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不動産バブル崩壊で、いまや世界経済のお荷物に…中国経済を迷走させる習近平政権の断末魔

プレジデントオンライン / 2022年4月4日 9時15分

2022年3月11日、第13期全国人民代表大会(全人代)に出席する習近平国家主席 - 写真=AFP/時事通信フォト

■「5.5%前後の成長目標」に暗雲

2022年、中国共産党政権は、実質ベースで5.5%前後のGDP(国内総生産)成長率を実現する目標を掲げた。しかし、足許の経済状況を見ると、ゼロコロナ政策による主要都市の機能低下などで成長目標の実現はかなり難しそうだ。その要因として、不動産バブルの崩壊、IT先端企業への締め付けの強化、およびコロナ感染再拡大による動線の寸断は大きい。3つのマイナスの要素=三重苦によって、中国経済はこれまで以上に厳しい状況を迎えることが懸念される。

秋に党大会を控える習近平政権は、求心力の低下をなんとしても避けなければならない。そのために、共産党指導部は経済の下支え策を強化するだろう。一方、共産党政権に対する不満の高まりを抑えるため、SNS運営企業への監視を強化することになるだろう。共産党政権は貧富の格差を解消する政策運営を行っているものの、実際には経済成長期待が高い先端分野のダイナミズムをそいでいる。

それは経済運営の効率性を低下させる。また、感染者の増加に対してゼロコロナ対策も徹底せざるを得ない。中国の感染対策は世界経済の供給制約を深刻化させる要因でもある。中国の経済成長率の低下傾向は鮮明化する可能性が高い。それは、世界経済にとって大きなマイナス要因だ。

■不動産規制が予想以上に市場を冷え込ませた

中国経済の減速懸念を高める3つの要因の中で、最も深刻なのが不動産バブルの崩壊だ。2008年9月に発生したリーマンショックで世界経済は大きく減速した。その結果、リーマンショックまでの中国の高成長を支えた輸出が減少した。共産党政権は不動産分野での投資を積み増すことによって、高い経済成長率を目指す政策運営を行った。世界的な低金利環境とカネ余りが続く中で、中国国内では不動産価格は上がり続けるとの強気な心理が高まり不動産バブルが発生した。

しかし、いつまでも資産価格が上昇し続けることはない。2022年秋に予定されている党大会で3期続投を目指す習近平国家主席は、不動産バブルが膨張して債務問題が深刻化することは避けなければならない。その考えに基づき、2020年8月に共産党政権は不動産融資規制である“3つのレッドライン”を実施し、バブル潰しに取り掛かった。しかし、3つのレッドラインは共産党政権が予想した以上に不動産市況を冷え込ませ、住宅価格の下落が止まらなくなった。その結果、中国の景気減速は鮮明化している。

■恒大集団、佳兆業集団…次々と決算発表を延期

不動産市況は悪化するだろう。足許、上場規則で定められた3月末までに2021年の監査済み決算を公表できない不動産デベロッパーが増えている。主な企業として、中国恒大集団(エバーグランデ)や佳兆業集団(カイサ・グループ)、緑地香港(グリーンランド・ホンコン)、宝龍地産(パワーロング・リアルエステート)などが決算発表を延期した。

デベロッパーの本格的なデフォルトや経営破綻のリスクを低下させるべく地方政府は支援を強化している。その上で、共産党政権は民間の不動産企業を救済するのではなく、資産の切り売りを加速することによって不動産市況を安定させようとしているが、事態は好転していない。

中国不動産セクターから撤退する大手監査法人も出始めた。計算方法にもよるが、中国のGDPの30%近くを占めると言われる不動産関連セクターで企業の資金繰りはさらに悪化し、事業運営に行き詰まる企業は急増する恐れがある。それは経済成長率の低下要因だ。

■IT先端企業への締め付けを強めているが…

現在、共産党政権はIT先端企業への締め付けを強めている。貧富の格差拡大阻止の姿勢を示すことに加えて、政権に対する不満を高めかねないSNSなどを抑え込む必要がある。現時点では、習氏の政権基盤が揺らぐ状況には至っていないものの、先行きは楽観できない。例えば、不動産市況の悪化が深刻化すれば、保有してきた財産価値の急減に直面する人は増える。その結果、国民の生活が苦しくなってくる。

それは政権に対する不満を高めることになりかねない。今年秋の党大会を控える習氏は、なんとしても求心力を保たなければならない。アリババやテンセントなどへの締め付けは想定以上に強まる可能性がある。3月下旬にテンセントは共産党政権の規制強化に従うと恭順の意を示した。

それによって民間企業の創業経営者は当局からの圧力に対応しつつ、より自由度の高い国で新しい取り組みを進めようとするだろう。やや長めの目線で考えると、IT先端企業への締め付け強化によって中国から海外に流出する生産要素(ヒト、モノ、カネ)は増えると考えられる。

■上海市のロックダウンが追い打ちに

また、新型コロナウイルスの感染再拡大も中国経済の成長率を下押しする。3月に入り習氏は徹底したゼロコロナ政策を調整する考えを示した。しかし、感染急増によって、金融と経済の中心地である上海市がロックダウンを余儀なくされた。共産党政権はゼロコロナ対策を徹底せざるを得ないことを認めたといえる。常住人口約2500万人の上海市のロックダウンは、これまでの都市封鎖を上回る負の影響を中国にもたらすはずだ。

SNSには上海市民がスーパーで食料品を争う様子が投稿された。動線の遮断によって自らの安全と健康が脅かされると恐怖心理に陥る人が急増している。それによって節約心理は強まり、個人消費が減少する。動線遮断によって生産活動も停滞する。主要都市でのロックダウン実施は不動産デベロッパーなどの会計監査のさらなる遅れにもつながるだろう。

上海の街並み
写真=iStock.com/ASKA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ASKA

■不満を抑えるための対策がさらなる不満を呼ぶ

不動産バブル崩壊、民間IT先端企業への締め付け強化、感染再拡大が互いに共鳴するようにして中国経済の成長率は一段と低下するだろう。全人代で発表された5.5%前後の実質GDP成長率の実現はかなり難しい。一つのシナリオとして、不動産セクターではデフォルトが増え、地方政府の財政や銀行セクターに負の影響が波及する展開が予想される。

それによって人々の不平不満は高まる。それを抑えるために習政権はSNSの監視や相対的に成長期待が高いIT先端企業への締め付けを強めざるを得なくなる。感染を抑えるためにゼロコロナ対策も強化しなければならない。人々の自由はより強く制限される。都市部と農村部での戸籍制度の違いに起因する社会保障面での格差の拡大なども重なって、将来への不安を抱く人は増えるだろう。

■世界経済の足を引っ張る状況は当面続く

それに加えて、ウクライナ危機を背景とする天然ガスや原油価格の上昇が、国営・国有企業の事業運営コストを増加させる。社会心理の不安定化の恐れが高まる中で中国の企業が最終価格にコストを転嫁することは難しい。中国全体で企業業績は悪化し、雇用と所得環境の不安定化懸念は高まる。

景気下支えのために財政と金融政策が総動員されたとしても、債務残高の増加によって経済全体で資本の効率性が低下しているため、景気減速を食い止めることは難しい。今後の展開によっては想定以上に中国経済の減速が鮮明化し、資金の流出圧力が強まる恐れもある。2022年の中国経済の成長率を4.5%程度と予想する経済の専門家もいる。中国経済はかなり厳しい状況に追い込まれている。

それは世界経済にとって大きなマイナスだ。リーマンショック後の世界経済は米国の緩やかな景気回復と、中国経済の成長に支えられて相応の安定を維持した。中国経済の成長率の低下傾向は鮮明化し、世界経済全体の成長ペースも鈍化するだろう。

それに加えて、ウクライナ危機によって世界経済はグローバル化からブロック化に向かい始めた。その状況下、ゼロコロナ対策によって上海市の港湾施設の稼働率は低下し、世界全体での供給制約に拍車をかける。当面、中国経済は世界経済の足を引っ張ることが懸念される。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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