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「プーチンの代弁者」ではない…鈴木宗男「私がロシアへの非難決議に賛成票を投じた本当の理由」

プレジデントオンライン / 2022年3月31日 18時15分

参議院議員の鈴木宗男氏(撮影=秋田 和是)

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対し、日本はどう向き合うべきか。参議院議員の鈴木宗男氏は「日本の国益を第一に考え、常に出口戦略を考えておくことが本当の外交。非難決議に私も賛成票を投じたが、一にも二にも対話によっての解決しかない」という――。

■私が非難決議に賛成票を投じた理由

プーチン大統領は何を考えているのかと、しばしば訊かれます。いま頭の中にあるのは、ロシアの安全を守り、強いロシアを取り戻す。その1点でしょう。ウクライナ全土を占領しようとか、ロシアに併合してしまおうという考えはないはずです。

「ロシアを擁護している」とか「プーチンの代弁者」だとか散々に叩かれている私ですが、それは違います。力による国家主権への侵害や領土の拡大は、決して許されません。ロシアが行っているウクライナへの武力侵攻は暴挙であり、民間人にも多くの犠牲者を出し、難民を生んでいます。21世紀の国際社会から非難されるのは、当たり前です。3月2日に開かれた参議院本会議のロシアへの非難決議で、私が賛成票を投じたのもそのためです。

同時に、考えるべきなのは、日本の地政学的な立場と国益です。日米同盟は重要ですが、ロシア、中国、北朝鮮という核保有国に囲まれた日本が、これらすべての国を敵に回すことは得策なのか。隣国が気に入らないからといって引っ越しはできないのですから、折り合いをつけていくしかないのです。

■過去には日本漁船の拿捕、銃撃事件が多発していた

また、日本がアメリカやイギリスと違うのは、国益として解決すべき独自の課題が、ロシアとの間に存在することです。すなわち北方領土問題と平和条約の締結です。私のもとには、毎日のように元島民の人たちから「墓参はできるのでしょうか」「サケ・マス漁業交渉はどうなってしまうのでしょうか」という切実な電話がかかってきます。

日本とロシアの間には安心して操業するためのさまざまな取り決めがあります。本来ならば、毎年3月になると、日本とロシアの200海里の水域で行うサケ・マス漁の操業条件を決める交渉がありますし、4月以降には歯舞群島の貝殻島周辺の昆布漁の交渉もあります。

戦後、貝殻島水域は旧ソ連によって実行支配されましたが、貝殻島周辺は好漁場で、昆布採取を生業とする漁民は危険を冒してでも出漁しなければ生活が成り立たず、無理な操業を続けざるを得ませんでした。そのため、旧ソ連による日本漁船の拿捕(だほ)が多発し、大日本水産会が努力して旧ソ連と交渉し、1963年に異例の民間協定が締結されたのです。

しかし、その後も北方四島周辺のロシアが領海と主張する水域では、旧ソ連・ロシア国境警備船による日本漁船の拿捕が頻発。銃撃事件も多発したため、交渉の末、1998年に「北方四島周辺水域における日本漁船の操業枠組み協定」が締結されました。

このように、長い時間をかけて日本漁船が安心して操業できる取り決めを作ってきたのです。しかし、今のところサケ・マス漁業交渉も、貝殻島昆布漁の交渉も見通しが立っていません。

北方四島周辺での漁獲量は、日本全体の漁獲量でいえば少ないかもしれません。だからといって、この水域での漁業を放棄していいのでしょうか。それは日本の安全保障においても健全な状態と言えるのでしょうか。

羅臼漁港から見える国後島
写真=iStock.com/Tatsuo115
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tatsuo115

■元島民からの涙ながらの電話

また、元島民からの涙ながらの電話もあります。

「北方四島にあるお墓へのお参りは、今年もできないのでしょうか」

新型コロナの影響で、20年、21年は北方墓参は実施されていません。

北海道で生まれ育った私は、元島民たちの思いを昔から知っています。およそ1万7291人が引き揚げてきたのに、もう5532人(令和3年12月末)になってしまいました。平均年齢は87歳です。先祖の墓を置いてふるさとを捨てざるを得なかった島民の思いを考えれば、この人道支援だけは何があっても再開、継続しなくてはいけません。

声高に「北方領土を返せ」と叫んでも、島は帰って来ません。だから私はロシアと向き合うのです。大切なのは対話を続け、お互いの落としどころを見いだすことです。強気一辺倒ではなく、相手の立場や言い分を知り、信頼のパイプを築くことです。

■エネルギー自給率、米国は104.2%、英国は71.3%、日本は

そしてエネルギー供給の問題もあります。日本は一次エネルギーの自給率が低く、2019年で12.1%しか自給できていません。アメリカは104.2%、イギリスは71.3%を自給できていますし、他のOECD諸国と比べても日本は極めて低いのです。

日本は海外から輸入する石油・石炭・天然ガスなど化石燃料に大きく依存しており、特に原油輸入のおよそ9割は中東に依存しています。オイルショックや中東で戦争が起こるたび、何度も痛い目に遭ってきた経験を思い出してください。エネルギーの安定供給という点において、供給源を多様化する必要があります。

ですから、石油・天然ガスを豊富に埋蔵するロシアとの関係は重要です。現在、天然ガスの約1割をロシアからの輸入に頼っています。

こういった事情がある以上、何でも欧米と足並みをそろえればいいわけではありません。

この戦争が終わった後を考えなくてはなりません。日本の国益を第一に考え、出口戦略を常に考えておくことが本当の外交ですが、現在の日本にはこの点が欠けているように思います。

■プーチンがキレた本当の理由

アメリカやイギリスが主導する経済制裁に日本も加わり、3月1日にはプーチン大統領の個人制裁に踏み込みました。3月7日にロシアは日本を非友好国のリストに入れましたが、この個人制裁が決め手になったと思います。日本にはプーチン大統領の個人資産は何もありません。それなのに個人資産を凍結するということは、「お前とは付き合わない」という強烈なメッセージになるからです。「それなら結構だ」と相手が態度を硬化させるのは当然です。

そしてロシア外務省は3月21日、「日本による一方的な規制措置が明らかに非友好的である」として、北方領土問題を含む平和条約交渉を「現状において、継続するつもりはない」として中断する意向を表明しました。問題は、それで困るのは日本だということです。

国益に関わる問題がないのなら、アメリカやG7に同調するのもいいでしょう。しかし地政学的な条件が異なり、欧米にない国益にかかわる問題を抱えている日本には、相応の独自の判断があってしかるべきです。

■アメリカと安全保障の枠組みに入っていても制裁をしていない国

だから日本は下手に出ろ、と言うのではありません。

たとえばインドの対応は参考になると思います。インドは安全保障の枠組みであるクアッド(QUAD:Quadrilateral Security Dialogue)でアメリカ、日本、オーストラリアと連携していますが、ロシアの機関や個人に制裁を加えていません。

たなびくインドの国旗
写真=iStock.com/da-kuk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/da-kuk

インドは隣国パキスタンや中国との間に国境問題や領土問題を抱えています。中国とは2020年に国境で軍事衝突が発生し、45年ぶりに双方で死者が出ました。パキスタンとは、カシミール地方をめぐり過去3度にわたり戦争が勃発、現在も緊張関係が続いています。インドが国家安全保障を考えてロシアとの対立を避けたのは賢明な判断でしょう。

私は間違っていることに対してはきちんと非難すべきだと思います。ただ、アメリカと安全保障の枠組みに入っていても制裁に加わらないインドのように、日本も独自の対応をしてもよかったのではないかと思うのです。

■2014年に行った、米英仏とは違う日本独自の対応

日米同盟はもちろん大事ですが、今の日本はロシアへの制裁に躍起で、停戦が成立したり戦争が終わった後のことを考えているのか心配です。責任ある政治というのは、目先の出来事だけにとらわれず、常にその先を考えて、備えておかなければいけません。対話の窓口を閉ざさないことこそ、大切なのです。ロシアを一方的に敵国扱いして、日本に何が残るかといえば負の遺産だけだからです。

2014年にロシアのソチで開かれた冬季オリンピックの開会式に、アメリカのオバマ大統領、イギリスのキャメロン首相、フランスのオランド大統領は、出席しませんでした。その前年にロシアで成立した「同性愛宣伝禁止法」に抗議するためと言われています。日本の安倍総理は出席しました。それをプーチン大統領は非常に喜び、エネルギーや極東開発など「8項目の経済協力プラン」の合意に結びつきました。

外交とは積み重ねであり、約束を守る信義と道義が土台です。何よりも外交には相手があり、お互いの名誉と尊厳がかかっています。相手の立場を尊重しながら未来志向で進めていくしかありません。ロシアは日本にとって大事な隣国です。外交は常に、緊張の緩和に向けられるべきなのです。

■政治の究極の目的とは

アメリカのバイデン大統領がロシアを挑発し続けたのは、大きな過ちです。お互い自制しなさいと言うべきだったと思います。「やっぱりロシアは悪い国でしょう」というアピールに終始しています。バイデン大統領は双方に話し合いを呼びかけるべきです。制裁よりも対話です。

そして日本も、岸田総理からロシア、ウクライナ、アメリカの大統領に強く話し合いを呼びかけるべきです。日本はウクライナへのODAに、3100億円も出しています。この戦争を長引かせることは、ロシアに対してもウクライナに対しても、日本の国益を損ねる結果になるわけです。岸田総理には、もっと積極的に強い外交に打って出ていただきたいと思います。日本はウクライナとも、アメリカとも、ロシアとも良い関係を築いております。

ゼレンスキー大統領は3月20日、CNNの単独インタビューに応じて「この戦争を止められる可能性が1%でもあるならば、この機会をとらえる必要がある。われわれにはその必要がある」と語ったそうです。ロシアとウクライナの双方に譲れない言い分がある以上、なおさら話し合いが重要です。両国の指導者には、これ以上の犠牲を出さないために、一刻も早く停戦協議をまとめてほしいと願います。

現実的な妥協点は、あるでしょうか。ロシアは、ゼレンスキー大統領の身の安全と立場を担保し、ウクライナへの非軍事化要求を取り下げること。ウクライナはミンスク合意を破棄したことを謝罪し、NATOへの加盟申請を取り下げて、中立化を約束すること。そうすれば、不戦協定へ導く道筋がつくのではないかと私は考えます。

政治の究極の目的は、世界平和の実現です。繰り返しますが、力による国家主権侵害はあってはならないし、先に手を出したロシアに非があるのは当然です。同時に制裁に終始するのではなく、一にも二にも対話によっての解決しかありません。これが私の意見です。

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鈴木 宗男(すずき・むねお)
参議院議員/新党大地代表
1948年、北海道足寄町生まれ。拓殖大学政経学部卒業。1983年、衆議院議員に初当選(以後8選)。北海道・沖縄開発庁長官、内閣官房副長官、衆議院外務委員長などを歴任。2002年、斡旋収賄などの疑惑で逮捕。起訴事実を全面的に否認し、衆議院議員としては戦後最長の437日間にわたり勾留される。2003年に保釈。2005年の衆議院選挙で新党大地を旗揚げし、国政に復帰。2010年、最高裁が上告を棄却し、収監。2019年の参議院選挙で9年ぶりに国政に復帰。北方領土問題の解決をライフワークとしており、プーチン大統領が就任後、最初に会った外国の政治家である。

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(参議院議員/新党大地代表 鈴木 宗男 構成=石井謙一郎)

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