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「誰も話せる相手がいない」日本の既婚男性が次々と発症する"見えない病"の正体【2021下半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2022年3月23日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dean Mitchell

2021年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。老後部門の第3位は――。(初公開日:2021年12月28日)

■退職した瞬間に、ぱったり交流が途絶える「友達」

よく高齢者向けに「ソロ社会」をテーマとした講演会を実施した際、特に男性の高齢者からこんな質問を多くいただきます。

「会社を辞めてから友達がいなくなった。どうすればいいか?」

この質問は、まず、前提の認識が違っていると思います。「友達がいなくなった」というのは、元は「友達がいた」という前提です。しかし、こうした質問をされる方は大抵「そもそも友達なんて元からいなかったのに、それに気づいていない」場合が多いのです。

彼らのいう友達とは、あくまで会社の同僚や上司・部下という「自分の周りにいた人」の事を指していて、決して友達ではありません。もちろん、会社の中で友達をもつ人もいるでしょう。頻繁に飲みに行ったり、休日にゴルフに行ったり、場合によっては、家族ぐるみで海水浴や旅行に行く間柄かもしれません。しかし、そのほとんどが会社を退職した瞬間に、ぱったり交流が途絶えてしまいます。

会社といういわゆるひとつの「囲いのあるコミュニティ」の中に互いに所属していたからこそ、たまたま行動を共にしただけであり、その囲いがなくなってしまえば、疎遠になるのも無理はありません。つまり、会社という「所属するコミュニティ」の中の人間関係の多くは、その所属がなくなると同時に消えてしまうものなのです。

■上司だから、評価権があるから誰かがいたに過ぎない

残念ながら、退職された高齢男性の多くは、在職中にそのことに気付けません。それどころか、多くが仕事上の人間関係を友達と勘違いしています。特に、現役時代に一部上場の大企業に勤めて、家庭や趣味より仕事に邁進し、出世も果たし、そこそこの上席管理職を経験した人ほどその傾向があります。

会社ではポストに応じて、人間関係が自動的に用意されます。上司がいて、部下がいて、同僚がいて、あるプロジェクトの仕掛り中には一緒に目標に向かって協働する仲間がいたはずです。一定以上のポストであれば、秘書的な役割を果たす人材も用意されていました。自ら努力せずとも、自分の周りは人であふれていたでしょう。それが当たり前でした。ランチには誰かがお供についてくれて、「飲みに行くぞ」といえば、大勢の部下が(内心は行きたくないと思っていても)ついてきてくれて「俺って人気ある~! 慕われてる~!」などと思っていなかったでしょうか。

とんでもない勘違いです。上司だから、評価権があるから、人事権があるからついてきただけであって、決してあなたの人徳ではない。その証拠に、会社を辞めたとたん、誰も会社の人間から連絡など来ないでしょう。それは、かつてのあなたの上司にあなたもまったく連絡を取ろうとしなかったのと同じです。

■男性は50代から急激に「友達ゼロ」が増える

会社の人間関係は、会社の内集団だからこその関係性にすぎず、会社を辞めれば、外集団の無関係な人間となります。以前勤めていた会社だからといって、IDカードもないのに入所することはできませんし、連絡をとったところで相手も迷惑するでしょう。何十年も勤め上げたところで、退職した瞬間に、それまでの人間関係はその瞬間に消滅するのです。

ここまで読んで、「いやいや、俺は大丈夫。俺には会社以外の友達もたくさんいるから」と思っている今は現役の男性もいるかもしれません。しかし、その友達は、あなたが会社を辞めて、何の肩書もない状態になっても付き合ってくれるでしょうか? そもそもその人と知り合ったのは仕事絡みではなかったですか? 連絡をとってくる時は何かしら仕事の頼み事があったからではないですか? そもそも、知り合いと友達は違います。フェイスブックで、登録上友達数が何千人いたとしても、それは単に「いいね」をくれるだけの関係でしかありません。

年代別に「友達がいない割合」を調査したものがあります。

男性は、50代から急激に「友達ゼロ」が増えていきます。70歳以上でさらに友達の数が減るのは、数少ない友達自体が死んでしまうということもあるからですが、それでも男性は、加齢と所属の有無とともに、友達がゼロになっていくのです。

【図表】友達が一人もいない割合
【図表】友達が一人もいない割合

■日本の高齢男性特有の「妻唯一依存症」

要するに、ほとんどの男性には、仕事を辞めた後も付き合いが続く人間関係はほぼいません。深刻なのは、現役の時に友達がいると錯覚している人ほど、仕事を辞めた途端に「俺は友達がいなかったんだ……」と突然思い知らされ、大きな絶望を感じてしまうことです。

身も蓋もない言い方をすれば、退職後の高齢男性の末路は、友達もなく、趣味もなく、生きがいもなく、やることもなく、さりとて何かを始めようとする意欲もなく、ただ毎日テレビを見て過ごすだけの抜け殻となります。

その最大の被害者が配偶者(妻)です。今まで会社だけに依存してきた夫が、退職後は今度は妻に依存するようになるからです。私はそれを高齢男性特有の「妻唯一依存症」と名付けています。

そうなってしまった夫は、分かりやすくいえば幼児と一緒です。妻の買い物についていこうとするし、やたらと構ってもらおうとするし、ちょっとでも相手にしないと不機嫌になって怒り出したりします。唯一の依存先である妻に見捨てられることを極端に恐れるからです。

妻もいい迷惑なので、何か理由をつけて夫を「家の外に追い出そう」としますが、夫は外に行ってもすることもないので、うだうだと居間に寝そべるだけです。元から何かしらの趣味を持ち、退職後はその趣味に没頭できる男性は別です。そういうものもなく、「趣味は仕事」という人生を送ってきた人こそ危険です。本当に何をしたらいいか分からないからです。

■人とのつながりに「生きがい」を感じにくい男性たち

内閣府が行った「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(対象は60歳以上男女)」によれば、「生きがいを感じるのはどのような時ですか?」という質問に対する回答の男女の差分を見ると、高齢男性がいかに仕事以外に何も楽しみや喜びを見いだせていないかが分かります。

高齢男性が女性と比して生きがいを感じるのは、「趣味・スポーツ」を除けば、「仕事」や「勉強」「収入」といった、どちらかというと仕事的なものばかりです。

【図表】日本の高齢者「生きがいを感じる時」男女差
【図表】日本の高齢者「生きがいを感じる時」男女差

高齢男性と高齢女性の大きな違いは、女性のほうが人とのつながりに生きがいを感じている点です。「おしゃれ」をして「友達と交流」し「おいしい物を食べ」たり、「旅行」したりして、そうしたつながりから「他人からの感謝」を受けることが生きがいとなっています。そうした女性にとって日常的にできる当たり前のことが、高齢男性にはできないのです。

買い物をする女性
写真=iStock.com/SeventyFour
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeventyFour

かといって、老後のために「友達を作りましょう」とか「趣味を持ちましょう」とかいう高齢者向け自己啓発セミナーの口車に乗せられてはいけません。まず、不可能だからです。正確には「作ろうと思って友達はできるものではない」し、「趣味にしようと思って始めたことが趣味に昇華することなんてない」からです。友達はいつの間にか友達になっているものだし、趣味はいつのまにか泥沼(いい意味で)にハマっているものです。

■仕事、旅、スナック…喋る機会を増やすこと

では、友達もいない、趣味もない高齢男性はどうやって生きていけばいいのでしょう?

それは「友達を作る」でも「趣味を作る」ことでもなく、1日数時間、週2~3日でもいいから仕事を続けることです。その仕事は1人黙々とやる仕事ではなく、倉庫の分別とか大勢の人間との共同作業であったほうがいい。なぜなら、それは金を得るための仕事ではなく、人と接する機会を得るための仕事だからです。そうでもしないと、丸一日誰とも口をきかずに終わる日々を過ごすことになるでしょう。

他愛のない話でいいのです。人と喋ることはとても大事。「俺の話を聞いてくれる相手がいる」と感じられることはとても大切です。それはテキストのやりとりだけではカバーできない心の充足と脳の活性化を生みます。

友達の数より会話の数を増やす。いつものメンバーだけではなく、時折知らない人との会話の機会があればなおよいでしょう。仕事がない場合でも、一人旅でもして見知らぬ土地の誰かと一言二言喋るだけでもいい。人見知りだからそんなことできないと思いますか? 自分の事を誰も知らない土地であれば、案外気楽に喋れるものです。準備運動したいなら、スナックでも行って、ママや他の客と会話してみてもいいでしょう。喋らせてくれて聞いてくれるのがサービスですから。

そういう意味で、高齢男性のクレーマーが店頭や電話口でまくしたてるのは、こうした会話欲求を満たすはけ口として使われているのかもしれません。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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