ユニコーン3社で働いた結論…「転職クチコミには本音が書かれている」は大間違いである
プレジデントオンライン / 2022年3月18日 9時15分
※本稿は、森山大朗『Work in Tech! ユニコーン企業への招待』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■頭に染みついた常識を「見える化」し、転職の「バイアス」を壊せ
「ブレイク・ザ・バイアス」という言葉を聞いたことはありますか。
これは、数々の画期的な製品を世に送り出してきたビジネスデザイナー・濱口秀司さんが提唱する、イノベーションを意図的に起こすための方法論です。濱口さんは、これまでのプロダクトやビジネスデザインの経験から「ニーズを探る前に、バイアスを探せ」と喝破しています。
![森山大朗 『Work in Tech! ユニコーン企業への招待』(扶桑社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/2/200/img_b2560c7e32e0b6e40de8820e58f3ed06186365.jpg)
人間は誰もが認知バイアス(偏ったモノの見方)にとらわれているので、物事についての新しい視点や、今までにない商品を生みだしたければ、そのバイアスを意図的に壊す必要があり、そのうえで物事を捉え直す必要があるという考え方です。
見えないバイアスは、壊せません。バイアスを壊したければ、まずは頭に染みついた常識を「見える化」する必要があります。
本書では「転職におけるバイアス」を探し、それを一度、壊してみようと思います。
転職エージェントや、転職サイトやクチコミサイトに抱いていた従来のイメージを、捉え直すきっかけになれば嬉しいです。
■「転職のプロ」とは「転職させるプロ」
1 キャリアアドバイザーが「転職するプロ」とは限らない
最初に壊すべきバイアスは「転職のプロに相談しよう」という僕らの先入観です。
皆さんは「転職エージェント」や「キャリアアドバイザー」という仕事に、どのようなイメージを抱くでしょうか。
「転職のプロとして、的確なアドバイスをしてくれる」
「自身の転職経験をもとに、多くの人を転職成功に導いてきた」
「自分の悩みに寄り添い、親身になって話を聞いてくれる」
そんなイメージでしょうか。
しかし、ここで注意すべきなのは、転職エージェントやキャリアアドバイザーだからといって、必ずしも転職が得意なわけではないということです。それどころか、一度も転職経験がない人がキャリアアドバイザーとして働いていることもあります。
なんだか不思議ですよね。だって考えてもみてください。もしもパーソナルトレーナーが、太っていたら? 投資アドバイザーが、投資経験ゼロだとしたら? 結婚アドバイザーに、結婚経験がないとしたら?
どう感じますか。「この人の話を信じて大丈夫かな?」と不安になりますよね。
僕はこの問題について、キャリアアドバイザーが言う「転職のプロ」とは「転職するプロ」ではなく「転職させるプロ」のことだと捉えています。
「転職に詳しい人」の属性を、4分割マトリックスで考えてみましょう。(図表1参照)
![「 転職に詳しい人」にも4タイプいる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/f/550/img_0fc76f52e29e5df8253d0c585e484a84104378.jpg)
多くのキャリアアドバイザーは、「自分の転職実績が豊富」で、かつ「他人を転職させた実績も豊富」という「B」のエリアに所属しているはずです。
しかし、なかには自分の転職経験は乏しく「A」のエリアにいる方もいるでしょう。実績不足のキャリアアドバイザーは「C」のエリアですね。
一方で、僕のようなタイプは、転職させることを生業にしているわけではないですが、自分の転職経験は比較的豊富なので「D」に位置するはずです。
転職希望者が、この「A」や「C」のエリアにいるキャリアアドバイザーに、そうと知らずに転職のプロとしての期待値を求めるのは微妙です。
■転職やキャリア実践の分野には「正解」がない
そう言うと、「いや、キャリアドバイザーは医者のようなものだから」と反論する人もいます。医者の不養生という言葉にあるように、お医者さんだって人間なので、自分が病気にかかってしまうこともあります。
医者が、自分がその病気にかからないと、治療できないわけではないのと同様に、転職エージェントだって「転職経験がなくてもアドバイスするのは構わないはず」というわけです。
なるほど、それは一理あるとは思います。自分自身の経験が乏しくても、多くの患者さんの症例と向き合ってきた経験からのアドバイスは、いち意見として有効だからです。
しかし、それをもって「転職やキャリアにおける医者さん」というのは飛躍しすぎです。なぜなら、医療と、転職・キャリアとでは、その再現性において比較にならないからです。
医療分野、例えば医薬品を例に挙げると、その効能に対しては副作用も含めた十分な治験が行われ、国の許認可を経たうえで、医師の手で処方されます。その結果、一定の再現性が保障されているわけです。
一方、転職の分野はどうでしょうか。転職やキャリア実践の分野には「これが正解」と言える一般解はほとんどなく、千差万別です。医療行為と違って誰も再現性を担保してくれません。
これが「転職エージェントはお医者さんのようなもの」という例えが、いまいちピンとこない理由です。
■「転職活動を支援するサポーター」
むしろ転職は、医療よりもスポーツに近いと思います。
スポーツにも理論はありますが、観察による形式的な知識より、実践から得られる「身体知」がパフォーマンスに大きな影響を及ぼすという意味で似ているからです。
例えば、野球のコーチを野球未経験者が担当することは、まずありえません。仮に選手育成のためのコーチメソッドがあったとしても、自らスポーツを実践して身体的に得たセンスや学びがない人が、野球選手の動きを観察しても、適切な育成はできないからです。
したがって、まずはご担当の転職エージェントの方に、その人自身の転職経験を聞いてみてください。そのうえで転職経験に乏しいエージェントが担当だったら、その方にプロ視点でのアドバイスを求めるのは、期待するほうが間違っています。
そういうエージェントに期待するべき役割は「プロによるアドバイス」ではなく「転職活動を支援するサポーター」です。
「知見を得る」のではなく「やるべき作業を代わりにやってもらう」のです。そういう観点から、担当のエージェントには適切な要望をしてあげたほうが、双方にとってベストのはずです。
前述した「企業の非公開情報」について聞くのもそうですし、転職エージェントの方が毎日たくさんの履歴書や職務経歴書に目を通しているのは事実なので、伝わりやすいレジュメの書き方やフォーマットについて聞くのも、有効な転職エージェントの活用法です。
企業選びやキャリア選択も「その道のプロがいい感じにしてくれる」わけではありません。あくまで自分が、自分のキャリアの意思決定者であることを忘れないでください。
■異業種で年収の下がる転職が紹介されづらい理由
2 転職エージェントが「いい案件」をくれるわけではない
とはいえ、彼らにやってもらえることにも限度があります。
転職エージェントは、ボランティアではありません。あなたが直接お金を支払って契約しているわけでもないのに、親身に話を聞いてくれたり、相談に乗ってくれたりするのは当然だと、「奉仕の精神」を彼らに求めるのは筋違いです。
なぜ彼らが話を聞いてくれたり、転職先企業を探してくれたり、履歴書や職務経歴書についてアドバイスをくれるのか。
それは、転職エージェントのビジネスモデルが「成功報酬型」だからです。企業から求人案件を請け負い、自分たちのサービスを介して人材を紹介し、その候補者が企業からの内定オファーを承諾して初めて、想定年収のおよそ30%を入社後に紹介手数料として企業に請求できます。
しかも、入社後数カ月での早期離職があった場合、一定の返金規定も設けています。個人と企業とのミスマッチを放置しないためです。
僕は新卒時代にリクルートの転職エージェント事業で働いていたので実感するのですが、彼らも目標数字を追っていますから、日々の業務は効率的に行う必要があります。
こういった背景が彼らの行動に影響します。それは、転職エージェント事業で収益を最大化するなら、「年収が高い人」に「内定しやすい業界や仕事」を紹介するのが最も効率がいいという考え方です。
その結果、早期離職傾向の強い人や、転職回数が多い人、年齢が高い候補者などは敬遠されがちです。なぜなら、内定が出やすい人にフォーカスしたほうが、効率よく成果を上げられるからです。
さらに言うと、たとえ素晴らしい経歴の人がチャレンジを希望したとしても「業界や職種が変わる転職」や、「異業種ゆえに年収が下がる転職」は、あまり積極的には紹介したがりません。年収が下がれば彼らの報酬も減るからです。
これは、転職エージェント一人ひとりの問題ではなく、ビジネスモデルが生みだす認知バイアスであり、行動メカニズムなのです。
このことを理解したうえで、転職エージェントとは適切かつ対等に付き合うようにしましょう。エージェントに過度に依存し、言われるがまま転職して「転職してみたら話が違った」では遅いですし、反対に転職する気がないのに彼らの時間を無為に使わせるのも失礼です。
■転職サイトは「広告」として進化してきた
3 転職サイトやクチコミサイトに「真実」が書かれているわけではない
転職サイトや転職クチコミサイトにも、認知バイアスがかかっています。それは、転職サイトには企業による「正しい内容」が書かれていて、転職クチコミサイトには、その会社で実際に働いた人による「本音」が書かれているというものです。
転職サイトは、とりわけ日本においては「広告」として進化してきました。これはリクルートが、かつて味気ない文字だけだった求人情報を、もっと魅力をアピールできるようにメディアとして育ててきたからです。
アピールするのが目的である「広告」なのだから、掲載側にはできるだけ閲覧者を惹きつけたいという心理が働きます。つまり、「盛る」ということです。
結果として、入社してみると配属が想定したものと違ったり、入社前に聞いていた職務とは微妙に違うものに変わったりといった、期待と現実とのギャップを生みだしています。
一方、欧米では、求人情報はこれとは真逆の進化を遂げました。広告ではなく、あくまで「契約書」としてジョブディスクリプションを進化させていったのです。欧米では情報表現のフォーマットとしての考え方が、日本とは逆なのです。
これは欧米社会が日本よりもずっと厳しい「訴訟社会」で、雇用前に合意した職務内容を入社後に逸脱したりすれば、いとも簡単に訴えられ、かつ敗訴する可能性が高いという社会的背景から来ています。
かといって、転職クチコミサイトに真実が書かれているかというと、そういうわけでもありません。
■人間はネガティブな気持ちになると筆が乗る
一般的に、クチコミサイトに何かを書き込む人の動機やモチベーションはどこからやってくるのでしょうか。今その会社で活躍している人が、クチコミサイトに会社についてのコメントを書き込む動機が、それほどあるとは思えません。
人間は一般的に、何かネガティブな気持ちになったときほど筆が乗るものです。SNSや大手メディアのコメント欄には、誹謗中傷の書き込みが日々流れていますが、それが人間心理のメカニズムなのです。
ですから、転職サイトやクチコミサイトで「真実」を見つけるという発想は危険です。そうではなく「あえてネガティブな情報もチェックしておこう」という気持ちで使ってください。情報の仕入先としては、あくまでサブソースです。
もちろん、僕がここで話している内容も、あくまで「森山大朗という一個人の意見」であり、ひとつの方法論に過ぎないという程度に考えておいてくださいね。
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スマートニュース Technical Product Manager
早稲田大学卒業後、リクルートや新規サービスの立ち上げを経て2013年から株式会社ビズリーチで求人検索エンジンの開発を推進。2016年から株式会社メルカリで検索アルゴリズム改善やAI出品機能の開発に従事し、Head of Data/AI/Searchとしてエンジニア組織を統括。2020年より現職。株式会社ソウゾウも支援。ブログやSNSでは「たいろー」名義で転職やキャリア、テック業界についての情報を発信する。Voicy/『Work in Tech!』
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(スマートニュース Technical Product Manager 森山 大朗)
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