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NHK大河ドラマでは描きづらい…源頼朝の不倫相手「亀の前」が史実としてやったこと

プレジデントオンライン / 2022年4月2日 18時15分

伝源頼朝像(写真=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

鎌倉幕府を築いた源頼朝には、北条政子という妻とは別に、亀の前という愛妾がいた。歴史学者の濱田浩一郎さんは「NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、頼朝を寝取った『性悪女』として描かれているが、これは史実とは異なる。ドラマとして不倫相手を性格の悪い人物とするしかなかったのだろう」という――。

■強烈なインパクトを残した「亀の前」とはどんな女性だったのか

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の登場人物として、最近、新キャラクターが登場してきました。演技派女優として名高い江口のりこさんが演じる、「亀」です。

この亀とは、どのような女性だったのか。鎌倉時代の文献をひもときながら、迫ってみたいと思います。なおドラマと異なり、史料には「亀の前」と記されているので、本稿もそれにならいます。

ドラマにおいて、石橋山の戦い(1180年8月)に敗れて、安房国(今の千葉県南部)に避難している時に、源頼朝と漁師の妻・亀の前は出会ったように描かれていました。

人妻でありながら、頼朝と一夜を過ごした亀の前。彼女の夫の漁師とその仲間たちが「亀はどこだ!」と殴り込んでくるのですが、頼朝は事前にそれを知り、隠れる。

同時に、平家方の豪族・長狭常伴(ながさつねとも)も、頼朝の宿泊所を襲撃しようとしていたのですが、漁師の集団とかちあってしまう。乱闘の最中に、頼朝は難を逃れることができた……との展開でした。

■史実にはない創作されたシーン

家臣(山本耕史さん演じる三浦義村)が頼朝に「敵の大将(つまり長狭氏)も討ち取ってきます」と告げた時、亀の前が「自分の夫もついでに殺してきて」と言い放ったことは印象的でした。私は「性格悪っ」と思ったものです。

長狭常伴が頼朝を襲撃しようとしたこと、三浦氏が長狭氏を撃退したことは事実ですが、亀の前とのなれそめなどは全て創作です。

まず、二人は、頼朝が安房国に避難している時に出会ってはいません。

『吾妻鏡』(鎌倉時代後期に編纂された歴史書)によると、頼朝が伊豆に流罪になっていた頃からの知り合いだったようです。

余談ですが、頼朝は流人時代に、伊東祐親の娘(八重姫)、北条政子、そして亀の前と、数々の女性と恋愛関係にあったのです。これだけでも、流罪にあっていた頼朝が、かなり自由な立場にあったことが分かります。

■「吾妻鏡」に書かれていた亀の前の出自と性格

『吾妻鏡』によると、亀の前は「良橋太郎入道」という人物の娘と書かれています。

良橋入道がどのような経歴を持つ人かは分かりません。ただ、良橋という名前から下総国の吉橋郷(現在の八千代市)の豪族ではないかという説があります。ドラマで描かれていたような、漁師の妻だったということは考えにくいです。

また、亀の前は美人で、性格も温厚であると『吾妻鏡』に記されています。一般的に、温厚で性格が良いとされる人が「夫を殺してきて」と言うでしょうか。

ドラマの中で、亀の前が、新垣結衣さん演じる八重(伊東祐親の娘で、頼朝の前妻)に、頼朝と寝所にいるところを見せつけるシーンがありました。ネットで大きな話題となったシーンですが、そのようなことをする性悪女でもなかったように私は思います。

NHK(脚本家の三谷幸喜氏)としては、勧善懲悪の筋書きにして、ドラマを盛り上げるために、頼朝の不倫相手を性格の悪い人物とするしかなかったのでしょう。

■鎌倉に近い逗子に愛人を住まわせる

寿永元年(1182)6月1日、頼朝と亀の前との関係に進展が見られました。

頼朝が亀の前を、家臣・中原光家の逗子の家に引っ越させたのです。

おそらく、亀の前はそれまでは伊豆にいたのではないかと思います。鎌倉ではなく、逗子に呼び寄せたことも面白い。

引越しの理由を『吾妻鏡』は「外聞を憚って」と書いています。ですが、世間体とかいうよりも、頼朝は妻・北条政子(役=小池栄子さん)の目を気にしていたのではないでしょうか。

北条政子(写真=CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons)
北条政子(写真=CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons)

政子にバレたらえらいことになると、頼朝は予想していたと思われます。

また、逗子に住まわせたのは「由比ヶ浜に禊(みそぎ)に行く」といって、頼朝が出てきやすいからとも『吾妻鏡』に書いてあります。用意周到です。亀の前の性格に惹かれて、頼朝は1181年の春頃から、頻繁に亀の前と会っていたようです。

同年の6月8日にも、頼朝は亀の前がいる逗子を訪問しています。ちょうどその頃、政子は妊娠中であり、8月12日には無事に男子(後の二代将軍・源頼家)を出産しています。

■愛人が住む家を襲撃させた北条政子

しかし、その年の秋に、愛人・亀の前の存在が、政子にバレてしまう。

その頃、頼朝は亀の前を伏見広綱の邸に住まわせていました。広綱の邸は飯島(鎌倉市)にあったといいますから、さらに近くに住まわせていたことになります。

政子が、亀の前の存在を知ったきっかけは、父・北条時政の後妻・牧の方の告げ口でした。

愛人の存在に怒った政子は、「牧宗親(牧の方の実父)に命じて、亀の前が住む伏見広綱の邸を襲撃させ、破壊させてしまう」(『吾妻鏡』)のです。

広綱は亀の前を連れて逃げ出し、太多和義久(おおたわよしひさ)の邸に逃れます。これが11月10日の話です。ちなみに、ドラマでは、襲撃に源義経も関与しているとの描かれ方でしたが、義経の関与を示す史料はなく、創作です。

襲撃事件から二日後、頼朝は太多和義久の邸を訪問。しかも、牧宗親を連れての訪問でした。そして、頼朝は皆がいる前で、亀の前に侮辱を与えた牧宗親を罵り、髻を切ってしまうのです。宗親は、泣きながら、邸を飛び出していったといいます。

伝統的な武道のパフォーマンスを発揮する
写真=iStock.com/Josiah S
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Josiah S

(舅・北条時政の義父の髻を切るなどの侮辱を、頼朝が与えることはないだろうという考えから、牧の方の兄・時親が、亀の前を襲撃したという説もあります)

頼朝はその夜も、亀の前のところに泊まっています。果たして、どこまで「反省」していたかは疑問です。ともかく、この一件で「妻の親族に侮辱を与えたな」と北条時政は怒り、伊豆に無断で帰ってしまうことになります。

■懲りずに亀の前との逢瀬を続ける頼朝

12月10日、亀の前は再び、逗子の中原光家の邸に移されています。

亀の前は、政子の怒りが怖いとしきりに言っていたようです(『吾妻鏡』)。ですが、頼朝は構わず、亀の前と会っていたようです。

そして、それから1週間もたたない12月16日、亀の前をかつて住まわせていた伏見広綱が遠江国浜松へ流罪となります。

この背後には、亀の前を住まわせていたことへの政子の怒りがあったようです。そう思うと、伏見広綱もとんだとばっちりにあったと言えます。可哀想と言うしかありません。

これ以降、亀の前の消息はつかめません。頼朝との関係はずっと続いていたのかも知れません。

そうなると、逗子の中原光家も、政子の怒りに触れ、何らかの罰にあった可能性があります。しかし『吾妻鏡』にはそうした記述はありません。伏見広綱が流罪になったことで、政子の怒りが収まったと考えられます。

頼朝と政子、そして亀の前の三角関係を見て思うのは、政子の怒りのすさまじさです。さらに、それを全く気にしていないかのような飄々とした頼朝も印象的です。「面白夫婦」の一面を垣間見たように思います。

■政子が頼朝の不貞に激怒した本当の理由

それにしても、政子はなぜそれほどの怒りを見せたのか。

自らの妊娠中に不倫をしていたということはあります。それより、亀の前が、頼朝の子(男子)を産むことを、政子は恐れていたからでしょう。

頼朝の後継者は「わが子」と政子は考えていたはず。もし、亀の前が男児を産んだら、ライバルが登場することになります。

そのような事態を避けるために、亀の前に打撃を与えて、追い落としておきたい。政子の心中には、そのような思いも芽生えていたように思うのです。怒りというよりも、恐怖が入り交じったものということができるでしょう。

裏を返せば、政子の立場もいまだ盤石ではなかったのです。

同時代に書かれた史料には、亀の前が頼朝の子を産んだという記述はありません。そうした意味で、政子のもくろみは見事、成功したといえるでしょう。

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濱田 浩一郎(はまだ・こういちろう)
作家
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。姫路日ノ本短期大学・姫路獨協大学講師を経て、現在は大阪観光大学観光学研究所客員研究員。著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『超口語訳 方丈記』(彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)など。近著は『北条義時 鎌倉幕府を乗っ取った武将の真実』(星海社新書)。

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(作家 濱田 浩一郎)

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