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iPhone工場が操業停止…3期続投のためにロックダウンを繰り返す習近平政権の行き詰まり

プレジデントオンライン / 2022年3月22日 12時15分

北京で開催された中国人民政治協商会議(CPPCC)の開会式に出席した習近平国家主席=2022年3月4日 - 写真=AFP/時事通信フォト

■「アジアのシリコンバレー封鎖」がもたらす悪影響

3月中旬に入り、世界経済にとって無視できないリスク要因が、また一つ増えた。それが、中国における新型コロナウイルスの急速な感染再拡大だ。特に、“アジアのシリコンバレー”などと呼ばれIT先端企業が多く集積する広東省深圳市のロックダウン=都市封鎖は世界経済に大きなマイナスの影響を与える。

深圳市の動線は寸断され、ITデバイスなどのモノを作ろうにも作れない企業が増えている。ウクライナ危機を背景とする世界的な景気減速と物価上昇の同時進行懸念は追加的に高まりやすい。

中国の感染状況を見る限り、いつ、何によって、世界全体で感染が終息に向かうかは見通しづらい。秋には、5年に一度の党大会という共産党政権にとっての最重要イベントが控える。3期続投を目指す習近平主席によって行動制限は強化され、都市封鎖に追い込まれる中国の都市は増える可能性が高い。

それによって、経済活動の維持に不可欠な動線が絞られ、遮断される状況は長引く。その結果、世界的な半導体の不足など、これまでに顕在化した問題が深刻化し、自動車などのモノの生産が追加的に減少する展開は排除できない。

■iPhoneの工場「フォックスコン」も操業を停止

3月中旬、深圳市のロックダウンによって世界のIT先端企業の株式が売られる場面があった。深圳市は、改革開放以降の中国経済の高成長を象徴する都市だ。2020年の時点で深圳市の電子情報産業の生産額は中国全体の5分の1に達したとみられる。

ロックダウンは、中国内外のIT先端企業の事業運営、さらには世界経済全体でのデジタル化の足枷だ。そうした懸念が高まり、3月14日のアジア時間の株式市場では、香港のハンセン指数や、台湾の加権指数を構成する主要なIT関連企業の株価が下落した。海外時間には米ナスダック市場も下落した。

深圳市はスマートフォンなどIT先端機器の供給地として世界経済に組み込まれ、年々その役割が増した。例えば、米国のアップルは世界最大の電子機器の受託製造企業である台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)傘下の中国企業であるフォックスコンにiPhoneなどの組み立て生産を委託している。深圳市がロックダウンされた結果、フォックスコンが運営する工場は操業を停止した。それによって、iPhoneなどの生産は一時的に止まる。

■「ゼロコロナ政策」に頼る習政権の行き詰まり

また、深圳市には“BAT”と呼ばれるバイドゥ、アリババ、テンセントなど世界的な競争力を持つ中国のIT先端企業もオフィスを構える。ロックダウンは、共産党政権の強い締めつけに直面するアリババなどの業績悪化懸念を追加的に高める。

軽視できないのが、共産党政権による厳格なゼロコロナの徹底やワクチン接種などの対策にもかかわらず、感染が止まらないことだ。急速な感染再拡大によって、人々の恐怖心理は高まる。それに加えて動線の寸断が飲食や宿泊などのサービス業の収益を追加的に圧迫し、雇用と所得環境の悪化懸念も高まるだろう。その結果として、共産党政権への不満も増える。

そうした展開を防ぐために習政権は、より強く動線を絞り、感染の抑制に取り組まざるを得ない状況に陥っているように見える。中国経済の成長率の低下傾向はより鮮明となるだろう。

■高まる「ロジック半導体不足」の懸念

それに加えて、世界経済全体で供給の制約(ボトルネック)が深刻化するだろう。その一つとして懸念が高まりやすいのが、演算処理などを行うロジック半導体の不足に拍車がかかる展開だ。

例えば、南京市には世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリ)である台湾積体電路製造(TSMC)が工場を置く。昨年、TSMCは南京工場に車載用半導体の生産ラインを増設すると発表した。2022年下半期に生産能力の拡充が行われる模様だ。3月に入り南京市では感染者が再増加に転じている。もし、感染者が増加し続ければ同市当局は強い行動制限を実施しなければならないだろう。状況次第ではTSMC南京工場の操業が停滞したり、サプライチェーンが寸断したりするリスクは過小評価できない。

昨年12月に西安市がロックダウンされた時、韓国サムスン電子や米マイクロン・テクノロジーが供給するメモリ半導体の不足懸念が高まった。そうした企業と異なり、TSMCは最先端から汎用型のロジック半導体の供給で世界経済に圧倒的な影響力を持つ。

■世界全体で「ヒト、モノ、カネ」の動きが止まる

特に、世界経済全体で車載用の半導体の不足は深刻だ。本邦企業の自動車や精密機械の生産も止まりはじめた。感染再拡大とゼロコロナ対策によって中国での生産活動はより強く制限され、ロジック半導体やIT機器、自動車、アパレル、日用雑貨などの供給制約がこれまで以上に深刻化する可能性が高い。世界的な中古車価格の上昇は勢いづくだろう。

それに加えて、世界の物流の混乱にも拍車がかかる。3月に入り上海市では行動規制が日増しに強化されている。世界最大のコンテナ取扱個数を誇る上海をはじめ中国の港湾施設の稼働率低下は避けられない状況だ。それによって、世界的にタンカー、コンテナ、船員の不足が深刻化するだろう。

海運の混乱は世界各国の陸空運の遅延やコスト増加につながり、“ジャストインタイム”の資材調達や納入がこれまでに増して難しくなる。ウクライナ危機によって世界経済の供給のボトルネックが深刻化する中で中国がゼロコロナ対策を強化することによって、世界全体でヒト、モノ、カネの動きは停滞せざるを得ない。

港でコンテナ船
写真=iStock.com/primeimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/primeimages

■「エネルギー不足」と「モノ不足」のWパンチ

米欧などの制裁によってロシアはグローバル経済から孤立し、世界経済はブロック化に向かいはじめた。世界全体でエネルギー資源などの供給が需要を下回る構造が鮮明となるだろう。深圳市などのロックダウンはそうした変化を加速させる要因だ。各国の企業は、サプライチェーンの再構築をこれまで以上に急がなければならない。在庫の積み増しやサプライヤーへの資金や人的支援を強化する企業は増える。

調達難や人手不足によってやむを得ず生産拠点を自国内に戻す先進国の企業も増えるだろう。いずれも、企業のコスト増加要因だ。グローバルにサプライチェーンは混乱し、世界全体で経済運営の効率性が低下する。企業はコストの増加に直面して業績悪化懸念が高まる。その結果として、世界全体で経済の成長率は低下するだろう。

■日本への逆風が一段と強まっている

それに加えて、ウクライナ危機によってエネルギーや希少金属、半導体製造に必要なネオンガスなどの供給が減少し、構造的に物価は上昇しやすくなる。中国のゼロコロナ対策による供給の制約が上乗せされることによって、コストプッシュ型のインフレ圧力は一段と高まりやすい。原油価格の下落にもかかわらず米国の金融市場で投資家のインフレ予想が上昇しているのは、世界全体で加速度的かつ構造的に物価上昇圧力が高まるとの危機感が増えているからだ。

このように考えると、深圳市などのロックダウンは、景気減速あるいは後退と、物価上昇の同時進行に陥る国が増える可能性を一段と高めている。そうした状況が現実のものとなれば、中央銀行は金融システムの安定を維持するために金融政策の正常化を急ぎ、さらには引き締めに集中しなければならない。言い換えれば、景気下支えのために金融政策にできることがより限られる。

それは、資源がなく内需が縮小均衡に向かうわが国経済にとってかなり厳しい。資源価格の上昇圧力に加えて、内外の金利差の拡大によって円安が進み、わが国の交易条件がさらに悪化するリスクは高まっている。中国をはじめ海外の自動車需要などを取り込んで景気の緩やかな持ち直しを実現してきたわが国への逆風は一段と強まっている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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