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「コンビニなのにオシャレ」で140万足超の大ヒット…「390円靴下」で業界を震わせたファミマ社長の問題提起

プレジデントオンライン / 2022年4月3日 10時15分

ファミリマートが税抜390円で販売しているラインソックス - 画像提供=ファミリーマート

ファミリーマートが2021年3月から販売している「ラインソックス」が累計140万足超えのヒット商品となっている。ソックスをはじめとするオリジナルブランド「コンビニエンスウェア」の仕掛け人は、2021年に社長に就任した細見研介氏だ。その狙いはどこにあるのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授が聞いた――。(前編/全2回)

※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「DXが進む時代だからこそ求められるリアル店舗の必要性とは。」(3月3日公開)を再編集したものです。

■累計140万足超の大ヒット商品になった「ラインソックス」

【田中】コンビニ業界が最も大変な環境の中で社長に着任されてちょうど一年。矢継ぎ早にさまざまな挑戦をされた一年だったと思います。今、振り返ってみてどう感じられますか。

【細見】昨年、2021年はファミリーマートにとっては創立40周年という節目の年でした。40周年という節目でその前からいろいろな企画が進行していたこと、そして日本全国でコロナのショックもだいぶおさまり、落ち着いて対応していく局面に入った一年だったことです。会社のリズムを整えるという意味では、さまざまなパーツがそろっていました。

【田中】細見社長はブランドビジネスに長年従事してこられて、繊維畑も長かったですよね。まずは、細見社長のブランド感をお伺いしたいです。ブランド、ブランディングをどのように定義していますか。

【細見】いかにトレードオフをしていくかが重要です。行ってはいけない領域を明確にしていく。ブランドビジネスはもちろんビジネスですから、お金儲けもしなければいけません。簡単にお金儲けができる可能性がある分野だが、ブランドとしては行ってはいけないという分野がある。ブランドというものは自然にポジションが決まっているのです。そこをいかにエンハンス(強化)していくのかが大事だと思います。

【田中】ブランディングおよびマーケティングの要諦の一つとして、ブランディングのエクステンションがあります。どこまでエクステンションできるのか、すべきなのか、してはいけないのか。そこが要諦ということですね。

【細見】そうですね。

■実店舗はデジタルとの接点になる

【田中】ファミマの社長として大胆な挑戦をされ、今ではコンビニで販売するウェアや靴下などの「コンビニエンスウェア」がヒット商品に成長しています。

ファミリマートが税抜390円で販売しているラインソックス
ファミリマートが税抜390円で販売しているラインソックス(画像提供=ファミリーマート)

【細見】当社のシンボルカラーの線を入れたデザインなどの「ラインソックス」の販売は、3月末に累計140万足を突破しました。

【田中】ブランディングの要諦について、どこまでやるのかやらないのかが重要というお話がありましたが、今ファミマの店舗に行くと、かなり小型の店舗でも「コンビニエンスウェア」が置いてあります。どこまでブランドをエクステンションしていかれるのでしょうか?

【細見】加盟店さんもいらっしゃいますし、本部の押しつけだけではできません。品質の良いものを提供し、着ていただいて「これが良い」と実感していただかないといけません。リアルのお店では場所に限りがあるので大きな仕掛けや多くの商品を置くことは難しい一方で、必ずデジタルとの接点になっています。店舗が入り口となってデジタルに広げていくことは、将来大きな可能性があると思います。

■デジタル化する社会でコンビニに求められるもの

【田中】2022年1月20日にアマゾンが、アパレルのリアル店舗であるAmazon Styleを年内にもアメリカでオープンすると発表しました。リアル店舗としてのAmazon Booksは6年前の2015年11月に開店していますが、私としては待ちに待ったAmazon Styleのオープンです。リアル店舗は商業の原則として店舗の面積に応じて、どれくらいの商圏にチャレンジできるかが決まっています。

一方でAmazon StyleのようにOMO(Online Merges with Offline)、オンラインとオフラインの完全融合にはさまざまな可能性があります。店舗としては面積に限りがありますが、デジタルには無限の可能性があります。もともとのご出身である繊維畑、アパレル、ファッションにおいて、デジタルの領域も含めると、コンビニにどれくらいの可能性があるとお考えですか?

【細見】可能性のある分野というのがどこなのかにもよると思います。消費者と業界がコンビニに求める役割は何なのか。例えばコンビニは食品をたくさん売っていますが、食品業界の方がコンビニに求めるものは何か? その役割を果たした上でデジタルにつながっていく必要があると思います。昨年から我々がコンビニ、リアルリテールはこれからメディアになると言っているのは、そういったメッセージを含んでいるとお考えいただけたらと思います。

ファミリーマート代表取締役社長・細見研介氏
ファミリーマート代表取締役社長・細見研介氏

■実際に見られる、触れられる、食べられることの強み

【田中】マーケティングで言うセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングにおける、ポジショニングの二つの基軸で言うと、コンビニは、消費者を主語にして考えると昔も今も10年後もおそらく、便利でおいしいものを食べたいという、「便利×おいしい」が最も重要な基軸だったと思います。

「便利×おいしい」をいかにリアルとデジタルでアップデートするかが、これまでのゲームルールでした。しかしコロナ禍で人々の考え方が変わり、さらにUber Eatsなどが登場してその定義も変わり、見直しが求められているのがコンビニだと思います。

おそらく「便利」は、何年たっても必要だと思います。一方で「おいしい」にはこれからもいろいろな基軸が求められますし、打ち出せると思います。「便利×おいしい」以外で重要になる基軸はあるのでしょうか?

【細見】私たちのコーポレートメッセージは「あなたと、コンビに、ファミリーマート」です。最近の消費者、生活者はスマホと切っても切れない生活になっている。その結果、どういうことが起こっているのか。情報過多になっていないか? 情報を選別したり、確認する場がなかなかないわけです。

コンビニはリアルで200メートル、300メートルの圏内にあります。そこで触れる、見られる、食べられることは極めて大事だと思います。アマゾンがリアルの書店や、アパレルの店舗を出店することの大きな意味は「触ってください、感じてください」ということだと思います。6Gの世界になると、感じることもデジタルでできるようになるかもしれませんが、そこまでには時間があるということで、コンビニは情報を集約していく一つのハブになるのではないかと思っています。

【田中】まさにコーポレートメッセージの中にも練り込まれていますし、どんなにAR、VRがリアルになっても、直接触れる、試せる、実際に身近にあるということが大きな違いでしょうね。冒頭でブランディングの話をしましたが、私は企業戦略、マーケティング戦略を専門にしています。マーケティングにはさまざまなフレームワークがありますが、フィリップ・コトラーがブランディングで重視したものが「類似化ポイント」と「差別化ポイント」です。

田中道昭氏
田中道昭氏

■コロナ禍で変わった「消費者の哲学」

消費者がどんな商品を買うにしても、まずは「類似化ポイント」、すなわち事業や商品・サービスにおいて最も「当たり前のこと」が徹底されていることが重要です。消費者は、「類似化ポイント」が達成されているかどうかを無意識に感じ取り、そして「差別化ポイント」、要は売りがあるかどうかを確認して、その二つがあって初めて購買に至ります。

当たり前のことが充足されていて、その上さらに「差別化ポイント」、売りがあるかどうかで買われる、ということは商いの鉄則だと思います。ファミマが出された事業戦略で注目しているのは、その中で「美味しい商品の開発」「利便性の追求」「親しまれるお店づくり」という基本を徹底すると書かれていることです。

私はコンビニ業界の平均日販におけるトップとその他企業との違いは、コンビニとして当たり前の「おいしさの追求」や「利便性の追求」など、類似化ポイントで日販の差の8割がついていて、差別化ポイントは実は2割ほどしかないと思っています。それほど、今回打ち出されている基本の徹底は非常に重要だと思っています。細見社長自身、今私が申し上げた文脈での類似化ポイントである基本の徹底、あるいは最も重要だと思うおいしい商品の開発についてはどのようにお考えでしょうか?

【細見】これに関しては、今、時代の大きな分岐点にいると思っています。消費者の哲学がこの2年で凄まじく大きく変わりました。コロナでなにが変わったのかというと、それまではインターナショナルサプライチェーンの時代であり、世の中がとても便利になったわけです。そこに若い世代を中心に、「これがサステナブルな社会なのか?」という問いが、この数年間現れてきました。

コロナの2年間でサプライチェーンも滞りが見られるようになり、今までの大量生産・大量消費への反省とともに、過度なもの、コンビニに置いてある食べものでも、過度においしいものに対する反省が消費者に出てくるのではないかと思います。

【田中】よりシンプルに、ミニマルな側面が出てきていますよね。

■「おいしい」の定義が変わりつつある

【細見】今までは、健康志向という言葉がありましたが、今はそれよりもファミリー志向です。家族、家庭の中で食べておいしいものこそが、本当のおいしいものではないかと。「おいしい」そのものの定義が変わってくるのではないかと思います。家を基軸にして考えると、家は綺麗なほうがいいし、お店ももちろん綺麗なほうがいいでしょう。綺麗で家族的、家庭的においしいものがあればいい。おいしいものを追求するとはそういうことです。

お客さんが入ってきたらお声掛けができるような雰囲気づくりも大切です。それも含めて、QSC(Quality・Service・Cleanness)と表されるものの徹底がなければ、やはり商売としては駄目になると考えています。

【田中】私はかねてからSDGsやサステナビリティ、気候変動対策にしても、寄付活動などではなく、会社の芯から対峙するものだと思ってきました。消費者の嗜好が変わる中で行きすぎない、まさにその会社の芯から、おいしさの追求をどこまでやるのかも含めて、SDGsやサステナビリティに対応していくということだと感じました。コロナ禍でライフスタイルや考え方が変わっている中、これから先はどうやってSDGsやサステナビリティに対して手を打っていきますか?

【細見】会社の芯からさまざまなことをやっていくということですよね。昨年、私たちは中部エリアのある加盟店の発案で「ファミマフードドライブ」という取り組みを始めました。今まではファミリーマートのイートインを活用してお子さまやご家族に集まっていただいて、職業体験や食育や子ども食堂などをやってきました。それがコロナでできなくなったため、代わりにご近所の方にお声掛けをして、家にある過剰な食品を持ってきていただいて、困っているお子さまたちに届けようという活動を始めたのですね。これが非常に好評で多くの加盟店にもご理解いただき、1200店舗ほどに広がっています。

これは私たちだけではできず、NPOや自治体の協力を得てやっています。地域や自治体を巻き込み、一体となった取り組みが広まっている。その他にも、SDGsとしてカトラリー類に穴を開けて重さを軽くするという取り組みなどをしており、今後もファミリーマートらしいさまざまな取り組みをしていきたいと思います。

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細見 研介(ほそみ・けんすけ)
ファミリーマート代表取締役社長
1962年、大阪府生まれ。神戸大学卒。1986年、伊藤忠商事入社。同社執行役員、食品流通部門長などを経て2021年より現職。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。

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(ファミリーマート代表取締役社長 細見 研介、立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授 田中 道昭)

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