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「一晩寝れば大丈夫」はウソ…知らないと後悔する「アルコールが抜けるのにかかる時間」の数え方

プレジデントオンライン / 2022年4月1日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ADragan

飲酒をしてからどれだけ時間を空ければ運転できるのだろうか。専門家は「起きているときより眠っているときのほうがアルコールの分解が遅くなる。飲酒後に『仮眠を取ったから大丈夫』と判断して運転するのは危険だ」という。「酒ジャーナリスト」を名乗る葉石かおりさんの『名医が教える飲酒の科学』(日経BP)より、一部を紹介する――。

■飲んだ日の翌朝は「もう大丈夫」なのか

もう何年も前になるが、女性芸能人が酒気帯び運転でひき逃げ事故を起こし、その後、彼女が道路交通法違反と自動車運転処罰法違反の罪で起訴された、というニュースがあった。

幸い死亡事故には至らなかったものの、飲酒運転の怖さを改めて感じた事件であった。

人の命を奪う可能性がある飲酒運転は絶対にしてはならない。しかし酒をよく飲む人であれば、知らぬ間に飲酒運転をしている可能性もあるのだ。それは飲み過ぎた翌朝の運転である。

近年、飲酒運転に対する目は厳しさを増しており、飲んだ後にそのまま車を運転して帰るのはダメだという認識は広く定着していると思うが、その一方で、飲んだ翌朝は「よく寝て酒も抜けたし、もう大丈夫」と勝手に判断している人が少なくないように思う。実際、警察庁によると、飲酒運転した理由として、「時間経過により大丈夫だと思った」「出勤のため二日酔いで運転してしまった」などが挙がっているそうだ。

■たった一度の飲酒運転で順調だった人生が暗転

また、昨今は「○○市役所の職員、飲酒運転で処分」などというニュースも頻繁に目にする。これまで勤勉に働いてきたのに、たった一度の飲酒運転で人生が暗転する、などということがあり得るのだ。こうした事態に陥らぬためにも、正しい知識を身に付けておきたいところである。

ここで問題になるのは、酒を飲んだ後、どのくらい時間を空ければ車を運転して大丈夫かということだろう。もちろん、酒量やその人の体質などによって、その時間は変わるのだろうが、ある程度の目安を知っておくことは大切だ。

そこで、アルコール問題全般に詳しい、久里浜医療センター院長・樋口進さんに、飲酒運転の怖さや、アルコールが体から抜ける時間や呼気検査の基準などについて聞いた。

■ビール中瓶1本でも「酒気帯び運転」になる可能性

まず、飲酒運転の基準についておさらいしておこう。日本における飲酒運転の基準は改正道路交通法で定められている。それによると、呼気1L中に0.15mg以上のアルコールを検知した場合、「酒気帯び運転」としている。0.15mg以上、0.25mg未満なら免許停止(停止期間90日)、0.25mg以上なら免許取消(欠格期間2年)となる。

なお、これを血中アルコール濃度に換算すると、それぞれ0.03%(0.3mg/mL)、0.05%(0.5mg/mL)になる。さらに、呼気中の濃度にかかわらずアルコールで正常に運転できない恐れのある状態となると「酒酔い運転」となり、免許取消(欠格期間3年)となる。

【図表1】日本における飲酒運転の基準
出所=葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』

では、酒気帯び運転に該当するのは、これは具体的にどのくらいの酒量を飲んだときなのだろうか。

「体重60キログラムの人が、ビール中瓶1本(500mL)あるいは日本酒1合(純アルコール換算で20g)のお酒を飲んだときの血中アルコール濃度は約0.03(0.02~0.04)%程度です。つまり、ビール中瓶1本を飲んだだけで『酒気帯び運転』の基準値を超える可能性が高いわけです」(樋口さん)

■飲酒量が増えれば事故リスクは指数関数的に増える

しかも、この基準値未満の場合でも運転への影響は始まっているという。

「個人差はありますが、アルコールの運転に対する影響は、極めて低い血中アルコール濃度から始まります。例えば、反応時間は0.02%、注意力は0.01%未満といった低濃度から、運転技能が障害を受けるといわれています。そして飲酒量が増えるほどその影響は大きくなるのです」(樋口さん)

つまり、血中アルコール濃度が、酒気帯びの基準より下回っている、軽く飲んだ程度でも、運転能力は確実に影響を受けるということ。当たり前だが、「ちょっと飲んだ程度だから運転してOK」なんてあり得ないのだ。

このようなアルコールの影響により、当然事故のリスクも増すことになる。アメリカで血中アルコール濃度と事故リスクの関係を調べたところ、血中アルコール濃度の上昇に従って事故リスクも上昇していることが明らかになっている(*1)

「交通事故のリスクは血中アルコール濃度の上昇とともに、ほぼ指数関数的に増加するのです」(樋口さん)

また、ニュージーランドでの研究でも、同様の傾向が確認されているという。

【図表2】血中アルコール濃度と事故リスクの関係
出所=葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』

■日本酒1合分のアルコール分解時間は5時間

アルコールの運転に対する影響度合いを理解したところで、次に気になるのが、体からアルコールが抜けるまでに必要な時間だ。

「飲酒後、○時間以内の運転は禁止」などという指標があれば極めてシンプルなのだが、どうなのだろう。

「医学的な見地から言うと、体内におけるアルコールの分解速度は、1時間に4gと捉えてください。これは日本アルコール関連問題学会などの学会が飲酒運転を予防するために提示しているデータです」(樋口さん)

日本酒を例にとると、1合(アルコール20g)を分解するのに要する時間は5時間という計算になる。その2倍飲めば10時間といった具合に、時間とほぼ比例すると考えればいいそうだ。

「アルコールの代謝には男女差、個人差があります。久里浜医療センターでの実験結果では、男性の場合1時間に9g、女性で6.5g程度です。代謝が速い男性の場合は1時間に13gも分解できる人がいる一方で、1時間に3g程度という女性もいます。こうしたばらつきも配慮して、老若男女のさまざまな人に適用される基準として、1時間当たり4gが適切と判断したわけです」(樋口さん)

ソファで寝ている男性
写真=iStock.com/Milatas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milatas

■飲み過ぎたら翌日は運転してはいけない

単純計算すると、3合飲んだら15時間、4合飲んだら20時間ということになる。つまり、飲み過ぎたら、翌日の運転は事実上ダメということだ。

「その通り、飲み過ぎたら翌日運転してはいけないことになります。厳しいと思われるかもしれませんが、そのくらいの感覚で運転に臨んでほしいということです。また、体内からアルコールが抜けた後、つまりゼロになった後も、運転技量に影響があるという報告もあります」(樋口さん)

確かに、私もそれを実感したことがある。飲酒した翌日、酒が抜けた午後になって運転しても、いつもより運転がイマイチになることがあると感じていた。ブレーキのタイミングが遅れたり、注意力が散漫でハッとしたりすることが何回かあった。それ以来、翌日に運転する前日は休肝日にするか、「一杯だけ」と決めて飲むようにしている。

■眠っているときのほうが分解速度は遅くなる

アルコールの分解の速さに個人差があるのはよく知られている。樋口さんによると、「アルコールが体から消えるまでの速度を調べると、最も速い人と最も遅い人では4~5倍程度の差があります」とのことだ。

なぜこのような差が生まれるのかというと、最も大きな要因は、肝臓の大きさや筋肉量と考えられている。

このほか、起きているときより眠っているときのほうがアルコールが消失する速度が遅くなるという。酒を飲んだ後、「仮眠すれば大丈夫」と思っている人は少なくないのではないだろうか。残念ながら、睡眠によってアルコールの分解は加速するのではなく、遅れてしまうのだ。久里浜医療センターは札幌医科大学との共同研究で、飲酒後に睡眠をとると、アルコールの分解が遅れることを確認している。

■「仮眠をとったから大丈夫」は危険

20代の男女計24人を対象に、体重1kg当たり0.75gのアルコール(体重60kgの人でアルコール45g=ビール約1Lに相当)を摂取し、4時間眠ったグループと4時間眠らずにいたグループの呼気中のアルコール濃度を調べたところ、眠ったグループの呼気中のアルコール濃度は眠らずにいたグループの約2倍となった。

葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』(日経BP)
葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』(日経BP)

こうした結果になった理由として、睡眠時にはアルコールを吸収する腸の働き、そしてアルコールを分解する肝臓の働きが弱まることが影響していると考えられるのだそうだ。

「飲酒後に『仮眠を取ったから大丈夫』と考えるのは危険です。飲酒後、十分な時間を取れないなら運転してはいけません」(樋口さん)

どうやら「寝たらアルコールが抜ける」と感じるのは、単に仮眠したことでスッキリしただけのようだ。

前日の酒量が多いほど、また飲み終わった時間が遅いほど、翌日の運転は危険をはらむ確率が高くなる。運転するなら、時間をしっかり確保した上で臨もう。

*1 “The relationship between blood alcohol concentration (BAC), age, and crash risk” R C Peck, M A Gebers, R B Voas, E Romano. J Safety Res. 2008;39:311-319.

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葉石 かおり(はいし・かおり)
酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。全国の清酒蔵、本格焼酎・泡盛蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。「酒と料理のペアリング」を核にした講演、セミナー活動、酒肴のレシピ提案を行う。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)、『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)など多数。

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(酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり)

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