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新入社員がどんどん辞めていく会社の「残念な上司」たちに共通する"ある口癖"

プレジデントオンライン / 2022年4月1日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

新入社員がすぐに辞めてしまう会社には共通する特徴がある。『だから僕たちは、組織を変えていける』(クロスメディア・パブリッシング)を書いた斉藤徹さんは「いまの若者たちは、他人から要求や価値観を押し付けられることを嫌う。それなのに規律を押し付けるので、新入社員がどんどん辞めてしまう」という――。

■なにより「価値観」を押し付けられることを嫌う

Z世代は、1996年以降に生まれ、スマホを片手にソーシャルメディアで育った世代のことです。彼らは、新たな価値観をあたりまえと感じ、人のつながりや多様性を大切にする若者たちであるため、他人から要求や価値観を押し付けられることを嫌います。

では、どうすれば「自分から」やる気になってくれるのでしょうか。

モチベーションアップのための手法として取り入れられることの多い「報酬」について、まずは見てみましょう。ふたつの実験を紹介します。

1953年、ハーバード大学の神経学者ロバート・シュワブは、筋肉疲労の仕組みを調査するために、棒にぶら下がって我慢できる時間を計る実験をしました。

普通の人が我慢できる平均は50秒でしたが、5ドル札(今の約4000円に相当)を見せて「これまでの成績を上回ったら、このお金をお渡しします」と伝えたところ、参加者は平均約2分もの間、鉄棒にぶら下がり続けました。

また2007年、ハーバード大学の経済学者ローランド・フライヤーは、3.6万人の子どもに総額10億円ものお金を支払い「お金の力がどのくらい成績を引き上げるか」という実験を行いました。

米国五都市を対象にしたところ、一都市だけが成績アップに成功しました。他の四都市が「成績があがった子ども」にお金を支払ったのに対して、その都市は「指定した課題を達成した子ども」にお金を支払ったのです。しかし、効果は長くは続かず、一年たつと改善率は半分に低下し、報酬なしのワークに興味を持たなくなるようになりました。

お金は一時的な動機づけにしかならない
出典=『だから僕たちは、組織を変えていける』より

これらの実験からわかることは、お金は誰でも努力すればできる単純なことに対しては、一時的な動機づけになるということです。「一時的に我慢する力を高める」とも言い換えられます。

ただし、継続すると効果が薄れ、いったん報酬を出すと報酬なしでは努力しなくなってしまいます。長期的に見ると、麻薬のように恐ろしい負の影響があるのです。

■給与より大切な「黄金のスリーカード」

動機づけにおいて、お金は万能ではないことがわかりました。その後の研究で、これはお金特有の問題というより、賞罰などで「外部から行動を強いるような動機づけ」に共通することで、そのような動機づけにはいくつもの問題があることがわかってきました。

心理学者のエドワード・デシも、動機づけには「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」の二種類があり、前者には功罪があると世に問いました。

人間は、もともと内なる欲求で課題に取り組む性質を持っていて、それ自体に喜びや充実感を感じて行動する生き物であるため、外部からコントロールしようとすると、その内なる動機が失われてしまうのです。

デシはリチャード・ライアンと共同で構築した「自己決定理論」において、「自分でやりたい(自律性)」「能力を発揮したい(有能感)」「人々といい関係を持ちたい(関係性)」という3つの心理的欲求が満たされると、人間は動機づけられ、生産的になり、幸福を感じること言及しました。

「自律性」とは「自らの行動を、自分自身で選択したい」という気持ちのことです。外部から人をコントロールしようとする施策は、自律性を喪失させ、興味や熱意が失われる原因となります。

反対に、課題解決を求められた際、「実現方法に対する自由な裁量」が許されていれば、熱心に取り組み、その活動自体を楽しめます。人間は自ら選択することで自身の行動に意味づけし、納得して活動に取り組めるのです

キャリア成長機会開発
写真=iStock.com/kentoh
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kentoh

■「自律性、有能感、関係性」が内なるやる気を引き出す

「有能感」とは「おかれた環境と効果的に関わり、有能でありたい」という心理的欲求です。自分自身の考えで活動できる(自律性を発揮できる)とき、それが最適な難易度を持った挑戦であるときにもたらされます。

有能感を感じて仕事に夢中になっている状態は「フロー体験」と呼ばれ、「フロー体験」を創りだす環境づくりが、内発的動機づけを高める施策の鍵となります。

「関係性」とは「人を思いやり、思いやりを受けたい」「人を愛し、愛されたい」と願う心理的欲求です。人は「自分で考え、決定したい」という欲求を持ちながら、一方で「他者とも結びついていたい」と願っています。

この「自律性の欲求」と「関係性の欲求」は相反するものではなく、意図すれば両立できます。なぜなら「自律性」とは「自らの行動を、自分自身で選択したい」という欲求であり、「利己的な行動をしたい」という欲求ではないからです。関係性が満たされる選択肢を自らが選べれば、双方が満たされることになります。

自らが選択したことで、自らの能力を活かして価値を生み、信頼しあう関係性が築かれていく。「自律性」「有能感」「関係性」の3つの欲求が満たされることで、「内なるやる気」が心の奥から湧き上がってきます。

■歯車のような社員を生み出す「ふたつの罠」

では実際に、「自律性」「有能感」「関係性」はどうやって高めていけばよいのでしょう。ここでは「自律性」を高める方法を紹介します。ですがその前に、「自律性」を阻む「ふたつの罠」について説明しましょう。

心理学者のクリス・アージリスは、組織は人間の自然な成長を阻む特性を持つとし、それを「仕事の専門化」「命令の系統」「指揮の統一」「管理の範囲」の4つに集約しました。

成長を阻む組織の4原則
出典=『だから僕たちは、組織を変えていける』より

仕事を専門化すると、個人の能力は一部しか活用できませんし、命令や指揮、管理によって上位の人間に従属的になり、本来持っていた自律性を失ってしまいます。

その結果、組織内での自己実現の達成が困難となり、欲求不満や葛藤が募ってゆきます。組織の「歯車」になったと感じてしまうのです。

まさに、科学的管理法による効率化の弊害です。

その結果、組織を去ったり、自分の心を守るために順応したり、無関心になり報酬にのみ価値をおくなど働きがいを見失ったりしてしまいます。すると管理者はより圧迫するようになり、本人はさらに受け身になってしまう。これが「組織の罠」と呼ばれるものです。

そして、「組織」というシステムだけでなく、組織をリードする「人間」の思考にもメンバーの自律を奪う特性があると、エドワード・デシは言及しました。

■成果を求められるほど、成果を落としてしまう

成果へのプレッシャーが人の行動をどのように変容させるのかを確かめるためにデシが行なった、ある実験があります。

実験では、教師役の被験者に事前に問題のヒントと回答を伝えた上で、2つのグループにわけ、ひとつのグループだけに「教師として、生徒に高い水準の成績を収めさせることがあなたの責任です」と伝えました。

すると、高成績を求められた被験者は、何も伝えられなかったグループと比較して、話す時間が2倍、命令的な話(すべき、しなくちゃなどを含む言葉)が3倍、管理的な話も3倍していたのです。

デシの実験
出典=『だから僕たちは、組織を変えていける』より

圧力をかけられるほど、教師は管理的になり、生徒の内発的動機や創造性を低下させていました。

成果を求められるほど、成果を落としてしまう。意思決定者がこの「責任感の罠」にはまると、コントロール欲求が高まり、より直接的な動機づけに走ってしまいます。

そして時間とともにエスカレートし、規律が増え、それがメンバーの自律性を殺し、受け身の姿勢を生み出してしまいます。

■組織のルールは最小限にしたほうがいい

メンバーが本来もっている「自ら考え、行動したい」という意欲を削がないためには、「規律を最小化する」ことが効果的です。

歴史のある組織、大きな組織ほど、無意味で不合理な規律や手続き、習慣が多く存在します。まずは、そういった組織の「しなくちゃ」を徹底的に断捨離し、複雑なものを徹底的なシンプルにすることからはじめましょう。

そのためには、「ゼロベース思考」「ダブルループ学習」「透明のチカラ」の3つがポイントになります。

「ゼロベース思考」は、過去の経験から積み上げた前提知識や思い込みをいったんゼロにして物事を考えることです。期や年度など一定のサイクルで過去の資産をクリアにし、「利用者に提供する価値」に集中して、システムを極限までシンプルに一新させる意識と機能を持ちましょう。

「ダブルループ学習」は、複雑な問題の根本を考え、真因を改善することです。発生した問題に対して、既存の目的や前提そのものを疑い、そこから軌道修正を行います。過去の学習や成功体験をもとに問題解決を図る「シングルループ学習」では、本質的なエラーは除外できません。

多くの場合、短期業績に直結する対症療法は行っても、根治療法については時間の経過とともにウヤムヤになってしまうことが多いですが、より重要なのは根治療法なのです。

問題の真因を発見する「ダブルループ学習」
出典=『だから僕たちは、組織を変えていける』より

■「やる気を出せ」という上司は論外

「透明のチカラ」は、よく先進的な自律型組織が、統制の代わりに導入しています。例えば、企業は経費を削減するために、何重にも管理者を配置し、稟議システムで「統制」してきました。

斉藤 徹『だから僕たちは、組織を変えていける』(クロスメディア・パブリッシング)
斉藤徹『だから僕たちは、組織を変えていける』(クロスメディア・パブリッシング)

では、経費をすべて「透明」にしたらどうなるでしょう。誰が何にいくら使用したかが誰でも閲覧できるようになれば、説明責任が生じ、共感や評価を得られない無駄な経費は激減していくでしょう。

定期的な「ゼロベース思考」に、問題発生時の「ダブルループ学習」を組み込み、複雑なルールには「透明のチカラ」の活用を考える。これによって組織はリフレッシュされ、チームの「やらされ仕事」は減り、組織のパーパスに基づいて「顧客のため」「社会のため」を自律的に考える余裕が出てくるのです。

ビジネスの場では、社員は常に評価され、賞罰に結びつけられます。失敗をした際に「問題の真因を究明し、そこから学ぶ」という実り多き課題に取り組まず、アメとムチによって「失敗をしないように統制すれば解決する」と考えてしまうのです。

一方で、外発的動機づけに対するデシの見解はこうです。

「報酬は、それとはわからないぐらい目立たずに与えるほどよい。意欲を高めようとして安易に賞罰を用いるときが、メンバーの意欲を最も失わせるときだ。かわりに、人間が持つ心理的欲求が満たされる環境を築くことに、リーダーはもっと努力を傾けるべきなのだ」

チームにやる気を出してほしいなら、リーダーは「やる気を出せ」と厳しく言って管理を強めるのではなく、メンバーが「自分で考え」「能力を発揮できて」「良い関係性でいられる」ための努力をしていきましょう。

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斉藤 徹(さいとう・とおる)
起業家、経営学者、株式会社hint代表、株式会社ループス・コミュニケーションズ代表
1985年、日本IBM入社。1991年に独立しフレックスファームを創業。2005年にループス・コミュニケーションズを創業。2016年から学習院大学経済学部経営学科の特別客員教授に就任。起業家、経営者、教育者、研究者という多様な経歴を活かして、2020年からはビジネスブレークスルー大学教授として教鞭を執る。2018年に開講した社会人向けオンラインスクール「hintゼミ」には、大手企業社員から経営者、個人にいたるまで、多様な受講者が在籍し、期を増すごとに同志の輪が広がっている。著書に『だから僕たちは、組織を変えていける』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

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(起業家、経営学者、株式会社hint代表、株式会社ループス・コミュニケーションズ代表 斉藤 徹)

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