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中学入試の新潮流…受験生が楽しく取り組む「日本一入試らしくない入試」の中身

プレジデントオンライン / 2022年4月1日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

中学入試が多様化している。教育ジャーナリストの中曽根陽子さんは「英語入試を取り入れる学校や、『新タイプ入試』と呼ばれる入試を実施する学校が増えている。私学における教育の質の変化を示しているのではないか」という――。

■入試の形に変化が起きている

今年、首都圏で実施された中学入試の受験者数は、前年に比べて1050名増のおよそ5万1100名(首都圏模試調べ)でした。2015年から8年続きで増加しており、中学受験史上最多の受験者数です。新型コロナによる一斉休校以来、公教育への不満から中高一貫校へ進学を考える層が増えたと言われていますが、ここ数年、入試自体に変化が生まれつつあることも受験者数を底上げしているようです。

これまで、私立・国立中学の入試は、算国理社の4科目・算国の2科目受験が長く続いてきましたが、数年前から算数・国語の1科目入試や得意な科目を選択する入試を実施する学校が増えてきて人気が上がっています。さらに、「英語入試」や、思考力テストによる入試、プレゼン型入試など「新タイプ入試」と言われる入試を実施する学校が増えており、それらにチャレンジする層が増加したことも受験者数を押し上げる結果になっているようです。

■英語入試のレベル、試験形式は多種多様

まず「英語入試(単独・選択)」について。2022年は小学校で英語が教科化されて初めての入試ということもあり注目されていましたが、前年の143校から3校増えて、計146校(うち私立中145校・国立中1校)となりました。

英語入試を導入している多くの学校では、英語のみの単独入試を行っているのですが、江戸川学園取手中学校・高等学校(茨城県取手市)では、2022年入試から全回、英語を含む5教科で実施しました。今後こうした動きが広がるのか興味深いところです。

一口に英語入試と言っても、学校によって求められるレベルはさまざま。多くは「英検3級程度」など、問われる英語力の目安を示しているのでレベルに合わせて学校選択をすることになるのですが、ペーパーテストだけではなく、スピーキングやリスニング力も測るところがほとんどなのが共通点です。加えて、今年はペーパーテストを行わず、インタビューや対話形式での面接や、グループワークを通して、受験生のリスニングとスピーキングの力を評価する学校も現れました。

■日大豊山女子が始めた「英語インタビュー型」入試

実際、私が取材した、日大豊山女子中学校・高等学校(東京都板橋区)の「英語インタビュー型入試」は、1人10分程度の英語による口頭試問のみで、英検の2次試験と同様の形式で行われました。同校の求めるレベルは英検3級程度。簡単な挨拶と自己紹介が終わると、机に置かれた短文を30秒で黙読し、その後それを声に出して読むように促され、さらにそこに書かれた内容についての質問に答えます。最後は、ホワイトボードに貼られた写真から一つを選び、選んだ理由や自分が好きなものについて、30秒で3センテンス以上の文章を考え、話すように指示されます。

日大豊山女子で行われた英語入試の様子
画像=日大豊山女子中学校・高等学校
日大豊山女子で行われた英語入試の様子 - 画像=日大豊山女子中学校・高等学校

こちらの学校の英語入試の評価ポイントは、質問を聞き取り理解しているか、自分の言葉で話せるか、読む力はあるかです。

担当教師は「もちろんそれぞれの評価ポイントはありますが、たとえ文法的に間違っていたとしても、なんとか自分の考えを伝えようとする姿勢があればそこを評価します」と言います。だから、答えに詰まっていた受験生に対しても、そこで終わりにせず、なんとか受験生が答えられる質問に切り替えて、力を見極めていたのですね。

英語入試をしていない学校でも、英検などの資格取得によって得点が加算されるというケースもあり、今後、帰国子女だけでなく、習い事の一つとして英語に親しんできた子供たちにも、中学入試の新たな扉を開くことになるでしょう。

■公立中高一貫の受験生向けに始まった「新タイプ入試」

もうひとつの流れが、「新タイプ入試」と呼ばれるこれまでにない形態の入試を実施する学校が増えていることです。

もともとは公立中高一貫校受験生の受け皿として始まった入試で、公立中高一貫校の入試で実施されている適性検査に準じた問題が出題されてきました。適性検査の出題のポイントは大きく2つ。1つ目は、「いかに覚えたか」ではなく、「いかにその場で考えられるか」という思考力・判断力を問うこと。2つ目は、「自分なりの提案や意見」をその場で表現できるかということです。

公立中高一貫校ができた当初、従来の私立中学受験とは対策が異なるために私立中学との併願は難しいと言われていましたが、新タイプ入試を実施する学校が増加したことで公立中高一貫校との併願が可能になり、私立中学受験に新たな層を生み出しているのです。

■レゴブロックを使って課題解決を考える入試

興味深いのは入試の多様化です。名称も総合型・論述型・自己アピール型・思考力型・AL(アクティブラーニングの略)型、PBL(問題解決)型などさまざま。レゴブロックを使って考えるものづくり入試、ワークショップ型の入試、プログラミング入試など、これまでの入試のイメージを覆すユニークなものが増えています。先述した日大豊山女子では「プレゼンテーション(課題解決型)入試」も行っています。

こうした入試の先駆けとして、レゴブロックを使った入試で話題になったのが聖学院中学校・高等学校(東京都北区)です。同中学校では今年も、「英語特別入試」の他に「ものづくり思考力入試」「M型思考力入試」「グローバル思考力特待入試」が行われました。ものづくり思考力入試で重視しているのが、創造的思考、M型思考力入試で重視しているのが批判的思考とデザイン的思考、そしてそれらに加えて、協働的思考を問うのがグローバル思考力特待入試とのこと。

グローバル思考力特待入試では、受験生は与えられた資料を読み解き、レゴブロックを使って課題を解決する方法を表現。さらに、協働振り返りの時間で、他の人たちの作品と発表を聞いて、新たな発見を見出し、自分の考え・作品・作文を見直し、完成した作品とともに、個人面接に臨みます。

いずれの入試でも求められるのは、何らかの社会課題の解決策を考えること。大人でもかなりの思考力を必要とされるなかなかの難題です。

聖学院のグローバル思考力入試の様子
画像提供=聖学院中学校・高等学校
聖学院のグローバル思考力入試の様子 - 画像提供=聖学院中学校・高等学校

■入試と教育内容が一致しているか、よく見たほうがいい

このような新タイプ入試を行う学校は2014年の15校から2021年には152校にまで増えており、延べ応募者数も1万4500人に上っています(首都圏模試センター調べ)。

反対に、こうした新タイプ入試の広がりと共に課題となっているのが、入試と実際の教育内容が一致しているのかどうかということです。中には入試で思考力を問うのに、入学後の授業は従来型の知識偏重型という残念なケースもあるようで、保護者の間では、これをブラック入試と呼んでいるそうです。

しかし、私が取材した探究型の学びを取り入れている学校の新タイプ入試は、それぞれの学校のアドミッションポリシーを反映した内容になっていて、評価もしっかりしていました。やはり、入り口と中身がどう繋がっているのかを見極めるのは大事なことです。

例えば、以前このサイトで紹介したかえつ有明中学・高等学校(東京都江東区)では、2011年からクリティカルシンキングをベースにしたサイエンス科のアドミッションポリシーを反映した「思考力特待入試」を実施。さらに、2016年から、グループワークを通じて一人ひとりの良さを引き出しながら、能動性や共感性、受容力や表現力を評価する「アクティブラーニング思考力特待入試」を始めました。

かえつ有明のアクティブラーニング思考力特待入試の様子
画像提供=かえつ有明中学・高等学校
かえつ有明のアクティブラーニング思考力特待入試の様子 - 画像提供=かえつ有明中学・高等学校

■中学受験でグループディスカッション

また、伝統女子校でも新タイプ入試を始める学校は多数あります。近年理数教育に力を入れている山脇学園女子中学校・高等学校(東京都港区)は「探究サイエンス入試」を、和洋九段女子中学校高等学校(東京都千代田区)は、2019年度に「PBL型入試」を始めています。和洋九段女子では、6年前からPBL型の授業を各教科で行っていました。PBLとは、問題解決型学習のことで、「思考力」「協働性」「プレゼンテーション力」など、これからの時代に不可欠となる力を実践的に身に付けることができると言われています。

私が取材した2021年度の入試では、「AIとともに作る理想の未来とは」というお題が提示され、受験生たちは配布されたPCを使ってその場で調べながら、自分の意見をまとめ、その後グループでディスカションをして、最終的にグループとしての意見をまとめて発表するというものでした。「日本一入試らしくない入試を目指している」というだけあって、入試ということを忘れるくらい、受験生たちが入試を楽しんでいました。

和洋九段女子のPBL型入試の様子
画像提供=和洋九段女子中学校高等学校
和洋九段女子のPBL型入試の様子 - 画像提供=和洋九段女子中学校高等学校

■受賞歴や英語力を問わない「思考・表現型入試」

2019年開校のドルトン東京学園中等部高等部(東京都調布市)も、開校当初から2科4科だけでなく、英語入試やこれまで打ち込んできたものの評価を加えるプラス型入試を行ってきました。4年目の今年から始まったのは、受賞歴や英語力を問わない「思考・表現型入試」です。

これは、出願理由書の提出と日本語か英語を選択して臨む作文と面接だけで合否を判定します。その狙いを安居長敏副校長は「何ができたかではなく、一生懸命取り組んできた中で自分がどのように変化してきたのか。さらにその経験を入学後どのように生かしていくのかという本人の意思を重視したいから」と説明します。学習者主体の学びを掲げる学校だからこその評価軸ですね。このように、どの学校も教育方針に合わせた入試を行っているのです。

■新タイプ入試で入学した生徒たちには共通点がある

それにしても、学校にとってはかなり手間のかかるこのような入試を行う理由はなんなのでしょう。その背景には、大学入試改革から連なる教育改革の影響があります。実社会では、明確な答えのない課題に対して、分析し最適解を導き出し、チームになって解決する力が求められます。そのときに必要になるのが、新学習指導要領でもうたわれている、主体的に学ぶ力や学んだことを生かそうとする姿勢です。

一部の私学では国の教育改革に先駆けて、そうした能力の育成を重視したプログラムを学内で実施し、入試にも反映してきました。そして、そういう学校の新タイプ入試で共通しているのは、思考力はもちろんのこと、物事に主体的に取り組む姿勢や協働する力を積極的に評価しようという点です。

実際、新タイプ入試で入学した生徒の特徴を聞くと、「自分で考え・決めて・行動する」「こちらが設定した枠にとどまらない大きさを感じる」「積極的・意欲的な生徒が多い」といった高評価がどの学校からも上がってきました。

桐朋女子中学校・高等学校(東京都調布市)は、1967年から「口頭試問」という独自の入試を行ってきた思考力入試の先駆け的な学校です。これは、知識の量を測るのではなく、初めて学習する内容にも積極的に取り組み、理解したことを表現する力を測るために、最初に40分ほど授業を受け課題に向き合い、その後複数の教員が試問します。こうした入試を経て入学してきた生徒について、入試広報室は「高度な受験の解法テクニックを持っている訳ではないが、大学受験に際しても、自分の頭で理解し『これだ』というものが見つかると非常に伸びるように感じている」と言います。

桐朋女子の口頭試問の様子
画像提供=桐朋女子中学高等学校
桐朋女子の口頭試問の様子 - 画像提供=桐朋女子中学高等学校

■時代の変化と共に、入試の形も変わっている

前回の記事で書いたように、日本の大学入試は大きく変わってきており、今後いわゆる欧米型の総合型選抜入試の割合が入学者の半数以上となっていくと言われています。そのときに、自分は何が好きで、何が得意で、社会でどう生かしていきたいのか、そのために何を学ぶのかを自分の言葉で語れることが必要になります。

もちろん一般入試で頑張る子がいてもいい。だけど、「何のために学ぶのか」という問いを持たずに、ただ偏差値の高い学校に入れればいいという考えで勉強をしているだけでは、入学後に息切れしてしまう可能性もあります。

時代の変化と共に、与えられたことをこなす力より、主体的にものごとに取り組む姿勢を育むことが重要視されている中、新タイプ入試の広がりは、私学における教育の質の変化を示していると言えるかもしれません。

今は、新タイプ入試での入学者の割合は全体の10%~25%くらいですが、ペーパーテストだけでは測れない子供たちの能力や意欲を多面的に評価する入試がもっと広がっていくことは、子供たちの未来を開く鍵になるのではないでしょうか。

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中曽根 陽子(なかそね・ようこ)
教育ジャーナリスト
マザークエスト代表。出版社勤務後、女性のネットワークを活かして取材・編集を行う、編集企画会社を発足、代表に。「お母さんと子どもたちの笑顔のために」をコンセプトに、数多くの書籍をプロデュースした。その後、教育ジャーナリストとして、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆する傍ら、海外の教育視察も行う。ポジティブ心理学コンサルタントも取得し、最近は子育て教育探究ナビゲーターとして、親に寄り添った発信をしている。最新刊『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの探究力の育て方』(青春出版社)他著書多数。

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(教育ジャーナリスト 中曽根 陽子)

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