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適当にうまくやることができない…だから日本人は「いっせいに」「みんな平等で」凋落した

プレジデントオンライン / 2022年4月12日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yuoak

1990年ごろまで世界トップを走っていた日本経済は、なぜここまで凋落したのか。生物学者の池田清彦さんは「日本は『いっせいに』『みんな平等で』同じような仕事を効率よくやるということに対してすごく特化した国で、それが高度成長期にはマッチしていた。しかし、時代は変わった」という――。

※本稿は、土井隆義ほか『親ガチャという病』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■自由を重要視するイギリス、規則厳守に固執する日本

——ここ数年、マジョリティとちょっとでも違ったふるまいをすると、すぐに炎上騒ぎになるなど、息苦しい社会になっているように感じます。

【池田】息苦しさの要因として、まず日本は同調圧力が強い社会であるということがあるでしょう。イギリスなどと比べて自由が大事だという意識があまりない。イギリスなどは、新型コロナの感染拡大が深刻な状況にあっても「マスクをしないのは俺の自由だ」という人が一定数はいるわけです。だから国が統制しようとしてもなかなか大変で、結局イギリスのジョンソン首相は途中でサジを投げてしまいました。それでも「しばらくすれば収まっちゃうんじゃないか」と思っているところが国民の意識としてあるんだね。

一方、日本はというと、そういうところが「これでもか」というぐらいにすごく厳密でしょう。日本人の国民性みたいなものもあると思います。適当にうまくやろうということができないんだよね。とにかく規則を決めて、それをみんなで守っていかなければいけないと考え、状況がどうなろうとも一回決めた規則はなかなか緩めないところがある。「これは規則だから従いなさい」という。

——そのような国民性はどこから生じたものなのでしょう。

【池田】小さい時からそういう教育を受けているのは大きいと思いますよ。最近になって「正義を振りかざす人」があまりに多くなっているのも、教育の弊害が出ている側面があると思います。

この前、どこかで聞いた話だと、ある小学校の生徒が文房具屋で透明の消しゴムを買って使っていたら学校の先生に「白い消しゴムでなければダメです」と言われて持って帰らされたというんだよ。消しゴムなんて、消えればなんでもいいわけで、なんで透明がダメで白い消しゴムでなければダメなのかといえば、それは単に誰かが適当にそのような規則を決めたからでしょう。だけど、どんなにいい加減な規則であっても一度そうと決めたらそれを馴致しなければいけないという考えに教育現場が染まっている。

そういう規則至上主義、コンプライアンス至上主義。とにかく規則に従わないヤツは気に入らないからバッシングしてもいいんだっていう感性なんだね。「お前は規則を破ったのだから、いくらバッシングされても文句を言うんじゃない」という日本人の偏屈さみたいなものが表れている。

■意見が変わるのは矛盾ではない

【池田】さらに首尾一貫性みたいなものをすごく大事にする。新型コロナのワクチンは、僕は早いうちに2回打ったのだけど、たとえばデルタ株とオミクロン株では、ぜんぜん質も違うし毒性の強さも違うと思います。ブレイクスルー感染(ワクチンを接種済みなのに感染してしまうこと)だってする。それで「追加接種はあまり意味がないんじゃないか」というようなことを言うと、「以前はワクチンを打てと言っていたのに、今は打つなと言うなんて矛盾している」みたいなことを言ってくる人間が必ずいるんです。

だけどそれは矛盾ではなくて、状況が変わったのだから、言うことややることが変わるのは当たり前なんですよ。たとえば「春にA社の株式を買えと言ったのに、今は売れというのはおかしい」と言うのと同じです。会社の業績など状況の変化によって「株を買うか、買わないか」という行動が違ってくるということであれば誰でも理解できるのだろうけど、ワクチンのことになるといきなりわからなくなる人がいるんだよね。それが正義感なのか恐怖心なのかは、わからないけど。

感染症専門医の岩田健太郎さんは、コロナ感染拡大のごく初期に僕と討論したときに「サイエンティフィックなエビデンスとしてマスクはあまり役に立たないからどうでもいい」と言っていたんだけど、ある時から「飛沫感染予防にマスクは有効だ」と主張を変えたのですね。そうすると「岩田の話はコロコロ変わるから信用ならない」と言う人が出てくる。けれども、科学者というのはその時に「最も有効であろう」エビデンスに基づいて発言するものなんですよ。

それまでと異なる事象が目の前にあって、それを科学的に判断したときに答えが変わるというのは科学者としての当然のふるまいであって、むしろ常に一貫性がある科学者というのは信用しないほうがいい。Aと決めたらただひたすらそれを金科玉条のように守るというのは科学としては間違っている。

■多様性を排除した横並び教育が日本を凋落させた

——何年も前から、やたらと「日本スゴイ!」と持ち上げるテレビ番組が目につくようになりました。

【池田】そりゃあ日本はスゴイよ。何がスゴイって、凋落の速度がスゴイ。

たしかに1990年ぐらいまでは経済的にはすごくて、まさにジャパン・アズ・ナンバーワンだったわけです。1989年に株価の時価総額の世界1位はNTTだったんです。それで5位まで日本の銀行が入っていた。50位までのなかに日本は30社以上が入っていたんです。それが2021年の暮れ、日本で50位内にランクインした企業は、トヨタ自動車だけ。41位でした。ほかはどこも入っていない。そこだけを見ても、日本はあっという間に経済的に疲弊したことは明らかだよね。

日本は「いっせいに」「みんな平等で」同じような仕事を効率よくやるということに対してすごく特化した国で、それが高度成長期にはマッチしていた。だからそういう感性は今でも強く残っていて、みんながAと言えばAに走るし、Bと言えばBに走って反対するヤツはみんなでバッシングするということにつながるんですね。

みんなでいっせいに「安くて良質な工業製品をつくろう」という時に「俺はそういうふうにはやりたくない」とか「俺は別のことを考えている」というヤツがいると作業効率が悪くなるから、周りから叩かれることになる。

だけど1990年代に入ってIT産業がアメリカで興り、それに対して日本は追い付くことができなかった。それはなぜかというと、多様性がなかったからです。日本ではずっと「みんな横並びの教育」で、上にのしてきたヤツはモグラたたきみたいに頭を叩く、という教育をやってきました。たとえばテストの答案にまだ習っていない漢字を書くと「それはまだ教えていないから書いちゃダメ」と教師がバツをつけるようなバカなことをやっていた。

モグラを打つゲーム
写真=iStock.com/laymul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/laymul

それはすなわち、すごく勉強のできる子をできないようにさせる教育です。アメリカなんかでは、逆にものすごく優秀な子は飛び級でどんどん上げて、そういう子が大学を10代で卒業しちゃうようなことだってある。そういう人を認めてきました。

■スティーブ・ジョブズも幼少期は落ちこぼれだった

極端なことを言えば、スティーブ・ジョブズにしてもビル・ゲイツにしても義務教育レベルでは落ちこぼれだったわけです。日本だったら、ああいう人が出てきても「マイノリティでどうしようもないヤツだな」などと言われていたことでしょう。だけど、現実にはそういう人たちが今の世界的な大企業をつくったわけですよ。

土井隆義『親ガチャという病』(宝島社新書)
土井隆義『親ガチャという病』(宝島社新書)

しかし日本ではそういうことがなくて、ちょっとでも上に出張った人間は「決まったルールに従わない」なんて非難される。ルールが正義、みたいな話になっている。ルールなんてどうでもいいじゃないか、という考えがないのです。そもそも、なんのためにルールをつくるのか? それは、ルールをつくることでいろいろとうまくやるためなのだから、どうしても必要なこと以外、ルールなんて本来はなくてもいいはずなんだよね。

学校でも履物がどうのこうのとかスカートの丈だとか着ているものだとか、そんなことはどうでもいい。それなのにルールを守ることが目的になっている。完全に目的と手段が翻って本来手段だったはずのものを最終目的にしているのだから、それではどうしたって社会も学校もうまくいかない。

ルールに対して従順であるように、みんなすっかり飼いならされていて、国なり学校なりがルールを決めましたと言ったら、今度はそれに反している人間をバッシングしますよね。新たなルールができればそれをいち早くキャッチして、それまでのルールに従っている人間を見つけて「今度、こういうルールに変わったことをお前は知らないのか」とか言って、それで自分の優位性を保ちマウントを取ろうという、そんな人ばかりになっている。

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池田 清彦(いけだ・きよひこ)
生物学者、評論家
1947年、東京都生まれ。東京教育大学理学部生物学科卒。東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。専門は、理論生物学と構造主義生物学。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」への出演など、メディアでも活躍。『進化論の最前線』(集英社インターナショナル)、『本当のことを言ってはいけない』(角川新書)、『自粛バカ』(宝島社)など著書多数。

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(生物学者、評論家 池田 清彦)

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