40代50代の転職に失敗する人が、ことごとく勘違いする「たった1つのポイント」
プレジデントオンライン / 2022年3月26日 9時15分
※本稿は、河合薫『THE HOPE 50歳はどこへ消えた?』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「あなたの後輩で誰かいい人いませんか?」
会社に見切りをつけるべきか、留まるべきか? 転職は、50歳前後の会社員の最大の悩みといっても過言ではない。
しかし、「絶対にこんな会社やめてやる!」と盛り上がっていた人でも、40代前半までは「定年前に絶対にやめます!」と豪語していた人でも、50歳を超えると“様子見派”に転じる人が少なくない。
書類選考で連敗続きで、面接にさえ進めない。面接でそれまでの実務経験についてさんざん聞かれたのに、最後の一言は「あなたの後輩で誰かいい人いませんか?」……。
いい大学を出て、いい会社に就職し、同期内競争を制して課長レベルまで昇進した、能力主義社会の勝者、いわゆる「メルトクラシーの勝者」ほど、転職のハードルは上がりがちだ。
収入や役職などの社会経済的地位は、職務満足感や人生満足感を高める。しかしその反面、「自分は勝っている、自分には能力がある、自分はこいつらとはちがう」と他者と自分を区別する道具になるマイナス面もある。
とりわけ、役職に付随する「権力」におぼれると、その力に執着することで不安から逃れようとする。自分の心をコントロールできない人ほど、他人を支配したがる。権力は強さではなく、弱さに宿るものだ。そういう人たちは決まって、「もちろん、いい話が来たら即行きますけど」と言う。まるで白馬の王子様を待つ夢見る少女のように、根拠なき楽観にすがるのだ。
■セカンドキャリアは7掛で
その一方で、転職を決断し、たとえ険しい道のりだろうと新天地に進んでいく人たちがいる。彼らは、決まってすっきりしたいい顔をしている。
「セカンドキャリアは7掛で考えたほうがいいんですよ」「若い人たちが多くて戸惑うことばかりですけど、面白いですよ」と、新しい環境に溶け込む努力をしていた。
見切りをつける人と留まる人を分かつもの。それは健康社会学の分野で言うところの「環境制御力 environmentalmastery」だ。これは「どんな環境でもやっていける確信」のことだ。
高い環境制御力を持つ人は、複雑な状況の中でも機会を有効に活用し、能動的に動くことができる。逆に環境制御力が低いと、はなから「この状況を変えるのは無理」とあきらめているので、自分を生かす機会も目に入らない。
■50代の心情は複雑…
働く環境が劇的かつスピーディに変化している今、この「環境制御力」の向上がきわめて重要だ。
ところが、人は利益より損失に対してずっと強く反応するため、エリートほど自分がかつて手に入れたものに固執し、変化を受け入れることができない。年齢を重ねるほど手に入れた褒美も多いことに加え、自分のやってきたことへの自負心もあるので、なおさらである。
その微妙かつ複雑な50代の会社員の心情を浮き彫りにしたのが、2020年12月に行われた「ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成~転職者アンケート調査結果~」(独立行政法人労働政策研究・研修機構が実施)だ。
■50代男性の86.1%が正社員としての転職に成功している
この調査は、30~50代前半の会社員を対象に実施したもので、年齢別の分析に加え、転職者と非転職者との比較をした点が、最大の売りといえる。
![河合薫『THE HOPE 50歳はどこへ消えた?』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/7/1200wm/img_9791d314f9a0e1ae4d4ce25fc4e2d9a4275847.jpg)
転職者は、調査が行われる2020年12月までの3年間に転職経験のある会社員の男女4205人(男性2582人、女性1623人)。転職先への入社時期は、18年が全体の4割、19年が4割弱、20年が約2割だった。また、2020年の入社者は、1回目の緊急事態宣言が発令される以前の3月までが全体の4.9%、4月以降は15.8%で、男性では年齢層が上がるに連れて高い。
転職理由は、82%が自己都合で、18%が会社都合。年齢が上がるほど会社都合が増えて、50代は20%超だったので、中にはリストラも含まれていると考えられる。
一方、「50代で正社員になるのは難しい」と一般的にはいわれているが、男性の場合、50代の実に86.1%が「正社員」で採用されていた。女性では45歳以降、正社員50%前後で、契約、パートに分散するため、これ以降は男性の回答のみ見ていくことにする。
「正社員」で雇用された人のうち、「大規模転職」(転職前より従業員数が多い)は、40代が43%前後と多かったのに対し、50代は「小規模転職」(転職前より従業員数が少ない)がほかの年齢層より多く、34.2%。月収も、年齢が高いほど前職に比べ低い傾向が認められ、月収が下がった人(20%超低下と5~20%低下)は、40代後半が29%であるのに対し、50代は34.9%と4割弱が下がっている。
しかし、しかしだ。
50代でも前職より高くなった(5~20%以上上昇)人が、35.4%もいた。50代=もらいすぎと批判されがちだが、その常識を覆す結果だともいえる。
■「どこにいたか」より「何をしてきたか」
さて、ここからが、ミドルエイジ会社員たちの心の動きが垣間見える結果だ。
「転職先にアピールした点」を尋ねたところ、もっとも多かったのは「これまでの業務実績」で、年齢が高いほどその傾向が強く、45歳以上では75%超。「専門的な知識やスキル」「資格を持っていること」が続いた。「前職の勤務先名」を挙げた人は、30代では5%だったのに対し、40歳以上では10%を超え、50代は13.8%ともっとも多かった。
では、採用側はそれをどう評価したか?
参考になるのが、転職者に「採用選考でもっとも評価されたと思う点」を挙げてもらった回答である。
なんと、40代後半から50代の人の半数近くが「これまでの業務実績」を挙げ、「資格」(50代4.6%)、「専門的なスキル」(50代12.2%)を大きく上回っていた。
自己アピールをする際に、40歳以上では実に10人に1人以上が、「前職の勤務先名」をアピールしていたのに対し、「採用選考で評価された」としたのは、50代ではたった1.3%しかいなかった。つまり、「どこにいたか?」ではなく、「何をしてきたか?」が評価されていたのだ。
![群衆から目立つ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/d/1200wm/img_fdbe298e9e2a1572c5dbe1dc20102196295085.jpg)
むろん、前職が有名な大企業であるほど「使いづらい」「肩たたきに遭っているんじゃないか」と、否定的に捉えられる可能性はあるだろう。
資格や専門的なスキルは、いわば「足の裏の米粒」のようなもの。取らなきゃ気になるけど、取ったからといって腹を満たすものではない。「今までの働きぶり」が次につながっていくのであり、キャリアは連鎖しているのだ。「今、この瞬間」にどれだけ正しい行いをするかで、10年後、いや、20年後が決まるのである。
■会社を捨てても、経験は残る
もちろん、転職すればいいというものではない。しかし、何かを失うことなしに前に進むことはできない。
会社を捨てても、「私」の財産=暗黙知は残り続ける。地面を踏み締めた感覚、這いつくばった経験は、新しい環境で生かすことができる。失う、という苦い経験も、数年後には財産になる。
まだ50歳だ。「五十や六十で迷ったりしちゃいけない」のだ。70歳まで働いたとして、あと20年もある。50歳に至るまでの20年という時間を振り返れば、それがいかに長く、いかに賑やかで、いかに成長のために貴重な時間だったかを思い出せるはずだ。
その大切な時間を、「選択肢がないから離れない」と考えるのは、自分の心の自由まで会社に捧げることに等しい。つまるところ、「プランB」を持てないことが、会社員の最大の問題といえる。彼らは自分の存在意義を、会社という顔の見えない組織に埋没させている。それが最大の問題であることに、当人たちは気づいていない。
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健康社会学者(Ph.D.)、気象予報士
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。著書に『残念な職場』(PHP新書)、『他人の足を引っぱる男たち』『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『THE HOPE 50歳はどこへ消えた?』(プレジデント社)などがある。
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(健康社会学者(Ph.D.)、気象予報士 河合 薫)
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