしょうし、逆に国際社会は弱肉強食だと考えている人もいるでしょう。

その意味では、中国では、共産党の幹部や知識人、下々の国民にいたるまで、国際社会や国際世論に対して、諦観と言ってもいい感覚を持っている。

■かつては「国際社会では謙虚にする」が方針だったが…

——なるほど。国際社会に批判されても、自分たちに有利なポジションを築こうとする中国の姿勢は、180年以上かけて培われたのですね。

それでも十数年前までは「韜光養晦(とうようこうかい)」という外交政策をとっていたので、国際社会と軋轢(あつれき)を生む場面は少なかった。1989年に民主化運動を弾圧した天安門事件で中国は、国際社会で孤立しました。

このとき最高指導者だった鄧小平が唱えた外交政策が「韜光養晦」です。「国際社会では謙虚にして、実利をとって力を蓄える」という意味です。以来、「韜光養晦」を継承してきたのですが、2008年を境に方針を転換した。力を蓄えたから、謙虚にする必要はないと大国として振る舞うようになった。

国際世論には期待しないという話と矛盾するようですが、大国になったゆえに中国は、国際的な批判をとても意識するようになりました。

■中国共産党に不満を抱く国民はごく少数

たとえば、コロナ起源説。諸外国ではコロナは中国で発生し、世界中に広まったと考えられている。でも、中国では、新型コロナの発生源は中国ではないという説が、国内で受け入れられ、お上から下々の人民にいたるまで人気がある。

もしも本当に中国が起源だったとしても、各国が中国に損害賠償を請求したり、謝罪を求めたりするのは現実的ではありません。どの国で感染症が発生してもおかしくないのですから。にもかかわらず、中国は、自分たちが不利になるような指摘に対しては、ウソをついてでも頑なに認めようとしない。自分たちは大国になったんだから、諸外国よりも優位に立ちたいという意識の表れのようにも見えます。

中国・深圳市の街並み
写真=iStock.com/NI QIN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NI QIN

昨年11月、中国共産党は、過去の思想や政治路線を振り返り、新たな方針を指し示すための「歴史決議」を採択しました。そのなかで、中国共産党がどんなにすばらしい政策を行ってきたかを延々とまとめている。

まず過去に外国勢力を打ち破り、人民に中国大陸を取り戻した。そしていまは、経済発展させて、国を豊かにし、人民にも幸福をもたらした……。そうやって中国共産党の正当性を示しているんです。

——当の中国国民はどう受け止めているんですか?

もちろん経済発展に取り残されて困っていたり、不満を募らせたりする人はいます。

ただ中国共産党は、経済発展に自信を深めている。格差はあるものの、世界2位に経済大国に成長し、人民の多くが豊かさを享受している。不満を抱く人はごく少数で、大半の人民が幸福に暮らしていると考えているからです。

■「SARS感染者が出た」と同僚に報告しただけで処分された医師

私の実感としても、中国共産党のおかげで、豊かになったと感じている人民が多いように思います。そうした人民の意識の変化に、中国社会の劇的な変化を感じます。

ひと昔前――2000年から2010年代前半だと中国人民のなかで、自国批判が流行していた時期がありました。「中国にはこれが足りない」「中国の政治はこうすべきだ」というような話題がメディアやネットで人気コンテンツになっていたんです。

2012年に最高指導者になった習近平が当初から手を入れたのが、そうした自国批判を封じること。政権に対してネガティブな発言の取り締まりを強めていきました。

習近平政権の前の胡錦濤時代は、抗議集会やデモなどの直接行動は取り締まりの対象になりましたが、政府を批判したり、疑義を呈したりするメッセージを発してもさほど問題にはならなかった。それが習近平政権になって言論統制、ネット検閲が一気に強化された。習近平体制のネット検閲の特徴を挙げるとすれば、予兆の段階でトラブルの芽を摘み取ろうとする点にあります。

象徴的だったのが、コロナ禍での李文亮医師の事件でしょう。李医師はコロナ発生当初、SARS感染者が出たという報告を同僚とシェアしただけなのに、デマを流したとして訓戒処分を受けました。李医師の事件に見られるように、中国政府は社会秩序に不安を与えかねない情報をいち早く発見し、潰す方向に力を入れているのです。

■検閲されていることにすら気づけない

——そんなことを続けていれば、いずれ不満が爆発するのでは。

そう思うのですが、検閲は驚くほど巧妙なんです。李医師のような経験をする人はごく一部で、一般の人民が普通に生活し、普通にインターネットを利用しているだけでは、中国共産党が検閲を強化している事実にすら気づきません。

かつてはインターネット上で記事が検閲に引っかかると「この記事は見つかりません」などという記述が残り、検閲が行われていた痕跡が分かりました。しかしいまは、検閲された事実すらも分からないようになっています。

高口康太『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)
高口康太『中国「コロナ封じ」の虚実 デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)

以前、私が中国に住む友人にウイグルに関する記事をメッセージアプリで送りました。しかしいつまで経っても返事が来ない。確かめてみると友人は「何も届いていない」と言う。もしも「この記事は違法な内容を含むので送れない」という表示されれば、検閲によって削除されたと気づけますが、送信に成功したかどうかも分からない。非常に不透明な仕組みになっている。都合の悪い情報は、いつの間にか勝手に削除されてしまうのです。

ネットの掲示板や記事のコメント欄もそう。コメント欄を見ると、中国共産党に都合のいいコメントやメッセージばかりが並んでいます。それを見れば、ほとんどすべての人民が中国共産党を支持していると勘違いしてしまいそうになる。でも、実際は体制批判のコメントやメッセージは誰の目にも付かないようにひっそりと削除されている。

興味深いのは、書き込んだ本人も検閲され、削除された事実に気づかないこと。反応がないので、自分の書き込みに誰も興味を持たないと思い込んで、体制批判をしなくなるよう仕向ける。いわば、中国には、目に見えない思想統制、監視社会が構築されているんです。(後編に続く)

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高口 康太(たかぐち・こうた)
ジャーナリスト/千葉大学客員准教授
1976年生まれ。千葉県出身。千葉大学人文社会科学研究科博士課程単位取得退学。中国経済、中国企業、在日中国人社会を中心に『週刊ダイヤモンド』『Wedge』『ニューズウィーク日本版』「NewsPicks」などのメディアに寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか』(祥伝社新書)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)、編著に『中国S級B級論』(さくら舎)、共著に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA)などがある。

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(ジャーナリスト/千葉大学客員准教授 高口 康太 聞き手・構成=山川徹)

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