「実力より"日本人っぽさ"重視」日本企業の外国人就活生への恥ずべき"ガラパゴス面接質問"
プレジデントオンライン / 2022年4月5日 11時15分
■「ここがヘンだよ、日本の就活」外国人留学生の困惑
2023年卒の就活生の広報活動が3月1日に解禁されたが、すでに内定率が20%を超えるなど就活戦線真っただ中の状況にある。
参戦しているのは日本人だけではない。日本の大学・大学院で学ぶ外国人留学生もいる。
しかし、日本の慣行である新卒一括採用も含めて日本企業独特の選考スタイルに驚きや疑問を感じている留学生も少なくない。
外国人留学生就職情報サイト「リュウカツ」を運営するオリジネーターの「外国人留学生から見た日本の就職活動に関するアンケート調査」(2022年3月15日)によると、たとえばこんな声が挙がっている。
「具体的な仕事内容が提示されないけど採用する」
「就職」ではなく「就社」が当たり前の日本人には違和感がないのかもしれない。ジョブ型雇用がブームとはいえ、仕事内容や配属先を明かさないまま内定を出す企業がいまだに多い。でもジョブ型が当たり前の外国人留学生の中には明確なキャリア意識を持って就活している人も多く、入社後にどんな仕事をさせられるのか不安に思うし、素朴な疑問だろう。
日本人学生にとっては当たり前でも外国人にはどう見ても「変だよ」と思う日本のガラパゴス的選考はまだある。
「学校で学んだ知識と関係ない、人柄で決めること」
「学生の本分は勉強だが、採用活動は学業以外の経験を重視する傾向」
いくら社会人経験のないノースキルの学生とはいえ、人柄重視の採用は日本だけだろう。しかも「リュウカツ」に登録している回答者は理系人材が多く、大学院でIT・情報工学、機械・電気などを学んだ学生も少なくない。
オリジネーターの工藤尚美・取締役専務執行役員は言う。
「外国人が日本の大学・大学院に留学する理由は最先端の技術・研究分野を学び、社会に出たときに自分の専門性を生かせる仕事をしたいという人が多い。それなのに人柄だけかという思いがあるのでしょう。とくに理系の学生は自分の研究分野を面接担当者にいかに伝えるかを入念に準備していますが、面接後の感想を聞くと『専門と違うことを聞かれました。何のために僕に会ったのかよくわからない』と言います」
■ダイバーシティは表向き「日本人的な外国人」を採用
そんな学生に「サークル活動は何をやっていたの? どんなアルバイトをしていたの?」と質問していたとしたら、えっ、何それと驚くのも無理はない。思わず笑ってしまったのは、複数の回答者から出た次の感想だ。
「日本人らしい外国人を求めていると感じた」
日本人らしい外国人っていったいどんな人なのか、よくわからないが、留学生はそう感じたらしい。その根底にあるのはダイバーシティ(多様性)とかけ離れた日本企業の感覚だ。こんな疑問の声もある。
「外国籍採用の目的の一つは多様性を高めるためだが、採用活動中の採点基準は日本人と同じことがおかしい」
昨今の大手企業の経営者は何かというと「グローバル化」や「多様性」を口にする。多様性とは異なる文化・価値観を尊重し、それを受け入れることで化学反応を起こし、企業の競争力を高めるという意味で使われる。
![リュウカツ【外国人留学生の就職支援・企業の外国人採用支援サイト】より](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/3/670/img_93f90b3ac9e7b3830784f5410aa7790f306224.jpg)
ところが足元の採用では“日本人っぽい”外国人を求めようとする。
工藤専務はこう指摘する。
「大手企業になればなるほど採用活動の採点基準は日本人と同じという会社が多い。おそらく経営トップが外国人の採用促進や女性の活躍というダイバーシティを推進しようと言うので、人事も外国人を採ろうとする。しかしダイバーシティのことをよく理解していないために一定の枠を決めて、できれば日本語がよくできて、日本のことがよくわかっている外国人を採ろうとする傾向があるのではないでしょうか」
仮に“日本人っぽい”外国人が採用できたとしても、とてもではないが多様性による企業競争力の強化は決して望めないだろう。「多様性」といかに真逆の選考になっているのか、具体的な証言もある。
「知識よりも“日本語”が優先された」
「留学生に対して、SPIテストで一般常識と国語の問題を出すところ」
「日本語だけで表現するのは難しいし、ほとんどの面接官が英語を話せない」
SPIテストなど適性検査を苦痛に感じている留学生は多い。適性検査は基本的には基礎学力や性格を見るためのものであるが、中には引っかけ問題もあり、限られた時間にスピーディに解くことが求められる。中学・高校・大学と受験をくぐってきた日本人には苦ではないかもしれない。
■女性留学生に質問「年齢は? 既婚? 子どもは作る?」
留学生の大半は日本語力は上級レベルの資格を持つが、それでもノンネィティブだ。論理的思考力を測る数学の問題はいとも簡単にできても日本語力とは異なる「国語」の問題まで解かせる必要があるのか。
企業の人事担当者に聞くと適性検査は「あくまで参考程度」とそれほど重視していない企業も少なくない。企業の中には英語版の適性テストを用意しているところもあるらしいが、にもかかわらず、多くが日本人仕様の適性テストを課しているということは、外国人でも“疑似日本人”が欲しいとしか思えない。
ダイバーシティはともかく、大手企業の日本語力重視の姿勢に工藤専務は疑問を投げかける。
「知識よりも日本語優先というのが大手企業で多いのが現実です。例えば国立大学の大学院で先端的分野の研究をしている学生や理系の優秀なITエンジニア候補であっても日本語力が初級・中級レベルだから簡単に落とす企業もあります。結局、メガベンチャーか外資系企業に入ることになるが、本当にもったいないと思います。もともと地頭の良い人たちなので入社後に1年程度日本語研修をすれば一定のレベルまで上達しますし、採用に労力とお金をかけるよりも絶対に良いと思います」
デジタル人材など優秀なITエンジニアが日本では不足していると言われるが、そんな人材を「日本語力」だけで落とすのは確かにもったいない話だ。
![アメリカ、日本、トルコ、ドイツ、フランスの旗を持つ多様な人種の生徒たち](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/e/670/img_cefa10f39d016030123fe82247c0e6e0449778.jpg)
ところで複数の女子学生が疑問に感じた面接の質問に「自分の年齢、結婚しているか、子どもを持つ予定があるかなどを聞かれた」というのがあった。
日本でもさすがにNGの質問だが、おそらく人事や面接官は事前に研修を受けているはずだ。しかも外国人に聞いたということは、おそらく採用現場の最新常識に疎い高年齢の経営幹部あたりが質問したのだろう。
■世界標準とはかけ離れた「ガラパゴス的選考・面接」
また、調査で興味深かったのは「企業選びで決め手となったこと」の回答だ。1位は「給料水準が高い」(38.3%)、2位「職場環境や社風が合う」(37.0%)、3位「福利厚生が充実している」(36.1%)だった。
ちなみに日本の学生が入社を決めた理由の1位は「携わる仕事内容」、2位「人(人事や社員の人柄や雰囲気)」、3位「事業内容」である(学情「内定先企業」に関するアンケート調査)2021年8月24日)
確かに日本の学生は、担当した人事の人が良さそうだった、先輩社員から聞いた会社の雰囲気が良さそう、といった理由で決める人も少なくないと聞く。
外国人留学生はなぜ給料水準にこだわるのか。工藤専務は「わざわざ海を越えて日本に来る学生は、日本の技術・研究をしっかり学び、自分の価値を高めるために留学したという思いがあります。留学生の中には働ければどこでもよいという人もいるが、一定レベル以上の留学生は自分が投資した価値に見合う対価を求めるのは当然であり、給料水準は自分を評価してくれる指標のひとつだと思っています。留学生に限らず、そう考えるのは世界基準です」と語る。
![ノートに描いた世界地図・留学のイメージ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/f/670/img_1f42b44ed15597f68ed8811883ae6986380604.jpg)
日本人でもそうだが異国に留学するにはお金もかかるし、勉学に打ち込む時間も含めた投資と覚悟が必要だ。自分が働く企業がどう評価してくれるのかの基準として「給料水準」にこだわるのは当然だろう。
ちなみに最近、「給与や待遇にこだわる人とは働きたくない」という女性人事担当者の実名ツイートが炎上する騒ぎに発展したが、まさに世界基準とは真逆の発想だ。
外国人留学生が日本の就活に感じる疑問点から浮かび上がるのは、世界標準とはかけ離れたガラパゴス的風景だ。結果的に優秀な外国人材の獲得を阻害し、日本企業のグローバル競争力にも影響を与えかねない憂慮すべき事態といえるだろう。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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