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知らない人から"くそばばあ"…ネット中傷を受けた僧侶が教える「心からイヤなことを追い出す習慣」

プレジデントオンライン / 2022年4月1日 8時15分

天台宗僧侶の髙橋美清さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

理不尽なつらい目に遭ったとき、気が滅入るニュースを目にしたとき、どうしたら心の安定を保っていられるのでしょうか。壮絶なネット中傷の被害に遭って出家し、天台宗の僧侶となった髙橋美清さんは、「定期的に心の『断捨離』をするといい」と説きます――。

■心の持ちようで見え方は変わる

コロナ禍以降、自暴自棄になった人による痛ましい事件が続いています。埼玉の猟銃立てこもり事件や大阪のクリニック放火殺人事件もそう。前者は容疑者のお母さんを見てくださっていた訪問医療の医師が、後者では容疑者を診察していた医師が犠牲になりました。

こういった事件を目にするにつけ、思い出すことがあります。それは、比叡山の行院(ぎょういん)(天台宗の正式な僧侶となるために修行をするところ)で修行をしていた時のこと。そのお寺のご本尊はお不動様(不動明王)で、毎朝自分たちが食事をする前に「仏飯(ぶっぱん)」をおそなえしていました。

ある日、仏飯をおそなえした後、掃除をしていたら先生がお不動様を指して、私に「これは何だ?」とお尋ねになるんです。「なぜそんなことを?」と思いながら「お不動様です」と答えると、「本当か?」と返ってきます。もう一度、「お不動様です」と答えると、「これは木だ」とおっしゃるんです。

さらに「お前にそう(お不動様に)見えるだけじゃないのか?」ともおっしゃるので、「いいえ、お不動様です」「なぜ木に手を合わせるんだ?」と、問答になりました。

たしかに、信心がなければ不動明王の形をした木でしかありませんし、「ただの木だ」と思う人は手を合わせることもしないでしょう。その時、「自分の心の状態次第でものの見え方は変わってくる。心ってすごいな。だけど、怖いな」と思ったんです。

心がギスギスしていれば、助けてくださったお医者様さえも敵に見えてしまうのかもしれません。何かを判断する時は、自分の心がどういう状態かを客観的に見る必要があると思うのです。

■「イヤな気持ち」をどう処理するか

例えば、会社でイヤなことがあったとします。夜眠る前にそんなことを考え出すと、「どうして、私だけあんなことを言われなきゃいけないんだろう?」「どうしてこんなに頑張っているのに、理解されないんだろう?」と、どす黒い思いが膨らみます。やがて、そのとがった気持ちの矛先を相手に向けたくなってしまいます。

私もそんな経験があります。いわれのない、ひどいネット中傷を受け続けて、毎日そのことで頭がいっぱいになり、ほかのことが手につかなくなってしまったのです。

ネットの掲示板に、1000件以上の中傷を書かれました。そのほとんどの書き出しが「くそばばあ」なんです。当時の私は、日本中で一番、見ず知らずの人に悪意を持って「くそばばあ」と呼ばれた50歳だったと思います。

■「きたないものを溜めるな。よどむな」

「ネット中傷なんか見なければいい」と言われたこともありましたが、不思議なことに「イヤだ」と思いながらも自分のことが書かれていると、そういった書き込みから目が離せなくなってしまうんです。

目からの情報は強烈です。たとえパソコンや携帯の電源を切っても、残像が頭に焼き付いて離れない。ひとりでに涙が出てきたり、体調を崩したりもしました。夜、布団に入って目を閉じても、自分をののしる言葉が思い出され、頭の中がいっぱいになって眠れないんです。その時、「自分の中に入ってしまった悪意のある書き込みに、いま私は支配されているんだ。だったら外に出さなくては」と気が付いたんです。きっかけになったのは、ある先輩僧侶の言葉でした。

行院の修行中に、指導をしてくださっていた僧侶に、「心の中の川に、きたないものを溜めるな。流してしまえ。よどむな」と言われたことを思い出したのです。とはいえ、イヤなことを溜めないようにするにはどうすればいいのか、最初は見当もつきませんでした。

■「私は『くそばばあ』なんかじゃない」

そこである時、そうしたイヤな気持ちを書きだしてみたんです。「なんで毎日、知らない人からこんなに『くそばばあ』なんて言われなきゃいけないんだ」「私は『くそばばあ』なんかじゃない」……と。

最初は、ファクスの裏紙などのいらない紙に、言われて嫌だったことを書き出し、汚いものに思えたその紙を指でつまんでビリビリに破いていました。だけどそれだとかけらが残ってしまう。そこで、周りに気を付けながら庭の片隅で火をつけて燃やしてみました。燃えさしは踏んで粉々にして、物理的に目の前から消し去ったんです。

そうこうするうち、燃やすことが面倒になってきました。それで、とにかく寝る前に一日を振り返って、その日のイヤだったことを、ただ書き出すようになっていったんです。

それを続けているうちに、「この人たちは、いつも書き出しが『くそばばあ』だけど、ほかにボキャブラリーがないのかしら?」と笑える余裕さえ出てきました。苦しみ、思い詰めることが、ばかばかしくなってきたんです。イヤな言葉を体の外に出すことで、少しずつ心も強くなっていったようです。

それ以来、毎日寝る前に、心の中に溜まっていることを書き出すのを日課にしています。

まずは不満や不安を少し脇においておき、実際に起きた出来事を客観的に見つめ、いいこと2、3個とよくなかったこと2、3個を紙に書き出します。紙は日記帳でもメモでも何でも構いません。私はチラシの裏やお菓子の包み紙に書き出したりしています。

■必要なものと、不要なものを選び出す

人の心の容量は決まっているように思います。そのサイズは人によって違うとも思います。しかも、心の容量がいっぱいかどうかは、人からも自分からも見えません。そこに、いいことも、よくないことも入れっぱなしにしておいたら、知らないうちに容量がいっぱいになり、心がパンクしてしまうかもしれない。そうならないよう、中に詰まっているものを1個ずつ外に取り出していく感覚で紙に書き出していくんです。

書き終わった紙は、後で見返して必要だと思ったものは、いつも持ち歩く手帳に書き写し、元の紙は捨てています。なかにはぐちゃぐちゃに書いたのに、なぜか捨てられないメモもあって、そういうものはそのまま手帳に挟んでいます。自分にとって必要なものとそうでないものを、2段構えで選択している感じです。

イヤな気持ちを書き出すと、少しずつ自分を客観視できるようになり、それまでは見えなかった他人の気持ちに思いを巡らせることができるようになります。「あの時、私もイライラして対応してしまったな」「あの人にも事情があったのでしょう」といった気持ちが芽生えてきます。イヤな気持ちを翌日に持ち越すことがなくなり、少しずつ心が軽くなっていきます。

これを習慣化すると、少しずつ人を認めること、あるいはゆるすことができるようになっていきます。人からの助言を素直に受け取れるようになると、いいご縁も巡ってくることが多いように思います。

■紙に書いて「心の断捨離」を

人生は試練の連続です。それでも生きていかなくてはなりません。そんな時、少しでも身軽な方が、前に進みやすい。ですから、イヤな気持ち、モヤモヤした気持ちは不要な荷物と同じだと思って、紙に書いて断捨離してしまいましょう。自分だけが見る分には何を書こうと自由です。

私がネット中傷を受けていたころ、悩みを聞いてくださった方の中には、「もう言わなくていいよ」「思い出さなくていいよ」とおっしゃる方もいました。だけど、当事者にしてみたら重くてしょうがない、吐き出したくて仕方がないんです。今思えば、聞いている方もしんどかっただろうということがよく分かります。誰の心の中の川も、常に綺麗な水が流れているほうがいいに決まっていますものね。

昨年は、天台宗を開いた最澄様がお亡くなりになってから1200年の「大遠忌(だいおんき)」でした。その教えが今も廃れないのは、時代は変われど、長らく人の役に立ってきたから。ですから、心が苦しくなった時、その教えに心を寄せていただけるといいと思います。

今月のひとこと

今回の言葉は、ご遺誡(ゆいかい)(最澄が残した言葉)からの一節です。「怨みに対して報復すれば怨みの連鎖は消えませんが、穏やかな心で怨みに相対すれば怨みが消えていく」という意味です。ぜひ、心の中の刃が誰かに向かいそうになった時、この言葉を思い出してみてください。

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髙橋 美清(たかはし・びせい)
天台宗照諦山心月院尋清寺住職
1964年、群馬県生まれ。短大在学中からモデルとして活動した後、フリーアナウンサーに。群馬テレビのレポーター、日本テレビ「おはよう天気」キャスター、競輪のテレビ中継の司会者のほか、フィニッシングスクールを主宰し企業などのマナー研修を行う。2011年に得度、2017年に比叡山延暦寺で修行を行い、正式な天台宗僧侶となる。2020年12月、群馬県伊勢崎市に天台宗照諦山心月院尋清寺を建立。

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(天台宗照諦山心月院尋清寺住職 髙橋 美清 構成=山脇麻生)

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