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インバウンドが消えて3年目…それでもニセコに「外資系最高級ホテル」が開業し続けるワケ

プレジデントオンライン / 2022年4月1日 9時15分

2020年8月26日、ニセコ駅(北海道ニセコ町) - 写真=時事通信フォト

コロナ禍でインバウンド需要はゼロに近い状況が続いている。だが、ニセコでは外資系高級ホテルやコンドミニアムの開発が進んでいる。どういうことか。ニセコに詳しい金融アナリストの高橋克英さんが解説する――。

■現在の客層は日本人富裕層とスキーヤーが中心

ニセコは、今や世界的なスキーリゾートだ。パウダースノーを求めて「外国人による外国人のための楽園」が形成されてきた。間もなく終了する今シーズン(2021年12月~2022年4月)のニセコの主要スキー場は、積雪量にも恵まれ、大盛況とはいえないが、ガラガラでもなく、特に土日は宿泊客を含め賑わいが続いた。時間帯によっては長いゴンドラ・リフト待ちの列ができるほどだ。

客層は日本人が主だ。ホテルコンドミニアムや別荘を所有していたり、「パーク ハイアット ニセコ HANAZONO」や「東山ニセコビレッジ・リッツ・カールトン・リザーブ」といった外資系最高級ホテルなどに滞在する国内の富裕層や、パウダースノーに魅せられた道内や首都圏のスキーヤーたちが訪れている。

もっとも、リフトも全面稼働ではなく休止しているものもあり、相変わらずホテル内のレストランも半分は休業で、100%の状態に戻っている訳ではない。ゲレンデ界隈のランチの値段も以前のようなラーメン1杯3000円から、日本人にも優しい価格に戻り、ほぼ100%外国人だったスタッフも日本語メインの日本人スタッフが中心になっている。

■日本在住の外国人が「京都」感覚で訪れる

コロナウイルスが広まって3シーズン目。直近2シーズンはインバウンドゼロだ。しかし、不思議なことに、コロナ前ほどではないが、外国人スキーヤーも相当数目にする。全体の4分の1ほどの割合だろうか。インバウンドはほぼゼロなのに、一体どういうことだろうか。

彼らは、日本で暮らす外国人や、日本にビジネス目的で滞在している外国人とその家族だ。スキーではなく、雪と温泉と雰囲気を楽しみにきた人もいれば、全身をフランスの高級ブランドのモンクレールで揃えたモデルのようなスキーヤーも目につく。

アメリカ人やフランス人、ドイツ人に香港やシンガポールからの華僑など、各国の大使館職員や欧米グローバル企業の駐在員、外資系企業や日本で事業を展開する起業家なども含まれる。かつて世界中に滞在していた日本の大企業の駐在員のように、彼らの処遇待遇は母国でのそれより恵まれているケースが多い。

こうした比較的裕福な彼らの世界でも、ニセコは既に日本を代表する世界的なスキーリゾート地として認知されているのだ。母国にはコロナで帰れない、またはせっかく日本に赴任しているんだから、グローバルブランドであるニセコに行ってみよう、ということになっている。休日や休暇を利用して、京都や鎌倉など日本の有名観光地を訪れるように、ニセコをチョイスして、彼らになじみのある外資系最高級ホテルに滞在する訳だ。

このため、パークハイアットやリッツ、ヒルトンなどには、外国人スタッフも多く、会話は基本英語だ。コロナで母国に帰国できない、またはできても隔離期間などで時間がかかることを恐れる外国人たちが、ニセコにとどまっているのだ。

■ホテル、コンドミニアムの開発が続いている

コロナ後のインバウンド回復を見込んだ投資開発も続いている。

「ニセコHANAZONOリゾート」では、海外富裕層も満足するようなスキー設備の拡充に余念がない。刷新したフード付き6人乗りリフトは、本革レザーシートとヒーティング、足掛けも備えている。また、日本初導入となる、イタリアのピニンファリーナがデザインしたフランス製高級ゴンドラのシートは本革だ。サスペンションシステム搭載で、スピードは業界最高水準の秒速5メートルである。

スキーリゾートのテーブルに置かれた山が映るゴーグル
写真=iStock.com/ronstik
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ronstik

「ニセコ東急 グラン・ヒラフスキー場」近くでは、高級ホテルコンドミニアム「マティエ・ニセコ」の建設が急ピッチで進んでいる。韓国の大手デベロッパー「ハンファホテルズアンドリゾート」が手掛けており、韓国系がニセコで大型開発を手掛けるのは初めてだ。建物は地下2階、地上7階建てでスキーイン・スキーアウトが可能だ。リストサザビーズによると、羊蹄山を一望できる5ベッドルーム約400m2のペントハウスの販売価格はなんと14億円を超える。2023年末には入居可能予定だ。

同じく2023年には、「アマン ニセコ(シンガポール)」と「ニュー ワールド ラ プルーム ニセコ リゾート(香港)」、再来年の2024年には、「ニッコースタイルニセコ HANAZONO(日本)」「アルクザカストリート(香港)」「ザ・パピリオンズ・ニセコ(香港)」、2025年には「北海道ニセコ SIX SENSES(日本)」カペラの「ニセコ花園ヒルズ(シンガポール)」と、外資系最高級ホテルやホテルコンドミニアムに、大型ショッピングストリートなど国内外の資本による開発計画がめじろ押しなのだ(マリブジャパン調べ)。

■コロナ禍でもニセコ投資が続く3つの要因

なぜ、ニセコでは、コロナ禍下でも、不動産投資や開発が継続しているのだろうか。その理由には、①外資系最高級ホテルの進出、②世界的なカネ余り、③海外富裕層とホテルコンドミニアムのニーズ、が挙げられる。

1つ目から説明しよう。外資系最高級ホテルでは、前述したパークハイアットやリッツなどに続き、この先もアマンやシックスセンシズなどの建設計画が進んでおり、これら外資系最高級ホテル建設は、香港の大手通信企業PCCWグループやマレーシアの大手財閥系企業YTLグループなど、海外資本による大規模なリゾート計画の一環として行われている。

こうしたホテルは、自社投資かフランチャイズ契約かにかかわらず、しがらみや先入観なく、単純にビジネスとして採算がとれるのか、成長性はあるのか、自社ブランドに貢献するのか、といった合理的な観点から立地や投資が選ばれている。このため、コロナ禍下においても、外資系最高級ホテルの開業が継続していることを一つの判断材料として、海外の富裕層や投資家は中長期的視点でニセコへの不動産投資を行うのだ。日本では、ニセコに加え、東京や京都や沖縄のように、外資系最高級ホテルがある地は、別荘地やコンドミニアム、セカンドハウス需要も高く、国内外の富裕層などにより、投資対象として売買されることになる。

■新幹線・高速道路・五輪開催も追い風に

2027年には、高速道路が開通しニセコにICができる予定だ。北海道新幹線の新駅がニセコにできることも決まっており、2030年末の完成に向けて工事が行われていて、札幌や東京からのアクセスの大幅な改善が見込まれている。特に、大部分がトンネルを走る北海道新幹線は雪にも強く、今年大雪に見舞われ機能不全となった新千歳空港の補完としても心強い存在になるとみられる。

雪かき
写真=iStock.com/WDnet
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/WDnet

更に、年内にも決定といわれる2030年の冬季オリンピック開催地が札幌に決まれば、ニセコは、冬季五輪のメイン競技の一つであるアルペン競技の会場となる予定である。ニセコの未来はこの先も輝いているのだ。

■「世界的なカネ余り」はまだ続く

2つ目は世界的なカネ余りだ。コロナショックにより、日本だけでなく米国、欧州では、史上最大規模の金融緩和策と財政出動策がとられてきた。このため、世界中で、規模が大きく流動性もある株式市場だけでなく、ミドルリスク・ミドルリターンで相対的に高い利回りが見込める不動産市場にもおカネが流れ込んできた。

足元では、コロナ禍が急速に収斂し、失業率低下を伴うインフレも進む米国においては、テーパリング(量的緩和の縮小)に続き、利上げが開始されゼロ金利政策は終了した。しかし、ウクライナ危機を含め不透明な情勢下、直ちに金融正常化となる訳ではない。ましてや、日本の場合は、いまだにマスク着用のコロナ禍であり、景気回復を伴うインフレでもないため、金融緩和策が続くとみられている。つまりカネ余りは続くということだ。

■投資対象は高級コンドミニアム

3つ目は、海外富裕層とホテルコンドミニアムの存在だ。カネ余りの恩恵を最も受けるのは、既に資産・資金を十分に持ち、その資産・資金を元手に投資や開発を行うことができる国内外の事業者や富裕層となる。

ニセコの場合、その投資対象となるのが、高級コンドミニアム(ホテルコンドミニアム)だ。ホテルコンドミニアムは、分譲マンションのように部屋ごとに販売され、不動産開発会社または不動産仲介会社から、一部屋の所有権を購入しオーナーとなる。その際、別途、管理契約を結び、一般客にホテルのように貸し出し、経費を差し引いた宿泊料金をインカムゲインとして得ることができる仕組みだ。

■キャピタルゲインが狙える土地

前述した「マティエ ニセコ」もホテルコンドミニアムだ。ニセコ(倶知安町)には330棟ものホテルコンドミニアムがあり、日本人富裕層からの投資も増えているものの、その多くが香港やシンガポール、マレーシアなどの海外富裕層によって所有されている。日本において、ニセコ以外では、京都や沖縄の一部などにしかないものの、海外の高級リゾート物件投資では、一般的な仕組みとされる。

なお、ニセコの場合、インカムゲインは、コロナ禍前でも、実質1~3%程度であり、オーナー自身が利用できるメリットはあるものの、それほど魅力があるようには見えない。

では、何が儲かるのか。それは、キャピタルゲインが狙えるのだ。2021年の地価公示において、全国全用途平均は、前年比マイナス0.5%と6年ぶりに下落したなか、ニセコ(倶知安町)の公示地価上昇率は、住宅地では25.0%上昇で3年連続日本一。商業地では21.0%上昇で4年連続日本一の水準なのだ。2022年3月の公示地価上昇率では、全国トップ50圏外となったものの、それでも、ニセコ(倶知安町)の住宅地では11.9%、商業地では4.1%と、全国全用途平均の0.6%と比べても極めて高い水準を維持している(※)

※倶知安町の上昇率は、2022年3月23日の北海道新聞「小樽住宅地2年ぶり上昇」を参照

コロナ禍で上昇率は下がったものの、過去5年間で10倍以上に跳ね上がった不動産も多くある。デフレ下の日本の不動産市場において、ニセコほど継続的にキャピタルゲインが期待できるエリアは、ほとんどないはずだ。

お金に囲まれた植物に水をあげるビジネスマン
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■ヒトの流れは止まっても、カネの流れは止まらない

ニセコは、他の多くの国内リゾートとは違い、海外観光客だけではなく、日本に滞在する外国人や、海外富裕層・投資家をも惹きつけているため、インバウンド需要がゼロになっても、活気を失っていないのだ。コロナ禍でも、ニセコに不動産を既に所有する国内外の富裕層の多くは、耐久力があり、長期・安定保有が目的であるため、売り急ぐことがない点も大きい。

ニセコでは、パウダースノーのおかげで、国内外の富裕層顧客がスキーヤー・スノーボーダーとして集まり楽しむことで、良質なホテルコンドミニアムなどが供給され、ブランド化が進み、資産価値の上昇により、さらなる開発投資が行われる、という投資が投資を呼ぶ好循環が続いている。ヒトの流れを止めることができても、カネの流れを止めることはできないということだ。

①外資系最高級ホテル、②世界的なカネ余り、③海外富裕層とホテルコンドミニアムの存在によって、コロナ後を見据えた国内外の富裕層などによるニセコの投資開発は続くことになろう。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『いまさら始める? 個人不動産投資』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』、『地銀消滅』など。

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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)

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